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【なろう版】魔国の勇者  作者: マルコ
幼年学校1年 :食堂改善

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鉄の重み、火花の匂い

 セリーネは昨夜の影響で妙な思考をしていたことに苦笑しつつ、武器棚に目を向けた。

 ずらりと並ぶ剣と槍――どれも鈍い銀色に光っている。


(まさか、全部……鉄製?)


 手を伸ばして一本を取る。

 鉄塊のようなずしりとした重みが掌に食い込み、セリーネは思わず息を詰めた。


「リュシア……これ、本当に鉄なの?」


「ええ、そうよ。どうかした?」

「どうかした、って……! 学校じゃ木製よ!?」

「知ってる。あれだとすぐ折れるでしょ?」


 リュシアはあっけらかんと言い、手近な剣を軽々と持ち上げた。

 鉄の刃が朝陽を反射して、線のような光を描く。


「鉄だと丈夫だから、思いきりやれるの。途中で壊れたりしないし」

「……鉄製の前提で振ってたのね、あなた……」


 セリーネは額に手を当てた。

 木製の模擬剣を何本も折っている事を思い出す。

 自宅での訓練で鉄製の模擬剣を使っているなら、今さらながら納得した。


「これで“全力でやれる”って言い切るあたり、あなたらしいわ」

「でしょ?」


 リュシアはほんのり誇らしげに笑う。


「でもね、鉄のほうが面白いのよ。振り抜いたときの風を裂く音とか、手に残る感触とか。

 木だとどうしても軽くて、緊張感が足りないの」

「でも、危ないに決まってるじゃない」

「身体強化すればそうでもないわ。それに、治癒魔法もあるんだし」


 涼しい声で言い切るリュシアに、セリーネは深いため息をついた。

 この友人は、自分で治癒魔法を使えるからと言って、相手の骨を砕くくらいは日常茶飯事なのだ。

 砕けるのは相手の骨だけでなく、木製の剣もだが。


「……あなたが武器を壊す理由、よく分かったわ」

「え?」

「いや、なんでもない」


 鉄の剣を棚に戻し、セリーネはひときわ細身の剣を手に取った。


 鉄でできているが、形状は彼女が使い慣れた細剣(レイピア)に近い。

 陽光を受けて銀が淡く光る。


「……これなら、まだ扱えそうね」


 リュシアが横で頷いた。


「あなたは細剣が得意だったわね。それでいいと思う」

「ありがとう。それで――」


 セリーネは剣を軽く構えながら尋ねた。


「今日の相手はあなた? それとも順番に?」

「順番?」


 リュシアが軽く首を傾げる。


「違うわ。全員よ」

「……全員?」

「そう。リオス、シエラ、あなた、私。4人で乱戦」


 セリーネの目がまんまるになる。


「ちょ、ちょっと待って。乱戦って、つまり……全員敵!?」

「お互い全員が敵。最後まで残った者が勝ち」

「な、なにそれ……頭おかしいんじゃないの!?」


 リュシアはあっけらかんとして言う。


「毎朝やってるわよ。体も頭も目も全部起きる。効率的でしょ?」

「起きるどころか死ぬ気がするんだけど!?」

「さっきも言ったけど、大丈夫。身体強化だってあるんだし」


 セリーネは苦笑し、心の隅で“やっぱりこの子は規格外だ”と確信を新たにした。

 身体強化を考慮しても打たれ強いとは思っていたが、まさか毎朝、鉄剣で殴り合っていたとはと得心する。


 毎朝鉄の模擬剣で殴り合っていれば、木剣で叩かれた程度では、どうということもないだろう。

 実力の差はこういうところから来ていたのだ。

 けれど、ここまで来て引くわけにもいかない。


「……わかった。手加減は期待しないわよ」

「そっちこそ」


 二人の視線が鋭く交錯する。

 朝靄の中で、鉄の刃が互いに光を返した。


 ◇


 リオスとシエラが既に中庭の中央に立っていた。

 リュシアとセリーネが加わると、四人がちょうど十字の位置を取る。

 石畳の上を風が流れ、静寂が降りた。


「――始め!」


 リオスの声が合図となり、四本の剣が一斉に爆発したように動いた。


 最初に飛び出したのはリュシアだった。

 地面を削るような鋭い踏み込みでリオスに迫る。

 甲高い金属音が炸裂し、火花が火の粉のように散る。


 シエラもすぐに距離を詰め、セリーネに狙いを定める。

 見た目によらず強烈な一撃を、セリーネは何とか躱すが、その隙にリュシアの剣が横合いから迫る。


「ちょ、ちょっと!? 味方いないの!?」

「いないわよ!」


 リュシアの剣を細剣で受け流す。

 鉄の重さが腕に鈍い衝撃として食い込み、手首の骨まで痺れた。


 シエラが後方に下がりながら弓のように剣を構え、リオスが反転してリュシアへ。

 四つの剣が複雑に絡み、打撃の音が連鎖していく。


 リオスの一撃をリュシアが受け止め、反動でセリーネの方へ向き直る。

 鋭い金属音。

 その一撃を受けたセリーネは、後退しながら間髪入れずに反撃に転じた。


「動きが重いわよ!」

「言われなくてもっ!」


 朝日の中で剣閃が交錯する。

 音が近く、息が熱い。

 鉄と風と呼吸の混ざった匂いが、朝の冷気に溶けた。


 リュシアは軽やかに跳び、シエラとリオスの間に割って入る。


「ほら、こういうのが面白いのよ!」

「リュシア、加減って言葉を覚えて!」


 セリーネの叫びをかき消すように、また音が響く。

 剣がぶつかるたび、朝の光が砕けたように跳ねる。


 誰が誰を狙っているのか、もはや分からない。

 ただ、鉄が空気を裂く耳障りな音だけが確かなリズムで続いていた。


 セリーネは細剣を握り直す。

 慣れた形のはずなのに、鉄の重みが想像以上で、手の中の感覚が少し違っていた。


(……この重さで、あの3人とやるの?)


