第6話 縁と猫
猫は涙を拭うと、自分の服の中から一本のカミソリを取り出し、腕をまくり無表情で腕を切り始めた。
「お、おー、何してんだよ」
島田は慌ててカミソリを取り上げて叫んだ。そしてそのカミソリをすぐにテープでくるみ、研究室に持っていき机の引き出しにしまった。
「全く…なんでそう」
島田はそんなことをブツブツ言いながら扉を開けると、そこにはまたカミソリで腕を切る音虎がいた。
「おまっ、何本持ってんだよ。」
島田は叫びながらカミソリを没収した。
「もう持ってないな?」
すると音虎は、ふてくされながら服の中に手を突っ込むと、小銭入れくらいの小さなポーチと大量のカミソリが床に落ちた。それを見た島田は、それを一つずつ慎重に拾い、すべてを拾い終えるとまた研究室にしまい、戻ってくると音虎にいった。
「もうないよな」
「ここにはないよ」
「ここには…ね、ありがとう。」
島田はそう言うと、呆れからか大きなため息を吐くと、なぜそんなことをしたのか疑問に思ったの
で、聞いてみることにした。
「せっかく泊めてやるって言ったのに、やっぱり嫌になったのか?」
すると音虎は必死に否定した。
「違う!違うの、泊めてもらえることはとてもうれしいの。でも、私がこんなにうれしくなっちゃいけないと思って、罰を与えただけなの。」
あぁ、忘れてた、こいつは重度のメンヘラだった、もう刃物を近くに置かないようにしよう。島田はそう思うと、無責任な責任を感じていた。
「切りたくなる気持ちもよくわかる、でも、自分の体なんだから大事にしような。だからとりあえず今日は寝よう、寝れば少しは気分も晴れるかもよ」
すると音虎は、なにか浮かないような顔をしながら返事をし、二人で研究室に向かった。そして部屋に入ると島田は椅子に座り、音虎に自分は椅子で寝るからベットで寝るよう指示をした。音虎も最初は遠慮していたが、島田に押され結局嫌がりながらもベットで寝ることになった。
「電気消すぞ」
そういうと島田は照明を消し、アイマスクをすると、二人は寝る姿勢についた。電気を消してから島田はびくともしなかったが、音虎は何度か寝返りを打つと、島田に声をかけた。
「ねぇ、起きてる?」
「あぁ、早く寝ろ」
島田の座る椅子がキシッと少し音を立てた。
「さっきの思い出に出てきた魔法使いの人、その人のことどう思ってる?」
島田は姿勢を変え、少しアイマスクをずらし音虎の方を見ると、島田の事を見ていた。
「俺の全てだよ」
「そんなに⁉」
急に大きな声を出したからか、島田は少し驚いた。
「うるせえ、もう少し小さな声で話せ。」
音虎が謝ると、島田は話し始めた。
「勉強しかなかった俺に夢を与えてくれたし、礼が出来てないからもう一度会いたい。まぁ、彼の魔法がもう一度見てみたいってのもあるけど」
笑顔で言う島田を見た音虎は答えた
「伝わってると思うよ」
「だといいが」
ここで会話は終わり、それから三十分くらいしてようやく寝入りそう、そんな時だった。ドンドン、と大きな音でノックするのが聞こえた。音虎は驚き飛び跳ねると、島田もすぐに立ち上がって言った。
「クッソ仕事だ」
そういうと島田は走って玄関へ行きドアを開けると、そこには血だらけの男女がいた。ぐったりとしたその男性は、ガタイがよくパンチパーマで、黒いスーツを着ていた。一方女性は、金髪のロングヘアーに美系の顔立ちで、服はハイネックの黒いセーターと、白の特攻服のようなのを羽織っている。
するとその女性が口を開いた。
「すまんシマちゃん、こいつが一発食らっちまった」
「わかった、待ってろ」
そういうと、島田険しい表情で研究室へ走って戻り、ベットの下の木箱を取り出すと、中から三つほど液体の入った瓶を取り出した。すぐに島田はその瓶に書いてある薬品名を確認すると、もう一度ベットの下にもぐりアタッシュケースを取り出した。そしてそれらを両手に持つと、数秒考えた後すぐ
に玄関へ走って戻っていった。
「おい、息はできるか?」
男は目を瞑ったまま細かく縦に首を振った。
「すまない、少しだけ目を開けてくれ」
「うん、呼吸不全や痙攣などの身体症状も一切見られない。てことは、気を付けるべきは臓器の損傷と、それがなければ銃弾の摘出、それと止血に消毒だな。」
島田はアタッシュケースを開くと、中からパルスオキシメーターを取り出し、血中酸素濃度と脈拍を測定した。
「異常なし」
島田はそう言うと、白いゴム手袋をつけ、弾丸の摘出を始めた。まずは傷口付近をヨードチンキで消毒し、損傷部分をかき分け臓器の損傷具合を確認した。その時すでに、あの白かったゴム手袋は大量の血で染まっていた。そして島田は、ピンセットで変形した弾丸を摘出し、出血個所を高周波で焼き止血するとアキトに伝えた。
「アキト、臓器は無事だった。とりあえず処置をしたから死ぬことはない」
アキトは大きく息を吸い、すべて吐き出すと言った。
「英二聞こえたか、お前は助かるらしいぞ」
それを聞いた男は、体を無理やり起こそうとしたので、島田はすぐになだめて安静にするよう伝えた。すると、男は目を力強く開け島田の方を見ると
「先生、ありがとう」
そういうと気絶してしまった。アキトは、男が死んだかと思い一瞬慌てたが、島田の目を見るとすぐに察した。
「シマちゃん、助かったよありがとう」
アキトは緊張が解けたからか、疲労と脱力感で瞼が垂れてきていた。島田も安心したのか、少し脱力していたが、すぐにアキトの違和感に気が付き、声をかけた。
「アキト、お前は大丈夫なのか」
アキトは目をそらして答えた。
「あー大丈夫、私は打撲とかそんなもんだ」
アキトは再び男を見ると、話を続けた。
「シマちゃん、また借りを作っちまったな。例は弾むからさ、こいつをしばらく見てやってくれ」
「あーそれのことなんだが、」
そういうと、奥の部屋のドアが開き、音虎が恐る恐る顔を出してきた。
「あずかるのは問題ないんだが、今一人飼っててな。例はいいから、ここよりも部屋が多いい物件が欲しい。おんぼろの家でも問題ないからさ。」
「わかった、心当たりがあるからさ、明日の早朝にまた来るよ」
「あぁありがとう、あとこれ」
そういうと、島田は小さな紙袋をアキトに渡し、顔を近づけると小声で言った。
「組長だからって強がりすぎんなよ、飴玉に鎮痛剤が練りこんである」
「はは、おまいにゃかなわんな、ありがとう。」
アキトはそう言うとドアを開けて帰ろうとしたが、何かを思い出すと、振り返り口を開いた。
「あぁそうだ嬢ちゃん、シマちゃんは私のもんだから」
そう言い放つと、ドアを閉め帰っていった。しかし、島田は何もなかったかのように、音虎に声をかけた
「音虎、彼を運ぶから手伝ってくれ」
そういうと、二人は男をベットまで運び、その夜は二人とも研究室の床で横になり、眠りについた。
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