29.酒は飲んでも飲まれるな。それはガチャも同じ。
バックスとペガススが見守る中、私はガチャのページを開いて精神を統一する。
よし、『3000SC』で十一連ガチャを実行っと。
「うわっ!?」
『なんだ!?』
「お、おお。ガチャの祭壇だ……」
実行ボタンを押した瞬間、屋台の横に祭壇が現れた。これは、MMORPGでガチャを回すときに表示されていた演出画面のやつだ。まさか、空間に投影されていた画面内でなく、現実に現れるとは……。
そして、驚きが収まる間もなく、祭壇が光り、ガチャの演出が行なわれた。
祭壇から光の柱が立ち上り、祭壇の上にアイテムが出現する。
『高速移動ポーション×5が当たりました』
そんな女性の声が聞こえ、祭壇の上に現れた五本の小瓶がキラキラと光る。
そして、自動でアイテム欄が開き、祭壇の上のポーションがアイテム欄に飛びこんでいった。
そして、再び祭壇が光り、ガチャの演出が行なわれる。十一連ガチャだから、これをあと十回繰り返すのか。
『アダマンタイトインゴット×10が当たりました』
「おっ、ガチャ限定金属。この世界じゃ補充できないから助かるわぁ」
『むっ、物凄い力を感じる金属だな。これで馬上槍を作れば、どれほどの威力となるか……』
ペガススはアダマンタイトに興味津々のようだ。
でも、アダマンタイトは重たいから、馬上槍なんて作ったら常人では持ち上げられないんじゃないかなぁ……。
そして、再びのガチャ演出。だが、今度はただの光の柱ではなく、祭壇が虹色に輝いている。
「こ、今度は何!?」
バックスが祭壇の輝きにひるんでいる。そんなバックスに向けて私は言った。
「レア演出だよ! 珍しいアイテムが出る予兆!」
「まさか天国のワインが!?」
「いや、それはレアじゃないと思う……」
『ゴシックメイドドレスが当たりました』
わー、アバターコスチュームだぁ。ゲーム時代は嬉しくても、針子に任せればいくらでも服が作れる今となっては、何も嬉しくなーい。
「変わったドレスだけど、何かすごい効果があるの?」
「いや、アバターコスチュームだから、防御能力はゼロだね……」
「……どこが珍しいアイテム?」
「それを言われると辛いわぁ」
そんな会話をしている間に、再びガチャが回る。
『天国のワイン×10が当たりました』
「き、来たああああああ!」
狙いのアイテムの出現に、バックスがガッツポーズをする。
うーん、誰も飲ませてあげるなんて言っていないのに。いや、意地悪する気はないから一本くらいはあげるけど。
「なぎっちゃー! さっそく飲もうよ!」
「あー、はいはい、十一連終わってからねー」
『天国のワイン×10が当たりました』
「わっ、さらに来た! 今夜はなぎっちゃと存分に飲み明かせるよ!」
村に泊まっていくつもりか。
まあ、私自身、居候の身だから、とやかく言える立場ではないけど。
『天国のワイン×10が当たりました』
「お土産の分まで来たー!」
いやいや、さすがに持って帰る分は、無料で渡す気はないぞ。
天国のワイン一本あたり、『100SC』分くらいは魔石を持ってきてもらおうかな。
そして、その後もガチャ演出は続き、十一連ガチャは終わった。レアアイテムとして騎乗生物の召喚魔法習得書が当たったが、空を飛べる種類でもないので、今後私が使うことがあるかは怪しい。
なにせ、馬車用に二頭馬を飼っているからね。この世界に来てから現地で買った馬だが、手放す気はない。賢い子達で結構可愛い。
『ガチャ十一回目の景品として、魔法習得書≪グラビティゾーン≫が贈られます』
ガチャの演出とは違うエフェクトで、祭壇の上に書物が現れた。
おお、とうとう来たね、重力魔法! 果てなき空への挑戦が始まるよ!
