第20話 待ち猫
何かが弾けるような音がした。島田は、その音が自分の生命線が切れてしまったように感じ、すぐに目を開いた。しかし、周りは真っ暗で、のどが焼けているのかひどく痛んだ。島田は異常にのどが渇いていることにも気が付き、背中に重くのしかかる物体を押しのけ立ち上がった。
すると、あたり一面瓦礫の山と火の海が広がっていた。その瞬間、島田は自分のうなじに激痛が走りすかさず触ると、皮膚がただれるくらいの火傷を負っていたことに気が付いた。そして後ろを振り返ると、ヴィンセントの管理する部屋のあたりに燃える人型の何かが見え、島田はすぐに目を逸らした。
島田は自分が爆発に巻き込まれたことを思い出し、フラつきながらも火のない場所をゆっくりと歩き出口を目指した。途中、瓦礫からはみ出た焼け焦げた腕や足を発見したり、まだ動くんじゃないかと思えるほど綺麗な下半身を目の当たりにしてしまい、もし地獄が存在するのならまさにこの景色なんだろうと、島田は考えた。そして出口が見えてくると、安心感からか島田は五感のすべてが遮断してしまった。
病院の一室に響く電話の音は、島田の仕事柄緊急なことが多かったため、寝ていた島田を飛び起こさせた。島田は自分が病院のベットで寝ていたことに気が付かないままスマホを手に取り、目を半開きにしながらすぐに応答して耳に当てた。相手はアキトだった。
「はいもしもし」
「シマちゃん今大丈夫か?」
明らかに大丈夫ではない島田だが、島田は大丈夫だと言うことにした。
「大丈夫だ」
「そうか。本題なんだが、最後に看病したうちの患者がいただろ?あいつが見たってんだよ」
「何をだ」
「複数人に囲まれて歩く音虎チャンだよ、それで心配で」
島田はようやく自分が病室にいることに気が付き、半開きだった目はゆっくりと開き言った。
「アキト、頼みがある」
島田はそう言うとアキトに何かを伝え、身支度をし始めた。すると、たまたま様子を見に来た看護婦に見つかりフランス語で声をかけられた。
「島田さん、どこへ行かれるんです?」
「日本へ帰る」
「困ります!もちろんお体の心配もありますが、警察の事情聴取が終わってからでないと部屋から出してはいけないと言われているのです」
それを聞いた島田は、自分の運転免許証と保険証、それとスマホなどできるだけ身分を証明できるものを渡して言った。
「私が身分を証明できるものはそれで全てです。私の…私の大切な人に会わなくてはいけないんです。あとから逮捕でもなんでも受けますからどうか」
するとその看護婦はため息を吐き、島田から受け取った身分証をベットに置き微笑みながら言った。
「私急にトイレに行きたくなってしまったから、絶対にここにいてくださいね、絶対ですよ」
そう言い、看護婦はドアの前に立ちドアノブをつかみながら低い声で言った。
「部屋出てすぐ右に裏口にでる扉があるから」
そう言うと看護婦は行ってしまった。島田は礼も言えなかったことを後悔しつつも、看護婦が出て行ってから少し間を開けてから病院を後にした。病院を出ると、島田はすぐにタクシーに乗り込み運転
手に言った。
「モリストン研究所まで」
パリの街から少し離れたところに、飛行場を併設したモリストン研究所があった。周りは少し緑があり、すぐ近くにはサンドイッチを持っていきたくなるような丘もあった。しかしこの研究所は、一般公開しているような場所ではなく一本の滑走路と錆びた二階建てのプレハブと、大きな格納庫が一つあるだけだった。
そんな研究所へ、急いで駆け込む島田の姿が見えた。島田は柵も何もない敷地に入り、プレハブのドアを勢いよく叩いて言った。
「ロッキー、ロッキーはいるか?」
すると、島田が急にドアをたたいたからか色々な物を落した音が聞こえ、十秒ほどたつと二階の階段から一人の男が降りてきた。そのロッキーという男は少し小太りで髪の毛は金髪、髭はだらしない伸ばしかたをしていて、黒縁の眼鏡をかけていた。そしてロッキーは流ちょうな日本語で話し出した。
「なんだ島田か久しぶりだなぁ、俺の秘蔵のビデオがポリにばれたのかと思ったよ」
「あぁ、本当はもっとゆっくり話していたいんだが、急いでるんだ」
ロッキーは不思議そうな顔で聞いた。
「なんだどうしたんだ」
「ロッキーのコレクションなら、東京までどれくらいかかる」
「まぁ、六時間がいいところだ」
「五時間で行けるか」
ロッキーは何度か島田の目を見ると、悪い笑顔で言った。
「女か」
島田は露骨に嫌そうな顔をしたため、ロッキーは島田の起源を取るように言った。
「わかった、悪かったって。頑張っても五時間半だ、準備は五分で終わらすからついてこい」
ロッキーは手招きをして格納庫へと島田を案内した。そして格納庫へ入ると、そこには黄色く塗装された戦闘機の姿があり、ロッキーはその機体の電源を入れ始め言った。
「こいつはF16って言ってな、マッハ2まで出せるアメリカ軍の放出品だ」
そしてロッキーは島田にヘルメットと対Gスーツを渡して言った。
「これが島田のだ、着たらすぐに乗りな」
「ありがとう」
そして島田は対GスーツとヘルメットをかぶるととF16に乗り込み、それに合わせてエンジンをかけた、その時だった。五十代くらいの女性が一人で走って、戦闘機に近づいてきた。
「ロッキー!あんたまた店の物勝手につまみ食いしただろう、すぐにそのまがまがしい鉄の塊から降りてきなさい!」
ロッキーは「やばい」とだけ言いキャノピーというコックピットの窓を閉じ、スロットルをさらに上げて滑走路へと向かった。しかし、その女性はお構いなしに追いかけてきて、それを見た島田は言った。
「何も聞かなかったことにするよ」
「あぁ、賢明な判断だ」
すると、島田はロッキーに封筒を渡して言った。
「これはほんの気持ちだ、フロリダで最高のホテルの招待券だ、小遣いも入ってる」
そして滑走路に到着したF16はスロットルを最大まで上げ、唸るエンジン音とともに離陸した。離陸してある程度の高度に達したのを確認したロッキーは笑顔で島田に言った。
「フロリダの美女が俺を待ってるぜー!」
読んでいただいてありがとうございます!
ちょっと今後の展開に悩みつつも、何とかつないでこれてますW
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