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なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第四章 なぎっちゃと夜空の月

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85/104

85.洋ゲーのブサイクエルフを初めて見たときの衝撃よ。

 雑貨屋にやってくるお客さんは女性が多い。

 日中、男衆は仕事をしていて店に来られないから、代わりに妻が買い物に来ているのだ。


 村の成人女性の多くが専業主婦である。まだまだ、女性の社会進出とか何それって感じの時代なのだ。

 ただ、一言に専業主婦と言っても、この文明レベルの主婦の仕事はやることが多い上に、めちゃくちゃハードだ。

 便利な家電なんてないから、掃除も洗濯も炊事も全部手作業でやる必要がある。さらに、この村の妻達はまだそれなりに若い人達ばかりで、子供の年齢も低い。つまり、子育ての仕事も入ってくる。


『経験値チケット』で強くなった状態で狩りをしている村の男衆より、主婦達の方が忙しいってケースもあるだろうね。命は懸けていないけど。

 そんな若い主婦達だが、若くない主婦も村には少しだけいる。若くないって、ちょっと失礼な言い方になるけどね。

 今、うちの店にやってきて茶をしばいている村の顔役の奥さんなんかは、その中でも最年長の人だ。


「それでねぇ、ソフィアが言うのよ。『この絹でお義母様の下着を仕立ててみせますわー』って。それがもう嬉しくて嬉しくて」


 顔役の奥さんの相手をしているのは、私ではない。たまたま雑貨屋に買い物に来ていたジョゼットが捕まって、先ほどから長話に付き合わされている。

 ちなみにこの奥さん、元貴族令嬢であるソフィアちゃんの保護者をしている人だ。

 年齢は五十歳手前かな? 子供も村を開拓する以前に男の子を三人産んでいて、それを傭兵団に所属しながらしっかり育てあげたそうだ。男の子たちは三人とも成人して、この村で立派に戦士をやっている。


 女の子には恵まれなかったようで、そのためか奥さんはソフィアちゃんを猫かわいがりしている。

 とは言っても、教育の方針は割としっかりしていて、なんでもかんでも物を与えることはない。ソフィアちゃんのために新品の服を大量に仕立てるほど、甘やかしはしていないってこと。なので、普段のソフィアちゃんの服は、息子さんのお下がりで野暮ったいことが多いね。


「それで、ソフィアなんだけど、最近狩りから帰ってくるのが遅くて。ジョゼットお嬢様は、何か知っている?」


「いや、初耳だが……」


 奥さんは村の女性の中で最年長だが、村の女衆を束ねているわけではない。

 その役割は元娼婦のおばちゃんに任せていて、この人はそれを後ろから見守る役をしているようだ。

 だからか、主婦業も一流なこの奥さんはそこまで忙しい日々は送っておらず、こうして村人を捕まえて長話をしている様子をときどき見かけるんだよね。もちろん、私の店にもしょっちゅう遊びにくるよ。


「早く帰ってくるよう言っても、良い返事はするものの直らないのよね」


「それは、よくないな。一人で狩りに行っているのか?」


「この春からはそうなのよ。森の奥に一人で踏みこんでいるんじゃないかって、心配で心配で」


「狩りの獲物は?」


「持って帰ってくるのは、肉になる手頃な猪や鹿とかじゃないのよね。角狼とか絹蜘蛛とかの凶暴な魔獣ばかり狙っているみたいで、心配なの」


「ふーむ、これは、少し調べてみる必要がありそうだな」


「お嬢様、頼める?」


「ああ。しかし、森で隠れて跡を追うのは困難だな。イヴ、いるか?」


『はい、なんでしょうか』


「ソフィアを隠れて追えるか?」


『今すぐ居場所を特定することは困難です。明日以降、村から追跡することは可能です』


「分かった。では、明日、ソフィアにバレないよう気を付けて追跡してくれ」


『了解しました』


 おやおや? なんだか話が勝手に進行しているぞ?

 私以外の村人が、イヴを普通に使いこなしているんだけど……。


「では、なぎっちゃ。明日、ソフィアを追うぞ」


「あーい」


 ジョゼットにそう言われ、私はとっさに返事をしてしまった。

 おやおや? なんだか私の明日の予定が勝手に決まってしまったぞ?


