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なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第一章 なぎっちゃと酒の神様

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16.地球で聞いたことのある固有名詞が存在する異世界の不思議。

「……ああ、このお酒めっちゃ美味しいからね。そりゃあ飲みたいよね」


 酒杯を見つめながら、私は村人達に答える。

 この酒杯からは、詳しく指定しない限り最高峰の味を持つ酒が湧いてくる。


 だが、村人達のリアクションは私の想像していたものとは違った。


「それだけじゃねえ。神の酒なんて言われたら、飲まないわけにはいかないだろう! 神の酒を飲むのが、俺達の昔からの夢だったんだ!」


「夢? なんていうか、ずいぶんと酒臭い夢だねぇ」


 私がそう言うと、周囲の村人達から笑いが漏れた。


 そして、先ほどから黙って私達の会話を聞いていたジョゼットが、ジョッキの純米大吟醸を飲み干して言う。


「まさかこれが神の酒とはな。なあ、なぎっちゃ。この村の名前がなんというか、誰かから聞いたか?」


「名前……そういえば、まだ知らなかったよ」


「この村は、バックス村。バックス傭兵団がもとになった戦士達の村だ。異国出身のなぎっちゃは知らないかもしれないが、バックスとは神器の酒杯を持つという神の名前だ」


「へ? 宗教関係の村だったの?」


 バックスって確か、ギリシアだかローマだかの神話に登場する酒の神様だよね。バッカスともいう。


「いや、単に、神の酒を飲むことを目標にして結成された傭兵団だったというだけだ。そして、戦で功績を得て、父上が一口だけ神の酒を飲むことが許され、村の土地を与えられたのだ。バックス神はこの国の主神だな」


「へー、村に神様の名前をつけちゃっていいの?」


「この国にバックス村は合計で十二あるらしい。この村だけを指す名称は、北バックス開拓村という」


「なるほどね。で、神の酒を飲みたいと」


 ふーむ、と私は少し悩む。それだけありがたい酒、いったいいかほどの値段になることか。


「私も商人だから、高値を付ける、と言いたいところだけど……せっかくのお祭りだからね! 今日は無料でふるまっちゃうよ!」


 アイテム欄からまた酒杯を取りだし、天に掲げると、周囲の村人から「うおー!」と叫び声があがった。

 そして、村人が一斉にジョッキを持ってこちらに近づいてくる。


「あー、待って待って、並べ、並べー!」


 私がそう叫ぶと、村人達は押し合いへし合いしながら一列に並んでいった。


「種類はワインのみ、ジョッキで一人一杯だけ! はい、配るよー」


 ちゃっかり先頭に並んだ顔役さんのジョッキにワインを流し込みながら、私は言う。

 そして、顔役さんには列の整理をお任せする。


 酒杯の酒生成速度を速めて、勢いよくジョッキにワインを注いでいく。

 注ぎ終わった村人がジョッキの中身を他の村人と見比べ、俺の方が多いだのなんだの騒ぎ始めたので、私がにらみつけると顔役さんが近づいていって村人達をぶん殴った。うーん、バイオレンス。もしジョッキの中身をこぼしても、再補充はしないかんね。


