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23話

 9月に入り、2学期が始まった。拓郎のクラスメイトは全員出席。夏休み中に不幸にあった人間がいないと言う事は実に喜ばしい事である。


「よし、お前たち久しぶりだな。夏休み中は休めたか? ある程度は勉強が必要とはいえ、一定の休息は必要だからな。確かに夏を制する者は受験を制す、なんて言葉もあるが──だからと言ってそればっかりでは不健康すぎる。このクラスの成績は良い方だからな、今の調子で勉学を重ねていけば、受験での失敗などまずない。安心して良い」


 というクラス担任の言葉から始まり、各種連絡。本格的な授業は明日から始まる事や、準備しておくべき物などの連絡を担任は次々と拓郎たちに伝えていく。


「と言う感じだな。ま、問題はないはずだ。では解散──と言いたかったんだが、すまん、お前達にはあとちょっとだけ話がある。クレア先生、ジェシカ先生、どうぞ」


 連絡事項が終わり、今日の予定は終わりと言ったタイミングで担任は教室の外で待機していたクレアとジェシカを呼んだ。呼ばれた事で、クレアとジェシカは教室に入室する──これだけで、クラスの空気が変わる。最初は美人な先生が来たことによる高揚、そしてすぐさま二人が放っている雰囲気を察しての張り詰めた空気に。


「みんな、まずは無事にこうして会えたことを喜びましょうと言いたかったのだけれど。残念なお知らせをしなければならないから、こうして悪いけど時間を貰ったわ。ちょっと長くなるかもしれないけど、我慢して聞いてちょうだい」


 言葉は柔らかいが、絶対聞けと言うクレアが出している圧に逆らえる生徒など居ようはずがない。生徒だけではなく、担任も含まれている。


「このクラスからは3人、後調べたところだと他のクラスや学年からレベルダウンを受けた生徒が複数いる事を確認しているわ。他のクラスは無茶な訓練を自分の身勝手な判断で行ったパターンだったようだけれど……このクラスの場合は違ったわ。親に強要されて、無理な訓練をやらされた結果そうなってしまった、という被害者と表現すべき人ね」


 クラス中がざわめいた。クレア先生が渡してきたプリントを読まなかったのか? あの先生2人の説明を無視するとか、その親は馬鹿なのか? みたいな言葉が飛び交う。


「はいはい、ちょっと静かにね。まあ、正直私もみんなと同じ意見。折角成長させて、夏休み中は休ませることが大事だとしっかり伝えたのに……それを台無しにしたその3人の親は大馬鹿者よ。専門家でもないのに、夏こそ成長させる時期だと意気込んだのでしょう。その結果、かえって自分の子供に深い傷を負わせることになったのだから、救いようがないわね」


 クレアの言葉に、クラスメイトに担任も深くうなずいていた。


「なので、その3人はちょっと魔法の訓練の時間は体が落ち着くまで見学になるわ。すぐにばれる事だから、こうして先に言っておきたかったのよ。もしその3人に対してくだらない事をする人が居たら──分かっているわね?」


 ドスが効いたクレアの笑みに、クラスメイトは皆はやや青くなって必死に頷いた。いや、担任までもが頷いていた。まあ、クレアだけではなくジェシカまで加わって圧をかけているのだから、それに耐えて平然としていろというのは酷な話だろう。


「そして、自分の親にさっきの私の話をもう一度しておいて欲しいの。専門家じゃないんだから、自分の経験という勝手な考えで魔法の訓練をさせるな、って。私達が君達の指導を受け持っている間は、私達の指示が最優先。良いかしら?」


 圧をかけるのをやめてから出たクレアの言葉に、クラスメイト達全員が頷いた。そしてクレアとジェシカが下がったところで、担任がもう一度前に出た。


「クレア先生、ジェシカ先生の言葉は間違いない。残念ながら無理な訓練のためレベルダウンを引き起こしてしまった生徒が出ている……正直こちらとしても、一部の保護者が生徒に強いる夏休み中の魔法訓練のやり方には疑問を持っている。しかし学校はあまり強く言えなかったわけだが……このクラスはクレア先生、ジェシカ先生の指導があるから問題は起きないだろうと思っていただけに、残念でならない」


 担任はここに来て、無念そうな表情を浮かべる。担任もまた、レベルダウンした生徒の存在に胸を痛める人間の1人であった──実際はレベルダウンどころかレベルゼロだった訳だが、それを知る人間はこの教室に6人しかいない。


「だから、先ほどのクレア先生のお言葉を必ず保護者に伝えてくれ。クレア先生、ジェシカ先生という世界の生徒達が懇願しても指導してくれない方々による直接指導を皆は受けているのだから、それを理解しない保護者の口出しは無用ってな」


