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なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第三章 なぎっちゃと魔法使い

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64/104

64.旅は道連れ世は情け。ただし私の旅は日帰りツアー。

 秋も深まり、里山が一面の紅葉(こうよう)におおわれた頃。

 キノコの炊き込みご飯で朝食を済ませた後、雑貨屋を開くとすぐさま村長さんが訪ねてきた。


「マリオンと職人兄妹(きょうだい)の歓迎会を兼ねて、祭りを行なうことにした」


 そんな宣言を開口一番する村長さん。

 そして、小さな木箱を私に差し出してきた。


「前回より額は少ないが、また酒集めを頼んでいいか?」


 箱のふたを開けると、中には銀貨が詰まっていた。

 大量の銀貨など辺境の田舎に相応しくない財貨に見えるが、この村に関しては別だ。夏の大市で、たんまり儲けているのを見ているからね。

 私はその銀貨の箱を受け取りながら、村長さんに言葉を返す。


「うん、また酒交易して世界中の酒を集めてくるよ」


 私は箱のフタを閉めてカウンターの上に置き、続けて言う。


「ちなみに村長さん、南方や西大陸にも行くから、銀貨払いよりは同額の魔石の方が多くの酒を持ってこられるよ」


「ああ、なるほど! 魔獣はこの近辺でしか出ねえからな!」


 この前、ヘルヘイムの屋敷に遊びに行ったときにヘルに聞いたのだが、魔獣という存在は魔の領域、すなわち聖王国ヴァルハラの領土からは出てこられないらしいのだ。ヘルが魔石を作り出す神器を作ろうとしたときに、ヴァルハラの領土内で魔石が採取できるように念じた名残(なごり)らしい。

 ちなみに魔獣と通常の獣が交雑した『半魔獣』は魔の領域の外に出られるが、人間を積極的に襲おうとする凶暴性は鳴りをひそめているとのこと。バックスが以前、この半魔獣をなんとかして家畜化できないか研究させているとも言っていた。


 それだけ、魔石という物資には価値があるのだろう。国のために魔石を生み出す神器を作り出そうとしたヘルの気持ちも解るよ。

 まあ、そのせいで国を滅ぼしたんじゃあ、世話ないけど。おかげでヘルはオニャンコポンがいなくなった今も、ヘルヘイムから出てくるつもりがない。大罪を負う神として、後ろ指を指されるのが怖いんだろうね。


「魔石は後で持ってくる。それと、シャロン殿が、祭りの際にバックス様にも声をかけてくるようお願いしますとのことだ」


 シャロンとは、村の神官さんのことだ。


「そういえばバックスは、前にやった祭りをうらやましがっていたね」


「大陸中の酒どころか、西大陸の酒まで用意するんだ。そりゃあ、酒好きならうらやみもするさ」


 確かに村長さんの言うとおりだ。バックスは国の主神で、ヘスティアみたいに好き勝手に世界を巡って、酒浸りになれるような立場ではない。


 ああ、そうだ。せっかくなので、酒交易にもバックスを連れていこう。転移魔法が使える私と一緒なら、少しの間、王都を離れるだけだし、ついてこられるでしょう。

 ついでに、酒の目利きなんてしてもらっちゃったりして。ふふふ、これは良いアイディアを思いついちゃったな。


「ご機嫌だな、なぎっちゃ。とりあえず、酒はそれで頼むぜ。料理に関しては、今回はヘスティア様がいるから、なぎっちゃに頼むこともないだろう」


「ヘスティアの使う食材を用意するのは、私なんだよなぁ」


「そこは神同士でやりとりしてくれ。村は口を出さん」


 触らぬ神に祟りなしとでも言いたいのか、そう打ち切って、村長さんは魔石を取りに家へ戻っていった。

 はてさて、酒交易か。ひとまず前回と同じルートを通るとして、面白い酒は見つかるかな。




◆◇◆◇◆




 村を出て酒の調達を開始した私。

 まずは近場のヘリック領で赤ワインを仕入れて、そのまま王都のバックス神殿へと向かう。

 アポなし訪問だったが神殿の人達は私のことを覚えていたようで、顔パスでバックスのもとへと通された。

 そして、バックスに村で祭りを開催することを伝え、これから世界酒巡りをすると言ったら、どちらにも行くとの返答を貰った。急な旅だが、酒巡りにバックスが同行することになった。


