表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第四章 なぎっちゃと夜空の月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/104

88.人類最前線な辺境の村は、今日も物騒です。

 晩春から初夏に移り変わりつつある、とある日。

 一日店番をし、そろそろ店仕舞いをしようとした夕方頃、突然、店の外から激しい音が響いてきた。

 この音は……村の警鐘(けいしょう)だ。音に聞き覚えがある。以前、森から魔獣が攻めてきたときの音だ。


 私はとっさに立ち上がり、店の入口に向かう。ドアベルを鳴らしながら外に出て、警鐘が鳴る方向を探ると……これは、魔獣の森がある北ではなく、村の西側からだ。

 北は森、東は川、南は街道があり、それぞれ村の外へと続く門があるが、西側は(へい)から外に出られる門はなく、小さな勝手口みたいな扉があるだけのはずだ。


 私は魔法でグリフォンキングのアーサーくんを召喚し、乗りこむ。そして、村の家々を飛び越えて西へと向かった。

 村を囲む塀へと辿り着くと、そこにいたのは……身長四メートルほどある巨人だ。服は着ておらず、全裸。顔にはヒゲがあり、体つきは男性のそれだが、股部分に生殖器らしきものはない。


 そんな巨人が五体、塀を破壊して村の敷地内に乗りこんでおり、それを村の戦士達が迎え撃っている。

 巨人の手には武器らしき物は握られておらず、殴る蹴るで戦士達に襲いかかっていた。服も着ていないし、武器を作る知能すらないのかもしれない。


 巨人の姿を確認した私は、地上に降りてアーサーくんの召喚を解除する。ゲームシステム上、騎乗状態では戦闘行為を行なえないからね。


 そして、私は一番近くにいた巨人へ向けて指を突きつけ、魔法を放つ。


「≪マジックミサイル≫!」


 最短の詠唱で発動する魔法の矢が五つ、巨人へと飛んでいく。矢は防がれることなく命中し、巨人の胸を穿(うが)った。

 その攻撃で巨人は胸を押さえて膝を突き、頭が下がったところへ戦士の槍が突き入られる。見事命中した槍は巨人を絶命させ、巨人はその場に倒れ伏した。


「よし、次!」


 私はアイテム欄から武器である魔導書を取り出し、残り四体の巨人へと魔法を飛ばしにかかった。

 そして数分後……巨人は全て打ち倒された。

 終わる頃には、村中から戦士たちが武装して集まってきていたため、皆で後片付けに入る。


「よくやった! 周囲を警戒しつつ、死骸を処理するぞ! 外に穴を掘るんだ!」


 村長さんも武装してやってきており、早速、戦士たちに指示を出している。

 穴掘りかぁ。あの巨体を埋める穴となったら、大変そうだね。あ、そうだ。


「村長さん、巨人の死体、燃やそうか?」


 私がそう提案するが、村長さんは首を横に振った。


「巨人の脂を燃やすと、くっせえんだよ。そのせいか肉も臭い。人間に似た姿の生き物の革を使いたがる者もいねえ。だから、丸ごと埋めるしかねえな」


「あー、そりゃまた……」


「幻獣だから魔石も獲れねえし、相手するだけ損なクソ野郎どもだよ」


 うーん、以前、魔獣が攻めてきたときは生き生きしていた村長さん達だけど、巨人相手だとテンション低いなぁ。

 まあ、得られる物がなくて被害だけあるなら、そりゃあ相手したくないか。一銭にもならない戦いとか、不毛だよね。


 それから、壊れた塀の外で、巨人の死骸を埋めるための穴が掘り進められた。

 ここで活躍したのが魔法使いのマリオンで、地面を土ゴーレムに丸ごと変えて、その体積分の穴を地面に開けていた。作ったゴーレムもさらなる穴掘りに活躍し、できた大穴に巨人を放り込んで、その巨人の上で魔法解除することで土を被せて最後まで役立っていた。うーん、合理的。


 そして、すっかり日が落ちて夜になった頃、村長さんは森の狩りから帰っていない戦士がいないか確認を取っていた。


「大変だ、村長。うちのソフィアが帰っておらん」


 そう言ったのは、村の顔役の一人。ソフィアちゃんを引き取った家のおじさんだ。そのソフィアちゃんが、帰ってきていない?


