55.MMOのパーティー狩りは精算も大事。
さて、ただの瓦礫となった天空城だが、このまま放置して村へと帰還……というわけにはいかない。なにせ、あの瓦礫の中には、死者をアンデッド化する神器が眠ったままなのだ。
他にも、ヘルの存在を察知した神器があるかもしれないし、天空城の中枢機関みたいな物があるかもしれない。
というわけで、地上に降り立ったのだが……。
「この中から神器を探すのかぁ。……無理じゃない?」
見事な瓦礫の山を前に、私は即座に降参をした。
こんなん探すの無理ですやん。
「なんだ? そなた、力の探知は苦手か?」
ベヒモスが、何か得意げな表情で尋ねてくる。力の探知ね。魔力でも感じ取るのかな。
「苦手というか、そういうこと全くできないね」
「そうか。仕方ない。我が代わりに神器を探してやろうではないか。そなたの代わりにな!」
「あー、うん、よろしくね」
「ふはは、手に取るように解るぞ!」
微妙にマウント取りにくるのがウザいな、このヤモリ……。
そんなウザヤモリに先導されて、私達は一同そろって瓦礫の山を進み始める。
もしかすると、生きているゴーレムやアンデッドがいるかもしれないので、警戒はおこたらずにだ。マップ機能では、アクティブモンスターを示す赤点はないけどね。
「ふーむ、おお、これは何じゃ? お宝か?」
ヘスティアが、瓦礫の中から何か見つけたのか、持ち上げてみせた。
あっ、それは……。
「それ、こっちにもあるよ」
「私も見つけましたわ」
次々と何かを見つける神々。それは、バレーボールサイズの輝くキューブ。
「あー、それ、私の能力で変換された、ゴーレムかアンデッドの素材だね」
「素材? なんじゃ、そのよく解らん権能は?」
キューブを抱えながら、ヘスティアが首をかしげる。
うーん、なんと言ったらいいか。
「たとえば角狼を倒したら複数のキューブになるんだけど、私の手元にきたら毛皮や牙、肉、魔石といった素材に変わるの。解体しなくても素材を手に入れられるっていう、便利能力だね」
「はー、それはまた、狩人垂涎の権能じゃのう」
「ちなみにそのキューブの中身はー……」
私は、意識を集中してキューブを探る。ちょうど、MMORPGでキューブをターゲッティングする感覚だ。
「アンデッド兵の心臓だって」
「うわっ、ばっちいのじゃ!」
ヘスティアは、あわててキューブを床に投げ捨てた。
「この立方体がそこらに転がっているってことは、やっぱり城内はゴーレムとアンデッドでひしめいていたみたいだね」
バックスも、手に持ったキューブをポイッと投げ捨てながら、そんなことを言った。そんなバックスに私は答える。
「そうだね。正直、全部回収してなんていられないから、無視していこう。三十分もしたら自然消滅するから」
「立方体が素材に戻るってこと?」
「いや、虚空に溶けてなくなるよ」
そのあたりは、魔獣の素材で実験済みだ。
「消えてなくなるのかぁ……魔力に変換されているのかな?」
バックスが、足元のキューブを蹴りつけながら言った。うーん、ぞんざい。まあ、ただの素材だからお宝感は無いよね。
しかし、支援爆撃で倒した敵がキューブになっているってことは、本当にホワイトホエール号が攻撃しても、私が攻撃した扱いになっているんだなぁ……。
そんなことで時間を取られつつも、私達は瓦礫の中にできた大穴に到着した。
イヴが支援砲撃で開けた穴だ。今も砲撃の熱は冷めていないのか、もうもうと蒸気と煙が上がっている。
その穴の中央には、キューブと、何か光り輝く丸い物体、そして鈍く輝く大剣が鎮座している。
私は≪サイコキネシス≫の魔法で一人飛び、それらを回収してから、皆のもとへと戻った。
「キューブは……『リビングデッド・オニャンコポンの外皮』『リビングデッド・オニャンコポンの肉』……あとで処分しておこう」
「うへー、なぎっちゃ、ばっちいのじゃ」
うん、私もそう思う。ゲーム時代はアンデッドを退治して素材で稼いでいたものだが、現実ではやりたくないね。
「で、こっちが……神器かな」
光り輝く丸い物体。私は、ダンジョンの未鑑定品を調べる≪鑑定≫の技能で、その神器らしき物を探る。
すると、出てきた名前は……。
「『冥府の宝玉』だって。死体からアンデッドを生み出す神器で間違いないよ。こっちの剣は『夜明けの大剣』。切断に特化した剣だってさ」
「『冥府の宝玉』……これは、他者の手に渡らないよう、厳重に管理しておく必要がありますね……」
神妙な顔で、マルドゥークが言った。
ふぬん? 管理?
