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なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第三章 なぎっちゃと魔法使い

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60.シリアスさん、どうかお帰りください。

 日もすっかり沈んだ夜のこと。寝間着に着替えて寝室で眠ろうとしていたところ、家の扉を強く叩く音が聞こえた。


「なぎっちゃ、起きているか、なぎっちゃ!」


「はいはーい」


 扉の向こうで激しく叫ぶので、私は大声で返事をする。そして、私はアイテム欄からカーディガンを取りだし、寝間着の上に羽織った。

 扉を開けると、そこには村長さんと、村の鍛冶屋さんが肩で息をしながら立っていた。夜中だというのに、ランプすら持っていない。

 彼らは『Lv.8』の超人。それが息を切らすとか、ただごとではない。


「どうしたの?」


 私がそう尋ねると、鍛冶屋さんが前に出て、言った。


「なぎっちゃ、頼む! 神の奇跡を与えてくれ!」


「いや、本当にどうしたのさ」


 急に奇跡とか言われても、何がなんだか。

 私が目を白黒させていると、鍛冶屋さんの後ろから村長さんが言った。


「死者復活の秘術を使ってほしい」


「!? どうしたの、魔獣に誰かやられたの!?」


「そうじゃねえ。死んだのは、生まれたばかりの赤子だ」


 まさかの言葉に、ぎょっとしてしまう私。

 すると、鍛冶屋さんがしどろもどろに言う。


「俺の子が、逆子で、息がなくて、それで……」


「大変だ! 急いで向かうよ!」


 鍛冶屋さんの奥さんは、臨月を迎えていた。

 彼女は名前を何にしようかと嬉しそうに話していて、私も彼女から「名前の候補を出してくれないか」などと言われていたのだ。


 以前イヴに聞いた話によると、この世界では死産の確率が日本と比べてかなり高いようだ。産婦人科なんてないし、衛生環境だってよくない。

 でも、村にはポーションが豊富にあるし、魔法使いの私もいるから大丈夫だろうと、奥さんは笑って言っていた。


 その奥さんが懸命に産んだ新しい命、救わずになんとする。

 私は、玄関に立つ村長さん達を押しのけ、家の中から出た。


「うお、なぎっちゃ速え!」


「うおー、うなれ、『Lv.101』の素早さ値!」


 私は寝間着にカーディガン姿のまま、月明かりに照らされた夜の村を駆け出す。村長さんが後ろで何か言っているが、今は無視だ。


 試していないから確定ではないが、おそらく私の蘇生魔法は、病死には効果がない。ダメージを受けてHPがゼロになった人を蘇らせるためのゲーム的な魔法だからだ。

 なので、厳しい開拓村の生活で子供が重病を負ってしまっても、私の状態異常回復ポーションが通用しなかったらどうしようもないと、村長さん達にはあらかじめ伝えてある。


 でも、今回は逆子による死産。死因は、出産時の外傷か窒息あたりが考えつく。つまり、身体に直接的なダメージを受けて死んだわけだから、魔法で蘇る可能性が高い。

 蘇生魔法のタイムリミットは、死亡してから一時間。赤ん坊が亡くなってからそんなに経ってはいないだろうから、私が急げば十分間に合うはずだ。


「お邪魔するよ!」


 鍛冶屋さんの家に着き、私は部屋の隅に置かれたベッドに駆け寄る。


 ベッドの横には、マリオンが力なく床に座りこんでいる。彼女も魔法を試したのかもしれない。

 ベッドの上には奥さんがいて、その腕の中には動かない赤ん坊の姿が。


「その子だね!? 蘇生魔法、行くよ!」


「ああ、なぎっちゃさん……頼みます……」


 奥さんが、疲労困憊といった様子で赤ん坊をこちらに差し出してくる。

 その赤ん坊に向けて、私は魔法を唱えた。


「≪リザレクション≫!」


 赤子の周囲に光が舞い、魔法が正しく発動する。

 じっと見守っていると、赤子の手が動いた。初めて人間に向けて使った蘇生魔法、ちゃんと成功した!