 腕を軽く回し、呼吸を整える。

 頭部を腕に抱えたままの姿勢は、いつも通り。

 見慣れぬ者には奇異に映るが、彼女にとっては自然な戦闘態勢だ。


 視線の位置が他の種族と違うがゆえに、独特の間合いで翻弄する。

 頭を抱えるので、片手が塞がる不利はあるが、細剣ならばそのデメリットもほぼない。


 セリーネにとって、慣れない乱戦。慣れない鉄製の武器。

 いつもの動きができていないように感じる。

 それでも、急速に慣れていく感覚も、またあった。


(――調子がいい! この重さ、馴染み始めた!)


 そんなことを考えているセリーネの視界の端で、シエラが地面を蹴った。

 脚元で魔力の光が弾け、瞬く間にリオスと距離を詰める。

 彼女の一撃は、空気を押し潰すような重さを帯びていた。


「おっと、相変わらず力任せだね!」


 リオスが片手剣で受け止める。

 火花が散り、衝撃波のような風圧で砂埃が舞い上がる。

 リュシアがその隙に回り込み、リオスへ横薙ぎ。

 シエラの剣を受け止めながらも、なんとか躱すリオス。


 セリーネは3人の動きを見切りながら、素早く位置を変えた。

 持ち前のスピードで翻る。風を切る音が走り、細剣が稲妻のように鋭く閃いた。


「――!」


 突き出した剣先が、リュシアの肩口をかすめる。

 わずかな抵抗が手に伝わった。

 しかしリュシアは一歩も退かない。


「いい突き。でも、遅いわ」


 瞬間、セリーネの足元に影が走る。

 リュシアが振り抜いた刃が地を裂き、石畳の破片が爆ぜて飛び散った。

 その冗談のような威力に思わず身を引く。


(……本物の破壊力!)


 セリーネは距離を取り、片腕で頭を抱え直す。

 体をひねりながら再び踏み込んだ。

 視線をずらし、リュシアの死角を狙う。

 風を裂く突き――


 だが、セリーネはその刃の軌道を変える。


「――っ!」


 シエラだった。

 いつの間にかセリーネの死角から一撃を放ってきていたので、細剣の先端でなんとか受け流したのだ。


 その流れるような剣筋に、シエラは一瞬見とれる。


「力はたいしたものね。

 でも、速さと技はまだまだ」

「――くっ、それでも……!」


 ◇


 リオスがシエラの一撃を受け、反転。

 セリーネがその隙を突こうと踏み込んだその時、リュシアの刃がすでに彼女の前へ迫っていた。


「リュシア、速っ……!」

「動いてないと退屈なの」


 セリーネが後方に跳び、草を踏む音。

 息が熱く、心臓が警鐘のように鳴っている。

 手の中の剣は重いのに、腕が止まらない。


 リオスの剣がリュシアを押し返し、シエラの一撃がそこへ割り込む。

 三本の剣が交わる音が、不協和音の鐘のように響いた。


 セリーネはその瞬間、空気の切れ目を見つけた。

 地を蹴り、突き――


 リュシアが笑みを浮かべながら刃を受け止めた。


「悪くない。けど、まだ軽い」

「っ……!」


 鉄の擦れる音が高く、

 芝の上に朝の光が反射した。


 四人の剣が絡み、離れ、再び交差する。


 リオスの剣がシエラの防御をすり抜け、

 リュシアの一撃がリオスの剣を押し返す。

 セリーネの細剣がその隙を狙って閃光のように走った。


 火花が散り、風が巻く。

 鉄の音が重なり、四人の影が芝の上で入り乱れる。


 ――互いの存在を確かめ合うような激烈な乱戦だった。


 刃の輪が一度ゆるみ、風の隙が生まれた。

 セリーネはそこへ一気に踏み込み、細剣の軌道を最短に折る。

 肩、肘、手首。三点の連動だけで、縫い針のような突きが走った。


「――っ!」


 リオスの胸前へ一直線。

 受けの角度が半拍だけ遅れ、刃が胸元で弾かれる。

 その反動で体勢が崩れ、膝が地面を擦った。

 荒い息を吐きながら、最初に脱落したのはリオス。


 次の瞬間、横から風切り。

 シエラの片手剣が弧を描き、強化された体幹がそのまま推力へ変わる。

 セリーネは突きの伸びから戻り切れていない。


「――!」


 腹部に鈍い衝撃。足が浮き、石畳に踵を打った。

 細剣が手から離れ、乾いた音を立てて地面を転がる。


 セリーネもここで脱落。


 間髪入れず、その刹那、横合いから鋭い打音。

 リュシアの剣が、シエラが倒れたリオスを見る一瞬の隙を突いた。


「遅い」


 リュシアの剣がシエラの剣筋を叩き落とし、さらに肩口へ渾身の一撃を叩き込み――

 衝撃でシエラが倒れ込んだ。


「……っ、ここまで」


 シエラが負けを認め、残るは一人。リュシアだけが涼しい顔で立っていた。


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