表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/127

26話

 そして迎えた10月初めの魔法訓練の授業。全校生徒が一堂にグラウンドに集まり、今か今かと始まるのを待っていた。その熱気はある意味異様である……全教師が集っただけでなく、離れた校舎内からの視察ではあったが教育委員会からの役員も訪れていた。更に他の学校の教員も視察したいと詰め掛け……その異様な熱気を形成していた。そんな中、壇上にクレア、ジェシカ、そして──新しい二人の魔人と魔女が姿を見せる。


『あー、ああー、マイクテスマイクテス。うん、大丈夫だね。では始めまして、私はこれから皆さんの科学魔法の訓練の指導を行う事とになった魔人のジャックと言います。歳は72歳、まあ皆さんからしてみればお爺さんと呼ばれるのがちょうどいいでしょうか。よろしくお願いします』


 そんなイケメンなジャックの自己紹介に、全校生徒がどよめいた。教師達も驚きを隠せなかった。72歳と言われても、その外見はどう見ても20台中盤ぐらい。髪の毛だけは美しい銀髪であったが、歳を召した人間と思えるのはそこだけだろう。顔にしわはなく、生き生きとしている。誰がどう見たって、そんなジャックを72歳のおじいちゃんであると見抜けるはずがない。


『ははは、驚かせてしまったかな。まあ、これは魔人としての力を持つ影響の一つなので、申し訳ないけどなれてもらう他ないですね。皆さんも科学魔法を鍛えれば私程とはいかなくても、老化を抑えられる手段を身に着けることが出来ますよ。興味がある方には、今後の訓練の中で段階を踏んで教えていきましょう』


 この一言に、誰もが──特に女子生徒と女性教員の熱気が跳ね上がる。常に美しくありたい──それは女性がみな持つ願望の一つではないだろうか? だからこそ古来より様々な形で己の美しさを磨き、そして維持する方法が探られてきたのだ。そんな熱気の中、次にマイクを握ったのは・・・・・


『さて、次は私ですね。私はメリー、71歳のおばあちゃん魔女です。ですが今の私の姿は……夫であるジャックが先ほど申しあげたとおり老化を抑えているからこその姿です。同じ女性として、美しくありたいという感情は良く分かります。ですので皆さん、がんばって訓練に励んでください。皆様が頑張れば頑張るほど、私達の技術、魔法知識を皆様にきちんとお伝えする事をここに誓いましょう』


 全校生徒&全職員の前に姿を見せたメリーもまた、腰辺りまで伸ばした銀髪のロングヘアが美しいおっとりしたタイプの美人さんであった。男子生徒の多くがときめいたのも無理のない話だろう。いや、男子生徒に限らず男性の職員も魅了されていた。とんでもない人材をここに連れてきてくれたことに、生徒と教職員はクレアとジェシカに深く感謝する感情で一致していた。


『これから、こちらのジャックさんとメリーさんがみんなを教えるためにサポートしてくれます。決して失礼な真似をしないように。さて、では時間が惜しいからさっそく始めるわよ。今日は手順の確認などもあるからうまく回らないかもしれないけど、それは順次こちらが調整と改善を図っていく事は約束するわ。では、始めましょう』


 クレアの言葉に、熱気はそのままに誰もが頷いた。何せ、今までと違って同じ時間で教える人間が一気に増えたのだ。無論教職員たちも総出でサポートする事は決まっているがやっぱり初日、スムーズにいかない事の方が多いだろう。それでもやらない限り、改善する事も出来ない。いわばこの授業は一つの実験と言うべきか。


 そうして始まった授業だが──やはり、一番目を引いたのは拓郎の訓練だった。クレアとジェシカを一定時間で交代させながらとにかく実践を想定した戦闘型の訓練を行っているのだから。この拓郎の訓練を始めて己の目で見る事になった大勢の生徒&教師たちは本当にこんな訓練を毎回やっていたのかとクレアやジェシカに問う。


「ええ、たっくんは毎回このレベルの訓練ですよ」「いつも通りですね、手を抜いても居ませんし入れ過ぎてもいません。適切な訓練です」


 平然と返された二人からの言葉に、誰もが絶句した。はたから見れば、殺し合いやってんの? みたいな光景が繰り広げられていたからだ。では、魔人と魔女であるジャックとメリーの反応は。


「ほう、まだ生徒なのにここまでやれるのですか。彼は途方もない努力をしているのですね……いや、素晴らしい」「ええ、ここまで学生なのに鍛えている人はそうはいないでしょう。彼には明確な未来への目標があるのでしょう、だから耐えられる、鍛えられる」


 という感じである。両者とも、拓郎が与えられた才よりも訓練を通して努力しているところを高く評価していた。そうなれば当然飛んでくるのが『私達も、努力すればああなれるのでしょうか?』と言う問いかけだ。それに対してジャックは──


