表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/127

93話

 その日のお昼。食事を終えてのんびりした空気が教室内に漂っているが、拓郎がうーんと首をひねりながら考え事をしていた。流石に気になった雄一は拓郎へと声をかける。


「タク、どうしたんだよ。昼飯食い終わってからずっとそんな調子じゃねえか。周囲の連中もタクの事を怪訝な目で見ているぞ? 何をそんなに悩んでいるんだよ?」


 雄一の言葉は、確かにクラスメイトの相違でもあった。拓郎がこうも首をひねりながら悩んでいる姿を見れば、嫌でも気になるという物。声をかけたのは雄一ではあったが、声をかけてみないか? という動きは男子女子関係なく発生していた。動くのにためらいがあっただけで。


「ああ、うん。なあ雄一、俺達がこの学園に入学したときってさ──あんな風に上級生の先輩方に対して喧嘩を売るようなことはしてない、よな? 記憶が正しければそんなことをした人は同学年にはいなかったと思うし、一つ下の2年生たちもそんなことをした記憶はないんだが不安になってしまって」


 拓郎の言葉を聞いたクラスメイトはあー、と納得したような声を上げる。確かに今日の新入生の態度は、ちょっとないわーと誰もが思っていた。そういった感情を先ほどの訓練内では表に出さなかっただけで、内心では呆れていた。


「そりゃ流石にねえよ! 俺達だけじゃなくって下級生もあんなことは一切してないぞ? むしろ今回の新入生は──自信過剰気味だろ。まあその自信を持つだけの訓練を小学校や中学校時代にやってきて、俺達上級生なんか目じゃない、魔人や魔女の先生たち以外は俺達より格下とかいう考えを持つだけの努力はしたんだろうが」


 拓郎の言葉に乗っかる形で、あちこちから「流石にあんな新入生のような真似は誰もしてないぜ」「そうそう、あれはちょっとねー。むしろ良くあんな真似ができたよね」「努力はしてきたんだろうけどさ、努力をしてきたのが自分たちだけだとか思っていたのかね?」という言葉が拓郎に飛んだ。


「そうだよな、流石に俺達はあんな真似はしてないよな。いや、正直不安になってしまったことでつい考え込んでしまった。みんなありがとな」


 拓郎の言葉にクラスメイト達は気にすんな、といったニュアンスの声をいくつも飛ばした。が、話はそこで終わらなかった。ちょっと今日の一件で話をしておかないか? とクラスメイトの男子の一人が発した言葉に誰もが同意したからだ。


「まずさ、新入生の実力ってどう感じた? 正直に言おうぜ」


 という議題が上がった。これに対して次々と意見が出てくるが──まとめると『自分たちの入学時よりははるかに高いレベルであることは間違いない。ただ、今の自分たちに勝てるような人は一人もいない』となった。


「確かにレベルは高いんだろう。しかし、こっちは魔人や魔女の先生たちに教えを受けてるからなぁ。だからわかる、あいつらの魔法はスッカスカだって事が」「まあ、魔法の練り込みが甘すぎるよねー。あれじゃ私たちが張る魔法の障壁を突破する事なんてできないでしょ」「でも世間一般から見れば確かに強力ではあるわな。去年までの俺だったら圧倒されただろうけど」


 クラスメイト達の認識は間違っていない。レベルだけの中身のない魔法使いにならないようにとみっちり基礎から叩き込まれたこの学校の生徒たちの実力は、レベルで測れるようなものではなくなっている。正直今の拓郎のクラスメイト達の実力であるならば、レベル1の魔法の身に限定した戦いを強いられても、外部のレベル4までの魔法使い相手なら余裕で勝つ。


 もちろん基礎をしっかり鍛えている魔法使いもいる。しかしそれは全体からしてみればごく僅か。レベルばかりを重視する風潮になった今では、基礎はあくまで基礎レベルとし、みっちり集中的にやるという考えはない。みっちりとやればその基礎の中に秘められている意味を理解できるのだが、今の一般社会では──完全に廃れてしまっている。


「でも、あの子たちが真面目に訓練に励んだら抜かされるんだろうなぁ」「それは分からないんじゃね? 向こうが真剣にやって伸びても、俺達が伸びないっていう未来は決まっていない」「確かにあいつらはエリートかもしれない。でもよ、俺達がその上を行けないなんてことはないだろ? あと1年あるんだし、限界に挑む気持ちでやってやろうぜ?」


