131話─戦況、千変万化
二人の戦乙女の戦いは、アンネローゼの勝利で幕を閉じた。だが……メルクレアとて特務エージェント、ただでは死なない。
「このまま……死には、しないわ。せめて……お前を、戦線から離脱させてやる!」
「! まずい、急いで離れ……」
「もう遅い! 残る全てのナノマシンで! そのスーツを浸食してやるわ!」
最後の力を振り絞り、メルクレアはアンネローゼの腕を掴んで逃走を阻止する。すかさず液体金属ごとナノマシンをバルキリースーツに注入し、内部機構を破壊する。
「あああああ、やばいやばいやばい! このっ、離せっての!」
「ゴフッ! ヴァルツァイト様……これで、最低限の役目……は……」
「してやられたわ……テレポート機能が壊れる前に基地に戻らないと! こっから歩きじゃ帰れない!」
どうにか腕を振りほどいてトドメを刺したアンネローゼだが、すでに遅かった。慌てて長距離テレポートを行い、基地に帰還する。
一方、基地の近くに現れた敵性反応の元へ向かっていたフィルも、己が戦うべきエージェントと相対していた。
「ブロロロ……よく来たな、シュヴァルカイザー。チェスナイツが一人……ルック・ゴライア。お前を歓迎するぞ……」
「必要ありませんよ、そんなの。さあ、始めましょうか。戦いをね」
ジャングルの中の開けた広場にて、向かい合うフィルとゴライア。圧倒的な巨躯を誇るゴライアを前にしても、フィルは怯まない。だが……。
「ブロロロ……戦う? オレとお前がか? 残念……だったな。お前と戦うのはオレではないし……もう、決着もつく」
「? 一体、何を言って」
「今だ! キャスリングゲート!」
ゴライアの発した予想外の言葉に、フィルは疑問を覚え……思わず戦闘体勢を解除してしまう。直後、ゴライアの胴体に丸い門が浮かぶ。
「食らうガいい、シュヴァルカイザー! 心眼一閃撃ち!」
「え!? がはっ!」
門が開き、その中からヴァルツァイト・ボーグの声が響く。そして、一発の弾丸が放たれフィルの身体を貫いた。
突然のことに、フィルは反応出来なかった。相手が、イレーナの技を使ったからだ。
「う、そ……どう、して……イレーナの、技を」
「ククク、驚いたカ? だが、教えルつもりハない。こちらノ切り札なのでネ」
門の中からヴァルツァイトが顔を出し、モノアイを収縮させる。よろめくフィルの身体を、もう一発弾丸が貫く。
「あぐっ!」
「次でトドメだ、滅びるガいいシュヴァルカイザー!」
「そうは……いかない! 一時、たいきゃ……く……!」
三発目の弾丸が放たれようとしたその時、間一髪フィルはテレポートを発動し基地へ逃れた。追撃のすべを持たぬヴァルツァイトは、あっさり退く。
「仕留め損なッたか。まアいい、これで第二段階ハ完了ダ。ゴライア、私は基地に戻りポータルを開ク準備ヲ進める。お前ハこのまま進軍シ、出口ヲ開くポイントを確保せよ」
「ブロロロ……かしこまりました。では、このまま……シュヴァルカイザーの基地へ進みます」
ヴァルツァイトの作戦。第一段階は、先手を打って世界各地にエージェントを散開させフィルたちをバラバラの地点におびき寄せること。
そして、第二段階は……敵の基地の近くに転送用ポータルを開き、雑兵の軍団を送り込むための準備をすることだった。
「基地ノ近くにエージェントを送り込めバ、確実ニ排除するタめシュヴァルカイザーが現れる……予想ガ当たって僥倖ダ」
門が閉じられ、アジトに戻ったシュヴァルカイザーは一人ほくそ笑む。作戦の第三段階を発動するため、一人準備を行う。
すでに一人、エージェントが撃破されていることなど知ることもなく。
◇─────────────────────◇
「ついた……エージェントよ、そこまでだ! 即刻孤児院から離れよ!」
