54話
すみません、スランプ気味でうまく書けないが故に更新が止まっていました。
申し訳ありません。
質の上がった障壁は、以前よりも消費を押さえながらも耐久性は向上という多大な恩恵を拓郎へともたらしていた。更に拓郎は障壁をより小型化し、数を二十枚へと増やす。本来なら各障壁を大きくして動かす数を減らした方がコントロールは楽になる。だが、それでは訓練にならないと拓郎は判断したが故の行動である。
クラスメイトが飛ばしてくる魔法を小型の障壁1枚1枚を丁寧に使って逸らす。更に同じ障壁を連続使用せず、全ての障壁を満遍なく使う事でコントロールの訓練により負荷をかける。流石にこんな事をすれば疲れを感じるが、だからこそ意味があると拓郎は考えた。
「まじか、障壁ってあんな小さな盾を幾つも浮かべるような形での展開も出来るのか」「ほとんどメカ系に出てくる自立兵器のシールド版じゃないか」「でも、あの枚数のコントロールを軽減する手段なんてない、よな? かなりきつい事やってるんじゃないの?」
クラスメイト達も拓郎に魔法を当てるために様々な工夫を重ねているが、今の所ワンヒットもさせられていない。冬休み中以前には出来なかった変則的なコントロールを身に着けている生徒もおり、魔法を発動させないまでもかなりのイメージトレーニングを積んできた様子がうかがえる。
事実、魔法を同時に3発発射し──その3発のうち1発を拓郎の真上に。2発目を左斜め下からの攻撃。そして3発目を背後から襲うようにと言ったコントロールをする様になった生徒すらいる。これはかなり魔法のコントロールを要求される行為であり、すでに学生レベルからは逸脱している。3発だけならまだしも、同時に3発放ってそれぞれ別の軌道で襲い掛からせるというのはかなり難しいのだ。
この光景を見て、クレアは内心でにんまりと笑みを浮かべていた。魔法の発動のキレを見て、生徒達が冬休み中はしっかりと休んでいた事と魔法が発動できないならイメージトレーニングだけでもやっておこうと自主的に動いていたことをすぐさま見抜いたからである。クレアも最初は拓郎のそばにいるためだけに行っていた教師としての活動であったが、素直に慕って努力を重ねる生徒を見れば一定の情も沸く。
無論、地元ではただ恐れられるか兵器としての使い道ばかり考える人間ばかりを見てきた反動もあるだろう。クレアの過去は、ジェシカの事を除けばほとんどそんな暗く血に塗れた事ばかり。だからこそ、こうして純粋に自分を慕い、自分の指導の下で真剣に修練に励む生徒達を見る事はクレア自身の内面にも穏やかな光をもたらしていた。
(私の地元でもこういう交流があれば──もう少し私も生き方が違っていたのかもね。でも、現実はそうならなかった。だからこそジェシカ以外は信じようとはしなかったけれど──たっくんだけじゃない、この学校の生徒はみんないい子だわ。魔法を真摯に学び、魔法の恐ろしさも理解し、慢心しない。こういう子達なら、護る価値があるわ)
クレアの地元にいたクレアの恐ろしさを骨の髄まで知っている連中からしてみれば、クレアがこんな心境に至っている事を知ればそいつは偽物だと叫ぶ事だろう。が、それはある意味間違っている。そんなクレアにしたのは誰だと理由をあげるのであれば、まごう事なきお前らだとクレアは言うだろう。原因を作るような真似をしておいて、よくもそんな口が利けるものねとクレアなら言うこと間違いなしだ。氷のナイフが飛ぶような冷たいどころか切り裂くような口調で。
当然そんな事など一切知る由もない拓郎を始めとした生徒達は、厳しいけれど優しいクレアの指導を受けながら魔法の訓練が出来る事を心から喜んでいた。こんな幸運、逃せばもう二度とやってこないとほぼ本能に近い形で理解している事もあり、ふざけた態度を取る人物は一人もいない。この一瞬を無駄にするものかと必死で打ち込んでいる。
このお互いの態度はお互いによい効果を与えている。だからこそこれだけの生徒の魔法技術の向上と成果に繋がっているのだ。どちらかが訓練に対して誠実ではなかったら短期間でこうも上手くはいかなかった。教える側も教えられる側も、たがいに敬意を持っているからこその光景なのだ。
「はい、そろそろ今日の訓練はお終いですよ。皆さん集まってください」
ジェシカが時計を確認したのちにそう声を発する。生徒達は全員が声に従いクレアとジェシカの前にきれいに整列する。
「さて、今日の訓練を見て感じましたが……皆さん、周囲の声に耐えてしっかり休養を取ってくれたことがよく分かりました。皆さんの魔法の発動が冬休み以前よりスムーズになっていましたし、動かし方も滑らかになっていました。こちらの想定した通りの結果が出ている事が、皆さんが言いつけをしっかり守ってくれていた何よりの証拠となります」
