144話─果たされた復讐
「……終わったな。これで……ようやく、みなの仇を討て……う、ぐっ!」
宿敵マグメイを仕留め、ついに復讐を遂げたジェディン。だが、同時に彼の身体も限界を迎えた。オーバークロスによって一時的に塞がっていた腹の傷が、開いてしまったのだ。
「ぐ……俺も、ここまでか。だが……やるべきことはやり終えた。このまま彼らと眠るのも、悪くは……ないかもしれないな」
レギオンスーツを纏うことも出来ず、変身解除してしまうジェディン。マグメイの死体から離れ、地面に倒れ込む。
そんな彼に、元の姿に戻ったぬいぐるみたちが近付いていく。そのうちの一体が、ジェディンに声をかけた。
「ダメだよ、パパにはまだやることが残ってるでしょ?」
「やる、こと……? ああ、そうだ。俺はフィルたちを助けなければ……」
「あなたの傷は、私たちが治すわ。それが、死の世界に還る前に最後に出来ること……」
リディムの言葉に、ジェディンは思い直す。自分はまだ、生きねばならぬのだと。そんな彼に、メイラが優しい声をかける。
ぬいぐるみたちの身体から光の線が伸び、ジェディンの傷を癒やしていく。少しずつ、腹の傷が消え活力が戻ってくる。
「ジェディン。これからは、あなた自身のために生きて。もう、私たちに囚われず……新しい人生を歩んでほしいの。もう一度、幸せになって。私たちの分まで」
「メイラ……」
「そうだ、ジェディン。お前のおかげで、俺たちはようやく安らかに眠れるんだ。お前も、新しい家族を迎えて幸せに生きてくれ。それが、俺たちみんなの願いなんだ」
かつての友、アレックスの心が宿るぬいぐるみの言葉に、他の個体も頷く。そんな彼らに、ジェディンは微笑みながら答えた。
「家族なら、もういるさ。今の俺にとって、フィルやアンネローゼ、イレーナにオボロ……ギアーズ先生が新しい家族なんだ」
「そう……よかった。忘れないで、私の愛しい人。いつまでも……私とリディムは、あなたのことを……見守っているからね……」
夫の言葉に、メイラは安堵する。もう、彼は一人ではない。血よりも濃い絆と愛で結ばれた、家族と呼べる者たちがいるのだと。
腹の傷が癒えた後、ぬいぐるみたちは消えていく。妻の言葉を胸にしまい、ジェディンは身体を起こして空を仰ぎ見る。
「……ああ。忘れるものか。永遠に、お前たちを愛しているよ。メイラ、リディム」
そう呟く中、爽やかな風が吹く。復讐を終えたジェディンを、祝福するかのように。
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「ふー、やっと着いた。地図も何もないから迷っちゃったよ」
「でも、どうにか隔壁のところまで来られたわね。この壁をぶっ壊せば、別の区画に行けるってことでしょ? なら楽勝だわ」
同時刻、空中戦艦内部。襲い来るクルーたちを全滅させ、キルト一行は中央区画と左翼区画を隔てる隔離壁のところまで到達していた。
エヴァは右腰に下げているカードホルダーから、手甲の絵が描いてあるカードを取り出す。そして、ヘッドギアのスロットに挿入する。
『ナックルコマンド』
「さあ、下がってなさいキルト! 今からこの『ミノスの剛鉄拳』で壁をブチ抜くから!」
『だそうだ。キルト、破片がぶつかるといけない。一旦下がるぞ!』
「うん、分かったよ二人とも。エヴァちゃん先輩、拳を怪我しないように気を付けてね!」
特徴的な音声が響き、エヴァの両腕が銀色のガントレットに包まれる。拳部分は牛の頭部を模した形状になっており、小ぶりな角がついている。
「まっかせときなさい。んじゃいくわよ……オラァ!」
キルトの声援に応え、エヴァは拳を振り抜く。二メートルもの厚さがある隔壁があっさりブチ抜かれ、大穴が開いた。
「よし、今日も絶好調! さ、引き続き敵を探すわよ」
「うん! 行こう!」
意気揚々と中央区画に乗り込む二人。まだクルーは残っているが、前の区画での暴れっぷりを恐れて誰も迎撃に出てこない。
そんなわけで、あっさりと中央司令室に到達したキルトたち。だが、そこにガンドラの姿はなかった。
「あれ、いない。てっきりここにいると思ってたのに」
『ふむ……キルト、一旦変身を解いてはくれぬか? 匂いで敵を追跡出来るやもしれん』
「分かった、頼むねルビィお姉ちゃん。エンゲージ解除!」
ルビィの提案を受け、変身を解くキルト。元の姿に戻ったルビィは、くんくんと鼻を鳴らしガンドラの匂いを嗅ぐ。