「終わった? じゃあ、これから酒宴だ! ちょうどいい広場だし、騒ぐのによさげだね!」
バックスがそう叫ぶと、ガチャ演出の光の柱を見て集まってきていた村人達から、「宴か?」という声が聞こえてくる。
「あー、バックス、酒宴を開くにしても、天国のワインは村人全員に行き渡らせたらすぐになくなるよ」
「美味しいお酒はみんなで楽しみたいけど、さすがに村全体に振る舞うのはもったいないね。ここは、僕の神器を出すから、村人達にはそれで我慢してもらおうかな」
バックスがそう言うと、以前、中央神殿に同行していた戦士の一人が、「バックス様の神の酒が飲めるぞ!」と周囲の村人達に向けて言った。
そして、皆が村長を呼んでこいだの、神官様を呼んでこいだの騒ぎだした。
「いやー、どんな味がするんだろうね、天国のワイン」
バックスは周囲の騒ぎを気にすることもなく、そんなことをのんきに言っている。
うーん、このマイペースさよ。これが二千年を生きた神の余裕か。
そんなことを思っていたら、広場のすぐ近くにある神殿から、村長さんと神官さんが連れ立ってこちらにやってきた。
「これはこれは、バックス様。歓迎できず、申し訳ありません。よくぞお越しくださいました。本日は、なぎっちゃ様に御用でしたか?」
神官さんが、バックスに礼を執りながらそう言った。
「うん、酒との出会い勘が働いてね。珍しいワインが飲めることになったよ」
「それはようございました。それで、酒宴を開くと聞きましたが」
「そうだね。いきなりでお酒は用意できないだろうから、僕の神器から神の酒を出すよ。空いた樽はあるかな?」
「この前の祭りで大量の空き樽が出ましたが、全てなぎっちゃ様が回収しました」
神官さんの言葉を受けて、バックスがこちらを見てくる。私は、倉庫画面を開いて空き樽があることを確認した。
「あるけど、酒を入れるなら洗わないとね。村長さん、村人借りていい?」
「おう、構わねえぞ。村のみんなも、バックス様の神の酒が飲めるとあらば、喜んで協力してくれるだろう」
「了解。それじゃあ、みんなー! 今日は宴だよ! またお祭りみたいになるけど、手伝ってねー!」
私がそう言うと、さらに村長さんが周囲に向けて言った。
「今回は祭りじゃねえから、村から料理は出さねえ。食う物は、各自持ち寄ってくれ! ……で、いいよな、なぎっちゃ」
「うん、あ、でも私からはお肉を提供するよ。大量にあまっているんだ」
「魔竜の肉か?」
「いや、陸王獣っていう大型哺乳類の魔獣肉」
「陸王獣!? ……ああ、魔竜を倒せるならあれも倒せるか。なぎっちゃ、そいつの甲殻は高値で取引されているぞ。いい防具の素材になるんだ。傭兵憧れの防具だ」
へー。傭兵に売れるなら、村長さんに紹介状でも書いてもらおうっと。
そういうわけで、本日は宴だ。
天国のワインの味も気になるし、存分に楽しむことにしよう。
◆◇◆◇◆
「ひゃああ、天国のワイン、美味しいー」
天国に昇る味とは、本当のことだった。
ゲームのフレーバーテキストを現実の物にするだなんて、神器の力というのはすごい。ガチャ一回『300SC』、十一連で『3000SC』だから、このワイン一本は大雑把に言ってしまうと、『30SC』以下の価値しかない。
でも、この味は明らかに角狼六匹分の魔石以上の価値があるように思えた。
「これは……すごいね」
あまりの美味しさに、バックスも絶句している。
神器から出る美味しいワインに慣れた私だけど、それ以上の味だった。ただ、酩酊度上昇効果があるので、飲み過ぎたらがっつり酔うのが問題点かな。私という神器から産出した酒だから、飲んでも身体に悪くないのは神の酒と同じようだけど。
「この美味しさは、何かヤバイ薬でも混じっているのかってくらいに、幸せな気分になるねぇ」
「あはは、さすがに薬は混じっていないみたいだよ。混じっているのは、創世の力だね」
バックスが笑いながら、私の台詞にそう言葉を返した。
「創世の力が混じっていると美味しいの?」
「そうだね。料理神が言うには、創世の力が変換された味には美味しさの限度がないらしいよ。舌で感じているのではなく、心で感じるらしい」
