146話─チェスナイツの終焉
フィリールが新たに加わり、一気に攻勢に出るキルトたち。が、それでもガンドラを追い込むことが出来ない。
チェスナイツのリーダーだけあり、指揮能力だけでなく戦闘能力も高いのだ。背中から自律行動するレーザー発射衛星を二つ放ち、ガンドラは数の差を埋める。
「これで貴様らの分断も可能となったわけだ。クククク、纏めて倒されるか、一人ずつ死ぬか。それくらいは選ばせてやるぞ?」
『敵性反応発見、攻撃開始!』
「チッ、面倒くさいわね! キルト、フィリール! もう四の五の言ってらんないわ、これ以上変な兵器展開される前に終わらせちゃいましょ!」
二機のレーザー衛星は、エヴァとフィリールの二人をひたすら狙い撃ちする。連携を阻止し、僅かな隙を突いて仕留めるつもりなのだ。
「分かった、あんまり卑怯な手は使いたくないけど……コリンって人に『絶対に勝て』って言われてる以上は仕方ないか!」
『うむ、そうだぞキルト! 決闘ならともかく、これは戦争だ。戦争に卑怯も何もない、やってやれ!』
「何をゴチャゴチャと……うるさい奴らめ! ブライトエンドハンマー!」
ガンドラと切り結びながら、会話を行うキルトとルビィ。そんな彼らに向かって、ガンドラは左腕を振り上げる。
腕に装備された盾が変形し、ブースターを備えた巨大なハンマーになる。最大威力の攻撃を食らえば、頑強な鎧とてひとたまりもない。
「死ねぇぇぇい!」
「そうはさせない、ぞ! キルトを守るのは、私の務めだ!」
『ヘイトコマンド』
衛星の攻撃をタワーシールドで防いだ後、フィリールはランスを空高く放り投げる。衛星の注意がそちらに向いている間に、新たなカードを発動する。
羽根を広げ、超音波を放っているヘラクレスオオカブトの絵が描かれているカードを挿入した直後、フィリールの身体からモンスターが分離する。
金色の輝きを放つ、巨大なカブトムシ型のモンスター……フィリールが本契約している『インペラトルホーン』が出現したのだ。
「お前の敵は私だ! こちらに敵意を向けさせてやる!」
『グゥ……ブゥゥゥゥゥオォォォォン!!!』
「ぐうっ! 何だこの羽音は! あまりにも……チィッ、うるさすぎるぞ!」
インペラトルホーンの放つ不快な羽音に、ガンドラの動きが止まる。その間に、キルトは離脱して『仕込み』を行う。
不愉快が極まりない羽音を止めるべく、ガンドラは標的をフィリールに切り替えた。落ちてきたランスをキャッチし、女騎士は敵を迎え撃つ。
「その羽音を今すぐ止めてやる! なます斬りにしてくれるわ!」
「フッ、予定通りこちらに来たな。それでこそやり甲斐があるというもの。とても心地よい敵意だ……」
「ちょっと、マゾるのは後にしてよ! こっちは衛星二つ足止めしてるってこと忘れないでよね!?」
自分の方に向かってくるガンドラを見て、フィリールは恍惚の表情を浮かべる。そんな彼女に、一人で両方の衛星を相手しているエヴァが叫ぶ。
「ハッ! いかんいかん、今は戦いに集中せねば。『エグゾスケルウォール』、もうしばらく顕現していてくれ!」
「そんな盾など、我が連撃で砕いてくれるわ!」
タワーシールドに魔力を流し、改めて守りを固めるフィリール。そこに、大剣とハンマーを用いた二刀流モードになったガンドラが突撃する。
斬撃と打撃、二つを織り交ぜた嵐のような猛攻がフィリールを襲う。だが、鉄壁の守りを崩すことが出来ず、逆に押し返されていく。
「どうした、そんな生ぬるい攻撃では私を悦ばせることなど出来ぬぞ!」
「チッ、堅い盾だ。まずいな……衛星ももう持たんか」
一進一退の攻防を繰り広げながら、ガンドラは視界の端にエヴァを映す。空を飛び回りながらレーザーを放つ衛星を、撃墜しようとしているところだった。
「ハエみたいに鬱陶しいのよ、纏めてぶっ壊してやるわ! アックスカッター!」
『ギ、ギギ……損傷率八十七パーセント、自己修復ヲ……始メ……』
「させないっての! オラァッ!」
ブーメランのように斧を投げ、衛星を二機とも撃破したエヴァ。少しずつ劣勢に立たされ始めたガンドラの中に、焦りが生まれる。
「チッ……小癪な! フン!」
「ぐうっ! く、まだパワーが上がるのか!」
体当たりを叩き込んでフィリールを吹き飛ばし、ガンドラは床を踏み鳴らす。すると、甲板の奥から何かが走ってくる。
「ちょっと、何か来るわよ」
