119話─最後に残る者への裁き
「うー、さっぶ! さっきまで辺り一面火の海だったのに、なんでいきなりこんな変貌すんのよ!」
「そりゃー、リオが『境界のオニキス』で現実改変してたからな。寒いのよりは暑い方がいいだろって」
「両極端過ぎんのよアンタらは! で、肝心のフィルくんたちは……あ、いた! フィルくん、大丈夫!?」
全てが終わったのと同時に、アンネローゼとダンテがフィル&リオの元に到着した。お互いに様変わりした姿を見て、フィルとアンネローゼは目を丸くする。
「あれ、アンネ様その姿……」
「そう言うフィルくんも、金ピカになっちゃってるじゃない! うん、黒いのもカッコイイけどそっちも好きよ」
「ありがとうございます、アンネ様。黒く染まったバルキリースーツ、とても似合ってますよ」
「ふふん! もっと褒めてくれていいのよ!」
人目もはばからずイチャコラし始める二人を見て、リオとダンテはやれやれとかぶりを振る。直後、やかましい声が近付いてきた。
「いーやー! はーなーしーてーっすー! アタイ、まだ死にたくなーい!」
「どうどう、落ち着きなって。別に取って食うわけじゃないからさ」
「あ、ダンねぇ。そっちも終わったんだ?」
「ああ、ようやく捕まえ終わったよ。もうそろそろリオくんの方も終わるだろうと思って、他のみんなにも声をかけてある。もうすぐ来るよ」
「さっすが、ダンねぇは気配り上手~!」
「ふふ、褒めてもらうのは嬉しいね。お返しにモフモフしてあげよう。ダンテ、この子よろしく」
「おい、投げんなっつの! ったく、どいつもこいつもイチャイチャしやがって」
長い長い鬼ごっこの末、ダンスレイルに捕獲されたイレーナが連れてこられたのだ。担がれてジタバタ暴れていた彼女を、ダンテに丸投げする。
イレーナを雑に任されたダンテは、こちらもこちらでイチャイチャし始めたリオとダンスレイルにため息をつく。
二つのイチャラブ空間が発生し、いよいよダンテが口から砂糖を吐きそうになったところで残りの魔神たちも集まってきた。
「ちぃーっす、リオくんに頼まれたブツ持ってきたよー。いやー、拙者ってば有能で困っちゃうね!」
「わたしも確保してきたよー。おとーとくん、いっぱい褒めてくれていいよ!」
「旦那様、お待たせしましたわ! 里長を捕縛してきましたわ。煮るなり焼くなりお好きなようになさってくださいませ! そしてわたくしにご褒美をくださいませ!」
「さ、里長を!?」
意気揚々と報告しつつご褒美をねだる魔神たち。エリザベートの言葉に、イチャイチャしていたフィルが反応を示す。
「ええ、今回三人ほど生かしてとらえてほしいと命令を受けましたの。広場の方でカレンさんが見張っていますわ、着いてきてくださいまし」
「……ちなみに、残り二人は誰を捕縛したんです?」
「それは見てのお楽しみ……いや、君からしたら楽しくはないか。ま、とにかく行こうよ」
どこか嫌な予感を覚えつつも、フィルはエリザベートやクイナに案内され全員で移動する。里の中央広場には、縄で縛られた三人の男女が座らされていた。
「お、来たな。リオ、約束通りキッチリ捕まえておいたぜ、このクズどもをな」
「ありがとう、カレンお姉ちゃん」
「……ああ、やっぱり。残りの二人、誰が捕まったのかと思えば……あなたたちでしたか。お父さん、お母さん」
座らせていた男女のうち、二人はフィルの両親……リゲイルとミュラであった。二人はフィルの声を聞き、弾かれたように顔を上げる。
「……フィル? お前、フィルなのか」
「ええ。もう二度と会うこともないと思っていましたが、まさかこんな形で再会す」
「ああ、よかったわ! あなた、私たちを助けに来たんでしょ? そうよね? そうなんでしょ!?」
痩せこけたヒゲ面の男、リゲイルは顔を上げフィルを見つめる。フィルが声をかけるも、その途中でキンキン響く不快な声が放たれる。
フィルの実母、ミュラが素っ頓狂なことを言い出したのだ。あまりにも予想外な言葉に、全員の思考が一時的に停止した。