「そうですね、ある程度才の部分もありますから絶対に行けるとは言えません。ですが、訓練を重ね、努力を重ね、諦めなければ近い所まで行く事は決して不可能ではありません。そして、私たちは皆さんが望む高みに少しでも近づける様にする為に、ここに居るのです。ですから、皆さん励んでください。彼のようになりたいと言うのであれば、彼のように努力しなければなりません。大丈夫です、段階を踏んで徐々に進めば──必ず上っていけます」


 これはまさに、クレアとジェシカの狙い通りの展開だった。拓郎の激しい訓練を見る、それが魔人ではなく自分達の学校の近い年齢の人間がやっている。ならば、そこに自分も行きたい、ああなりたいと思う人間は必ず現れると。無論、あいつは才能があるからいけるんだと考えた生徒もいたが、ジャックとメリーが才能は口にせず努力の部分のみを褒めた事もあって、もしかしたら俺でも私でも──行けるのではないか? と言う感情が芽生えていた。



 そして当然ながら、教育委員会から派遣されてきた役員、他の学校の教員たちも度肝を抜かれていた。教育委員会から派遣されてきた役員は緊急連絡を本部に入れ、今自分が目にしている物を正直に伝えた。教育委員会も最初は信じなかったが──追加で送られてきた授業風景を見て目を見張った。


『学生が、魔女を相手にこのレベルの訓練をしているのかっ!?』「信じがたいですが事実です。そして、そんな彼の姿を見て大勢の生徒がやる気を出し、そこに魔人や魔女を始めとした教師が様々な事を教える事で更なる効果をもたらしている事が分かります──初日の混乱がある中で、この結果です。教育委員会に属する者として、この訓練効果は見逃せません」


 その様な報告を入れる教育委員会の役員を横目に、他の学校の教師達も話し合う。


「やはり、素晴らしい。魔人や魔女の皆さんがいる事で、生徒の難しい質問や魔法の感覚に対する返答が迅速だ」「あのジャックとメリーと言うお二方、教育者としても優秀ですね。ユーモアを交えつつ生徒に興味を引かせ、時にはあの魔女とマンツーマン訓練をやっている生徒がどういう事をしているのかも事細かく、かつ分かりやすいように説明していますよ」「やはり、魔法は魔人、魔女に学ぶのが一番と言う事ですか……く、私も学生の時に教えて頂きたかった」


 彼等は今後、大きく伸びるだろうと教師たちは確信していた。それと同時に、自分の生徒の時に受けたかったという思いも湧き上がってきていた。今、こんな授業を受けられる生徒達が羨ましくて仕方がなかった。だが、それはもうどうやってもかなわない。ならばせめて今後は自分の学校でもこんな授業が展開できるように、何としてでもかけあわねばならないと痛感していた。


 この授業の有無だけで、誰もが受験する学校を決める切っ掛けになる事はもはや確実であり、この授業を取り入れられない学校は徐々に廃校に追いやられることもまた間違いないだろう。他行の教師たちの考えは一致した。その背中には冷たい汗が流れていた……



『そろそろ時間です、全員整列!』


 そして、10月始めての魔法訓練の授業は終わりを迎える。皆疲れてはいたが、今まで以上の手ごたえを感じた生徒は非常に多く皆がいい笑顔を浮かべていた。やはり充実した時間は、満足感をもたらすものなのである。


『今後はこんな感じで授業が行われます! みんな、徐々にでいいから慣れて行ってね! じゃあ解散、しっかりお昼ごはんを食べるのよ! 食べる事もまた、魔法の訓練の一つだからね!』


 クレアの言葉に、全校生徒が元気よくはい! と声をあげた。そして各クラスに引き上げていく訳だが。


「やっぱり、今までのとは全部違うな」「ああ、まさか魔人や魔女の先生に教えてもらえる日が本当に来るとはな」「分かりやすかったし、鍛え方も教えてもらえてよかったわ。正直、訓練校の内容が遊びよね」「今後もずっとやって欲しいなぁ……今日の授業だけで、魔法の理解がぐっと進んだし、自分も強くなれそうだって感じることが出来た」「しかし、あの拓郎だったか? アイツの訓練はすごかったな……あんな殺し合いみたいな事をやってる以上、実力が上がらない方が嘘だよな」


 今日の授業を経て感じた事を、学年関係なく話し合いながら引き上げていった。もちろん、それは見ていた教育委員会の役員、他校の教師も同じである。


「凄まじい物を見てしまいましたな」「これを取り入れられるかどうかで、その学校の存続が決まると言っても過言ではないでしょう」「教育委員会への嘆願、もっとやっていかなければなりませんね」「流石に魔人や魔女の知り合いなんて……いませんからな」


 誰もが顔に厳しい表情を浮かべながらそれぞれの学校に戻っていく。ここで見た事を、自分の学校できちんと報告しなければならない──そして、その後の反応も手に取るようにわかる。この授業が出来るか否で、これから先の未来が決まると言ってもいいと、痛いほどに思い知らされた自分達と同じ結論を出して、渋い顔を浮かべる事になるのは明白なのだから。


 こうして、各方面にでかい影響を今後広げていく事になる魔法訓練の授業1回目は幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