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なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第三章 なぎっちゃと魔法使い

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72.猫好きに言わせると、人間は猫のお世話をさせていただいている立場らしい。

 ある日の午後、私は雑貨屋のカウンターに座りながら、暇人達を相手していた。

 店に集まってきたのはソフィアちゃん、ヘスティア、マリオンの女子三人組。ジョゼットは村の見回りをしているらしいのでいない。


「はー、可愛いですわぁ」


 店舗の床にしゃがむソフィアちゃんが、マリオンの使い魔である黒猫のコスモをなでながら、とろけるような表情で言う。

 コスモは、気まぐれな猫の本性を見せず、仰向けになってソフィアちゃんへ向けて腹をさしだしていた。


「なでられてお腹見せるって、まるで犬みたいだね、このお猫様」


 私がそう言うと、店内のテーブル席に座る飼い主のマリオンが、得意げな顔をして答える。


「コスモはサービス旺盛なのよ。使い魔だから知能が高いのよね」


「へー。使い魔ってどうやって作るの?」


「動物に向けて使い魔作成の魔法を使うんだけど、簡単に言うと、大量の魔石をつぎこんで、動物を魔力で動く生物に変換するのよ。魔石の力で、生物としての格が一段上になって知能が上がるわけね」


「なるほど。動物の死体に魔法をかけて使役するとかじゃないんだね」


 私が、地球にいた頃に読んだファンタジー小説で得た使い魔のイメージを語ると、マリオンは嫌そうな顔をする。


「使い魔はおとぎ話のアンデッドなんかじゃないわよ。死体が動くわけがないじゃない」


 そのマリオンの言葉に、ヘスティアがくすりと笑った。うん、オニャンコポンの天空城バベルには、アンデッドが実在していたね。

 しかし、アンデッドが伝説の存在なら、この世界の魔法使いにネクロマンサーはないのか。いや、ネクロマンサーって本来は死体を操る術を使う魔法使いじゃなくて、死者の霊を使った占いをする人のことらしいけどね。

 ちなみに私の職業(クラス)である大賢者の魔法にも、死者を操る類の術は存在しない。死者蘇生の≪リザレクション≫があるだけだね。


 そんなことを考えているうちに、ソフィアちゃんはコスモをなでるのを止め、マリオンが用意していた猫じゃらしを手に取ってコスモの前でフリフリし始めた。

 コスモは「なー」と鳴くと、猫じゃらしにじゃれつき始める。なんかこれ、コスモが仕方なくソフィアちゃんに付き合ってあげているだけじゃないか。

 そして、ソフィアちゃんが猫じゃらしでコスモとたわむれる様子を微笑ましく見ながら、ヘスティアがつぶやく。


「やはり使い魔はいいのう。私もこの村を出たら、次は魔法都市を目指して魔法使いにならせてもらうかの」


 それをしっかり聞いていたのか、マリオンが目をぱちくりとさせる。それから、マリオンは居住まいを正して、ヘスティアに向かって言った。


「神様は魔法使いにはなれないわよ?」


「なんじゃと!?」


 あー、前にベヒモスがそんなこと言っていたね。ヘスティアはベヒモスから聞いていなかったんだ。

 さらに、マリオンが続けて言う。


「魔法使いは神様にはなれるけど、神様は後付けで魔石の力を身に宿せないから、魔法使いにはなれないのよ」


「そ、そんな……」


「それに、魔法使いから神様になった場合、新しい魔法は覚えられないわ。魔法使いは魔石の魔力をその身に取り込み、その魔力で新魔法を構築するようになっているから。一方、神は神になる際に創世の力を限界までその身に取りこんでいる。魔石の魔力と創世の力は、根源が同じ。つまり、人が神になった時点で、魔力を受ける器は上限いっぱいに満たされていることになるわ」


 なるほど、容量不足か。

 魔法使いはその器の空き容量に魔石の魔力を少しずつ注ぎ込んでいくが、神はその器に容量の限界まで創世の力が注ぎ込まれているってわけだ。


 私は納得しながら、マリオンに向けてふと思ったことを言う。


「ということは、魔法使いの神様より、普通の人が神様になった方が、神様としての力は上になりそうだね」


「そうね。魔法使いから神様になった方はヴィシュワカルマ様しかいらっしゃらないけれど、ヴィシュワカルマ様の見解ではそうなっているわ」


 ヴィシュワカルマは魔法都市にいるという、魔道具職人の神だね。

 そんな私とマリオンの言葉を受け、ヘスティアが首をかしげる。


「なんで魔法使いが神になると、普通よりも力が下になるのじゃ?」


 すると、マリオンが右手の人差し指をピンと立てて解説を始めた。


「人という器の中に十の力が入るとして、普通の人には十の創世の力が器の中に入るわ。でも魔法使いは最初から二の魔力が器の中に入っているとすると、八の創世の力だけしか入らない。よって、純粋な神として力、すなわち創世の力の保有量は十の前者が上になるわけ」


