117話─不屈の闘志をこの手に!
フィルとリオ、二人の死闘はまだ終わらない。リオが腕を振る度に、絶対零度の吹雪が吹き荒れる。フィルは吹雪を掻い潜りながら、攻撃を浴びせていく。
「食らえ! マナリボルブ:バースト!」
「ふんふん、広範囲への攻撃ね。ならこうさせてもらうよ。出でよ、凍鏡の盾!」
拡散する魔力の弾丸を連続で放ち、相手の射程外から一方的に攻撃を叩き込むフィル。それに対して、リオは大きな氷の盾を生成し対抗する。
巨大な盾が射線を遮り、攻撃は全て防がれてしまった。しかし、フィルからすればこの程度は想定の範囲内のこと。
(かかりましたね。ソロンさんの時もそうでしたが、あの盾は大きすぎて視界が遮られる。それを逆に利用して、一気に距離を詰める!)
フィルは足音を立てないよう、静かにかつ迅速に行動に移った。素早く接近し、盾を蹴って飛び上がる。そのまま盾を乗り越え、頭上から奇襲しようとするが……。
「!? い、いない! 一体どこに」
「言っておくけどー、僕を息子や娘たちみたいに出し抜けると思わない方がいいよ? これでもね、この千年……いろんな相手と戦ってるからさ! アイスシールドスラッシャー!」
「ぐあっ!」
盾の裏側に、リオはいなかった。盾のフチに乗り、慌てて周囲を見回していたフィルの背後からリオの声が響く。
振り向こうとした直後、凄まじい威力の斬撃が襲ってきた。背中を爪で斬られ、フィルは吹き飛ぶ。そこへ、さらなる追撃が放たれる。
「そーれ、ギガアイスプレッサー!」
「くっ、させない! マナリボルブ:カノーネ!」
空中に巨大な氷塊が生成され、フィル目掛けて落とされる。どうにか魔力の砲弾を叩き込み、すんでの所で破壊することが出来た。
「はあ、はあ……。強いですね。今の僕では、手も足も出ない……」
「そりゃあね。これまでずっと戦ってきたから。魔戒王に堕天神、大魔公やら並行世界から来た僕自身……いろんな強敵と。そうした相手と戦って傷付く度に、僕は強くなってきた」
「……千年の間、ずっと戦ってきたのですか。あなたは」
「うん。戦うのは大好きだからね、いつもワクワクしてるんだよ。次はどんな強敵と出会うんだろう、どんな戦いを繰り広げられるんだろうって」
絶対強者としての余裕か、リオはわざとフィルに体力回復の時間を与える。ついでに自分語りをするも、表情が曇った。
「……でも、ウォーカーの一族との戦いはどれも楽しめなかった。復讐心や義憤が先に来るし、何より……あの光景を思い出しちゃうから」
「リオさん……」
かつてウォーカーの一族が引き起こした、グラン=ファルダでの無差別テロ。その事件を目の当たりにしたリオは、癒え難き心の傷を負った。
何故自分ではなく、全く関係の無い者たちが傷付き死なねばならなかったのか。どうして、事前に防げなかったのか。
そうした自責の念に駆られ、ひたすらにウォーカーの一族の殲滅に明け暮れた数十年。それがどれほど虚しいものだったのか、フィルは憐れみを覚える。
「だから、君との戦いが初めてなんだよ? ウォーカーの一族との戦いを、純粋に楽しめたのは。本音を言えば、まだ終わらせたくない。もっと楽しんでいたいよ。けど──邪魔者も近付いてきてるし、終わらせなきゃね?」
「……望むところです。僕にだって、負けられない理由がある。全ての力を振り絞って、あなたを倒す!」
アンネローゼの接近を察知したリオは、両腕に装備した氷爪の盾を構える。フィルも武器を構え、二人は同時に走り出す。
「行くよ、盾魔神奥義! アイスシールドスラッシャー・クロスエンド!」
「奥義……シュヴァルブレイカー!」
氷の爪と漆黒の剣、二つがぶつかり合う。双方の放つ魔力が大気を歪ませ、猛吹雪が狂ったように吹き荒れる地獄の空間が生成される。
