107話─明かされる出会いの秘密
まだギリギリ許容限界は来ておらず、アーマーも破損を免れている。今なら行けると判断し、ジェディンは一気に走り出す。
目指すは、巨大な大砲と化したリリーとルルー。必殺の一撃を叩き込むことさえ出来れば、その時点で勝利が確定する。
「むお~、まだ死なない! こうなったら、エネルギー限界突破だー!」
「ありったけの魔力を~、ブチ込んでやるー! 覚悟しろコラー!」
「向こうも最後の攻勢に出てくるか……。なら、先手必勝で仕留めるのみ! 行くぞ……エネルギーチャージ、七百パーセント!」
全魔力を乗せた攻撃が放たれる直前、一瞬だけレーザーの威力が弱まる。その隙を逃さず、ジェディンは蓄積したエネルギーの一部を使い加速した。
「わっ、はやっ!?」
「ダメ、もう間に合わない!」
「これで決着だ、海産物コンビ! ……オボロがそうしたように、お前たちにも教えてなる。先生から預かってきた記憶を見るがいい! そして、敗北と共に思い知れ! フィルの過酷な半生を!」
一気にリリーたちの目の前に移動し、四本の鎖を伸ばし……二本ずつ、相手の身体に突き立てる。膨大なエネルギーと共に、あるものを流し込む。
ギアーズの記憶の一部を抜き出し、魔力へと変換したものを。彼女たちに記憶を見せることで、フィルを認めさせるつもりなのだ。
「食らえ! アブソリュートペイン・アベンジャー!」
「あびゃーーーー!!!」
「な、なんか来るぅぅぅぅぅ!!!」
鎖を通して、リリーとルルーは膨大な魔力を流し込まれる。激しい魔力の奔流で頭が狂いそうになる中、彼女たちは見ることとなる。
ギアーズとフィル、二人がどのようにして出会ったのか……当時の記憶を。
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『うー、今日も寒いのう。もう一年も終わりか……今年も資金繰りに苦労したわい』
雪が降る大通りを、ギアーズが一人歩く。所属していた大学を追われてからはや数年、彼はインフィニティ・マキーナの研究に精を出す日々を送っていた。
一年の最後を祝う祭り、輪廻祭がもうすぐ行われるとあって街は賑わっている。懐は寒いが、祭りにでも参加しようか……と考えながら道を歩く。
『みな楽しそうじゃな。どれ、今年くらいはわしも祭りに……ん? これ、そこの君。一体何をしておるんじゃ?』
その時、ふとギアーズは気配を感じ横を向く。狭い路地裏に、うずくまる人影があった。もしや、具合でも悪いのではないかと心配し、近寄っていく。
『お前、誰だ……。僕に近寄るな!』
『子ども、か? そんな薄着で……靴も履いておらぬではないか。一体どうしたんじゃ』
『うるさい! 僕に関わるな! どうせ、お前だって僕を……う、うえぇっ!』
路地裏には、ぼろきれを纏ったみすぼらしい浮浪児……フィルがいた。残飯をあさっていた少年は振り返り、敵意に満ちた目でギアーズを睨む。
当時のフィルは仲間の仕掛けた冤罪で冒険者ギルドを追われ、人間不信に陥っていた。今にも襲いかからんとしていたが、突如嘔吐しはじめる。
『ああっ、いかん! 君、すぐ医者に診せてあげよう。さ、わしと来なさい!』
『うる、さい……あっち、い……け……』
なおも敵意を剥き出しにするフィルだったが、その場に倒れ気絶してしまう。ギアーズは吐瀉物まみれになるのも構わずフィルを抱え、大通りを走る。
『おじいさん、危ないところでしたね。この子、かなり胃腸を悪くしてますよ。あと少し治療が遅れていたら死んでいましたよ、ええ』
『そうですか……いや、間に合ってよかった。この子は治りますかのう?』
『薬を五日分出しておきますので、それを飲ませてあげてください。あとはしっかりした食事を摂らせてあげれば、すぐ回復します。では、お大事に』
『年の瀬に済みませんのう。いや、ありがとうございました』
医者に診てもらったことで、フィルはギリギリで生を繋いだ。当時ギアーズが住んでいた借家にて、二人の生活が始まる。
最初はギアーズを拒絶し、頻繁に家出を繰り返していたフィル。が、その度にギアーズは彼を根気強く探し出し、家に連れて帰っていた。
『……ねえ、おじいさん。なんでおじいさんは僕に構うの。おじいさんと僕は赤の他人……僕が死んだって困らないでしょ』