「なんだって!? くっ、捜索隊を出すか……」


 ソフィアちゃんが不在と判明し、慌ただしくなる周囲。こりゃ大変だ。私も捜索に参加しないと。

 私はマップ機能が使えるから、夜の森でも人探しができるはずだ。明かりの魔法も使えるし、森を歩くのもアイテム効果で得意。だから、人一倍役に立つはず。


 なんて、思っていたら……。


「かがり火なんて焚いて、何事かしら? 何事かしら?」


 村の北側から、ソフィアちゃんが、しれっとした顔をしながら歩いてきた。

 しかも、ソフィアちゃんは、背後に光る何かを連れている。その光は……エルフの集団だ! ついでに、リザードマンのアププの姿もある。

 わざわざ村にエルフを連れてくるとは、いったい何事だろうか。


「お、おう……ソフィア、それ、妖精か?」


 村長さんが困惑しながら、ソフィアちゃんに尋ねた。すると、ソフィアちゃんはエルフを周囲にはべらせながら、元気な声で答える。


「エルフの皆様ですわー! 森でいきなり巨人に襲われたので、一緒に避難してきましたわー」


 その予想外の答えに、周囲がざわめく。

 すると、村長さんが近くに居た娘のジョゼットを呼び、質問する。


「おう、ジョゼット。エルフの里は、北西方向にあるんだよな?」


「そうだな。村の北門から西北西方向に歩いて、三十分といったところだ」


 この世界には神器の世界時計があるので、地球と同じ時分秒が通じる。神殿の時刻の鐘以外にも、砂時計が流通しているね。


 ジョゼットの言葉に納得した村長さんは、ソフィアちゃんに質問を重ねる。


「ソフィア、エルフの里には巨人は何体来た?」


「三十体ほどですわー。エルフの皆さん曰く、妖精は巨人のごちそうなのだそうです」


「三十……多いな……」


 村長さんが、何かを考え込むように腕を組んだ。


「この十年でまた数を増やしたか……こりゃ、また戦争になるな」


 村長さんが独り言というか、周囲に状況を伝えるための言葉を放った。それを聞いていた戦士たちが真剣な顔になり、ピリッとした空気になる。

 そんなときだ。村長さんに一人近づく者がいた。リザードマンのアププである。そのアププは、独特の低い声で村長さんに向けて言う。


「一つ良いか? そなたは確か、この村の村長だったはずだな」


「ええ、確か、アププ様でしたな?」


「ああ。巨人なのだが、おそらく西にある森で大繁殖をしている」


「むっ、詳しい事情をご存じなのですか?」


 神相手だからか、村長さんが敬語を使っている。この人、実は貴族の家の出だから、こういう対応しっかりできるんだよね。

 そんな村長さんに問われたアププは言葉を返す。


「ここから西方向へしばらく行った森の中には、エルフの妖精郷があった。そこでは、周囲の環境を整えて特定の幻獣を生み出すことを助ける神器が、エルフに古くから伝わる秘宝としてまつられていた」


「むっ、まさかその神器の影響で、巨人が増えているわけですかな?」


「ああ、そうだ。ひと月半ほど前だったか……私は妖精郷を訪ねていたのだが、そのとき巨人が大量に攻めてきてな。エルフ達を逃がすために撤退戦をしたが、神器は重く、持ち出せなかった。あの神器が巨人の手に渡ったとなると……」


「妖精郷が、神器の効果で巨人の巣に作りかえられたかもしれない、と」


「そうだな。巨人は知能が低いようだが、その神器は触れただけで本能的に使用方法が分かる仕組みだそうだ。今頃、妖精郷は、新しく生まれた巨人であふれかえっていることだろう」


 おおう、なんだかえらいことになっている気がするぞ。

 幻獣は、繁殖ではなく魔力溜まりから生まれる存在のはずだ。その魔力溜まりの性質によって、生まれてくる幻獣の種類が違うのだとしたら……。つまり、妖精が生まれてくる環境を作り出すはずの神器が、巨人が生まれてくる環境を作り出すよう操作されているかもしれないと。


「そうと聞いたら、早急に動くべきだな」


 村長さんは、そう言ってこちらを向いた。

 おっ、ここで困ったときの神頼み。お助けなぎっちゃさんの出番かな?


「なぎっちゃ、頼みがある」


「はいはい、何かな?」


「辺境伯閣下の屋敷まで送ってくれ。巨人との(いくさ)の許可を得る!」


 村長さんのその言葉に、村の戦士たちがざわめく。

 だが、それは困惑のざわめきではなく……戦を前にした、期待のざわめきだった。


「野郎ども! 戦の準備だ! 武器を磨け! 鎧を引っ張り出せ! 武勲を挙げるぞ!」


 村長さんが雄々しい叫び声を上げると、戦士達は一斉に「おう!」と力強い声を返した。


「さあ、動け! 明日の朝には出陣できる準備を整えておけ!」


 村長さんのその号令に、皆が一斉に動き始める。

 いやー、君たち、五体の巨人がやってきたときは面倒臭そうだったのに、戦を前にしたら目の色変わるね! さすがは元傭兵団ってことかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっかいな巨人が増える環境と チケットで強くなった傭兵団の村人 そして辺境伯に報告がいって戦が始まるという事は 手柄の立て放題だ!いくぞ野郎ども!って事ですね
[一言] カチコミじゃぁぁぁぁぁ!
[一言] またトンデモな神器が!? 魔獣の大鍋と性質が似てるのは偶然なのか… 世界の仕組みとして、テンプレ神器が存在してたりして。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