177話─ジャングル・ウォーズ
フィルとアンネローゼがテルフェを仕留めた頃。ペルローナは一人、苛立ちを募らせていた。いつまで経っても、ジェディンたちが来ないのだ。
「……遅いわね。一体何をしているのかしら? 偵察用のハエも全て潰されたし……獣を差し向けてみましょうかしら」
オリビアの最期の言葉により、シゼルたちは片っ端からハエを潰して回っていた。監視の目を失い、ペルローナは苛立つ。
しかし、迂闊に獣を差し向けて返り討ちにされてはたまらないと考える。どうするべきか……と思案していると、ロッキーが異変を察知した。
「キャアッ! ウキッ、キキーッ!」
「!? 部屋の外に気配ですって? ……ふふ、やっと来たのね。みんな、出番よ。さ、レジスタンスどもを食らい尽くしなさい!」
「ガルルルル……」
部屋の中には、ペルローナのしもべである総勢十二頭の肉食獣たちがスタンバイしている。虎やヒョウ、大型の蛇といった顔ぶれが並び、扉を注視していた。
誰かが飛び込んでくれば、即座に食らい付けるようにと身構えている。そんな張り詰めた空気が流れる中で、勢いよく扉が開く。
「……今よ! お前たち、侵入者のはらわたを引きずり出してやりなさい!」
「ガルルァァァ!!!」
ペルローナの合図で、獣たちは部屋に入ってきたジェディンに襲いかかる。それが、敵を一網打尽にするためのトラップだとも知らずに。
「……ふふ。呆気ないものね。これでカタが──!?」
「残念だったな。そいつは偽物だ……爆炎に包まれて塵になれ!」
「ウキャァァァ!?!?!?」
「ギャーーーン!!」
勝利を確信したペルローナだったが、なにかに気付き顔を青ざめさせる。よく見ると、部屋に入ってきたのは本人ではなく……精巧に似せた、ぬいぐるみだったのだ。
直後、ジェディンぐるみの内部に仕込まれていた爆発魔法が炸裂する。部屋の中に爆風と熱線が放たれ、獣たちを消し炭に変えていく。
ペルローナはロッキーと共に机の裏に隠れ、ギリギリで攻撃をやり過ごすことが出来た。一方、部屋の外ではというと……。
「やはり、待ち伏せしていたな。徘徊している獣が妙に少ないから、もしやとは思っていたが」
「ジェディン様、さすがです! 敵の作戦を見抜き、カウンターを仕掛けるなんて!」
「いや、あの、サラ? ぬいぐるみに魔法仕込んだ私のことも褒め……ダメね、聞こえてないわこれ」
オーバークロスを行い、姿を変えたジェディンはぬいぐるみを通して部屋の中を観察していた。道中、敵襲が異様にすくないことから彼は警戒していたのだ。
戦力を一点……彼らの目的地である所長室に集め、のこのこやって来た獲物を一網打尽にする腹積もりなのではないか、と。
そこで、彼は一計を案じた。向こうが待ち伏せするつもりなら、それに乗っかって逆に返り討ちにしてやればいいのだ。
「だが、これで敵の戦力を大きく削げた。ペルローナ本人は攻撃から逃れ……むっ、この気配は」
「サラ、いい加減に正気に戻りなさい! 獣たちが襲ってくるわよ、ジュディやイレーナと一緒に迎撃するのよ!」
「ハッ! か、かしこまりました!」
扉の外側にはジュディが張った結界が仕掛けられており、爆風や熱線が漏れてくることはない。ペルローナ本人が脅威になることは、しばらくないだろう。
だが、主の危機を察知した、ジャングルをうろつく獣たちがシゼルたちに襲いかかってきたのだ。やっと我に返ったサラは、杖を呼び出す。
「ジェディン様ばかり働かせるわけにはいきません! 行くわよジュディ、私たちもかっこいいとこらを見せるのよ!」
「う、うん。いつにも増してやる気満々ね、サラ……」
「部屋の様子は俺が見ておく、何かあったら即座に伝える。みな、獣の相手を頼むぞ!」
五人は円陣を組み、互いの死角を補い合う。そんな彼女らに向かって、虎やコウモリの群れが襲いかかっていく。
「グルアアア!」
「返り討ちよ! パルサーショット!」
「ギャヒィン!」
「おらおらおらー! オリビアたちの仇討ちだ! これでも食らえ! サンダーディボルト!」
「キィィィイ!」
魔法の弾丸や雷を放ち、サラとジュディは襲ってくる獣たちを仕留めていく。イレーナも二人に負けじと弾丸をバラ撒き、ジャガーの群れを倒す。
「食らえっす! でたらめバースト!」
「ギャアアァン!」