『何を言っておる、このおバカめ。行く当てもない孤児を見殺しにするほど、わしは薄情ではないぞ。そんなことをしたら、教え子たちに顔向け出来ん。ほれ、スープが出来たぞ。はよう飲め』
『……うん。おじいさん、その……ありがとう』
ギアーズの優しさに触れ、少しずつフィルの人間不信が解消されていった。二人で暮らすうちに、ギアーズはフィルの過去を聞かされる。
『……そうか。そんなことがあったのじゃな。おぬしも気の毒に……よし、これからはわしの孫として暮らすがええ。もうひとりぼっちにはさせぬからな、フィル』
『うん! ありがとう、おじいさん!』
『ほっほっ、ようやくわしにも孫が出来たか。うむ、新年早々喜ばしいことだわい』
すっかり打ち解けた二人は家族となり、貧しいながらも幸せに暮らしていた。そんなある日、ギアーズは研究のことで悩んでいた。
『むうう……ダメじゃ! どうこねくり回してもインフィニティ・マキーナの動力問題が解決せん! くぅ……やはり、夢は夢のままで終わるのか……』
『……博士、また悩んでいるんですか?』
『おお、フィル。なに、心配いらんよ。おぬしが気にすることはないさ』
設計図をビリビリに破き、投げ捨てるギアーズ。そこに、牛乳配達の仕事を終えたフィルが帰ってきた。落胆しているギアーズを見て、フィルは決心する。
『博士、もし……僕が博士の悩みを解決出来ると言ったら、協力させてくれますか?』
『なぬ? それはどういう……』
『今まで話していませんでしたが……実は、僕は』
ここに来て、フィルはこれまで隠してきた素性を全て話した。並行世界を渡る力を持つ、特別な一族の一員であること。
決して尽きぬ無限の魔力を持っており、研究に役立てられるかもしれないということ……全てを、信じてもらえないかもしれないと思いながら打ち明けた。
『僕、博士に助けてもらってからずっと考えていたんです。いつか、今度は僕が博士を助けたいって。役に立って、恩返ししたいって』
『フィル……』
『僕の力があればきっと、インフィニティ・マキーナを完成させられる……。そうすれば、博士の夢が叶う。そのお手伝いをしたいんです!』
『……ありがとう。よく打ちあけてくれたのう。わしはそう言ってもらえただけでも嬉しいよ。では……わしのために、力を貸してくれるか? フィル』
『はい! 博士のためなら、喜んでこの力を使いますよ!』
一切の疑念を抱くことなく、ギアーズはフィルの言葉を、想いを受け入れた。そうして、二人は協力して研究を進め……やがて、最初のインフィニティ・マキーナであるシュヴァルカイザースーツを作り出すことになるのだった。
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「きゅう~……ハッ! ルルー、大丈夫? 生きてる?」
「生きてるよ~……ぐちゃぐちゃの肉塊になっちゃったけど、ぜんぜんへいきー……ごめんむり……」
「……驚いた。オボロの話を聞いてはいたが、ここまでやってまだ死なないとは。神……いや、まるで怪物だなこれは」
一連の記憶を見終えたリリーとルルーは、意識を取り戻す。二人ともおぞましい肉片に変わり果てていたが、それでも生きていた。
ジェディンはその光景を見て、改めて魔神の恐ろしさを認識させられた。とはいえ、彼ももう限界。お互いに、これ以上戦うのはもう無理だ。
「はー、すっごい痛かった。でも、結構楽しかったねルルー」
「そうだね、リリー。シュヴァルカイザーの過去も知れたしねー。あの子も、苦労してたんだねー」
「ああ、そうだ。先生がいなければ、フィルはとっくに死んでいたろう。彼がヒーローとなり、人々を救うこともなかった。フィルは……先生に救われて、今度は自分が誰かを救う存在になれたんだ」
アーマーの維持も出来なくなり、生身に戻ったジェディンは座り込みながらそう口にする。とりあえず首から上だけ再生させたリリーとルルーは、互いに見つめ合い頷く。
「いいよ、認めてあげる。シュヴァルカイザーは悪い子じゃないって」
「むしろいい子だったねー。あんなやさぐれてたのに、バッチリ再起してたもん」
「……認めてくれたか。よかった……これで、少しは休んでも……バチは当たらないな」
リリーたちにフィルを認めさせることが出来たジェディンは、安堵の笑みを浮かべる。そのまま寝転がり、疲れた身体を癒やすのだった。




