102話─魔神たちの真意
「聞きてえことだぁ? ハッ、いいぜ。答えられることならなんでもかんでも答えてやるよ。てめぇが質問する余裕あるならなぁ! ライトニング・ディバスト!」
ハンマーを構え、ガティスは勢いよく地面に振り下ろす。地面が裂け、地中から雷の刃がいくつも姿を現しオボロを襲う。
対するオボロは、機敏に動き回ることで雷の刃を避けていく。真っ直ぐにガティスを見つめ、疑問に思っていたことを吐き出した。
「貴殿らがウォーカーの一族を敵視し、根絶させんとしている理由は分かる。だが、フィル殿は悪しき存在ではない。それは理解しているはずだ」
「確かに……なぁ! 知ってるぜ、ずっとレケレスの叔母殿か監視してたからな。シュヴァルカイザーが正義の味方だってのはよ!」
「ならば何故! 執拗なまでに命を狙うのだ! それがしの知るベルドールの魔神たちは、そんな狭量ではなかったはずだぞ!」
逆にガティスに攻撃を仕掛けながら、オボロはそう叫ぶ。彼には解せなかった。何故魔神たちが、何の咎もないフィルまで狙うのか。
神の世界で起きた惨劇に一切関与していないにも関わらず、ウォーカーの一族というだけで命を狙う。そこに引っかかりを覚えていたのだ。
「何でかって? ハッ、てめぇはウォーカーの一族についてなんにも知らねぇからそんな寝ぼけたこと言えんだよ。そんじゃ、教えてやるよ。お望み通りな!」
剛力を発揮し、オボロを吹き飛ばすガティス。一旦ハンマーを地面に置き、武装解除する。どうやら、対話の姿勢に入ったらしい。
「ウォーカーの一族として生まれた奴らにも、人格者はいるのさ。……子どもの間だけはな」
「なに? それはどういうことだ」
「決まってらぁ、全員が例外なく、十二歳の誕生日を迎えると変貌すんだよ。傲慢で選民思想に溢れた、共存不可能な凶暴な奴に」
ガティスの言葉を聞きながら、オボロは耳の裏側を指で掻く。興味深い話に、オボロもまた掲げていた妖刀を下ろす。
「……それは確かなのか?」
「おうよ。惨劇が起きる前……連中が保護区で暮らしてた頃から確認されてる現象さ。何でそうなるのか、理由は解明されてねぇがな」
「その変貌は、誰一人例外なく起きるのだな?」
「そう言ってるだろ? 助命されたガキ連中は、現実改変でウォーカーの一族だった事実を書き換えられてるから、今のとこ問題はねぇがよ」
「なら、フィル殿にもそうすればいいだけではないか。本人が了承するかはともかくだが」
相手の話を聞き、正論を述べるオボロ。そんな彼に対し、ガティスはフンと鼻を鳴らす。どこか小バカにしたような態度に、オボロはムッとした。
「ばーか、お前仲間の歳も知らねぇのかよ。シュヴァルカイザーはとっくに十二歳になってんだ、今更現実改変したって意味ねぇんだよ」
「ぐっ……」
「だが、問題の本質はそこじゃねえんだ。問題なのは、なんでシュヴァルカイザー……フィルだけが人格の変貌現象を起こしてねえのかってことだ」
これまた正論で返され、オボロは言い返すことが出来なかった。カンパニーから手に入れた情報を解析して、魔神たちはとっくにフィルの年齢を特定していたのだ。
口をつぐんだオボロに、ガティスは続けて語る。フィルの抹殺に動く理由は、彼に対しての『不信感』が大本にあるのだと。
「叔母殿はずっと、あのコンサートが終わってから人知れずフィルを監視し続けていた。いつ奴が変貌してもいいようにな。ところがだ、全然そんな素振りが見えねえ」
「フィル殿はあれが素だ。この大地を守るために、己の身を顧みず悪と戦う。貴殿らの父母と同じ、高潔な英雄だ!」
「それを俺たちは信用出来ねえんだよ。ウォーカーの一族って偏見が挟まるんでな。だから、親父殿は考えた。見極める必要があると」
「……ああ、そういうことか。フィル殿が真に正しい心を持つ、自分たちと同じ英雄なのか……」