「処分しないの?」
「処分とは? 神器とは、基本、壊しても再生するため、処分不可能な代物ですが……」
「えー? でも、天空城は壊れたよね?」
「バベルの正体は、建造物を浮かせるための神器です。人間が建てた城を要塞化して浮かせていただけですよ」
「あっ、そうなんだ……」
「ちなみに私のマンジェトは船そのものが神器ですので、たとえ攻撃を受けたとしても、びくともしませんよ」
マルドゥークが得意げに、そんなことを言った。なるほど、マンジェトと天空城では、在り方が違うんだね。
「マルドゥーク達が処分できないなら、私が処分していい?」
「そなた、まさか神器を破壊できるのか?」
ベヒモスが、ちょっと驚いた表情で尋ねてくる。
うん、破壊できちゃうんですよね。
私は、システムメニューの中から『スターショップ』の項目を選択する。
すると、目の前に課金アイテムを購入するためのショップページが開く。
それをバックス以外の皆がじっと見つめている。バックスには、ここまでは以前一度見せているね。
さらに私は、課金用の仮想通貨であるスターコインのチャージボタンを押す。
魔石の投入画面が開いたので、私はそこへ先ほどの神器を放り込んだ。
『スターコインがチャージされました』
そんな表示と共に、スターコインが十二万ほど一気に増えた。おおー、すごい。魔竜の魔石六百個分だ。
それだけの力が、神器には込められているってことだね。
「うわ、本当に処分できちゃったね」
バックスがおどろきというか、ドン引きといった表情で言ってきた。
「前に私の『魔獣の大鍋』を処分できるとおっしゃっていましたが、こういうことだったのですね」
ヘルは納得の表情でそう言ってくれる。
すると、バックスがギョッとした表情で私に向けて言う。
「『魔獣の大鍋』、処分していないよね?」
「してないよー」
「よかった、魔獣と魔石は、僕の国にとって大事な資源なんだ。今後も処分はしないようお願いするよ」
そんな会話をしている一方で、マルドゥークとベヒモスが「なぎっちゃに頼めば、あれを処分できるのでは?」などと話し合っている。
うん、いらない神器があるなら受け取り大歓迎だよ。スターコインに替えてガチャを存分に回せるからね!
そして、『夜明けの大剣』の方は、オニャンコポンを倒した私の戦利品としてよいとのことで、とりあえず倉庫に突っ込んでおいた。
さて、やっかいな神器は無事に処理できたので、次の神器を探しに行くことにする。
先ほどのマルドゥークの話を聞くに、天空城には中枢機関があるはずだ。
城を浮かせるための神器。それをベヒモスの案内で探しにいく。
そして、天空城中枢の神器は、あっさりと見つかった。
瓦礫の山の上に、ぷかりと浮いていたのだ。
それは、人間ほどのサイズがある結晶状の物体。
「どうすんの、これ」
私は、≪サイコキネシス≫で神器を手元に呼び寄せながら言った。
すると、一同は困った顔で悩み始めた。
「ヤモリくん、いる? あんた、国の守護神でしょ」
「城が空に浮いたからといって何になるのだ。竜しか訪問できなくなるではないか」
「そうだよね……戦争用の移動要塞くらいにしか使えないよねぇ」
まあ、これは保留だ。倉庫に突っ込んでおこう。
よし、次!
最後に見つけ出した一品は、謎の水晶玉。
みんなに見たことあるかと聞いてみたが、誰も知らないと言う。
「≪鑑定≫で調べてみるよ」
本当、ゲーム時代は役に立たなかった技能なのに、異世界に来た途端、大活躍だね。
「失せ物探しの神器『鷹の目』だって。これでヘルの居場所を探しだしたのかな。オニャンコポンがヘルヘイムに攻めてきていないってことは、異次元にある物は探せないんだろうけど」
「失せ物探しか。地味に便利そうじゃな」
「それがあれば、使用人を総動員して屋敷中を探さなくて済みそうですわね」
ヘスティアとヘルが、そんな感想を述べた。
「ヘル、屋敷に一個置いとく?」
「そんな、受け取れませんわ! 私は助けていただいた側。利益を横からかすめ取るようなことは、できません!」
ヘルが、必死に首を横に振って私の提案を拒否した。
なんだ。せっかくだから貰っておけばいいのに。
扱いに困っていると、マルドゥークが私に提案してくる。
「他の神との交換用に取っておいてはいかがでしょうか。自分の神器を手放してでも、その神器が欲しいと言い出す神もいるかもしれません」
「なるほど、じゃあこれも倉庫に保管っと」
こうして、私は戦利品として三つの神器と大量のスターコインをゲットした。
さて、リザルトはこんなところだが……。
「私だけ戦利品をゲットするのも悪いよね。それじゃあ、特別に私の権能のお店で買えるアイテム、みんなに『2000SC』分ずつ買ってあげるよ」
私がそう言うと、バックスが「やったあ!」と歓声を上げた。
バックスの喜びように、ヘスティアが「そんなによいものなのか?」と尋ねる。