 といった会話も行われた。この会話はまさにクラスメイトの心境を表に出したものであり、誰もがうなずいていた。


「んじゃ、あともう一つ。新入生が素直に従うと思うか? ここのやり方に」


 この問いかけに対しては、クレア先生とジェシカ先生が黙らせるだろという返答がすぐに出た。まあ、もし新入生が再びやんちゃをしたら、今度は拓郎ではなくクレアが直接手を下す可能性は十分にある。拓郎はその光景を容易く想像することができた。


「まあ、確かにクレアは何度も甘い顔はしないな。今日は俺がやったが、次はクレア本人が直接お仕置きをしてもおかしくない。俺は相当力を押さえて優しくやったが、クレアだったら……うん、地獄を見せるかもしれないな」


 拓郎の発言にやっぱりそうなるよなー、とかクレア先生を呼び捨てにするのは流石だねーなどの変な方向を向いた声などがいくつも上がった。


「でも正直に言ってさ、新入生は今日で目いっぱい凝りてなかったらただのおバカさんだよね? 散々甘く見た相手に何もできず叩き伏せられたんだよ? 相手の実力も図れずに戦った挙句、数の有利をもってしても叩きのめされてた。これで何も学ばなかったら、正直あれだと思う」


 珠美の言葉には次々と同意する声が上がった。流石に今日の一件で学ばなかったら、魔法レベルが高いだけの馬鹿でしかないだろう。


「でもあいつらにはいい薬になったと思うぜ? 正直あんな性格と考えのまま世間に出たらヤベエどころの話じゃすまなかっただろうさ。魔法レベルが高いからと言って他の人を相手に横柄な考えでいたら、どこからも嫌われて孤立するだけだ。そういうやつらが犯罪に走るんだが、今日で痛い目を見たからそういった未来に突き進む可能性はかなり落ちたと思う」


 クラスメイトの男子の発言に、あいつらは命びろいをしたななどの声が上がった。事実、科学魔法のレベルが高いことを鼻にかけて他者に高圧的な行動をとる人間は数多くいる。このクラスメイトの男子にもそういった過去があり、中学校時代ですでにレベル3に到達していた3名の人間がクラスのトップとして発言力が強く、幅を広げていた。


 しかし、彼らはその力関係が世間でも通じると勘違いしてしまった。その結果、彼らは最終的に愚かな行為を行い法に触れて逮捕された。今はレベル1制限を受けるだけでは済まず、少年院にて刑を受けている。それを見ているからこそ、彼の発言には重みがあった。


「特にクレア先生は魔法の悪用に関してめちゃくちゃ厳しいもんね。ちょっとでもおバカなことしたら絶対ふっ飛んでくるよね」「あの先生には絶対やるっていう圧があるもんな。お仕置きなんて受けたいとか絶対思わない」「まあ、今の俺達の魔法を悪用したらちょっとしたレベルの被害じゃすまないもんな。だからこそあそこまで言うんだろうけど」


 自分たちの魔法の威力を正しく把握している──というよりは把握するように厳しく教えられた──クラスメイト達は、魔法の悪用を絶対止めに来るクレアの姿を思い浮かべて身を震わせる。しかし、これこそが安全弁となっており、クレアを始めとした先生からの教えを受けた生徒たちが馬鹿な真似をしない抑止力となっていた。


「まあ、最悪新入生がやらかしそうになったら止めるってことで」「少々手荒になってもしょうがないときは躊躇しちゃだめなんだろうけど──覚悟はしておいた方が良いのかな」「先生にばかり押し付けちゃだめだよな。俺たちが協力できるところは協力しないと」


 ここで昼休みの時間が終わり、チャイムが鳴る。自然と話し合いは終了し、午後の授業に向けて誰もが席に座っていく。しかし、この時はまだだれも思っていなかった。この時の話し合いが、的中するトラブルが発生することになるとは──

今年の更新はこれが最後になります。

今年も来ていただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今年度の更新お疲れ様でした、来年も無理のないペースで大丈夫ですので更新の日を楽しみに待つ所存です。 寒さも増して風邪も流行り始めてますので、体調には十分気をつけてお過ごしください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