「チッ、もう来やがったのかよ。てめぇだな? ここに結界発生装置を置きやがったのは」
時は少しさかのぼる。アンネローゼとメルクレアの戦いが始まった頃、オボロはシスター・シエルのいる孤児院に到着していた。
孤児院を攻撃していたのは、新たにキカイのボディを与えられた……ポーン・カストルだった。孤児院を守るバリアへの攻撃をやめ、忌々しげに吐き捨てる。
「院長殿に許可を取り、念のために結界を生成する魔道具を置いておいて正解だった。……いや、今はそんなことはいい。何故孤児院を襲う、答えよ!」
「ハッ、決まってんだろ? ここであのフィルが育ったってことはもう知ってんだ。だからよぉ、ここのガキどもをぶっ殺して! 首を届けて嫌がらせしてやるのさ! クハハハハハ!!」
「……見下げ果てた男だ。貴様も、かつては一国の王子だったそうだが……廃嫡されたのは正解だったな。こんな外道に国を任せれば、三日と持たず滅びよう」
「黙りな、クソドロイド! ちょうどいいや、てめぇがネンゴロにしてる女の前でバラバラに解体してやるよ。その後でガキどもを皆殺しだぁ!」
両手を握り、ガンガンと打ち鳴らすカストル。彼の背後、結界に包まれた孤児院の窓からシエルたちが心配そうにオボロを見ている。
「やれるものならやってみるがいい。貴様のような戦いの素人が、それがしに勝てると思っているのなら大間違いだぞ」
「ハッ、どうかねぇ? このボディはカンパニーの最新鋭の技術を使って作られた特注品! 基礎スペックからして、てめぇとは次元が違うんだよ!」
そう叫ぶと、カストルは指を鳴らす。すると、首元からフルフェイスの兜がせり上がり剥き出しの頭部を覆った。
「さあ、かかってきやがれ。そのナマクラで俺を斬れるもんなら斬ってみろ!」
「いいだろう、その大口を叩いたことを後悔させてやる! 九頭竜剣技、漆ノ型! 抜刀金剛断!」
胸板をゴリラのように叩き、オボロを挑発するカストル。ならば遠慮はいらぬと、オボロは抜刀し居合い斬りを浴びせかけた。
妖刀の刃がカストルのボディに直撃し、そのまま豆腐のように切り裂く……ことはなかった。刃が食い込まず、弾き返されてしまったのだ。
「!? バ、バカな!?」
「言ったろ? 基礎スペックから違うってな。馬力も耐久力も! 何もかも全部こっちが上回ってんだよ!」
「ぐはっ!」
「オボロ様!」
動揺するオボロに向かって、カストルは大雑把に腕を振るう。技術も何もない、ただのパンチ。だが、最新鋭のボディから繰り出されるそれの破壊力は凄まじいものだった。
たった一発を食らっただけで、オボロは数メートル吹き飛んでしまう。その様子を見て、戦いを見守っていたシエルは叫ぶ。
「心配か? クククク、安心しろ。あいつをスクラップにしたら、すぐお前もなぶり殺しにしてやるよ。楽しみにしてな、ヒャハハハハ!!」
後ろを向き、シエルに向かって心底相手を舐めきった台詞を口にするカストル。笑いながら走り出し、立ち上がったオボロに蹴りを放つ。
「オラッ、食らえや!」
「そんな大振りな蹴り、当たるものか! 九頭流剣技、壱ノ型! 菊一文字斬り!」
「効かねってんだよ、てめぇの攻撃はな!」
これまた素人感丸出しのキックを避け、反撃を放つオボロ。今度は胴体ではなく、関節部を狙って刃を叩き込むが……効果はない。
可動域を広く取らねばならぬ都合上、関節部分はどうしても耐久力が劣るものだが……恐るべきことに、カストルの場合そんなことはないようだ。
「関節もダメだというのか……!?」
「クククク、そういうこった。さあ、覚悟しやがれ。手も足も出ずになぶられる屈辱を味わわせてから殺してやるよ!」
驚愕するオボロに向かって、カストルは笑う。その目には、濁りきった光が宿っていた。