「いいわ、その調子よみんな! ……っと、上からも来るわね。エナジーアロー!」
「キュアアァ!」
仲間を鼓舞していたシゼルは、増援として現れたハヤブサの集団を魔法で撃ち落とす。このまま行けば、獣たちを全滅させられると思っていたが……。
「パォォォォン!!」
「ブフーーーッ!!」
「!? う、嘘でしょ!? ゾウにサイの混成軍団なんてどっから出てきたのよ!」
「チッ、これは荷が重いか……ゆけ、ぬいぐるみ軍団! 獣たちを足止めしろ!」
肉食獣やコウモリ、鳥では相手にならないと感じたのか今度はゾウやサイが大挙して押し寄せてきた。物量の差に押し潰されるかと思いきや、ここでジェディンが動く。
レクイエム・レギオンの力を使い大量の巨大なテディベアを生み出す。それらを敵の群れに差し向け、壁にすることで押し留めることに成功した。
「ああ、さすがジェディン様! 操られているぬいぐるみも、勇ましくて可愛らしい……」
「パパにサワルナー!」
「サワルナコラー!」
「パオアアアアア!?」
「いや、可愛くねえだろ!? どう看てもクリーチャーじゃねえかあれ!」
またしてもジェディンの活躍に頬を赤く染めるサラだが、彼女のすぐ近くでは牙と爪を剥き出しにしたテディベアがゾウとサイを細切れにしている。
あばたもえくぼ、とはこのことか。惚気るサラにジュディがツッコミを入れるも、彼女の声は全く届いていないらしい。
「……これが並行世界の……オルセナの英雄の力。思っていたより──きゃあっ!?」
「! シゼル隊長!」
「まだハヤブサがいたっすか! なら……デュアルアニマ・オーバークロス! アンチェイン・ボルレアス……オン・エア!」
ジェディンの力に感心していたシゼルを、頭上から巨大なハヤブサが襲う。彼女を空に連れ去り、サイの群れの後ろの方に落とそうとしていた。
それを見たイレーナは、即座にオーバークロスを果たす。空に舞い上がり、ハヤブサを狙って二発の弾丸を放つ。
「食らうっす! ブーメランショット!」
「カァクワァァ!?」
「かーらーのー! 救出!」
「きゃっ! ありがとう、助かったわイレー」
「ついでに敵も殲滅しちゃうっす! バイブレートショット!」
「ブボォォォォ!!」
ハヤブサの両翼を撃ち抜いてシゼルを助け出しつつ、ついでにサイの群れに弾丸を放つイレーナ。着弾と同時に衝撃波が炸裂し、サイの群れを全滅させた。
「ふいー、ジェディンばっかり活躍させると、後でシショーたちに自慢出来ることがなくなっちゃうっすからね。これなら文句無しの大活躍! っす!」
「え、ええ。そうね」
あっという間にゾウとサイの群れを殲滅してみせたジェディンとイレーナを交互に見ながら、シゼルはふと思う。
──最初からこの二人に任せていれば、速やかに制圧出来ていたのではないかと。それくらい、二人の力は圧倒的だったのだ。
「す、すげぇなあ……あんなにあっさり隊長を助け出すなんて。わたし、ファンになりそう」
「それは構わないが、あまりイレーナをおだてるなよ? あいつはすぐ調子に乗……む、二人とも退け! 結界が破られるぞ!」
全員の気が緩みはじめた、その刹那。所長室の中で動きがあったことを察知したジェディンが、サラとジュディに向かって叫ぶ。
ふざけていても、二人とて立派なレジスタンスの実働部隊。真剣な表情を浮かべ、即座に後ろに向かって跳んだ。
直後、部屋の入り口を覆っていた結界が吹き飛び、巨大な茶色のトカゲ……ガイアリザードが姿を現す。その背に乗るのは、ロッキーを抱えたペルローナだ。
「……よくもやってくれたわね! おかげで、部屋の中に待機させてた子たちは全滅。私の愛しい獣たちを殺したこと、必ず後悔させてやるわ!」
「言いたい放題だな。こちらこそ、貴様の放った獣どもに仲間を殺されているんだ。その仇、復讐のために生きてきた者として必ず討たねばならん!」
「……そう。ならまずはあなたから殺してあげる。私のとっておきの子たちで! 四肢を引き千切り、腹を引き裂き! 臓物を抉り出して目の前で潰してやる!」
「やってみろ、魔女よ。イレーナ、お前たちには後方の守りを任せる。奴は俺が仕留める……手出しは無用だ」
仲間たちにそう告げ、ジェディンは敵意を剥き出しにするペルローナを睨む。魔女と復讐者、勝利するのは果たして……。




