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51話 親善試合再び

 程無くして皇帝が代替わりをした。

 ただし遅かったことがある。ステラモリス公国の武力侵攻だ。前皇帝はそこだけは譲れなかったのか、第一皇子に勅命として出し、議会の承認まで得ていた。議会を通ったものを覆すにはかなりの時間を要する。しかし侵攻に期限をもうけていた為、ステラモリス公国武力侵攻は避けられないところに来ていた。

 挙げ句予想通り併合国がいくらか奮起し始めている。これから遠征が増えて忙しくなるだろう。


「まあ民の視線を逸らすのに親善試合は丁度良かったかもね」

「……かの公国には武力らしい武力はありません。単なる暴力による屈服と制圧ではないですか」


 私の憤りは殿下によく伝わっていた。レースノワレ王国は武力に特化していたが、それを振り翳し他者を圧すことはなかったからだ。武力を持つものとしての矜持が許さない。


「ユツィと団長さんも行くんでしょ? 貴方達が公国の方々を守るのよ」

「そのつもりです」

「第一皇子には女狐もついているから油断ならないわ。気をつけて」

「はい」


 殿下は第一皇子や前皇帝ではなく皇子妃を注視していた。確かにあの女性はいい噂をきかないし、武力侵攻を大きく進める皇子を止めることもない。煽っている節もあるし、帝国議会に第一皇子派を無理矢理採用し、自身の基盤固めを起こっている節もある。


「生きていればなんとかなるのよ。後々現皇帝がどうにかしてくれるって説得するしかないわ」

「ええ」

「で? 今日は公開プロポーズ?」

「……やめてください」


 真面目な話の中にぶっこんでくる。

 まあ前皇帝最後の足掻きを防げなかったのは現皇帝の失態ではあるが、和平方向へ動くのは悪いことではないし国民に歓迎されているからよいだろう。

 現状ステラモリス公国を犠牲なしに救えれば問題ない。それに生きていればどうにかなるというのは殿下に再会して良く分かった。どんな時も腐る必要はない。そういうことだ。


「にしたって貴方の旦那様強すぎよ」

「まだ結婚していません」

「細かいわねえ」


 二回目となる親善試合、ヴォックスは安定した強さを見せて勝ち進んでいる。順当に行けば彼が優勝だろう。


「ユツィが参加した方が盛り上がったかしら?」

「盛り上がるかはさておきとして、今回参加すれば良かったかなとは思っています」

「そう?」

「ファーブラから表彰の品を頂けると知っていたなら参加して本気で優勝狙ってましたよ」


 物好きねえと苦笑される。

 今回、現皇帝から表彰されるに加え、周辺国との友好を深める為、前皇帝から秘密裏に保護していたレースノワレの元王女をお披露目した。

 王女は帝国の和平方向への舵きりと友好関係の構築に賛同し、前皇帝が武力侵攻を決めた際、現皇帝と交渉し生き延びたとなっている。

 そして現皇帝へ代替わりした暁に和平を示すきっかけとして親善試合を開催し、レースノワレ元王女に褒賞品を受け渡す役目をお願いした。こんなところだ。


「どうせヴォックスが勝つのですから面白味もない」

「あら随分な信頼ね?」


 惚気? とからかうように笑う。


「客観的な事実です」


 せめて他国の有力者がもう少しいれば混戦したものの、参加人数や国数は今一つだった。まだまだ和平と友好への道は遠い。


「それでも帝国の騎士団長の戦いを見られて周囲は喜んでる」

「そうですね」


 数々の武功をあげているのだから当然だろう。女性陣の黄色い声に加え男性陣の支持もあつい。


「ユツィも試合が始まるまですごい人気だったものね」

「……あれは元々ヴォックスの功績ですよ」

「ふうん」


 すっかりプレケスの英雄で通ってしまった。今ではそういった周囲への対応にも慣れてしまう始末。これでよかったのだろうか。


* * *


 親善試合は予想通りヴォックスが勝った。

 いつになく気合いが入り、剣のきれもよかったので見ごたえもあっただろう。

 皇帝から表彰され、ファーブラから褒賞品を受け取る。ヴォックスが殿下から受け取ったのは最初に剣を、その後に赤い薔薇が一輪の二つだった。


「貴方が望んだものです。こちらでよろしいかしら?」

「はい」


 剣は誰が優勝しても貰える褒賞で、もう一つは参加者に希望のものをきいた上で優勝したら貰えるというシステムらしい。

 ヴォックスが望んだものは赤い薔薇。

 ファーブラより少し後ろに控えていた私の前にヴォックスが立った。


「……ユースティーツィア・マーレ・ユラレ伯爵令嬢」


 膝を折って跪く。

 静かに薔薇を差し出した。


「受け取って頂けますか」


 そういうことかと、どこか冷静に判断している。周囲は面白いぐらい静かだった。


「赤い薔薇を?」

「はい……私との婚約を承諾して頂きたい」


 かつても枯れない赤い薔薇を贈ってくれ、今、一輪私に向ける。

 その手は震えていた。近くでないと分からない細かな震えだった。


「ヴォックス」

「…………」


 微かに彼の口元が動く。

 声は出ていないのに「愛している」と言うのがはっきり分かった。

公開プロポーズとはいえ、さすがに愛してるは発せられなかった男、ヴォックス。いよいよ大詰め、明日が本編最終話です!

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