激しいつばぜり合いの末に、奥義の応酬を制したのは──リオの方だった。漆黒の剣に亀裂が走り、急速に広がっていく。
「そ、そんな……!」
「楽しい戦いだった。でも、これで終わりだ! てやあっ!」
負荷に耐えきれなかった剣が砕け散り、氷の爪が無防備なフィルを襲う。叫ぶことも出来ず、フィルは吹き飛び凍った地面を転がる。
「ぐ、う……」
「よく頑張ったよ、今まで戦ったウォーカーの一族の中で最高の粘りだった。さ、仕上げに取りかかろうか。『霊魂のトパーズ』で、君の心を見せてもらうよ」
そう口にし、リオはゆっくりと歩き出す。一方のフィルは、シュヴァルカイザースーツが破損し身体を起こすことも出来ない。
(僕は……結局、勝てないのかな。やっぱり、相手が悪かったんだ……最初から、勝ち目なんてなかった……)
精も根も尽き果て、フィルの心は完全に折れようとしていた。敗北を受け入れ、目を閉じようとしたその時。
頭の中に、アンネローゼの姿が思い描かれる。朗らかな笑みを浮かべた、想い人の姿に……諦めていた勝利への執念が、再度燃え始める。
(いや、まだだ。ここで僕が諦めたら、一緒に戦ってくれたアンネ様たちの努力まで無意味になってしまう。そんなの、絶対嫌だ。僕はシュヴァルカイザー……この大地を、人々を守るヒーローなんだ。それなのに)
「こんなところで……諦めるわけにいくもんかぁぁぁぁぁぁ!!!」
仲間たちの努力を、これまでの戦いを無意味なものにしてはならない。不屈の闘志に目覚めたフィルは、叫びながら立ち上がる。
その拍子にフェイスシールドが真っ二つに割れ、素顔があらわになった。闘志に満ちた目を見て、リオはニヤリと笑う。
「まだ諦めないんだね。でも、どうするつもり? 武器は砕けて、アーマーも半壊。そんな状態で、どうやって戦うのさ」
「例えどんなに絶望的な状況でも、僕は諦めない。あの日、ヒーローとして戦うことを決めた時から。それが僕に課せられた義務なんだ。だから……この絶望を、覆してみせる!」
そう口にした、次の瞬間。ダイナモドライバーが光り輝き、新たなる力が発現する。フィルの決意が、呼び覚ましたのだ。
どんな絶望をも跳ね返し、希望を掴み取るための力を。フィルはドライバーのバックルに触れ、魔力を放出しスーツを修復していく。
新たに目覚めた力に相応しい、進化したインフィニティ・マキーナへ。
「デュアルアニマ、オーバークロス! ……エターナル・デイブレイク、オン・エア!」
「くっ……! なんて光だ、目を開けてられない!」
破損したスーツがよみがえり、金色へと染まる。夜明けの太陽を思わせる、暖かな光がフィルの心と身体を満たしていく。
「……人は、前に進まないといけない。どんなに苦しくても、絶望に押し潰されそうになっても。だから、僕も前へ進む。新たな力と共に!」
「ふふ、本当に……本当に、君はとっても素晴らしいよ。こんなに心が躍るのは、グランザームとの最終決戦以来だ……! ふふ、あはははは!!」
随所に赤いラインが走る黄金の鎧と、純白のマントを身に付けた姿へと変わったフィルを見て、リオは心から嬉しそうに笑う。
フィルは右手を前に伸ばし、新たなる武器を作り出す。黄金の輝きを放つ剣……『サンライトセイバー』を握り、魔神へと切っ先を向ける。
「この戦いを終わらせたくない、と言いましたね。望みが叶いましたよ、リオさん。まだまだ……僕は戦えます。一日中だろうとね!」
「そうみたいだね、とても嬉しいよ。これがホントの最終ラウンドだ、今度こそね。さあ、続けよう! 神話に名を連ねるだろう、一大決戦を!」
イレーナとアンネローゼに続き、新たなる力を得たフィル。太陽の輝きを纏い、最強の敵へと挑む。決着の時が、少しずつ近付いてきていた。




