114話─闇を纏う戦乙女! その名はラグナロク!
「単なるカラーチェンジじゃねえってんなら、その力を見せてみろ! ウォルフガング・クロウ!」
「そんなに見たいなら見せてやるわ、お望み通りにね! 武装展開……重獄槍ゲヘナ! 食らいなさい、グラヴィトーラ・ヘイトス!」
半人半獣の姿に変わったダンテは、右手に風を纏わせ巨大な爪を作り出す。アーマーごとアンネローゼをズタズタに切り裂くつもりだ。
対して、アンネローゼは新たな力を宿し生まれ変わった槍を構える。ダンテの攻撃を避け、手の甲に槍をかすらせ傷を与えた。
「ハッ、こんなかすり傷痛くも痒くも……ん? なんだこのマーク」
「それはね、アンタを叩き落とす地獄への招待状よ! グラビディ・プラス!」
「ぐおっ!? なんだ、いきなり手が重くなりやがったぞ!?」
ダンテの右手の甲に、トゲトゲしたリングの紋様が刻まれる。それを不思議そうに見ていたダンテを異変が襲う。
アンネローゼが魔力を開放すると、リングが共鳴して黒く輝く。すると、ダンテの手が凄まじい重さになり、地面に落ちる。
「ふんぬぉぉぉぉ……!! 何だこれ、全く持ち上がらねえぞ!」
「そりゃそうよ。今、アンタの右手には通常の三千倍の重力が掛かってんだから。魔神のパワーでも、そう簡単に逆らえないわよ!」
「さ、三千倍だぁ!? べらぼうな倍率かけてんじゃねえぞ、普通の人間だったら即ペシャンコじゃねえかそんなもん!」
必死に手を持ち上げようと踏ん張るダンテに、アンネローゼは妖艶な笑みを向ける。イレーナが新たに超振動を用いた技を会得したように、彼女もまた目覚めたのだ。
自由自在に重力を操る力を。その力を用いて、ダンテに枷を嵌めた。魔神の持つ再生能力ではどうあっても対抗出来ない、重力の牢獄へ。
「へっ、中々とんでもない力を手に入れたみてぇだなぁ。だがよ、気付いてるか? 身体の一部分だけが重くなってんなら! そこを切り捨てりゃいいってことをな!」
「! 自ら腕を……。もちろん、それくらいはこっちだって想定済みよ。だから……今度は逃げられないように、全身重さ三千倍にしてやるわ! グラビディ・マイナス! フォールダウンマシンガン!」
が、頭の回転の速さはダンテの方が一枚上手だ。即座に肘から先を槍で切り落とし、その場を離脱した。腕を再生させ、今度は遠距離から攻撃しようとする。
それに対し、アンネローゼは自身にかかる重力を軽減してスピードアップする。翼による加速も合わせ、素早く距離を詰め刺突の連打を見舞う。
「オラオラオラオラオラオラァ!! 全身フォールダウンリングだらけにしてやるわ! 覚悟しなさいこの駄犬野郎!」
「くっ、速ぇ! チッ、かすっただけで敗北確定とかめんどくせえ能力得やがって! なら……こうだ! エアーボディ・コンバート!」
「また風になろうって? そうはさせないわよ、堕天使の結界!」
傷そのものは、再生能力を使えばどうということはない。しかし、攻撃に付随する枷の輪が非常に厄介物な代物だ。
単純なダメージや毒なら、余裕で対応出来る。しかし、こうした肉体的・精神的な傷を伴わない攻撃こそが魔神のウィークポイントなのである。
ダンテは再び身体を風に変え、攻撃から逃れようとする。しかし、今度は逃すまいとアンネローゼは四枚の羽根を散らし、ダンテを囲ませる。
「ぐ、お? なんだ、身体が風にならねぇ」
「堕天使の羽根にはね、魔法効果を阻害する力があるのよ。複数の相手には使えない分、押さえ込む力はガッツリあるわ!」
「チッ! 本当に厄介なことになったもんだな、こりゃあよ。なら仕方ねえ。相手より先に切り札を切りたくはなかったが……四の五の言ってられねえか!」
風への変換を防がれた以上、自身の身体能力だけで避け続ける必要がある。とはいえ、それにも限度があることはダンテも理解していた。
故に、彼は一足先に切り札を使う。アンネローゼの攻撃が一瞬途切れたところを狙い、腹へ蹴りを叩き込んで後退させる。
「ぐふっ! ひっどいわね、治ったとはいえさっき槍ぶっ刺されたとこ蹴るなんて!」
「ハッ、真剣勝負に酷いも何もねえっての! ……さあ、こっからはオレの時間だぜ。食らいな! 槍魔神奥義……ウォルフガング・サーバント!」
ラグナロクへの覚醒に伴い、アンネローゼの負った傷自体は癒えている。が、それでも痛いものは痛い。アンネローゼはよろめき、数歩後退る。
その間に、ダンテはかつての御前試合の時の如く分身を作り出す。ただし……今回は、たった一桁で済むようなことはない。
「あの時は手加減してたから、分身も四体で済ませていた。だが、今回は本気だ。今のオレが生み出せる限界、六百六十五体総出でお前を殺す!」
「!? なんて数……こんないっぱい、よく作れるわね」