 次々と列を消化していき、ちゃっかり並んでいた村長さんの番になる。


「村長さんが飲んだ神の酒ってこれと同じワイン?」


「いや、梨酒(ポワレ)だな。一口だけだし、緊張して味なんてほとんど覚えてねえ」


「へー。まあ、この酒は美味しいから、味わって飲んでね」


 そうして村長さんのジョッキにワインを注ぎ終えた。そして、次の人の番になる。

 そんな間にも、神官さんはワインを飲み終えたのか、満足そうな顔をして祈りを捧げたのち、私に向けて礼を執った。


「神官さんはそのバックス神という神様をあがめているの?」


「そうですな。私はバックス神殿の所属です。ですが、バックス神だけでなく、他の国の神殿と同じように、神器全般をあがめておりますよ」


「へえ、所属の神様だけをあがめるわけじゃないんだ」


「ええ、なにせ、神器は神よりも上位の存在でありますからな」


「そうなんだ」


「そうなのです。神は、創世の力を宿したこの世界の生き物でしかありませんが、神器は天上界より降臨した創世の力そのものですからな」


「その天上界の生き物がこの世界に落ちてきたら、それは神様なの?」


「神を超えし神、超神ですな。現在、三柱確認されております」


 私の他にもいるんだ。うへえ、敵対しないようイヴには注意してもらっておこう。

 と、会話しているうちに村の大人達には全て配り終えた。

 ふう、一仕事終えたな。


「うらやましいですわ。うらやましいですわ」


 と、列に並ぼうとして顔役さんに押しのけられていたソフィアちゃんが、言葉通り心底うらやましそうに言った。


「神の酒は身体に悪い影響を及ばさぬ薬。子供達に飲ませても問題はありませんが……」


 神官さんがソフィアちゃんを見ながらそう言うが、村長さんが待ったをかけた。


「子供のうちから酒の味を覚えさせるのは駄目だ。悪い影響がないと言っても、しっかり酒精は感じるからな」


 うーん、でも村の子供達だけ仲間外れにするのはなぁ。

 子供でも飲めるお酒があればいいんだけど。ノンアルコールビールとか出せるかな?

 あ、待てよ。子供が飲める酒と言えば……。私は酒杯を一度水で洗うと、両手に酒杯を持って念じた。


「甘酒よ湧けー……。お、出た出た。おーい、子供達ー! 甘酒飲ませてあげるから並べー!」


「おいおい、なぎっちゃ、俺の言葉聞いていなかったのかよ」


 村長さんが慌てたように言うが、私は首を横に振る。


「これは甘酒と言ってねえ。酒精が入っていないお酒なの。私のいた国でも子供が飲んでいた、甘い米のジュースだよ」


 甘酒には、酒粕から造った物と、米麹から造った物の二種類が存在する。アルコール分が含まれていないのは、米麹から造った方だね。


「なるほど、ジュースか。……なんで酒が湧く杯からジュースが湧くんだ?」


「甘酒っていう名前だからかなぁ? 神官さん試しに飲んでみてよ」


 私が酒杯を差し出すと、神官さんは一瞬驚いた顔をするが、すぐにジョッキをこちらに差し出してきた。


「拝領します」


「よきにはからえーって、単なるジュースだよ。はい、酒精がないか試してね」


 神官さんはまた先ほどのジョッキを天に掲げるポーズを取る。いちいちそれやらないといけないわけ?


「では、失礼して……。はい、独特の味はしますが、酒精はありませんね。子供に飲ませても問題はないでしょう」


「酒の神様の神官さんが言うなら間違いないね。よーし、子供達ー、並べー!」


 私がそう言うと、子供達は「わー!」っと叫びながら一列に並んだ。

 ほとんどが十歳以下の子供だ。その中で、十二歳のソフィアちゃんだけが頭一つ以上飛び出ている。

 だが、ソフィアちゃんと子供達の仲は悪くないようで、楽しそうに会話をして自分達の番を待っている。


「はい、美味しい甘酒だよー」


「わー、変な匂いするー」


「独特の匂いがするよね。でも、味は甘いから大丈夫だよ」


 そうして順番に甘酒を配っていく。


「神の酒ですわー。楽しみで仕方ありませんわー」


「ソフィアちゃんもあと数年したら神のワインを味わわせてあげるよ」


「ワインは貴族のたしなみですわー」


 それ、さっきも言っていたな。実家では飲んでいたんだろうか。いかんぞ、若いうちにアルコールを飲むと、脳に悪い影響を与えるんだ。ソフィアちゃんがこの国における成人を迎えても、二十歳になるまではできるだけ悪影響のないこの酒杯の酒を飲ませた方がいいのかなぁ。

