147話─その手に掴むは
「ふー、終わった終わった。さ、戦艦破壊してモンスター見繕って、契約して未来に帰ろっと」
「あれ? ご先祖様に会わなくていいの? こっちに来る前はあんなに楽しみにしてたのに」
ガンドラを撃破し、変身を解除したキルトたち。大きく伸びをする彼に、エヴァが問う。
「んー、考えたんだけどね。この時代のご先祖様たちに会っちゃうと、未来が変に拗れちゃう可能性があるから……僕が生まれてこない、なんてことになったら困るし」
「確かにな。キルトがいなかったら、我はもうとっくに寿命でくたばっておる。キルトに会えずに死ぬなんてまっぴらだ!」
「それもそうだ。私も真に仕えるべき主に出会えず、騎士道を見出すことが出来ぬ人生を送っていただろう。そんなのは耐えられん」
「せやなぁ、ウチかて無理矢理地球から召喚されてきたんやもん。キルトに会えへんかったらあの【ピー】野郎どもに飼い殺しにされとるで」
過去に戻る前、キルトは三百年前のフィルとアンネローゼに会うつもりでいた。……のだが、考えを改めたようだ。
必要以上の行動による、未来の改変が起きてしまうことを危惧したのだ。フィリールたちも同意し、うんうんと頷く。
「そ、キルトが選んだんなら文句はないわ。あー、にしても勿体なかったわね。あのおっさん、契約出来れば結構使えそうだったのに」
「ふっふっふっ、そこは抜かりがないんだなー。トドメ刺した瞬間に、上手いことブランクカードに封印しちゃったのだ!」
黒焦げになっている床を眺め、エヴァはそう呟く。そんな彼女に、キルトは義手の中から一枚のカードを取り出して見せ付ける。
上部に『サポート』と記されたカードには、ガンドラの絵が描かれている。どうやら、このカードに封印してしまったらしい。
「あー! いいな、絶対便利じゃないのそれ。本契約じゃないから、使い捨てに出来て後腐れもないし」
「まあ、ね。一回使ったら消滅しちゃうけど、その方が安全だよ。そういう設計にしておいてよかった、今更だけど」
「これは負けてられないわね。この時代には、未来だと絶滅しちゃってるモンスターも生息してるだろうし……早く探しに行くわよ!」
「はいはい、先にこの戦艦を片付けてからね。みんなもそれでいい?」
「ああ、私たちはそれで構わない。ここ最近、理術研究院と戦い詰めで疲れてるからな。たまには骨休めしてもバチは当たらないさ」
今後の予定を話し合いながら、キルトたちは戦艦を落とすため動力部へ向かう。艦内に戻る途中、キルトは振り返り空を見上げる。
「……大丈夫。ここでご先祖様たちは死なないよ。ヴァルツァイト・ボーグなんかに絶対負けないさ。だって、僕の尊敬する偉大な人たちだもん」
そして、そう呟いた。
◇─────────────────────◇
「シュヴァルカイザーを殺せ! コロセ!」
「アノ基地だ! あの基地ノ中にいるぞ!」
同時刻、シュヴァルカイザーの基地近郊。ゴライアが死に際に開けたポータルを通して、ヴァルツァイトの最後の兵団が攻撃を仕掛ける。
「博士、ダイナモドライバーの修理はまだ終わらないの!?」
「今やっておる! じゃが……敵の侵攻速度が速すぎる。このままでは間に合わないかもしれん」
基地の中では、フィルの手術を終えたギアーズがメルクレアに浸食されたホロウバルキリー用のドライバーの修理をしている。
フィルの弾丸摘出手術そのものは、無事成功した。だが、フィルは深い眠りについたまま一向に目を覚ます気配がない。
「ピピピ、報告シマス! 現在、敵ノ侵攻率ハ六十三パーセント。迎撃兵器及ビバリアヲフル稼働サセテイマスガ、侵攻ガ止マリマセン!」
「通信装置、敵ノジャミングニヨリ機能停止。各地ノ仲間タチヘノ連絡手段ハマダ復旧シテオリマセン」
「全く、泣きっ面に蜂じゃな! 次から次へと悪い報告ばかり来おるわ!」
ラボラトリーにて作業をしているギアーズとアンネローゼの元に、つよいこころたちが入れ替わり立ち替わりやって来ては報告を行う。
ヴァルツァイトがポータルから妨害電波を放ち、基地とイレーナたちの連絡が遮断されてしまった。故に、彼女らを呼び戻す手段はない。