「さあ、覚悟しな! 全軍突撃!」
「グルゥオーーーーン!!!」
ダンテ本人を含む、総勢六百六十六体のオオカミの軍勢がアンネローゼに群がる。反撃の隙など一切与えぬ、数にものを言わせた純然たる暴力の嵐。
分身と本体の攻撃はお互いに当たらず、フレンドリーファイアは決して起こらない。アンネローゼが槍を用いた攻撃をフルに行っても、仕留められるのは三人が限度。
そうタカを括り、ダンテは分身と共に突撃していくが……彼はあまりにも、アンネローゼを舐めていた。一度下したからと、侮ってはならないのに。
「ふーん、確かに……ラグナロクになる前の私だったら、ここでゲームオーバーだったわ。でもね、今は違うの。何故かって? ──リングを刻めるのは、生物だけじゃないからよ」
「なに? ……そうか、しまった!」
「もう遅いわ、逃げようったってムダよ! 奥義……終極・ラグナロクの呼び声!」
相手の狙いに気付き、ダンテは即座に分身たちを下がらせようとする。が、もう遅かった。アンネローゼは槍を地面に突き刺し、巨大なリングを描き出す。
そして、リングの上に乗った分身たちを強大な重圧によって押し潰し、消滅させていく。辛うじてリングに乗らずに済んだダンテ本体は、一旦離れようとするが……。
「逃がさない! これで終わりよ、アンタと私の戦いはね!」
「ぐ、ごあっ!」
「これでトドメよ! クラビディ・プラス……天翔奈落落とし!」
急加速したアンネローゼの放った一撃が、ダンテの胸を貫いた。そのまま天高く飛び上がり、自身への重力を増加させ落下していく。
勢いよく地面に叩き付けられ、ダンテは口から血を吐く。全身から力が抜け、化身状態が解除された。アンネローゼは……勝ったのだ。
「へっ、まさか……このオレがやられちまうたぁな。本当に……やりやがったもんだよ、お前は」
「言ったでしょ? 今日、私は自分の殻を破って成長するって。有言実行……それが私のやり方よ」
ダンテから槍を引き抜き、アンネローゼは得意気に微笑む。己の内に潜む闇を従え、戦乙女は堕天使の力を得て……かつての強敵を、打ち倒したのだった。
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「いたた……まさか、いきなりあんな手段を使われるなんて思いませんでした。二人とも、大丈夫でしょうか……?」
時は少しさかのぼり、アンネローゼとダンテの戦いが始まった頃。フィルは一人、里の西部にある奴隷たちの居住区をさまよっていた。
「ここは全然破壊されてませんね。みんな、無事だといいんですけど……」
「うん、大丈夫だよ。ここにいた奴隷の子たちは、全員僕が保護したからね」
「! この声……あなたが、盾の魔神……リオさんですか」
「うん、そうだよ。はじめまして、だね。シュヴァルカイザー……いや、フィル・アルバラーズ・ウォーカーくん」
粗末なボロ小屋が建ち並ぶ通りを歩いていた、その時だった。背後から少年の声が響いてくる。リオが振り向くと、そこには……。
返り血を浴び、青と赤のグラデーションに染まった禍々しい姿のリオが立っていた。
「手分けして里に降り立った後、たまたま最初にここを見つけてね。戦火に巻き込まれる前に、みんなグランゼレイド城に移動させたんだ」
「そうですか……よかった。あの人たちは、みんな無事なんですね? それだけが、気掛かりでしたから」
「彼らから聞いたよ。君がまだ里にいた時、ずっと庇ってもらってたってね。君、ここから追い出されたんだって? 奴隷の子やフーちゃんから聞いたよ」
そう言いながら、リオは一歩ずつ近寄っていく。表情こそ、柔和な笑みであったが──両の目だけは、一切笑ってはいなかった。
「まあ、それは置いといて。君がここにいるってことは、ソロンたちを退けたってわけだ」
「ええ、全員倒しましたよ。もっとも、僕一人の力で、というわけではありませんが」
「だろうね、君がウォーカーの力を持ってるとはいえ、楽に勝てる相手じゃないからね。……勿論、僕もそうさ」
「本当に、戦わなければならないのですか? 僕とあなたは」
「うん。例えあの子たちが認めても、この目で、耳で、肌で、魂で。直接君と戦って、確かめないと気が済まないんだ。悪いね、それが僕だから」
万に一つ、戦うことなく和解の道を……と考えていたフィルだが、その希望は潰えた。リオは飛刃の盾を呼び出し、右腕に装備する。
「さあ、始めようか。正真正銘、一対一の戦いを。……認めさせてごらん、君が善なる存在だとこの僕に!」
「……分かりました。ここまで来たからには……あなたを倒してみせる!」
世界を渡る力を持つヒーローと、最強の力を持つ現人神。二人の戦いが、始まる。