「心で感じる……脳に直接快感をぶち込まれているのかな。ヤバイ薬に似ている仕組みだなぁ」
「人体に悪影響はないから安心しなよ」
私の権能で出てきた酒なのに、私より詳しいな、この神様。さすがは酒の神様と言われるだけあるよ。
「それにしても、身体の底から力が湧いてくるよ。なぎっちゃが言っていた通り、魔竜でも殴り殺せそうだ」
「魔竜の生息地に行きたいなら、いつでも転移魔法で送るよ」
「本当!? じゃあ、行こうか!」
「えっ、今から?」
「能力の上昇は一時的なんだろう?」
「うん、一時間だけだよ」
「じゃあ、一時間以内に魔竜討伐だ!」
なにやら、そういうことになった。
そして……。
「えー、皆様、これがバックスの狩った魔竜です。拍手ー」
村の広場に、巨大な魔竜の死骸が鎮座している。
頭部は半分えぐれており、翼も根元からポッキリと折れている。
バックスは戦い方がとても上手かった。
空にいる魔竜を全身の動きで挑発して突進を誘発し、ひらりとかわして背に乗り、翼を最初に潰した。そして、両足を破壊し、動けなくなったところで頭部に渾身の一撃を叩き込んだ。
HPのみが存在するゲームのモンスターと違って、この世界の魔獣は特定の部位や急所を狙えば、楽に戦いを進められると学べたのは、いい勉強になったね。
「で、どうすんの、この巨体」
魔竜を囲んで騒いでいる村人達を尻目に、私はそんなことをバックスに尋ねた。
村に置いてかれても困るぞ、こんな物。
「できれば王都に持ち帰って解体ショーでもしたいんだけど……なぎっちゃ、運んでくれない?」
「んもう、しょうがないなぁ……」
そういうわけで、酒宴を楽しんだ翌日、私は魔竜の死骸をアイテム欄に入れ、バックスとペガススの二人と一緒に王都へと転移。
王都の広場で即日魔竜の解体ショーが行なわれ、王都でも酒宴が開催された。
バックスが「神官達に天国のワインを飲ませて、神器の酒杯から湧き出る酒以外にも美味しい酒があることを勉強させたい」と言うので、大量の魔石と交換で天国のワインを売り払った。
天国のワインも、私という一種の神器から湧き出た神の酒みたいなものなんだけどね。酩酊度の処理がゲームと同じなので、飲み過ぎたら普通に酔っ払うけど。
そして、天国のワインを飲んだ僧兵の長が能力上昇効果に目をつけて、戦闘に使えると言いだした。だが、バックスは天国のワインの備蓄を許さず、この場で全部飲むことと命令した。
まあ、能力上昇値の高さは、もしかすると神を殺せるくらいあるかもしれないからね。バックスが個人的に持っていった分の管理は、厳重にしてほしいものだ。
そうして王都でも楽しい宴の時間は過ぎ、私は満足して村に帰っていった。
『王都にドラゴンの素材が流れてしまったので、この国でドラゴン関連の商売をするのは難しそうですね』
「あっ、そうじゃん! 鱗とか牙とか売れない! イヴ、早く言ってよー」
『あの場で水を差すのも悪いと思いまして』
バックスはノリノリだったもんね、ドラゴン退治。
ま、ドラゴン素材の処分先は、やっぱりホワイトホエール号のショップかな。今後も魔石を集めたり経験値を稼いだりすることを考えたら、あまる一方だからね。
そして、またスターコインが貯まったら、課金アイテムショップで売っている酒を買うのも悪くないかもしれない。
バックスがその存在を知ったらまた騒いで宴会に発展するかもしれないけど、私は飲み会が元々大好きだ。
異世界に来た当初は不安でいっぱいだったが、愉快な仲間達がいっぱいできて、毎日を面白おかしく過ごせている。
この世界と地球との在り方から考えて、私は地球に戻ることはできないだろう。
だから私は、この世界で楽しく生きていこう。それこそ、酒でも飲んで気軽に、ね。
以上で第一章は終了です。第二章『なぎっちゃと世界の神々』に続きます。
なお、第二章は不定期更新となる予定です。
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