さらに悪いことに、つよいこころたちが弾き出した計算結果によると……防衛網が突破されるまでに、ドライバーの修理が完了する確率はゼロとのことだった。
「ああもう、本当に忙しくて目が回るわい! 何か、起死回生の策でもあれば……」
「……あるわよ、たった一つだけ。私が、フィルくんのダイナモドライバーを使う。シュヴァルカイザーに変身して、敵を蹴散らすのよ!」
八方ふさがりな状況の中、アンネローゼはそう口にする。それに対するギアーズの答えは、否であった。
「無理じゃ。フィルのドライバーには、彼専用のチューンが施してある。他の者では絶対に扱えんのじゃ」
「なら、このまま死ぬのを待ってろって? そんなのは嫌よ、絶対にね。万に……いえ、億に一つでも可能性があるなら、私はそれに賭ける!」
「可能性って……一体どんな可能性があるというんじゃ」
「イレーナたちじゃ無理でも、私なら……フィルくんと心を通わせた私なら、ダイナモドライバーも受け入れてくれるはず。一回くらい、試してみたっていいでしょ?」
フィル以外に、シュヴァルカイザー用のダイナモドライバーは扱えない。諦めろと諭すギアーズだが、アンネローゼは突っぱねる。
試しもしないで、全てを諦めるなど彼女には出来ないししたくないのだ。かつて、カストルの陰謀によって婚約破棄され……味わった絶望、悲劇。
それを繰り返したくない。大切な仲間を守るために、最後まで足掻き続けたい。アンネローゼは心の底からギアーズに訴えた。
「……分かった。そこまで言うのなら試してみるといい。もしかしたら、本当にもしかしたら……奇跡が起きるかもしれん」
「違うわ、博士。奇跡は起きるものじゃない、起こすものなのよ。絶対に諦めない不屈の意思でね。私、フィルくんの部屋に行ってくる!」
引き続きドライバーの修理をギアーズに任せ、アンネローゼはフィルの部屋に向かう。ベッドに横たわり、眠る恋人に口付けをする。
「ゆっくり休んでて、フィルくん。私が、あなたの分まで戦ってくるから。だから、ほんの少しだけ……温もりを、確かめさせて」
もう一度キスをした後、名残惜しそうにフィルの元を離れ、机の上に置かれているダイナモドライバーを手に取る。
「……お願い、フィルくんのダイナモドライバー。今この瞬間だけでいい。私に力を貸して。博士を、フィルくんを守るために!」
ドライバーを腰に巻き、深呼吸するアンネローゼ。もし起動しなければ、それでおしまい。彼女も博士もフィルも、ここで死ぬ。
「こんなところで死んでられない。私たちの未来を掴み取るために……最後まで戦ってみせる!」
そう叫び、アンネローゼはバックルに触れる。そして……。
◇─────────────────────◇
「コレガ最後のバリアだ! 壊せ、粉々に砕いてシマエ!」
「中に入ればコチラの勝ちだ! 見つけ出して八つ裂きニシテヤル!」
その頃、バトルドロイドたちは基地へ肉薄していた。迎撃兵器を乗り越え、バリアを破壊し。今まさに、最後の守りを崩そうとしている。
テーブルマウンテンを守るバリアが攻撃に晒され、小さな亀裂が走る。もう少しで破壊出来る、ドロイドたちはそう思っていた。
基地の中から、一つの影が飛び出してくるまでは。
「ん? 何だ、なにか出てきたゾ」
「もうミサイルは撃ち尽くしたハズ、一体なに……ごわっ!」
影が着地した瞬間、凄まじい衝撃波が発生する。着地地点の近くにいたドロイドたちは巻き込まれ、スクラップと化す。
どよめきが広がる中、うずくまっていた黒いソレはゆっくりと立ち上がる。そして、遠くまでよく響く声で、高らかに名乗りをあげた。
「これ以上、アンタらの好きにはさせないわよ。この私がね。──シュヴァルカイゼリン、オン・エア!」
現れたるは、漆黒のアーマーを身に纏う戦乙女。長い髪をなびかせ、全身に魔力をみなぎらせる。
「シュヴァルカイゼリン、だと? バカな、そんなのデータにナイゾ!」
「そりゃそうよ。だって、たった今生まれたんだから。私とフィルくん、二人の愛の奇跡でね!」
動揺するバトルドロイドたちに向かって、アンネローゼは好戦的な笑みを浮かべる。今、奇跡は起きた。漆黒の女帝が産声をあげ……逆転を、始める。




