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なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第一章 なぎっちゃと酒の神様

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22.会社の飲み会が嫌いって人はよくいたけど、私は飲み会大好き。

 皆に神の酒が配られ、村の戦士達はテーブル席へ適当に座った。

 私は、神官さんとバックス神の二人と一緒に、部屋中央にあるテーブル席に座っている。


 私の前には、バックス神の神器から湧いて出てきたワイン入りのコップが置かれている。

 神官さんとバックス神には、私が用意したロックグラスに、丸い氷を入れて私の神器からウイスキーを注いで渡している。

 そして、テーブルの中央には、金色に輝く神器の皿が置いてあり、皿の上にはウイスキー用のおつまみである高級チョコレートが載っている。


 バックス神はウイスキーを少しずつ味わいながら、チョコレートを食べてその複雑な甘さに驚きの顔を見せている。


「うーん、すごいね。まさか酒だけでなくおつまみが湧く神器があるとは……うらやましい限りだねぇ」


「正直、おつまみって縛りにしたのは失敗だったかもしれないですね。地球……天上界のことなんですけど、地球の料理が何でも出せる皿にしておくべきでしたね」


「もしかしてこの甘いおつまみ、天上界の品なのかい……? 料理神や緑の神がこのことを聞いたら、黙ってはいないよ。君の所に押し掛けるよ」


 バックス神が恐ろしいことを言う。

 緑の神ってあれだよね。狩猟生活だった人類に農作物をもたらした神様。料理にも興味あるんだ……。


「ところでなぎっちゃ様は、これらの神器をともなって天上界から降臨したようですが、この二つは天上界ではどのような物品だったのですか?」


 神官さんが私に尋ねてくる。まあ、神器を神以上にあがめる神殿の人としては、そこ気になるよね。


「酒杯は缶ビールっていう、金属缶にラガービールを詰めた物だね。無限におつまみの湧き出る皿は、磁器の白い皿とその上に乗っていたスモークチーズがもとだったかな」


「へー、金属缶にビールを詰めるんだ」


 バックス神が感心したように言う。


「うん、これくらいの大きさで」


 私は缶ビールのロング缶の大きさを手で示してみた。あの日に飲んでいたのは、福の神がトレードマークのお高めの缶ビールだったはずだ。


「アルミニウムっていう錆びにくい金属の缶に密閉することで、ビールの泡が揮発するのを防いでいるんです。で、飲み終わった缶は回収して再加工してまた新しい缶になる」


「なるほど、勉強になるよ」


 酒の神というだけあって、酒に関する技術には興味あるようだ。

 でも、アルミニウムの精製技術はこの世界にあるのかな? 確か電気とか使うんだよね。魔法でどうにかなるのかな?

 お酒以外ならスチール缶も存在したし、意外となんとかなるのかもしれない。


「しかし、持っている神器が酒杯とおつまみの皿というのは、なんというか僕の同類って感じがすごいよ」


 ああー、バックス神の神器も、酒が湧き出る木の杯だからねぇ。創世の力をどんな神器にするかは、力を手に入れた神本人が決めるので、その神の性格が露骨に出る。物騒な神なら、まず確実に武器を作るだろう。

 しかしだ、私だって、その物騒な神の一人なのだ。


「私の神器はこれだけじゃないですよ。あとは、地球におけるパソコンラック……えーと、テーブルと椅子と、その上に乗っていたパソコンって言う道具。それらはすでに一つの神器にしてあります。ホワイトホエール号っていう空を飛ぶ船で、イヴという子が操っていますね」


「おお、イヴ様ですか。あのお方も神を超えし神……なのですかな?」


 神官さんがそのように言ってくるが、イヴは地球で人格を持っていた生物ってわけじゃない。


「パソコンっていう超高度な絡繰り道具がこの世界で神器になって、人工知能っていう仮初めの知性を持つようになったの。イヴは神じゃなくて、喋る神器だと思えばいいよ」


「喋る神器ですか……」


「神器が喋るようになるのは特に珍しくないよ。僕のペガススは移動用の神器だけど、喋るし」


 おや、バックス神は他にも神器を持っているのか。


「ペガススって、羽の生えた馬ですか?」


 私がそう聞くと、バックス神が「よく知っているね」と答えた。


「神器の所有者は、自分の神器が天上界でどんな存在だったのかなんとなく理解できるんだけど、ペガススは天上界では鳥の羽だったみたい」


「そうなんですね。あと私が地球から持ち込んだ物というと、私が着ていた服と、箸っていう食器はまだ創世の力のまま残っていますよ」


「それは、早めに神器にしておいた方がいいよ。神器になっていない創世の力は、他の神に狙われかねない。なにせ、手つかずの創世の力は、好きな神器を作れるからね。まあ、服は服の神器、食器は食器の神器にした方が、より強力な神器になるけどね」