 それからバックスの伝手で王都の酒蔵から蒸留酒も安く仕入れることができ、出だしは好調。次に私は、西の遊牧民のもとを訪ねることにした。


「遊牧民かぁ。うちの国とはそんなに交流ないけど、馬の乳から酒を造っていると聞くね」


 バックスのその言葉に、私はうなずきを返す。


「馬乳酒は酸っぱい酒だね。乳酸発酵しているのかな? 天上界ではこのお酒をもとに、乳酸菌飲料っていう健康食品が作られたって聞いたことがあるね」


「にゅうさんきん?」


「お腹の調子を整える、目に見えない超小さい生物の一種」


「ああ、ヘスティアが以前、そんな生物がいるとか言っていたね」


「ヘスティア、細菌の存在を知っているんだ……まあ発酵促進なんて権能を持つんだから、知っていてもおかしくないか」


 それから私達はイヴに遊牧民の現在位置を特定してもらい、草原に建つ巨大テント群を訪れた。巨大テントは、地球ではゲルとかいう名前だった気がする。

 彼らに「また東のワインを持ってきた」と言うと、私達は大歓迎を受けた。そして、前回居なかったバックスを見て、遊牧民の長が言う。


「そいつはお前さんの婿(むこ)か?」


「バックスが婿? あはは。あはははは。んなわけないよー」


「そうか。魔法使いの商人殿、うちの一族から婿を取る気はないか?」


「いやあ、しばらく結婚する気はないかなー」


「そうか、気が変わったらいつでも言ってくれ」


 そんな会話を長としていると、バックスが横から私に向けて言った。


「なんて言っているの?」


「あれ、バックス、彼らの言葉知らないの?」


「国交がほとんどないって言ったでしょ」


「そうかぁ。こいつは私の婿か、だってさ」


 私がバックスを指さしてそう言うと、バックスは苦笑して言葉を返してきた。


「妻とは二千年前に死に別れているよ。それ以来、ずっと独り身さ。僕はもう妻を(めと)る気はないよ」


「私もバックスをお婿さんにする気は毛頭ないから、安心しなさい」


「彼はなんと?」


 おっと、今度は長が私達の会話を気になったようだ。


「彼、妻とは二千年前に死に別れたそうで」


「二千年? どういうことだ?」


「こちら、東の国の主神である酒の神、バックスだよ」


「神だと? 本当なのか? 冗談では済まされないぞ」


「ちょっと、なぎっちゃ。何言ったのさ。剣呑(けんのん)な雰囲気だけど」


 バックスは、長の様子が変わったのを敏感に感じ取ったようだ。


「あー、バックスが神様だって言ったら、本当かだって」


「なるほど、それなら、挨拶代わりにこれを与えようか」


 バックスは肩にかけていたカバンの中から神器の木の杯を取り出す。

 すると、木の杯からじわじわとワインが湧きだしてきた。


「おお、それは……!」


 突然の出来事に、驚きを見せる長。

 まあ、これを見せられたら一発で信じるだろうな、と思いつつ、私はアイテム欄からガラスのコップを取り出した。

 すると、バックスは木の杯からコップにワインを注ぎ、私は神のワインで満たされたコップを長に差し出す。


「バックス神が神の酒を与える、だって」


「それはなんと……光栄です」


 コップを受け取ると、長は頭を深く下げ、頭を上げると同時にコップの中のワインをあおった。

 勢いよくいくなぁ、と見ていると、長の表情が驚きの表情に包まれる。


「これは……身体を蝕んでいた痛みが消えていく……」


「神の酒だからね。病を癒し、身体を健康にする効果があるよ」


「おお、感謝します、神よ……」


 すると、次の瞬間、長は地面に膝をついてバックスをあがめだした。


「よかったね、バックス。歓迎されているようだよ」


 私がそう言うと、バックスは渋い顔をして言葉を返す。


「こういうのじゃなくてさぁ、旅の途中で出会う人との一期一会の人情劇! とか期待していたんだけど」


「神の酒っていう伝家の宝刀を抜いておいて、人情はないでしょ」


 それから、私達は遊牧民のもとで大歓迎を受け、豪勢な昼食をごちそうになった。

 泊まっていってくれと言われたが、酒を集める旅の途中と説明して、馬乳酒をヘリック領の赤ワインと交換して次の目的地へ向かうことにする。


「次行くところでは、バックスの名前は秘密にしよう」


 思わぬ時間を取られてしまったので、私はそんなことをぼやいた。