「うー、臭い! あまりにもオイル臭くて鼻が曲がるぞ! 帰ったらキルトの匂いたっぷりのタオルケットをくんかくんかしないとやってられん!」
「やめてよ、恥ずかしいから……ていうか、まだ持ってたのアレ……」
「当然だ! キルトと一緒に寝た時に使ったものだからな!」
「は? ちょっと待って、その話詳しく教えてくれない?」
「別に変な意味じゃないからね!? エヴァちゃん先輩!?」
ルビィの余計な一言で脱線しかけるも、キルトの努力によりその場での追求は免れた。匂いを辿り、三人は司令室を出る。
「ふむ、こっちに続いているようだ。我らを罠にハメるつもりかもしれん、用心しろよ二人とも」
「ええ、心配無用よ。キルトはアタシが守るから」
「あ゛? 片腹痛い、キルトを守るのは本契約モンスターである我以外になかろう!」
廊下を進む中、エヴァとルビィの間に剣呑な雰囲気が広がる。一方、当のキルトはいつものこととばかりにまるで気にしていない。
「はいはい、二人ともじゃれ合うのは後でね。……多分、このまま行くと甲板に出ちゃいそうだよ。もしかしたら、そこで僕たちを迎え撃つつもりかも」
「フン、いい度胸じゃない。あの部屋だと戦うには狭すぎるし、いい判断だと思うわ」
「だな。中々に戦いの作法を心得ておるわ」
さっきとは一転、すぐにルビィとエヴァは息を合わせる。何だかんだ言って、お互いを戦友として強く信頼しているのだ。キルトを介して、だが。
しばらく廊下を進み、甲板に出るための扉の前にやって来た。ルビィは尻尾を振りながら、キルトに声をかける。
「着いた、この扉で匂いが途切れておる。やはり、外にいるようだ」
「ありがとう、ルビィお姉ちゃん。よし、もっかいエンゲージしてから外に出よう。不意討ちされるかもしれないからね。いくよ!」
『サモン・エンゲージ』
カードをスロットに入れ、再びキルトの身体が炎に包まれ、ルビィと融合する。サモンマスタードラクルとなったキルトは、扉を開けた。
「お姉ちゃん、エヴァちゃん先輩! 行くよ!」
『うむ!』
「もちろん! さあ、飛び出すわよ!」
二人は勢いよく身を躍らせ、甲板に出る。扉から遠く離れた、甲板の中央。そこに、キング・ガンドラが仁王立ちしていた。
「来たか、侵入者どもよ。待ちくたびれたぞ、長い散歩だったな」
「やっぱり僕たちを待ってたみたいだね。罠は……うん、なさそうだ」
「ククク、そんな貴様らに通用するか分からんものなど、仕掛けておいたところで役に立つまい。やはり、最後にモノを言うのは……こことここだ」
キルトとの会話の中、ガンドラは笑いながら自分の腕と頭を指でトントンと叩く。最後に頼れるのは、自分の頭脳と腕っぷしだけ。そう言いたいようだ。
「ところで、娘……貴様、闇の眷属だろう。一体何者だ、戦う前に聞いておきたい」
「フン、いいわ。なら教えてあげる。アタシはエヴァンジェリン・コートライネン。序列第六位……あ、この時代じゃ二位か。とにかく、魔戒王グラキシオスの娘よ!」
「なっ!? バカな、あのお方に娘がいるなど聞いたこともないぞ!」
「そりゃそうよ。アタシはこの時代から百年後に生まれたんだから。ま、そうじゃなかったら『同魂相殺の法』に引っかかって過去に来られないし」
エヴァの正体を知り、驚愕するガンドラ。一方のエヴァは、誇らしげに腕を組んでいた。風でツインテールがなびき、ヒゲみたいになっているのを見てキルトは吹き出す。
「ぷふっ! エヴァちゃん先輩、格好つけてるけど台無しだよ」
「う、うるさいわね! いいのよ、むしろヒゲがあった方が威厳がありそうじゃない」
『いや、雌にヒゲが生えるのはおかしいだろう。下の』
「お姉ちゃんストップ! それは言っちゃダメだよ、下品だよ!」
「貴様ら……わしを前に随分余裕だな。下らぬ漫才をかますとは」
和気あいあいとボケツッコミをしているキルトたちに向かって、ガンドラが一歩踏み出しながら声をかけ威圧する。
もう、敵は目の前にいる。いつまでもふざけている場合ではない。
「あ、いっけなーい。ついいつものクセで……まあいいや、ここからは真面目にやるよ!」
『うむ、我に任せておけ!』
「アタシもガンガン行くわよ! あんなオッサン、すぐ片付けてやるんだから!」
キルトたちは構えを取り、ガンドラと相対する。未来から来た、未知の力を持つサモナーたちの戦いが今、始まろうとしていた。




