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34話

 そして一週間ほどが経過した。拓郎と真っ向から魔法を撃ちあう訓練を行いたい、参加したいと要望を出した生徒は、かなりの数に上った。この一週間で最初7人だった拓郎が同時に相手する人数は10人まで増えていた。要望が増えたため、人数を増やさないと訓練時間中に回らなくなってきてしまったのだ。


 これは拓郎自身にとってもとてもいい訓練になっていた。必要最小限の魔力で最大限の効果を発揮すると言う事を10人の猛攻を受けながら達成するべく対応しなければならないのだから、一瞬も油断は許されない。過剰な火力を出せば対峙している生徒に大けがを負わせてしまう。足りなければ自分が被弾する。そのどちらも許されない緊張感は、拓郎に短時間で多くの経験をもたらす。


 むろん、10人の生徒側もどうやれば拓郎に一撃を与えられるかを考え、様々なコンビネーションを自然と考えるようになってきている。その考えや行動が彼等や彼女達にとっても素晴らしい経験となっていくのだ。その結果、拓郎のクラスだけでなく他のクラスでも、レベル2や3に達すいる生徒がぽつりぽつりとではあるが生まれ始めてきていた。


 当然、レベルアップした生徒たちは大喜び。そしてそれを見ていた教師陣も、自分達の時代に拓郎、クレア、ジェシカのような存在がいてくれたらと内心で少しだけ悔しがっていた。こうして、明確な成果を新しい魔法訓練の授業は上げ続けていた。となると……当然他の学校からの見学者が膨れ上がる。


「──何という訓練だ。しかし、成果がこうも上がるとなればわが校でも取り入れたい」「お気持ちは察しますが、拓郎を始めとした人材を引き抜かんでくださいよ。彼らは彼等で行動した結果、こうして今があるというだけなのですから」


 校長室にて、この日の訓練をひそかに視察に来ていたある名門学校の校長を始めとした数人が、拓郎の学校の校長と昼食を取りながら話し合いをしていた。


「無論、そのような真似はしない。しかし……まさか生徒が生徒を訓練しているとはさすがに思いませんでしたな」「彼は特に厳しい訓練に耐え、自分の才を伸ばしてきた努力家ですからな。彼の向上心、そして目標に向かって努力する心は称賛を送っていますよ」


 特に拓郎が生徒を相手に行っていた訓練内容に対して感想を述べた他校の教師に、校長は拓郎を素直に称賛する。校長は拓郎がどんな訓練をしてきたかをきちんと把握しており、その努力は素直に称賛されてしかるべきことだと考えているからだ。


「貴方がそう言うのも納得の人物ですな。あれでまだタイムリミットに1年ほどの時間がある……どこまで伸びるのか、非常に興味を惹かれる所です」


 他校の校長の話に、拓郎の学校の校長は「そこは、私も同意です。彼の努力がどこまで実を結び、そしてどのような人物になっていくのかは非常に興味を惹かれる所です」と返答を返す。そこから少し沈黙が続き、意を決したかのように他校の教師が口を開く。


「引き抜きは行いません。しかし……かの生徒、鈴木拓郎と言いましたか。彼にこちらに週一回、いえ月一回でもいいので出張のような扱いで訓練に来てもらう事は叶いませんか? あれだけの人数を相手に、相手に怪我をさせずそして自分は被弾せずで戦うことが出来る人物を相手に訓練を行うことの意義は非常に大きい。更に大事な事は、彼は魔人でもなければ大人でもない。同年代にこれだけの奴がいる、それを言葉ではなく実際に対峙する事で大きな刺激を生をに与えることが出来ると思うのです。どうか、ご一考を」


 この他校の教師の言葉に、拓郎の学校の校長はため息をついた。やはりこの話が出るのか、と。彼にとってはすでにもう何度も聞いた話の打診であった。今までですでに多くの学校関係者が視察に来ているし、視察の予約を取りたいという要望もまた多数入り続けている状態だ。そして視察を終えた他校の関係者は必ずと言ってよいほどにこの言葉を口にするのだ。


「申し訳ございませんが……そのお話はお断りさせていただきます。貴校に対して何かしらの思う所があると言う訳ではございません。実はすでに、同じ話を10校以上の他校から打診されている状態なのです。もしどこか1校でも認めてしまった場合……他の学校にも彼を派遣しなければならなくなるでしょう。そうなってしまうと、彼は在学中全国の学校を飛び回らなければならなくなります。それは、あまりにも負担が大きくなりすぎるのです」


 言うまでもなく、視察に来た学校は日本の北は青森から南は九州までばらばらである。そして、予約を入れている学校の中には北海道と沖縄にある高校もすでにある。よって、もし拓郎の派遣を認めた場合、日本全国を拓郎は文字通りの意味で飛び回る事になってしまうのだ。そうなってしまったら、拓郎への負担があまりにも多すぎる。故に、1校たりともこの話を受ける訳にはいかないと拓郎の学校の校長は考えているのだ。