 対するバックスも、同意したのか苦笑して言う。


「そうだね……僕のことはマルクスとでも呼んでよ」


「バックスをもじった偽名?」


「いや、本名」


「あー、そっか。バックスってマルドゥークの神器で命名されただけで、それとは別に本名があるのか」


「そうだね。神器で神の名を付けられると、普段はその名を使わなくちゃ違和感が強く出るんだけど、偽名を使うときは別だね」


 そうして、バックスあらためマルクスくんをともなって、世界を巡る酒の旅が繰り広げられるのであった。




◆◇◆◇◆




 酒を探求する旅は無事に終わり、バックスと王都の神殿で別れた私は、村に帰還した。

 そして、村長さんのところへ酒を手に入れた旨を報告しようとやってきたのだが、なにやら村長さん宅が騒がしい。


 私は、村長さん宅に入って、慌ただしく動いているジョゼットを捕まえて、何かあったのか尋ねた。


「ああ、村に辺境伯閣下の使者が来たので、急いで客間を空けている。なんでも、村に閣下がやってくるそうだ」


「ヒュー、魔の領域にある村に来るとか、勇気あるね」


「ああ、危険だから、閣下が村に訪れるのは、十年前に村を作ったとき以来だ。異例の事態だぞ」


 この村は魔獣が出現する魔の領域に食い込むように作られている。魔の領域の土地は魔力が豊富で、畑に薬草が育ちやすいのだ。だから、村には魔獣が襲ってくる危険性が常にある。

 私がジョゼットとやりとりをしていると、客間から出てきた村長さんが、私を見つけて言った。


「護衛が三十名も帯同するってんで、どうしたもんかな。宿屋なんて洒落たもんがあるわけもないし」


 宿屋が洒落ているという感覚は解らないが、大変なのは解った。


「うーん、なら、あれが使えるかな」


「何かあるのか?」


 私のつぶやきに反応したジョゼットの問いかけに、私はさらに言葉を返す。


「拠点作成用の施設に、運動ホールがあるんだよね。そこにベッドと仮設トイレを並べれば、行けるでしょ。シャワー室付きだし」


「そんなものがあるのか! なあ、それは例のコテージみたいに、設置場所を自由にできるのか?」


 今度は村長さんが私に問いかけてきた。


「できるよー。結構大きいから、村の外に設置することになるかなぁ」


「じゃあ、南の草地だな。設置してもらって、戦士達を総動員して柵を急いで立てようか。ジョゼット、客間の片付けを頼む」


「えっ……そのホールに、閣下も泊まっていただくのではないのか?」


 話を振られたジョゼットが、村長さんにそう問い返す。


「うちで話をすることもあるだろう。だから、頼んだ。俺は戦士達を動員する」


 村長さんのそんな言葉にジョゼットが嫌そうな顔をしたが、片付けは村長さん宅の問題なので私は無言を貫く。


 そして、村長さんが戦士達を集めている間に私はホワイトホエール号に向かい、運動ホールの設置用端末を購入。すぐさま村へ戻って、村長さんの指示で村の南に運動ホールを設置した。


「でけえな!」


 近代的なホールを前にして、村長さんが叫ぶ。まあ、運動する部分だけで、バスケットコート二面分はあるからね。


「そもそも、村に集会場がないのがおかしいんだよ」


 私のその言葉に、村長さんが渋い顔をして言う。


「集会場か。建てねえとなぁ」


「何かあったときに、集まれるだろうし」


「そうだなぁ。建てるとしたら、雪がなくなった春以降になるが」


 雪か。魔道具職人兄妹のときにもマリオンがそんなことを言っていたね。

 私は日本の関東育ちだから雪には馴染みがないけど、どれだけ積もるんだろう。


 これから訪れる冬を想像して、ちょっぴり雪が楽しみになってきた私だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔石の方が良いなぁってのは交易を考えるべきかぁ。ちゃんと商人しようって話かw 酒の神かと思ったら共産主g(信仰が得られない自己矛盾を秘めた神) まーた面倒そうな?
[一言] 祭りに飛び込み参加しに来た……とか?
[一言] >村に辺境伯閣下の使者が来たので、急いで客間を空けている。なんでも、村に閣下がやってくるそうだ  これででっかい施設を設置して。  なんか面倒事が起きそうなフラグが立った気がしますわ。  …
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