生徒達はジェシカの言葉にほっとした表情を浮かべていた。
「恐らく、周囲からは魔法の訓練をするように言われた事でしょう。しかし、繰り返しますが訓練をするべき時は訓練をし、休むべき時は休む事こそが魔法の上達の道の一つなのです。何でもかんでも、とにかく訓練を続ければいいという物ではないのです。それは皆さんが冬休み前と今の状態を見て一番理解しているはずです」
このジェシカの発言に異を唱える生徒は1人もいない。当然だ、冬休み前と今ではそれだけ魔法に関する能力の向上を自分の体と感覚で皆が理解したのだから。
「もし、今日家に帰った後に周囲から同じような事を言われたら穏やかな魔法で休息を取った意味を見せつけてやってもいいでしょう。ですが、決して危険な魔法は使わないように。風を軽く生み出す、明るい光を出す、そういう物一つとっても皆さんと周囲の人では質がすでに違うのですから。そうですね……今、やってみましょうか。小さな光を皆さん作ってみてください。魔力はあまり籠めずに軽くで良いですよ」
ジェシカの言葉に従い、生徒達は本当に軽い気持ちで手のひらの上に小さな光を生み出した──そのつもりだったのだが。
「うわ!? 眩しいぞ!?」「ちょっと力籠めすぎてんじゃねーの!?」「いや、少なくとも俺はほんのちょっぴりしか魔力を込めてないぞ!? ジェシカ先生の言う通りにした!」「私だってそうよ! 本当に全然魔力なんて籠めてないもの! それなのに、冬休み前の光よりはるかに明るいし、維持するのも楽になってるわ」
いきなり明るい光が生徒の人数分生み出された事であれこれと声が飛び交う。その様子を見ているクレアとジェシカはお互いに微笑を浮かべている。そして、ここからはクレアが口を開く。
「はい、分かったかなー? 君達は今軽い気持ちで生み出した光ですらそこまで強くなっていまーす。それを見せればご両親を始めとした周囲の人達を黙らせる事は容易いでしょう。でもね、それと同時に忘れないでね? 君達はそれだけの力を身に着けた。だからこそ扱いにはより慎重にならないといけないって事に。それを再認識して欲しいので、あえてやってもらいました」
クレアの言葉を聞いて、生徒達は光を消した後に神妙な表情を浮かべて頷いた。自分達の力は、先ほどの訓練で認識していた以上に物になっていた。それを感じなかったのは相手をしていたのがクレアとジェシカの元で猛特訓を受けてきた拓郎を相手にしていたからと言う事もまた理解した。
だからこそ、遊び半分で魔法を使えば大惨事を容易く招く事になる事をアレコレ理屈をつけずにすぐ納得した。確かにこれは、知らずに冬休み前の感覚で魔法をもし他者に使ったら防衛に徹するするつもりが相手を殺しかねない──そう言う事だ。
「それじゃ各自解散してくださ~い。また明日ね!」
──そしてこの日の夜。お前はまだダラダラしてるのか? と親に迫られた拓郎のクラスメイト達の一部は最小限に絞った光を親に見せつけた。それを見て流石に親側も悟った。この明るさを出すには自分の魔法技術ではかなり大変で、しかも長時間維持する事など……しかし、冬休み中だらけていて魔法の訓練などしていないと思っていた自分の子供はこともなげに光を作り、平然としている。
「あのさ、クレア先生、ジェシカ先生が休めって念押ししてきたから冬休みは休んでいたんだよ? 休むのも訓練だって先生たちが言ってたんだよ? この光がその証拠。今日は寝るまで維持しているから」
その言葉を聞いたこの生徒の親はめまいを覚えた。この強さの光を自分が維持するなら三十秒が良い所だ。しかし子供はねるまで維持すると宣言してきた。今はまだ夜の8時。12時前後に寝ている事を考慮してもあと4時間は維持する事になる。そんな事が可能なのか? そんな疑問の答えを知るべく12時前後まで光のそばを離れなかった生徒の親は、先の言葉が事実であると知った。
「──うちの娘は、とんでもない事になっている」「むしろ、私達は娘の訓練の邪魔をしていた、と言う事ね」
これ以上ない証拠を突きつけられれば、反論の余地はない──この後、拓郎のクラスメイトの親は、子供に魔法の訓練をしろとは言わなくなった。何せすでにもう、子供の方が自分よりはるか高みになっている事をこれ以上ないほどに味わう事になったのだから。そして親類からの悪口に対しても積極的に反論を行う様になった。
何を言われようと、その言葉をすべて叩き潰せる明確な物がある。それだけで十二分すぎるだけの説得力を持つのだから……
何とか、再開の糸口はつかめました。
ですのでまたゆるゆるとではありますが更新していきます。




