168話─テルフェ討伐作戦!
経緯はどうあれ、フィルたちはテルフェを追跡する手段を手に入れた。話し合いを重ねた結果、夜中のうちに相手の居場所を特定し、夜明けと共に襲撃することを決める。
「いくら相手が手練れの魔女とはいえ、寝起きを襲われればたまったものではあるまい。我らの襲撃を警戒して、ロクに寝ていないだろうしな」
「睡眠不足で消耗してくれてれば、さらに倒しやすくなりますからね。特定作業はつよいこころたちに任せて、僕たちは今のうちに寝ておきましょう」
「分かったわ。じゃ、パンツ投入!」
しるべのランタンにアンネローゼがパンツを投げ込んだ後、フィルたちは襲撃作戦に備え眠りに着く。数時間後、夜が明ける直前に目覚める。
彼らが寝ている間に、つよいこころ軍団がランタンを用いてテルフェの居場所を割り出していた。彼女がいるのは、大陸の西の端。
人里から遠く離れた、人跡未踏の岩山の中。ランタンから伸びる薄緑色の煙が、遙か西へと伸びている。モニターに映し出される地図とも照合が完了しており、間違いはない。
「よし、行きますよ! 博士、もしかしたらローグたちが戻ってくるかもしれません。情報の伝達をお願いします」
「うむ、そっちは任せておけ。気を付けよ、フィルにアンネローゼ、オボロ。特にアンネローゼ、一度撤退に追い込んだからといって、油断してはならんぞ」
「分かってるって。私だって、いつまでも未熟なままじゃないのよ。……今度はお尻ぺんぺんなんかじゃ済まさないわ。ケツジェノサイドよ!」
前回はお仕置きを最後まで出来なかったため、今度こそテルフェの尻を破壊し尽くすことを決めたようだ。執拗に尻を狙うアンネローゼに、オボロは呆れる。
「何故そこまで尻にこだわる? それがしには理解出来ん」
「ああいうがきんちょにはね、一番効くお仕置きなのよ。私も子どもの頃、やんちゃしてはお母様にやられたわ」
「いつまでお尻の話をしてるんですか! 行きますよ、二人とも。出撃です!」
尻談義が始まりそうだったので、フィルは強引に話を打ち切らせ出撃する。夜明けはすぐそこまで迫ってきている。
のんびりしている暇は、フィルたちにはないのだ。しるべのランタンから伸びる煙に沿って、三人は短距離テレポートを繰り返し移動する。
「なんとか、夜明けまでには到着し……って、なんですかあれは!?」
「要塞!? モニターには映ってなかったわよあんなの! いつの間に建設したわけ!?」
敵がいるのは大陸の端……とはいえ、テレポートを使えるフィルたちからすればすぐたどり着ける。時間は間に合ったが、別の問題に直面した。
なんと、岩山にはレンガ造りの要塞が築かれていたのだ。出発前、基地のモニターで確認した時にはなかったものだ。予想外の自体に、三人は岩山の麓にある森の中で固まってしまう。
「これは予想外の展開ですね……よし、作戦を変えましょう。つよいこころ十九号、偵察をお願いします!」
「カシコマリーッ!」
万が一の事態に備え、フィルはつよいこころ十九号と二十号をアーマー内に格納して連れてきていた。ひとまず、敵地の偵察を行う。
ステルスモードになった十九号は、岩山に築かれた要塞に向かう。その間に、フィルは二十号を取り出し二機をリンクさせた。
二十号の羽根が開き、十九号の見ている映像が空中に投影される。現在、要塞の側面に回り込んでいるらしい。
『ほらほら、ちゃんと働け! じゃないと、みんな纏めてプチッと潰しちゃうよ?』
『お、お願いです、子どもたちだけでも休ませてあげてください! 一昨日から働き詰めで、みんな限界に』
『うるさいな、テルフェちゃんに逆らってんじゃない!』
『うぎゃっ!』
十九号は窓に張り付き、中の様子を窺う。要塞の内部はまだ建築途中なようで、町から攫われてきたと思われる人々が働かされていた。