 神の酒と呼ぶほどの価値があるので、悩む。うーん、でも神の酒なんて、神器があることを相手に説明しなきゃいけないから、この村以外で商品にしづらいし、どうしたものか。


 そんな感じで頭を悩ませていると、ジョゼットが近づいてきて言った。


「なあ、なぎっちゃ。私にも神のワインを飲ませてくれないだろうか……」


「ん? ジョゼットは純米大吟醸を飲ませてあげたでしょ?」


「いや、皆が飲んだのがワインで、感想を言い合っていてな……。私だけ混ざれないんだ」


「ふーん。でも、おかわりはなしです」


「そこを一声……!」


「駄目でーす。はい、しまいました。今日は店じまいー」


「そんなぁ……」


 本当は飲ませてあげたいけど、一人のおかわりを許すと際限が無くなるからね。心を鬼にするのだ。

 そうして、神の酒を皆が飲み終わり、余韻に浸る間もなく村人達は、またジョッキに樽の酒をついでいった。


 その足取りは先ほどまでよりしっかりしている。


「うーん、みんな酔いが醒めた?」


「神の酒の効果ですな。悪酔いをなくし、適度な酔いに引き戻してくれます」


 私の疑問の声に、神官さんが答える。


「神官さんは他の神の酒を飲んだことあるの?」


「ええ、バックス様の酒宴に何度か参加したことがあり、神の酒をふるまっていただいたことがあります」


「へー、開拓村の神官なんてやっているけど、実は結構高位の役職だとか?」


「いえいえ、私など、中央から離れて久しく……ですが、バックス様との縁は切れておりませんので、なぎっちゃ様がバックス様に御用があれば、お取り次ぎいたします」


「さすがに神様に用は無いかなぁ……」


 バックス神の持つ神器の酒も飲んでみたいけどね。


「神官として神器の存在を隠すわけにはいきませんので、私からバックス神になぎっちゃ様のことをお伝えはしますが」


「そういうの、普通隠れてやるんじゃない? 私に言っちゃうかー」


「いえいえ、なぎっちゃ様のことを神殿に伝えねばならぬ私をお許しください」


 神官さんは両腕を前に突き出し、手のひらを上に向け頭を下げた。おそらく、この周辺地域での謝る姿勢だ。もしかしたら、土下座並の意味を持つポーズなのかもしれない。

 それを見た私は、溜息を一つ吐き、言葉を返す。


「仕方ないよ。お仕事だし、悪事の類ではないからね。でも、神殿が悪意を私に向けてきたら、ただでは済まないって覚えておいてね?」


 んー、一応釘を刺しておくか。


「経験値チケットを一回使った神官さんや村の大人達の強さを数値で『八』とするなら、私の強さは『百』あるからね。万の軍勢で攻めてきても簡単に全滅させることができるから、気をつけてね」


「……肝に銘じておきます」


 そんな不穏なやりとりをして神官さんとは別れ、私は再び料理コーナーに向かう。

 料理担当の人達も酒杯の酒を飲んだからか、明るい様子で美味しかったと口々に言ってくれる。うんうん、神器の存在を公開しちゃったけど、こうやって喜んでくれるならなによりだよ。


 いつの間にか時間帯が夜に差しかかろうとしており、かがり火がたかれ始めた。

 どうやら日が暮れたら終了というわけではないようで、村人達のテンションはさらに上がり続けていく。

 私は料理担当のおばちゃんに頼まれ、鍋にちゃんこを追加した。みんないっぱい食べるなぁ。私はもうお腹いっぱいだよ。


 その後、お祭りは真夜中まで続いた。闇夜の中、家に帰るのは難しいとされ、結局一晩中かがり火をたいてみんなでだらだらと酒を飲みながら会話をして過ごした。

 子供達は私がアイテム欄から出した毛皮の上で寝入っており、朝日が昇る中開かれたお祭りの反省会で、子供達だけでも先に帰すべきだったと村長さんが反省していた。できたばかりの村の慣れないお祭りだ。こういうこともあるのだろう。

 今の季節が初夏だから、なんとかなったようなものだ。経験を活かして、次回のお祭りも成功させてほしい。


 私的には、村人達と親睦を深められて、よい機会になったと思う。歓迎の宴としては、大成功だ。

 酒を飲んで大勢で騒ぐのは昔から大好きなので、またお祭りを開いてほしいものだね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前もって言いますが、お気を悪くされたのならすみません。 これは重箱の隅を突くような話ですので、スルーで構いません。 >これは甘酒と言ってねえ。酒精が入っていないお酒なの。 厳密…
[一言] まさかのなぎっちゃさん神様よりも上の存在だった(゜ω゜)
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