 へえ、そういう法則があるのか。先輩神の助言は助かるね。

 あ、そういえば、神器と言えば……。


「私がこの世界に落ちてきたときに、悪い邪神と戦闘になって殺しちゃったんですけど、戦利品があるんですよね」


 私は、倉庫に突っ込んでおいたアイテムを取り出す。

 それは、邪神を倒したときにドロップした神器だ。


 魔法が飛び出る木の杖と、あの老人姿の邪神には似合わないきらびやかなティアラだ。


「これは……黒い炎の杖と、女神アテナが生み出したアイギスだ。どちらも邪神ファーヴニルが所持しているはずの神器だね」


 邪神ファーヴニル。あの神のおじいさんを瀕死になるまでボコボコにして、魔導書のページに変えたときに表示された名前だ。

 私の職業クラス大賢者には、瀕死にしたモンスターを魔導書に取り込み、詳細ステータスとプロフィールを魔導書のページに刻む技能が存在する。いわゆるモンスター図鑑である。


 そのモンスター図鑑によると、邪神ファーヴニルは聖帝国アヴァロンの守護神である『光神アーサー』と敵対している邪悪な思想を持つ神で、聖帝国を滅ぼすために新たなる神器を求めていたらしい。

 神としての権能『占星術』で天上界から創世の力が落ちてくる場所を割り出し、祭壇を作ってずっと待ち構えていたようだ。そこに、私が落ちてきたと。


「どうしたらいいですかね?」


「神器は奪い取った者の所有物になるよ。神に法はないからね。もちろん、無秩序な奪い合いにならないよう、仲のいい神同士で約束事を決めたり、同盟を組んだりして略奪者に対抗している。邪神ファーヴニルは、女神アテナを殺して神器を奪い取った、やっかいな神だったよ。あの邪神が死んだのは喜ばしいね」


「私の所有物になるのですか……魔法は元々使えるので、正直、杖の方はそれほど必要がないのですが」


 ちなみにティアラの方は透明な防御壁が展開する、一種の防具である。

 アイギスっていうんだね。って、それ盾の名前じゃん。イージスの盾。


「神殺しを可能とする、強力な神器なんだけどねー……まったく、天上界の人間が超神になるだなんて……そんな存在が降臨するとか、前代未聞だよ」


「現在、なぎっちゃ様以外に三柱いる神を超えし神は、いずれも天上界では小さな生物であったとされています」


「大きさよりも存在の密度が重要だよ。より多くの情報を持った存在、つまり、知性を持っているだとか、天上界で価値のある物だとかが降臨した場合、より強力な神器や神になるんだ」


「天上界にある懐中時計がこの世界に降臨した三百年前から、この世界の時間はその時計が変じた神器に支配されるようになりました」


 バックス神と神官さんが交互に説明してくれる。

 世界の時間を支配する神器か。


「確か、『世界時計』ってやつですよね?」


「うん。時計でそれだよ。人間なんていう高度な知性を持った存在が、この世界に降臨したとなると……どれだけの力を持っているか、おそろしい限りだよ」


 あー、これは、ホワイトホエール号の詳しいスペックは今回言わない方がよさそうだね。

 パソコンなんていう高度な情報処理端末が変じた神器なんて、『世界時計』どころじゃない。

 時計機能なんて、パソコンについている機能のごくごく一部でしかないのだ。


 その後、神器から創世の力を取り出す方法なども尋ね、スケールの大きな話は終わる。

 話すこともなくなり、私達はしばらく無言で酒を口に運んでいった。


「……そうそう、君のことだけを一方的に聞くのも不公平だし、僕の出自も語っておこうか」


 バックス神がウイスキーをグラス半分飲み終わったと同時に、そんなことを言いだした。


「僕は元々、二千年以上前に生きていた酒蔵の息子だった。まあ、普通の人間の子供だね」


 二千年以上前の酒蔵か。地球でも、ビールの歴史は長いっていうね。


「酒蔵といっても、今と比べたらもっと原始的な酒造りをしていたね。ある日、そんな僕の真上に天上界から創世の力が降臨したんだ。力を吸収した僕は神になり、残った創世の力は神器の酒杯になった。創世の力は天上界では熟した果実だったようで、酒と相性が抜群でね。僕の神器は、神の果実酒を無限に湧かせることができる」


 果実酒限定なのか。だからあの門番をしていた僧兵やバックス神が、ウイスキーの神の酒で喜んだわけだ。ウイスキーは穀物が原料だからね。


「つまり、君の神器は僕の神器の上位互換だね。果実酒以外の神の酒を飲みたくなったら、たかりに行くね」


 うわぁ……。まあでも、いくらでも出てくる酒を対価にこの国の主神の庇護を得られるなら、結構お得なのかな?