「あいつ、無関係な人たちを誘拐してきたのね! この要塞を作らせるためだけに……!」
「この山は人里から遠く離れてますから、まず自力では逃げられない……あくどいことをしてますね、許せません!」
奴隷のように働かされ、挙げ句テルフェに蹴り飛ばされている人たちを見てフィルたちは怒りを覚える。しかし、早まってはいけない。
迂闊に攻め込めば、テルフェは連れてこられた人たちを盾にして逃げてしまうだろう。最悪、魔法で操って自爆特攻させてくるかもしれない。
まだフィルたちは、情報を集めなければならないのだ。フィルは二十号を通し、十九号に呼びかける。どこかから、中に入り込めないかと。
『カシコマリ! コレヨリ侵入ヲ試ミマス!』
「頼みましたよ、つよいこころ十九号!」
まずは、要塞の中にどれだけの人たちが閉じ込められているのかを把握しなければならない。次に、逃走経路に使えそうなルートの確認。
さらには、要塞内の監視システムがどの程度かもチェックする必要がある。サクッとテルフェを始末するつもりでいたアンネローゼは、唇を尖らせる。
「ったく、あのクソガキ……まさかこんなことやってるだなんて思わなかったわ。これはもう、お仕置きとかそんな次元の話じゃないわね」
「うむ、急ぎ捕らわれた者たちを助け出さねば。フィル殿、要塞には入れそうか」
「今探ってもらっていますが……あ、この通気口から侵入出来そうですね。十九号、そこから中へ。ただ、油断はしないでください。相手がどんな探知システムを構築してるか分かりませんから」
『カシコマリ! アイーッ!』
三階建ての要塞の上部にある、通気口を見つけたフィル。つよいこころ十九号を潜り込ませ、内部へ侵入することに成功する。
「さて、無事に入れましたね。とりあえずは通気口に潜みつつ、内部構造の把握に努めましょう」
「そうね、どんな罠が仕掛けられてるか分かったもんじゃないし……なによ、フィルくん。そんなほんわかした顔して」
「いえ、アンネ様変わったなぁって。出会った頃のアンネ様だったら、こういう偵察をする前に突撃していったろうなって思いまして」
「あー、そうね。ま、私だって成長するのよ! いつまでもただの脳筋じゃないわ。ふふん!」
かつて、ブレイズソウル相手に完敗を喫したことでアンネローゼは変わった。そこから数多くの宿敵との戦いを経て、彼女はヒーローとして大成したのだ。
こうして慎重を期した思考が出来るようになったのも、フィルたちと共に戦いの日々を過ごしたからだ。得意げに胸を張り、ドヤ顔する。
『フィル様! 隙間カラ部屋ガ見エル! テルフェトカイウ魔女、イッパイイル!』
「え、いっぱい!? あ、そうか。前にローグがちょろっと言ってた『魔魂転写体』ってやつですね。全部で……八人はいますよ、これ」
「なるほど、これだけいれば見張りには事欠かないな。連れてこられた者たちを、分身たちが交代で監視しているのだろう」
通気口の中を進んでいたつよいこころ十九号は、床の隙間から下を覗き見る。通気口の真下にある部屋では、上級魔女のみに伝わる秘技によって生まれたテルフェの分身たちが駄弁っていた。
それを見たフィルとオボロは、しばし考え込む。果たして、三人だけで勝てるのかと。
「拉致された人たちを助けるだけなら、僕のウォーカーの力を使えば問題ありませんが……問題は、それを向こうが簡単にやらせてくれるかってことですね」
「まず無理よね、たぶんアレ以外にも分身がいるはずよ。さっきも一人、本体か分身か分からないけど強制労働させてるのがいたし」
「……やれやれ、これは二重の意味で難攻不落ですよ。さて、どうやって攻略しましょうかね?」
要塞そのものの堅牢さと、大量のテルフェ軍団による人質救出の妨害。両方の牙城を崩さねば、フィルたちは真に勝ったと言えない。
久方ぶりの頭脳戦が、フィルたちに降りかかるのだった。