「あるいは、態度を偽ってるだけの邪悪なのか。そこを見極めて、奴が善なる存在だってことが証明出来なきゃ生存を認められねえんだよ。こっちはな」
一連の会話で、オボロは理解した。ガティスの口振りから、彼がフィルを根っからの邪悪だとは思っていないことを。
彼もまた、見極めようとしているのだ。フィルが善なのか、悪なのか。己の目で見て、肌と心で感じ取ることで。
「……最後に一つだけ、聞きたい。もしフィル殿が善なる存在だと証明出来たら……その時はどうなる?」
「簡単だ。殺す必要もねぇからなあ、もう命を狙いはしねえよ。ま、何であいつだけがイレギュラーなのかを調べる実験には協力してもらうがな」
「そうか。それだけ聞ければ結構。ならば、それがしがフィル殿のために証明しよう。この戦いで、あの者が正しい心を持った者だと!」
「やってみろ、俺を心変わりさせてみな! 行くぜ、ビーストソウル・リリース!」
もう、言葉を交わす必要はない。ガティスは黄色のオーブを呼び出し、己の身体に取り込む。夜空を暗雲が覆い、一筋の稲妻が落ちた。
落雷を受け、ガティスの身体が変貌していく。尾に巨大な鉄鎚を備えた、黄金に輝く巨大なサソリへとその姿を変えた。
「むむ……なるほど、それが貴殿の宿す獣の力か」
「ハッハハハ!! その通り、これが俺の本気の姿だぁ! さあ来やがれ、たっぷり俺に教えてみろ。てめぇの仲間が善なる存在だってことをよぉ! ギガテール・バニッシャー!」
「それがしは負けぬ。嫌というほど教えてやろう。フィル殿は、お前たちが思っているような悪ではないとな!」
電光が闇夜を照らす中、二人の戦いが再開される。異なる信念を持つオボロとガティス、勝負の行方は果たして──。
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『……という次第でありまして、すでにガティスが交戦しています。シュヴァルカイザー本人ではありませんが』
「うん、問題ないよ。例のドロイドくんも、本性を見極めたいと思ってたところだし。渡りに船ってやつだね、わっはっはっ!」
同時刻、グランゼレイド城内。魔法の水晶玉を使って、ソロンとやり取りをしているリオ。ガティスがオボロと戦っていることを、即座に知らされていた。
『ガティスに持たせている水晶の欠片で、音声はこちらと繋がっています。お望みであれば、そちらともリアルタイム接続しますが』
「うーん、後で報告してくれればそれでいいかな。こっちもそろそろ出撃だし、あんまり気が散っちゃう要素があると……ね」
ソロンたちがキュリア=サンクタラムを経ってから半日ほど経った今。リオたち親世代も、アルバラーズ家討伐のため出陣しようとしていた。
『かしこまりました。では、後ほど纏めて報告致します、父上』
「うん、ありがとうね。……さて、こっちもこっちでそろそろ行かないと。悪の根を断つために」
『行ってらっしゃいませ、父上。ご武運をお祈りしています』
「ありがと。じゃあ、通信切るね」
息子との通信を終え、リオはまぶたを閉じる。脳裏によみがえるのは、かつて起きた惨劇の記憶。燃え盛る街、泣き叫ぶ無辜の民。
そして、狂った主張と勝利宣言を繰り返す、惨劇の元凶たるウォーカーの一族。リオはまぶたを開け、ツインガントレットを装着する。
「……フィル・アルバラーズ。どうして君だけは、他のウォーカーと違うんだろうね? その秘密が、世界を脅かすものでなければいいんだけれど。……ま、なるようにしかならないか」
そう呟いた後、リオは自室を出る。廊下を歩きながら、右手を上げ指を鳴らす。すると、どこからともなく七つの宝石が現れ、付き従うように浮遊する。
「さて、これまでに確認されてきた『旧』氏族はアルバラーズ家で最後。新しく出現した奴らは……まあ、今は後回しでいっか」
七つのアブソリュート・ジェムを従え、リオは仲間の元へ向かう。諸悪の根源を絶ち、惨劇の罪を贖わせるために。




