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46話 遅れてごめん

「貴方にも団長さんにも酷なことをしたわね」

「そんなことは」

「いいえ。巻き込んだのは国だもの。民に責を負わせるなんておかしいわ」


 ああ時間が経っても殿下は殿下だ。

 統べる者としての責任を感じ、考えている。


「やはり殿下は殿下……」

「ユツィ本当殿下な私が好きよね」

「いいえ、中身も見た目も含めて好きですよ」


 苦笑して「そうね」と頷いてくれる。昔のままだった。


「ま、これでユツィも彼に告白できるわね?」

「は?」

「もうしがらみないでしょ」

「いや、それは……」


 今更告白をしろと?

 というかもうキス許したりしてるし、このままでもいいのでは? 急に愛を語るのは想像し難い。


「なによ。できないわけ?」

「いえ、その……」

「ふーん」

「私達はその、そういう事とは無縁でしたし、今すぐにしなくても、ゆくゆくは」

「彼のことだから、ユツィから言わないといつまでたっても許されてないって発想になると思うけど」


 ぐうの音もでない。

 確かにその通りだ。あの真面目な男は殿下の件のわだかまりが解消しても許されるまでただひたすら待つだろう。


「ユツィ、今更だけど貴方は自分の幸せ掴んでいいのよ?」

「……」

「幸せになっていいの。好きな人と一緒にいていいのよ」

「……ファーブラ」


 殿下が私の手を握る。あたたかった。


* * *


 なにも変わらない殿下との面会を終える。


「すまなかった」

「開口一番それ?」


 港町を歩いて散策している。これだと単なる逢引だな。せめて馬にでも乗っていれば視察になるものを……判断を誤った。

 さておき、長く無言のまま歩き続けていたヴォックスが最初に口にしたのが謝罪とは意外でもない。次の言葉に詰まるヴォックスの代わりに言葉を紡いだ。


「殿下が生きていたのを黙っていたから?」

「ああ」


 戦いになる前からやり取りをしていた事からだった。


「ユツィは知るべき立場にあった。けど最終的に話さない判断をしたのは俺だから」

「確かに話してもらえなかったのは辛かった」

「ユツィ」

「けどヴォックスの立場も理解してるし、私でも同じ判断をしただろうから」


 これで良かったと真っ直ぐ彼を見て応えた。ヴォックスはまだ眉を下げている。


「婚約だって勝手に進めた」

「まあそれは、」

「これで全て許してもらえるとは思っていない」


 これからも以前と同じように君に伝え続けると言う。まさに殿下の言う通りだった。


「いいよ」

「え?」

「本当は婚約だって嬉しかった。たとえ政治的な意味があっても」


 ヴォックスが目を見張る。


「ずっと意地張ってて子供みたいだったね」

「ユツィが怒るのは当然のことで、」

「ヴィー」

「!」


 この呼び方をするとヴォックスは殊更驚く。隠そうとはしているけど嬉しそうに瞳に期待の光を灯す。分かりやすいけど、国のトップの騎士としてはいかがなものかというところだ。


「騎士という立場もなく、お互いの国も関係なく、ただのヴォックスが、ヴィーが……私は好きだよ」

「……ユツィ」

「遅れてごめん」


 なんでヴォックスの方が泣きそうになるのか。逆だろう。

 ヴォックスは瞼を閉じてしっかり開いて私を見据えた。


「次の親善試合」

「ん?」

「優勝したらきちんと申し込む」

「はい?」

「婚約を」


 予告するなら今すればいいのでは、と思っているのがバレていた。


「けじめだ」


 そもそもヴォックスとしては条件が全部揃ってからにするつもりだったらしい。だから時としては今ではないという。やり遂げてないことを考えるなら、ヴォックスの父親が皇帝になり和平寄りに国の方向性を変えてからだろうか。そして殿下の生存を伝え、親善試合に勝ったら? 何をそんなに自分を縛っているのやら。


「……分かった。ヴィーの好きな時でいいよ」

「ああ…………でも」


 言葉を濁らせた。暫くの間の後、目元を赤くして遠慮がちに囁いた。


「ユツィが許してくれるなら……触れたい」

「……今?」


 浅く頷く。決意表明したのに矛盾しているとでも思っているのかすまないと小さく謝った。謝る必要ないのに。


「いいよ、構わない」


 軽く息を飲んで、ゆっくり右手があがった。指の背で静かに私の頬に触れる。随分遠慮がちなのに、ひどく満足そうに目元を赤くしていた。


「ヴィー」

「!」


 満足の世界にいたのが戻ってくる。


「す、すまない、つい夢中に……」

「ほら」


 手を引っ込め視線を逸らしたヴォックスに両手を広げた。こちらを見直し首を傾げる。


「抱きしめて」

「は?」

「ほら」


 ぐいっと胸を張るもヴォックスはたじろぐだけ。触れたいと言いながら遠慮するのはどう言うことだ。こちらはかなり恥ずかしい思いをかなぐり捨ててやっているのだから応えてほしい。


「このまま何もなかったら、かなり恥ずかしい」

「っ……」

「私だけ空回りしてるようで……まあこの後どこかに逃げるかな」

「駄目だ」

「ヴィーが私に触れたいように私もヴィーに触れたい」

「くっ……」

「ヴィー」


 分かるね、と念を押せばぐっと歯の奥を噛んだ後に抱き締めてくれた。そんな態度だと嫌々ながらやってるように見えてしまうよと言いかけてやめる。思いの外力強く腕が回ってきて、物理的な苦しさと一緒にヴォックスの想いが分かってしまったからだ。


「鼓動が速い」

「……俺は想い人を抱き締めて緊張しない程余裕のある人間じゃない」

「そう……」


 こっちだってヴォックスに負けないぐらい速いのだけど気づいているだろうか。


「本当遠回りしてたかな」


 ここまで時間がかかった。

 ヴォックスにとっての最後の関門まで待つとしよう。それを考えながら小さく笑った。

ユツィがあっさり自分を取り戻して余裕ができたのでヴォックスにも甘くなります(単純すぎる)。ヴィー呼びは王国滅亡してから控えていたので(少し出てましたけど)、ヴォックスにとっては許してもらえている一つのキーワードでもあります。ともあれ、いちゃつくようになってよかった!

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