すると、バックスは私のスターショップのラインナップのすごさを皆に語り始めた。
うん、話す内容が売っている酒の話ばっかりで、伝わってないね。
私は仕方ないので、スターショップを開いて皆に商品を見せていった。
「おお、これは欲しいのじゃ」
「すさまじい宝物がそろっていますね……」
「どのお酒にしようかなー」
「えっ、私、助けてもらった側なのに貰ってしまっていいですの……?」
ええよ、ええよ。ここにいる全員、二千円ずつ持っていきんしゃい。
「わ、我もよいのか?」
ベヒモスが、遠慮がちにそんなことを言う。
「うん、ヤモリくんは最初に身体張ってくれたからね。いいよ」
「おお、そなた、部下のねぎらいかたをよく解っておるではないか」
別にベヒモスを部下にしたつもりはないんだけどなぁ……。
そういうわけで、マンジェトに戻った私達は、開拓村に戻りながらそれぞれの購入品を決めていった。
バックスは、迷わずに大量の酒を購入。
消費アイテムなので一個あたりの値段が安く、大量買いが可能だった。ちなみにペガススは物欲がないらしく、報酬は辞退していたよ。
マルドゥークは、身代わりの御守りを九個と、ハウジング用の特製植物栄養剤を五十本。
御守りは自分の身を守るために五個所持し、残りを腹心の部下に下賜するつもりらしい。
ヘルは、身代わりの御守りを一個買い、残りのスターコインで装備の耐久度を完全な形で取り戻す『特製武具修理剤』を買える分だけ買った。
六百年の年月で使用人達の武具が傷んでおり、これを使って修復してやりたいとのこと。ええ子や。
ベヒモスは、装備品を一段階強化する『祝福の霊水』を十個。
自分が所持している神器をこれで強化するつもりらしい。その発想はなかった。私の神器も後で強化しておこう。
ヘスティアは、マウントを呼び出す召喚魔法を覚える『魔法習得書≪サモン:ミニドラゴン≫』と『魔法習得書≪サモン:ユニコーン≫』の二つ。
これらの召喚魔法は、職業についていなくても習得可能なので、彼女でも召喚獣を呼び出せるようになるはずだ。
「こやつがいれば、快適な旅ができるのじゃ!」
「ヘスティア、もう旅に出ちゃうの? 寂しくなるなぁ」
ミニドラゴンを呼び出してご満悦のヘスティアに、私はそんなことを言っていた。いつか旅に出るのは解っていたけど、別れは辛い。
「まだまだ村にはお世話になるのじゃ。じゃが、空を駆けるなら、近場の村々をまわってみるのもよいかもしれんな」
「そっか。ミニドラゴンがいれば、すぐに戻ってこられるもんね」
そんなやりとりをヘスティアとしていると、バックスがペガススに「もう便利な足に使われることはなくなりそうだよ」などと言っていた。
ミニドラゴンは、ペガススほどの速度は出せないだろうから、それはどうだろうなぁ。
そういうわけで精算タイムは終了。オニャンコポンと天空城バベルは完全に滅んだ。
村にも被害はなく、私達は日常へと再び戻っていくことができたのだった。
◆◇◆◇◆
オニャンコポンとの戦いから少し経ったある日、私のもとに村長さんが訪ねてきた。
「辺境伯閣下から、なぎっちゃに手紙が届いたぞ」
「またぁ? 今度はなんだろ」
私はペーパーナイフで封蝋を破り、中から便せんを取りだした。
その内容はと言うと……。
まず、時勢の挨拶が長々と続き、その次に、『戦勝おめでとうございます』と謎の言葉が書かれていた。
読み進めると、オニャンコポンとの戦いについてらしく、『天空城バベルがなくなったことは非常に喜ばしい』とつづられていた。
その後、私の戦果をたたえる言葉が続き、最後に『辺境伯家とそれに連なる貴族家は、あなた様に敵対の意思がないことを改めて伝えさせていただきます』と締められていた。
私は、それを微妙な表情で読み切り、村長さんに便せんを渡した。村長さんはそれを読み始める。
「……がはは! 辺境伯閣下も、なぎっちゃの扱いには困っているようだな!」
「『も』って何さ、『も』って。村長さん、私の扱いに困っているの?」
「そりゃあ、ある日突然、おとぎ話の天空神を倒してきたなんて言われたら、扱いにも困るわな」
「あれは友達を助けるために、仕方なくやったんだよ。私本人は、村で平和に過ごすことしか考えてないよ」
「そうだと嬉しいんだがな。まあ、辺境伯閣下の心労も解ってやってくれ」
「私以外の神様も村に滞在しているし、辺境伯の気持ちは理解できないでもないけどさ」
胃に穴とか空いていそう。よく効くポーションでも、差し入れしてあげた方がいいかなぁ?
そんなことを考えながら、私は雑貨屋の仕事に戻るのであった。開拓村は、今日も平和だ。
以上で第二章は終了です。第三章『なぎっちゃと魔法使い』に続きます。
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