 担任の言葉に異論をはさむ生徒はいない。事実、レベルを休息に上げる事に成功している実績がある以上、他の人間があれこれ言っても説得力がない。


「さて、これで今日の連絡事項は以上だ。クレア先生、間違いありませんね?」「はい、伝えたい事は伝えました。解散してよろしいかと」


 担任の言葉に、クレアの返答。それで話はおしまい──となる訳がなかった。


「クレア先生! 夏休みはどう過ごされていたんですか!?」「拓郎は男になりましたか!?」


 そんな質問がどこからともなく飛んできた。拓郎はすかさず「おい馬鹿止めろ!? なんて質問してんだ!」と声を飛ばしたが、クラスメイトはその拓郎の言葉を華麗にスルーした。


「夏休みは、たっくんやジェシカと共にバカンスを堪能してたわ。私の水着姿を見て良いのはその二人だけね、不特定多数には見せてあげないわ♪ 色々遊んで楽しかったわよ」「ええ、非常に満喫できました。素晴らしい夏を過ごせましたよ」


 クレアとジェシカの返答に、俄然盛り上がるクラスメイト達。担任はこうなったらもう止められんなとあきらめの境地に入った様で、教室の端の方に静かに引っ込んで状況を見守る体勢に入っている。


「どんな水着でしたかー!?」「ふふふー、さてどんなのでしょうね? ただちょっとたっくんにはか、げ、きだったかもしれないわねー♪」「うおおおおお、拓郎、お前羨ましすぎるぞ! こんな美人なお姉さんの水着姿を独り占めって──つまりそれは、ジェシカ先生も?」


 と、ここで一斉にジェシカに視線が集中する。その視線に対するジェシカの表情は──頬をうっすらと赤く染めての笑顔だった。それだけで、クラスメイトの男性陣&一部の女性陣からすればギルティ判決が下るに十分だった。拓郎は一切悪くないのだが、こればかりは理屈云々ではないので仕方がない。


「付け加えると、私達は毎日拓郎さんと添い寝していました。そこから先は流石にありませんでしたが……ええ、とても満ち足りていましたよ」


 そしてクレアではなくジェシカがまさかの爆弾投下。当然即座に引火して大爆発する。


「ええええええ!?」「めちゃめちゃ羨ましすぎる!」「クレア先生が添い寝、ジェシカ先生が添い寝」「想像するだけで、この世の天国じゃねえか! それを拓郎は実際にやったって!?」「ギルティだ、ギルティ!」「富豪でも出来ねえことをやってやがったとは……」


 クラス中が派手に騒がしくなってしまった。まあ、無理もない話であるが。そして担任も、心の中では拓郎に対して凄まじく羨ましい夏休みを送ってやがったな!? と毒づいていた。


「なんでその手の話ばっかりなんだよ!? 訓練やら料理の修行やらで色々あっただろう!? ちゃんと遊んでいるだけじゃなく将来を見据えた勉強もしてたっての!」


 クラス中から多数の嫉妬の視線を受けて、拓郎はたまらずそう声を発した。クレアやジェシカの水着姿は確かに見たし、添い寝をしていたのも確かではあるが、そればっかりにうつつを抜かしていたとは思われたくない。それに訓練は厳しかったし、遊び惚けていたわけじゃない! というのが拓郎の心の声だった。


 だが。そんな声はクラスメイトには届かない。いや、拓郎が治療した3人にだけは届いていたが流石に少数過ぎる。故に状況を変えるには至らない。


「そりゃ訓練は確かにあるだろ。でも、クレア先生とジェシカ先生が四六時中一緒にいてくれたんだろ? 水着姿も見放題、そしてそんな2人とのバカンス! これを羨むなってのは無理があると思うんだが、どうかなぁ皆は?」


 1人の男性クラスメイトの言葉に、他のクラスメイトはうんうんと頷いていた。いや、担任まで頷いていた。クレアとジェシカはにこにこと笑っているだけである。つまり、この場に拓郎に味方はいない。その後拓郎は1時間かけてあれこれ根掘り葉掘り聞かれる羽目になるのであった。



「ああ、酷く疲れた。ある意味修行の時より大変だった」「あはは、ものすごい食いつきだったもんねえ」「しっちゃかめっちゃか、という言葉を当てはめると良い感じかな、と思いました」


 やや憔悴気味の拓郎に、クレアとジェシカはそんな返答を返していた。やっとクラスメイトから解放され、帰途についている拓郎、クレア、ジェシカ。しかし、拓郎は気が付いていない──否、当たり前になってしまったが故に忘れていた。圧倒的な美人2人と一緒に下校するのは、一般的には『まず起こり得ない事』であることに。


 その帰っていく拓郎達を見れば、他の生徒達もアレコレあることない事を想像して鵜沢話に尾ひれがつきまくって登り龍になってもおかしくはないという物。こうして拓郎に関するうわさ話は膨れ上がっていく。とてもじゃないが、それらの噂は七十五日で消えるようには思えなかった──

とあるおっさんのアニメ化に対する祝福のお言葉を多数いただきました。


この場を借りてお礼申し上げます。

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[一言] 拓郎くん、強ク生キルンダヨ(棒)
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