「なぎっちゃさん、よろしくお願いするわ。どうかソフィアのことを頼みます」


 まあ、奥さんに頼まれたら、理由もなく否とは言いにくいね。

 一日雑貨屋を閉めたところで、村人がちょっとだけ困るくらいだし、明日は一日、ソフィアちゃんのストーキングと行きますか。




◆◇◆◇◆




 翌日の午前、私とジョゼットは森に入る装備を整え、村の北門へと集まっていた。

 ちなみにソフィアちゃんは、今日も朝から森へ一人で狩りに入っているらしい。

 未成年で毎日のように遅くまで狩りなど、いくら『経験値チケット』を使っているからといって、なかなかできることではないのだが……。森の奥に行くほど魔獣は強くなっていくし、確かにこれは心配だ。


「イヴ、追跡できているか?」


 腰に鉈を下げて短槍をたずさえたジョゼットが、宙に浮くイヴのステルスドローンに向けてそう尋ねた。


『はい。森の西側に向けて移動中です』


「西か……領境に向かっているのか?」


『領境は越えていませんが、それなりに近いですね』


「まったく、あいつは……」


 領境か。この村は、辺境伯領の中でも、北西の隅っこにあるんだよね。北は魔の領域だが、西に何があるか私は知らない。別の国があるのかな? 南西方向にもっと進むと、以前馬乳酒を調達した遊牧民の土地があるけど。


「では、向かうか」


『マスターに転移させますか?』


 こら、イヴ。転移させるって、(あるじ)を便利使いしようとするんじゃないよ。


「いや、道順も見ておきたい。森を歩こう」


 ということになった。


 私達は、飛行するイヴのドローンによる先導で森へと入り、木々の合間を進んでいく。

 森歩きに慣れていない私なら、木の根に足を取られてもおかしくないところだが、私にはゲーム由来のアイテムがある。

『ハイエルフのブーツ』は森が味方してくれる加護が宿ったブーツだ。それを装備用の神器である『天女の羽衣』にセットしてあるので、森に慣れたジョゼットと遜色(そんしょく)ない動きを私はできていた。


「このあたりは、村の戦士でも普段来ない場所だな」


「あれ、そうなの? まだ三十分くらいしか歩いていないけど?」


 私はジョゼットが言った言葉に、そんな疑問混じりの声を返した。


「西に向かうと辺境伯領を越えてしまうからな。そちら方面は開拓もしないことになっている」


「ふーん」


 まあ、隣国に向けて開拓なんてできないよね。

 と、そんな会話をしていると、私達の頭のあたりを飛ぶイヴが唐突に音声を発する。


『そろそろ到着です』


 お、ソフィアちゃんに追いついたかな?

 そう思って前に進むと、不意に森の木々が生えていない、拓けた空間に出た。


「お、おお? ここは……」


 私は、その先に見えた光景に、思わず言葉を漏らした。

 そして、ジョゼットは私の横で、驚きに目を見開いている。


「このような場所が、村の近くにあったのか……?」


 それは、一面の花畑。その上を、光る小人達が飛び回っている光景が見えた。

 幻想的としか言いようのない空間に、私はしばし足を止めて見入ってしまった。


「――――!」


 すると、光る小人が私達を見つけたのか、知らない言語で騒ぎ始めて、ワチャワチャと飛び回り始めた。

 そして、花畑の奥へと飛んでいく。その先には……地面に座り込む二人の人の姿があった。片方は、ソフィアちゃん。もう片方は、先日村にやってきたリザードマンの超神アププだ。


「何事ですのー?」


 光る小人達に何やら話しかけられていたソフィアちゃんが、こちらの方を向く。


「はっ、なぎっちゃとジョゼット……! なぜここにいますの! なぜここにいますの!」


 途端に慌てるソフィアちゃん。ジョゼットはため息を吐きながら、花畑に足を踏み入れてソフィアちゃんのもとへと向かう。

 私もそれを追って、ソフィアちゃんとアププのもとへと歩み寄った。


「やあ、先日ぶりだね」


 ジョゼットがソフィアちゃんと会話を始めたので、私はリザードマンのアププの方へと話しかける。


「ああ、偶然だな」


「捜し物は見つかったかな?」


「見つかったが、まだ手元にはないな」


「そっかー」


 そこで話を打ち切って、私はジョゼットとソフィアちゃんの話を聞く。

 なんでも、ソフィアちゃん曰く、ここは妖精の里らしい。


 妖精! フェアリーかな? と思ったが、違うらしい。

 この光る小人の正体は、妖精エルフとのことだ。

 そう、エルフである。あのエルフである。エルフなのに小人!


 ……なんでじゃあ!


 いや、そりゃあ分かる? 人類の一種族としてのエルフは、二十世紀に書かれたファンタジー小説で生まれた概念であって、元々のエルフは西洋の伝承に登場する妖精だってことくらいは。

 でもさ、ここはファンタジー世界で、リザードマンみたいな神までいる世界なんだよ? そこまできたら、エルフは人類の一種族だって思うじゃん!


 実は私、期待していたんだよ! 以前、『ハイエルフのブーツ』を見たジョゼットとソフィアちゃんが、エルフが存在するって言っていたから、森の番人なエルフが登場することをさ!


 ぬあああああ!