 そして、ふと疑問に思ったことがあったので、バックス神に尋ねてみる。


「でも、なんで果実一個分の創世の力を全部自分に吸収しなかったんです? やれば、もっと強力な神になれたのでは?」


「あれ、知らないの? この世界の生き物が吸収できる創世の力には、限界があるんだ。だからこそ、超神は、普通の神よりも強力な存在なんだ」


「へー。でも、私がこの世界に落ちてきたとき、邪神にエネルギーを吸収されそうになりましたけど、あれはなんだったんでしょう?」


「降臨した直後は純粋な創世の力の塊だっただろうから、ファーヴニルはそこから新しい神器を作ろうとしていたんじゃないかな」


「なるほどー」


 そんなやりとりをして、バックス神はその後もウイスキーを何杯もおかわりした。

 彼は村の戦士達にも自らの神器でおかわりの果実酒をふるまい、宴は盛り上がっていった。


 強行突破してこの部屋まで来たのに、いつまで経っても神殿関係者が乱入してこないのを不思議に思ったのだが、バックス神曰く、この部屋の扉は自分の意志で鍵を自在にかけられるとのこと。

 私は部屋の前の僧兵を骨折させて突入したことをバックス神に言い、怪我が治っていない場合を考えて、≪エリアヒーリング≫のスクロールを二十枚ほど進呈しておいた。

 まあ、酒じゃないからかバックス神はスクロールにさほど興味はなさそうだったけど。身をていしてこの部屋への侵入を防ごうとした僧兵の人達をもうちょっと気にしてあげてほしい……。


 そして、宴の途中にバックス神は私を酒飲み友達として認めると宣言し、神殿の者から私と村を守ると約束してくれた。

 友達になったので私が敬語をやめたら、バックス神はたいそう喜んだ。神だから友達少ないのかなぁ。


 やがて時間帯は夕刻に近づいてきた。今日の宴はここまでとして、私達は帰ることになった。


「んじゃ、この部屋に転移ゲート開くよー。≪ディメンジョンゲート≫」


 この魔法は永続化していないと一分で消えるので、村人達と神官さんに急いでゲートをくぐらせる。

 最後尾になった私は、この部屋に一人残ることになるバックス神に手を振って、別れの挨拶をする。


「じゃあ、またね」


「うん、今度は僕からそっちに向かうよ」


「それなら、世界のお酒を集めておくよ」


「いいねー」


 そこまで言葉を交わして、私もゲートをくぐり、開拓村の入り口前に出た。

 ふう、なんとかなったね。これで、村に僧兵を差し向けた人が処罰されれば、全て解決だ。


 さて、村に入ろうか、と思ったら、戦士達はその場に留まり、口々に神の酒の感想を言い始めた。

 どうやら、あの宴の場にはバックス神がいたため、いろいろと感想を我慢していたらしい。


 誉れだ、名誉だ、なぎっちゃちゃんのワインとどっちが美味かったか、などと言い合っている。こらこら、神の酒同士を比べるのは、なんだか宗教的に問題が起きそうだからやめておきなさい。


「ワインが飲めて大満足ですわー」


 げっ、ソフィアちゃん、神の酒飲んだのか。あーもう、未成年飲酒だぞ。

 心身に悪い影響を与えない神の酒だからいいようなものを……。


「なぎっちゃ安心しろ。ソフィアが村で酒を盗み飲みしないよう、厳しく言いつけておく」


 そう言ったジョゼットは、ソフィアちゃんのもとへと向かっていき、もし村の酒を盗み飲みしたら指一本切断だと脅しつけていた。……まああれだけ言えば、勝手に飲むことはあるまい。


 さて、いつまでも感想を言い合っている戦士達は放っておいて、私は村に戻ろうか。神官さんもいつの間にか村の中に入っているし。

 いつもの日常を再開しよう。まずは、仕入れたハンドクリームと化粧品を村の女衆に売りつけるところからかな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] もう、一年に一度神々が集まってどんちゃん騒ぎしたらいいんじゃないですかね。神在月みたいに。 [一言] 神公認の神を超えし神になってしまったかー 神は神の上に神を作るんですね。 いまのとこ…
[良い点] 更新乙い [一言] 果実酒の神様だったか、世界中から果実を集めて酒にしよう!!そして飲ませてください。
[一言] 懐中時計とPCのRTC(リアルタイムクロック)モジュールどちらが正確なのか( ˘ω˘ ) なおRTCはNTPで補正されないものとする。
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