「あれは……大砲か?」
「ククク、その通り。この空中戦艦の切り札、三連主砲だ! あれが台座に収まった瞬間、貴様らを地獄に叩き落とすのだ!」
エヴァたちが目にしたのは、レーザー砲とミサイル発射用の砲身、そしてガトリング大砲が合わさった三連式の主砲だった。
キャタピラを使い、台座となる窪みへ走っている。起動されれば、確実にサモンマスターたちが不利になるが……。
「さあ、起動せよ三連主砲! 奴らをハチの巣に」
『エラー発生、エラー発生。キャタピラに不具合アリ、直ちに修理してください。繰り返します、キャタピラに……』
「なんだと!? バカな、昨日メンテナンスをしたばかり……まさか」
「はっはーん、そのまさかやで! ウチの仲間におイタしよーとする悪い兵器はな、うごけへんようにさせてもろたで!」
台座に向かっていた主砲が、突如動きを止めエラーメッセージを発し始めたのだ。よく見てみると、キャタピラーと床の間に糸のようなものが纏わり付いている。
そして、いつの間にか主砲の上に一人の人物が乗っていた。白い羽根が付いた黒い幅広の帽子、マントが付いた黒いタキシード。
それに加え、紫色のバタフライマスクを装備した怪しげな少女がガンドラたちを見下ろしていた。相手を見たガンドラは気付く。相手も敵なのだと。
「遅かったわね、アスカ。でも、中々いいタイミングで来てくれたじゃない」
「ふふん、せやろ? ヒーローっちゅうのはな、一番オイシいタイミングで出てくるもんなんやで! な、キルト?」
「うん。絶対隠し球があるだろうなって思って、あらかじめ潰しにかかったのは正解だったよ。協力ありがと、アスカちゃん」
「くっ……次から次へと、貴様らどれだけ仲間を呼ぶつもりだ!?」
「ん、安心してええで。ウチ……サモンマスターミスティこと、天王寺アスカちゃんで打ち止めやさかい!」
主砲の上にキルトも現れ、エヴァたちに手を振る。ドンドン現れる敵に、いい加減ガンドラも嫌気がさしてきたようだ。
そんな彼に、四人目のサモンマスター……アスカは堂々と言い放つ。
「そうか、それはいいことを聞いた。主砲を封じられても、まだわし自身が戦える。全員纏めて始末し」
「あ、悪いけどもう終わらせるから。アスカちゃん、やっちゃって!」
「ほいほい、ウチにお任せや!」
『トラップコマンド』
「何を……むおっ!?」
手始めに、エヴァとフィリールから始末しようとするガンドラ。彼の足下に、蜘蛛の巣模様の魔法陣が現れる。
アスカがサモンカードを用い、罠を発動したのだ。魔法陣を踏んだ瞬間、床から無数の糸が伸びガンドラを拘束する。
「これは……蜘蛛の糸か! 粘ついて動けぬ……!」
「どうや? ウチの『スパイダーマイン』は。キルト、今や! バッチリ決めてやりぃ!」
「分かった、ありがとう! ルビィお姉ちゃん、あいつにトドメを刺すよ!」
『よし、任せろ!』
全身を蜘蛛の糸に包まれ、ガンドラは新たに兵器を展開することも出来ない。キルトは翼を広げた竜の絵が描かれているカードを取り出し、セットする。
『アルティメットコマンド』
『力がみなぎる……エヴァ、フィリール! そこから離れろ、巻き添えになっても知らんぞ!』
「だそうだ。エヴァ、下がるぞ!」
「はいはい、よいさっさ!」
「ま、待て! 一体何をするつもりだ!?」
エヴァたちが退避したのを確認した後、キルトは天高く跳び上がる。鎧からルビィが現れ、後ろからキルトを抱き締める。
その状態でさらに飛翔し、頂点に達したところで今度はガンドラ目がけて急降下する。二人の身体が炎に包まれ、竜の頭部を模した業火の塊となった。
「これで終わりだ! 食らえ、バーニングジャッジメント!」
「ぐっ……がぁぁぁぁ!! バカな、このわしが……チェスナイツの王が、敗れ……ぐはあっ!」
炎の流星と化したキルトとルビィが、ガンドラに直撃する。業火に包まれ、断末魔の声を残してガンドラは爆散した。
もうもうと黒煙が立ち昇る中、キルトが歩み出てきた。ルビィはすでに鎧の中に戻っているようで、隣にはいない。
「これで終わりだね。みんな、お疲れ様」
『ふふふ、これにて一件落着だな!』
仲間たちが駆け寄ってくる中、キルトは労いの言葉をかける。キング、クイーン、ナイト、ルック、ビショップ、ポーン。
ついに、チェスナイツを構成する特務エージェントが全滅したのだった。