 はっ! そうだ。大賢者の≪リザレクション≫は、瀕死の状態で蘇生する魔法。聖職者系の職業(クラス)が使う魔法みたいに、HP全快の状態で蘇生するわけじゃない。


「≪ヒーリング≫」


 回復の魔法を追加でかけると、赤子は息を吹き返し、大きな声で泣き叫び始めた。


「はー、よかった」


「……なぎっちゃさん……ありがとう……」


「奥さんは体力が尽きている感じだね。『Lv.8』なのに、どんだけ大変な出産だったのやら。≪バイタライズ≫」


 私は、ST(スタミナ)を回復する魔法を奥さんに使う。

 すると、ぐったりしていた奥さんに、活力がみなぎっていったのが目に見えて解った。


「わっ、ああ、すごい。あんなに苦しかったのに……」


「体力があまりすぎて今夜は眠れないかもしれないけど、赤ちゃん見守るならそれくらいでいいでしょ」


 と、そこで家の扉が勢いよく開かれた。村長さん達が到着したようだ。その村長さんが、家に足を踏み入れると同時に叫ぶ。


「なぎっちゃ、どうなった、ってうおお、生き返ってる!」


「うん、成功してよかったよ」


 しかし、せまい家に人が寿司詰め状態だね。私と村長さん達だけでなく、産婆の人達もいるし、マリオンもいる。

 というかマリオン、呆然としているね。


「マリオン、大丈夫?」


「……ああ、うん。だいじょぶ。ちょっと、魔法が通用しなくてショックを受けていただけ……」


「仕方ないよ。魔法も万能じゃないからね」


「でも、なぎっちゃの魔法は効果あったわ……」


「私の魔法は、魔法神としての権能だから。いわゆる神の御業(みわざ)。人の力で届く領域じゃないから、気にしちゃ駄目だよ」


「そうだけど……」


 ま、こればかりは、私がなぐさめてもどうしようもないか。

 他の人にフォローを頼むとしよう。


「なぎっちゃ、ありがとう、本当にありがとう……」


 鍛冶屋さんが涙を浮かべてそう言ってきたので、私はただ無言で彼の肩を叩いた。


 さて、部屋もせまいので、邪魔者は帰りますかね。面と向かって住人にせまいなんて言えないけどさ。


「それじゃあ、私はもう帰るよ。もう夜も遅いからね」


 私がそう言うと、村長さんが前に進み出てきて言う。


「すまねえなぎっちゃ、料金は明日請求してくれ」


「命に値段はつけるのは難しいねぇ。蘇生を商売にするのはちょっと違う気がするし、お気持ち分、貰えればいいよ」


 そう言って、私は家の扉を開く。

 そして、家を出たところで、私はその場にしゃがみ込んだ。


「はあー……」


「どうした。ため息などついて」


 と、横から私に声をかける者が。

 顔を上げると、月明かりに照らされたベヒモスの姿があった。ベヒモスは村に滞在中の神の一柱だ。


「ヤモリくんこそどうしたの、こんなところで」


「新しく生まれ来る命に祝福を与えに来たのだが、それどころではなかったようでな。入るのを控えていた」


「空気の読める神様だこと……」


 一国の主神をやっているだけあって、そこらへんの機微はしっかりしているんだろうか。意外と言えば意外だ。最初は無神経な俺様キャラだと思っていたけど、最近そういうのとはちょっと違うって解ってきた。


「そなた、命を一つ救ったというのに、ずいぶんと憂鬱そうではないか」


「いやー……、死者蘇生なんて自然の摂理に反することをして、本当によかったのかなって思って」


「なんだと? くくく……ふはははは!」


「あ、こいつ。笑ったな」


 ふははって笑う奴、こいつ以外に見たことないよ!


「笑わずしてなんとする。自然の摂理? そのようなもの、神の存在の前には塵芥(ちりあくた)のようなものだぞ」


「ええー……」


 何その俺様理論。やっぱりこいつ、俺様キャラか?


「自然の摂理など、しょせん地上界の仕組みでしかない。だが、我々天上神はどうだ? 地上界よりも上にある尊き世界から落ちてきた強大な存在だ。そのような者が、なぜ地上界のルールに縛られねばならん」


「んー、そういうものなのかな?」


「そういうものだ。神は、自然の摂理にも、人間の法にも縛られぬのだ」


 うーん、言いたいことは解らないでもないけど、郷に入っては郷に従えともいうしなぁ。

 そんな私の心の内を察したのか知らないが、ベヒモスは「しかしだ」と言って、自分の意見をひるがえす。


「だからといって好き勝手しているようならば、他の神に滅ぼされるがな」


「……だよねー」


「暴れ回る神は天災のようなもの。そして、人は天災を乗り越える。天災となった神は、人と神の手によって滅ぶのだ。我は、それを九百年前に学んだ」


 初対面のベヒモスは、私相手に暴れ回っていましたけどー。

 などと揚げ足を取ることはせず、私は別の言葉を口にした。


「九百年前ね。何かあったの?」


「話してもよいが、長くなるぞ。そなた、その格好で聞くのか?」


 私は自分の服を見下ろす。やっべ、寝間着姿じゃん。

 カーディガンを羽織ってはいるけれど、夜中に男の人と会う格好じゃないね。


「また明日にでも改めて聞くよ……」


「ふむ、そうするか。では、我は赤子に祝福を授けてくることとしよう」


 ベヒモスがいなくなったので、私は立ち上がり、家路につく。今度は走らず、歩いてだ。

 月明かりが道をわずかに照らしており、私は魔法の照明も使わずにゆっくりと進んだ。


「今回は勢いまかせで蘇生魔法を使ったけど、今後、村が大きくなって私の手に収まらなくなってきたら、どうすんだろうね、私」


 その答えは、今の私の中には存在しなかった。


なぎっちゃの異世界満喫生活の連載を始めて一年が経過しました。

二年目も引き続きよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 一周年おめでとうございます! あんど新年あけましておめでとうございます! 自然の摂理……うーん。自分ルールに反しないかどうかにするべきなんだろうね。 何より、目の前で泣く人置いて、出来るの…
[一言] 雑貨屋が聖地になりそうだな(゜ω゜)
[良い点] 更新乙い [一言] よろずや:蘇生有り〼 まぁ、どうにもならないからある程度納得がいくのだろうし どうにかなる手段があったら、納得しないだろうなあ
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