「だって私はあんたの母親なのよ? 自分の腹を痛めて産んで『やった』んだから。子どもが親を助けるのなんて当たり前よねぇ? だからここにいるんでしょ? ……なんとか言いなさいよ!」
「うわ、これは……」
「呆れて物も言えねえ。コイツ、どんな状況なのか理解出来てんのか?」
「外野は黙ってなさい! 子どもが親を助けるのは義務なのよ! まさか私たちを見捨てるつもりなんじゃないでしょうね! 見殺しにすあごあっ!?」
クイナやカレンが呆れ果てる中、ミュラは大声で捲し立てる。直後、アンネローゼの鋭い蹴りが炸裂し、ミュラの下顎を完全に粉砕した。
「あがっ、あがぁあ~!!!」
「……黙って聞いてれば、随分とふざけたことを抜かしてくれるじゃない。普通は逆でしょ? 人の親なら、何があっても! 自分の子どもを守るもんなんじゃないの!?」
「なんだお前は、いきなり……」
「うっさいわね、アンタも顎蹴り砕かれたいの?」
「……すいませんでした」
怒りが限界を超えたアンネローゼの制裁にすっかり怯え、リゲイルは口を噤む。顎が歪み、歯のほとんどが吹っ飛んだミュラの胸ぐらを掴むアンネローゼ。
あまりにも自分勝手窮まりない主張に、怒濤の言葉の嵐を叩き込んで反論する。割り込むのは無粋と、魔神たちは静観を決め込む。
なお、イレーナは雰囲気に呑まれ完全にフリーズしていた。
「くだらない理由でフィルくんを迫害して、そればかりか故郷から追い出して! それでいざ、自分たちがピンチになったら助けてもらおうなんてバカなんじゃないの?」
「むが、むぐうあ~!!」
「あー? なに、聞こえないわ。都合よくフィルくんを捨てたクセに、自分を助けてもらえるわけないじゃない! アンタみたいなクズは……」
「むっ!? ぐぅぅ~!!」
「ここで殺してやる。フィルくんの味わってきた痛みを、アンタ自身の命で味わえ! グラビディ……」
「アンネ様、もうやめましょう。こんなちっぽけなクズたちなんて、殺す価値もありませんよ」
ミュラの額にリングの模様を刻み、重力で押し潰そうとするアンネローゼ。そこに、フィルが待ったをかけた。
「リオさん、彼らを生け捕りにしたということは何かに『利用』するつもりなんでしょう?」
「うん、いろいろと実験したいからね。まあ、実際にやるのは僕じゃなくて別の神々だから、どういう扱いされるかは……まあ、分かるよね」
「なら、それでいいです。彼らへの罰は、死じゃ不釣り合いです。僕は生きて苦しんだ、なら……彼らも生きて苦しむべきです」
フィルと目が合ったリゲイルは、ふいっと視線を外す。これから彼らには、自ら死を望むほど過酷な日々が待っているのだ。
リオの言葉からそれを察したフィルは、彼らを生かすことを決めた。生きて苦痛を味わわせることが、彼らへの罰だと。
「……そう。フィルくんが決めたのなら、私は反論しないわ。でも、残りの二人も一発ずつ殴らせてもらうわよ」
「ええ、それくらいなら構いませんよ。……ところで、先ほどから沈黙を貫いていますが、何か言いたいことはありますか? 里長」
アンネローゼは渋々ながらも矛を収め、ミュラを解放した。そんな中、フィルはこれまで一言も声を出していない里長に問いかける。
「……フィル。これだけは覚えておくがよい。ウォーカーの一族は、決して光にも闇にもなれん。所詮我らは絞りカスに過ぎぬ。それが【●●●様】の子として生まれた我らの宿命じゃ」
「覚えておきますよ、三日くらいは。リオさん、もう連れて行っちゃっていいですよ。もう、話すことは何もありませんから」
「うん、分かった。じゃ、早いとこ殴っちゃって、アンネローゼさん。終わったら連れてくから」
「分かったわ。オラッ、立ちなさい! 三人とも全力でブン殴ってやるわ!」
アンネローゼはリゲイルたちを立たせ、拳を握り全力で顔面を殴り付ける。その後、瀕死の状態になった三人は連行されていった。
「これで、終わりましたね。魔神との戦いも、一族の栄華も」
「ええ。これでまた、いつもの日常に戻れるといいんだけど」
寒風吹き荒ぶ里を眺めながら、フィルとアンネローゼは呟く。長い戦いに、ようやく幕が下りたのだった。