「ぬう、そうですか……確かにそれでは、1回でも話を受ける訳にはいきませんな」「ご理解いただけると幸いです。私は校長ゆえ、彼が必要以上の負担を負うような事態から守る責務がございます故、お断りするしかないのです」


 丁寧ではあったが、明確なノーと言う意思を見せた拓郎の学校の校長が発した言葉に、打診をした教師も話を続けずに引き下がった。だが、それでもやはり彼のような人材はやはり欲しいという感情まではそうそう消せるものではなかったが、彼も大人である。表面上はそれをぐっと飲みこんで隠した。


「彼を呼べないのは残念ですが、それでもいいものを見せて頂きました。やはり、科学魔法に関する授業は大幅な改革が必要であると痛感させられました。この改革をうまく出来るかどうかで、これから先の話は変わってくるでしょうな」


 他校の校長の言葉に、拓郎の学校の校長は頷いた。これから先というのは、当然学校への志望率の話だ。有益な魔法訓練を受けられるか否かで、その学校に対する志望率は明確に変わってくる。無論一定の学業が出来る事という線引きはあるが、それも有益な科学魔法の訓練が受けられるのであれば、勉学を必死に頑張って入ってやるという動機に繋がる。


 これは学校が存続するにあたっての死活問題だ。学校も生徒を入れて学費を手にしなければ運営できない。多くの生徒にとって魅力的であり、志望したいと思わせる学校にすることは校長にとって求められる物事の一つだろう。それがスポーツであったり、難関名門校という箔であったり……そしてそれが今は、魔法の訓練が素晴らしい物であるか否かが加わっている。


 だから名門校は、常にその手の情報収集は欠かさないし必死で改善に努めている。そこに風穴を開けたのが、拓郎、クレア、ジェシカなのである。短期間で生徒の科学魔法をレベル2や3に引き上げた。この情報はまさに青天の霹靂、寝耳に水という言葉を用いて表現するのがぴったりな状況を全国の学校に与えてしまった。


 すでに拓郎が通っているこの学校の来年の志望率は現時点で前年の……約9000%まで跳ね上がってしまっていた。これは現時点の話であり、最終的には10000は余裕で超えるだろうと各情報を知る人々は予想していた。何せ魔人、魔女がいて直接教えを受けられると言う事があまりにも大きすぎる。それに加えて明確な成果が上がっているなれば……あの学校に行きたい! と考える中学生&その保護者が大勢いるのは当たり前の話である。


 そうなれば当然、他の学校を志望する生徒が減る事になる。もちろん一つの学校の受け入れることが出来るキャパシティには限界こそあるから生徒は分散するし、在学生だっているのだからいきなり学校が潰れるような事にはならない。だが。その状況で良し、と考えるようでは先が無い事は皆さまもお分かりいただけるだろう。


 故に、この名門校の校長が口にしたように科学魔法の授業内容を改革し、より生徒にとって魅力的な物に出来るか否かでその学校がこれから先存続できるか否かが決まるという未来が待っている時代となるのである。


「そうですな、わが校としても現状に甘んじず継続的に良くすべく動いております。生徒が満足してわが校での勉学と活動に励み、胸を張って卒業できるようすることが肝要ですからな」


 拓郎の学校の校長が口にした言葉に、名門校の校長は頷いた。が、名門校の校長も内心では相当の焦りを感じ取っていた。よもやこんな普通より多少いい位の学校が突如科学魔法の授業をここまで改革し、全国から生徒を集めるほどの名門校になるレールの上を走り始めるなどとこの年の初めには全く予想していなかったからである。


(ここで見た事を少しでも取り入れ、できる範囲で改善をしていかなければわが校に未来に影を落とすばかりとなるだろう。講師として魔人、魔女あわせて4人も集めた上に──生徒が生徒の訓練相手を務めあげるなどと……聞いた事が無い! しかし、その効果は絶大だ。魔人、魔女の指導は科学魔法で詰まりやすいとこを的確に生徒に教え、更にあの鈴木拓郎が行っている訓練はそのまま最高の教材となっている! やはり百聞は一見に如かずという言葉通りか……わが校の改革を一刻も早く進めなければなるまい)


 これが、名門校から視察にやってきた他校の校長、そして同行した教師陣が強く感じた事である。名門の看板は、それを掲げ続けるだけの成果と価値を維持し続けてこそ意味がある。それが維持できなくなったとたん、その看板は一瞬で崩れ落ちてしまう。そうならない為にも、この日視察で見た事を少しでも自分の学校で再現できるように動かなければおいていかれるだけとなる。


 こうして、拓郎のあずかり知らぬところで様々な思念が渦を巻く。その影響がどこまで広がっていくのかは、まだだれも予想が出来ていなかった。

明日はアニメの仕事のため東京に行かねば。

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