「ところで、ソフィア。先ほどから何を飲んでいるんだ?」


 私が現実に打ちひしがれていると、ジョゼットがソフィアちゃんの手元にある木のコップに注目した。


「蜜水ですわ! 蜜水ですわ!」


 へー、蜂蜜を水で薄めたジュースかな? 美味しそうじゃん。


「ソフィア。お前、酒臭くないか?」


 ジョゼットのその言葉に、ソフィアちゃんの肩がビクッと跳ねる。

 すると、ジョゼットはソフィアちゃんの手元から素早くコップを奪い、鼻に近づける。


蜂蜜酒(ミード)ではないか!」


「うぐっ、蜜酒は貴族の嗜みですわー」


「そうか。毎日ここに入り浸って、酒を飲んでいたというわけか」


 この国において十五歳未満の未成年の飲酒は、バックス神殿により非推奨となっている。ソフィアちゃんは今年で十三歳だ。

 当然、村では子供達に酒を飲ませてはいない。だけど、ソフィアちゃんは貴族令嬢時代、普通に酒を飲んでいたみたいなんだよね。それで、隠れて妖精の里に酒をねだりに来ていたわけか。


 と、そんなジョゼットとソフィアちゃんのやりとりを聞いていると、不意に横から「ギュルギュル」と変な音が響いた。

 何事かと思って見てみると、どうやらアププが喉を鳴らして出た音のようだった。


「ああ、これは我が種族の笑い声だ。気にしないでくれ」


「リザードマンの笑い声……!」


 そうか、喉の構造とかが人と違うから、笑い声も人と違う音になるのか……。いやー、エルフと違って、リザードマンは期待を裏切らないでくれるなー。

 と、そんなことを思っていると、そのエルフの一人がジョゼットとソフィアちゃんの頭の上を飛んで、何やらこの国の言語でしゃべり始めた。


「ソフィアちゃんを叱らないであげて! その子は、魔獣から里を守っていてくれているんだ!」


 おや、ソフィアちゃん、そんなこともしていたんだ。

 そう思ったのは、ジョゼットも同じようだった。彼女は、「ふむ」とうなずいて、何かを考え込み、言った。


「魔獣は人を襲う性質を持つが、幻獣である妖精に対しては無害なのではないのか?」


 ああ、魔獣って、憎しみによって作られた神器由来の性質上、人間に対する敵愾心(てきがいしん)を生まれつき持っているんだよね。

 だから、人間じゃない妖精には襲いかからないという理屈なのだろうが……。


「狼や大蜘蛛の魔獣は肉食だから、僕たちにも襲いかかってくるよ」


 と、大人の頭ほどのサイズをしたエルフが答える。なるほど、そうなんだー。というか、肉?


「妖精の体って、肉があるんだ」


 私がそうつぶやくと、エルフはくるりとその場で回って、私に向けて言う。


「当たり前だよ! この体が血肉以外の何でできているように見えるのさ!」


「ええと、魔力でできているとかさ」


 小さな人の姿に、ヒラヒラとした布の服を着ている。そして、ほんのり光っているね。光る人とか、いかにも魔力を発していそうだ。


「確かに僕らは魔力溜まりから産まれるけど、生き物なんだから肉くらいあるし、ご飯だって食べるよ」


 ご飯、食べるんだ……。花畑にいるってことは、花の蜜とか吸うのかな?

 そう聞いてみたら、虫扱いするなと怒られた。むう……。


 すると、そのやりとりを聞いていたジョゼットが、何かに納得するようにして言う。


「なるほど。ソフィアの狩りの成果が狼や蜘蛛ばかりで、肉がなかったのはそういうことか」


 ああ、奥さんが言っていたね。つまり、エルフを助けるために重点的に肉食の魔獣を狩っていたうえに、猪や鹿を狩ったら村に持ち帰らずに妖精達へ与えていたってことだ。

 肉をモリモリ食べる小さな妖精かぁ。ファンシーなファンタジーは存在しなかった。


「とりあえず、これで奥さんにちゃんと報告できるね」


 私がそう言うと、ソフィアちゃんは「奥さんって誰かしらー?」と不思議そうに聞いてきた。


「ソフィアちゃんのお義母さんだよ。帰りが遅いからって心配していたよ」


「妖精さんを秘密にしていたこと、叱られるかしらー?」


「それは大丈夫じゃないかな。でも、隠れて酒を飲んでいたことはめっちゃ怒るだろうね」


「黙っていてくださいまし! 黙っていてくださいまし!」


 ソフィアちゃんが焦って私に詰め寄ってくるが、私はとりあわない。

 すると、ソフィアちゃんは打ちひしがれて花畑に転がり、アププはそれを見て「ギュルギュル」と笑い声を周囲に響かせた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最近リメイクされたRTSゲームに出てくるエルフがいかにも小人で妖精っぽいんですよね。 そういや、エルフもですけどゴブリンも本来妖精なんですよねえ…
[一言] 洋ゲーのエルフを見て「ゴブリンじゃん」って思った思い出( ˘ω˘ )
[一言] スカイ○ムのエルフとかね……なんかいかついですよね…
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