「なるほど? うーむ、確かに八より十の方が強力だのう。納得なのじゃ」


 今度こそヘスティアは納得して、テーブルの上に乗りだしていた身を引いて床にしゃがみ、足元のコスモをひとなでした。


「しかし、使い魔がこんなに可愛いのなら、少しくらい神としての力を失っても使い魔が欲しくなるのじゃ」


 ヘスティア神殿の信者達が聞いたらびっくりするようなことを言うね、この神は。

 まあ、私もペットの兎に知能が宿って使い魔にできると考えると、なかなかに惹かれるものがあるけれど。


「私の『フラーヌ』と『メメンタ』には、どうやら意思が宿っていないようじゃからのう……」


 ヘスティアがそう難しい顔をしながら言うと、マリオンがキョトンとした顔で問い返す。


「なに? そのフラーヌとメメンタって」


「私の召喚獣達じゃ。名前はフリアナキーヌ地方の肉料理が由来じゃな」


「知らない料理ね……」


 私も聞いたことないな。フリアナキーヌ地方は、確かこの国の西方にある地域だけど。


「この国風に言うと、フラーヌがミンチ肉の固め焼きで、メメンタがおろしショウガを和えた薄切り肉焼きじゃ」


 ハンバーグと生姜焼きね……すごい名前をミニドラゴンとユニコーンにつけているな。


「しかし、すでに器がいっぱいになっているはずの神様に召喚魔法を新しく覚えさせるだなんて、やっぱりなぎっちゃの権能は、とんでもないわね……」


 料理の名前を聞いてお腹が空いたのだろうか。店の保存食の棚に目を向けながら、マリオンが言った。

 すると、今まで大人しかったソフィアちゃんが唐突に口を開く。


「私も召喚魔法を覚えたいですわー」


 床のコスモから離れて立ち上がり、チラチラと私の方を見てアピールしてくるソフィアちゃん。

 だが、そのソフィアちゃんの意見を否定する者がいた。ヘスティアだ。


「駄目じゃぞ、なぎっちゃ。私の召喚獣は、邪神オニャンコポンに勇気を出して立ち向かった功績を称えて、おぬしが私に与えたものじゃ。ソフィアに召喚獣を与えるならば、それに相応しい功績を残させるべきじゃ」


 さらに、その言葉にマリオンも乗る。


「そうね。神の恩恵というものは、それ相応の何かと引き換えにしておかないと、欲深い人間に絡まれて面倒なことになるわ。そうしないなら、そこの料理神様のように住む場所を転々とするべきよ」


「うむ。私が旅をしているのは、世界各地の料理を見聞する以外にも、私を利用しようという欲望を人に想起させないためでもあるのじゃ。私は料理で利益を得ようとは思っておらぬから、悪い人間にとっては利用しやすい神であると自覚しておる」


 はー、ヘスティアも、いろいろ考えて行動しているんだなぁ。神様歴が長いだけあるね。


 さて、私もちょっと小腹が空いたので、お茶請けを取ってこよう。ついでに紅茶でも淹れるかな。

 私は、家の方に向かい、お茶一式を用意して店舗に戻った。


「みんなー、お茶淹れたよー」


「おお、気が利くのう」


「ありがと」


「ごちそうになりますわー」


 と、御三方それぞれにお礼をもらい、ティータイムへと突入した。

 お茶請けのチョコチップクッキーを食べながらも、私達は雑談を続ける。


「使い魔ってなんのためにいるのじゃ? なんの役に立つ?」


 クッキーを一口一口味わいながら食べるヘスティアが、そんな疑問を口にした。

 それに対するマリオンの答えは、意外なものだった。


「特になんの役にも立たないわよ。いろいろできることはあるけれど、基本的にただ可愛いだけよ」


 それには私もびっくりしてしまい、さすがにそれはないだろうと、マリオンに問う。


「物陰に侵入させて視界を共有して、隠された情報を取ってくるとか……」


 ファンタジー創作の中のシティアドベンチャーでは、定番中の定番だぞ!


「隠された情報? 何それ? なんでそんなものを得る必要があるの?」


「ほら、街中で起きた事件の真相を暴くために……」


 私がそう言うと、マリオンはやれやれといった様子で言葉を返してくる。


「官憲じゃあるまいし、魔法使いがわざわざそんなことしないわよ」


「……確かにそうなんだけどさぁ」


 夢が壊れるぅ。

 しかし、使い魔を作るには魔石が大量にいると先ほどマリオンが言っていた。そんなコストを払ってまで、なんでマリオンはコスモを使い魔にしたのだろうか。そこを彼女に聞いてみると……。


「使い魔を持っているということは、魔石を大量に確保できるだけの力を示すことになるわ。権力、財力、人脈などね。私は魔石の産地である魔の領域の開拓村出身だっただけなのに、使い魔のコスモを見た側は勝手に邪推してくれたわ。だから、準男爵の次女という低い立場でも、母校では舐められなかったわね」


 なるほど、使い魔は魔法使いにとってステータスなのか。

 マリオンがいた場所は貴族が集まる学院だったらしいし、彼女もいろいろ苦労があったんだねえ。


「村から定期的に魔石の仕送りを貰っていたし、学派でもいいポジションを確保していたわ」


「要領がいいですわー」


「そうね。貴族間の立ち回りにはそれなりに自信があるわ」


 ソフィアちゃんの感想を受け、マリオンがフフンと胸を張って答えた。

 なるほど。この場にいる私以外の三人とも、(したた)かな女ばかりな感じだね。開拓村でたくましく生きるに相応しい人達だよ。


 まあ、この中で一番世渡り上手なのは、人への媚びの売り方を知る猫のコスモかもしれないけれどね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 猫は可愛い(ただし管理されている猫に限る)
[良い点] 動物から使い魔に! 面白い設定ですね! 寿命とか伸びてるのかなぁ? 同じ魔法で植物は無理としても……もしかしてこれ人間にも使える可能性が……? [一言] ネコと和解せよ…… 絶対全力を出せ…
[良い点] 更新乙い [一言] この辺で推定最弱なのに誰にも害されない これは世渡りジョーズ
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