表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【なろう版】魔国の勇者  作者: マルコ
牙獣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/102

三人の肌が、湯気に溶けて

 訓練場から戻ると、雪解け水で濡れた靴を脱ぎ捨てるようにして、3人は脱衣所の前に立った。


「ふふ……身体を動かしたあとの風呂って、最高なのよね」

「そうですわね。でも、こうして三人でお湯を共にするのも……しばらくは最後かもしれませんわ」


 シエラがぽつりと呟いた。


 リュシアが春から幼年学校に通うようになれば、日々の訓練は一旦おしまい。

 休日に屋敷へ戻ることはあっても、毎週のように一緒に汗を流し、そのまま風呂に入る――そんな日常の終わりは、もうすぐそこまで来ていた。

 

 「……そっか」


 リオスは少しだけ寂しげに呟きながら、脱衣所の引き戸に手をかける。


 脱衣所に入ると、それぞれが手早く衣服を脱ぎはじめる。


 リュシアは一番に腰の帯を外し、ふわりと布が滑り落ちる。


 続いて、シエラが静かに上衣の留め紐を解いた。


 そして――


(黒と、蒼……)


 リオスは、つい目を奪われていた。


 対照的な姉と婚約者の肌。

 どちらも美しく、それぞれに魅力的で。

 まるで黒曜石と青玉の彫像が並んで立っているかのような、幻想的な光景だった。


「リオス、脱がないの? ……まさか、見惚れてた?」


 くすっと笑う姉の声に、リオスは慌てて背を向ける。


「ち、違うってば!」

「ふふ……まあ。お顔が真っ赤になっていらっしゃいますわね?」


 シエラが微笑みながら指摘し、リオスは耳まで赤くして俯いた。



 たっぷりと泡立てた布で身体を洗い終えた三人は、湯気の立ちこめる浴場へと足を踏み入れた。


 浴場の奥には、湯気をまとった大きな石造りの湯船が静かに構えていた。

 湯面から立ちのぼる蒸気が、光を淡く滲ませ、空間全体が白く霞んで見える。


 湯に足を沈めると、じんわりと熱が肌を包み、三人はほぼ同時にため息を漏らした。


「ふぅ~~……生き返るぅ……」


 リュシアが背もたれに腕を乗せ、気持ちよさそうに全身を沈める。


 リオスは、湯の中に身を沈めつつ、自然と隣のふたりに視線を向けた。


 姉の肌は、吸い込まれるような漆黒。

 一方、シエラの肌は青みがかった透き通るような白さ。


 ――黒と蒼。


 並んだふたりの肌の色が、ただそこにあるだけで、なんとも不思議な美しさを帯びていた。


 リオスはぼんやりと、そのコントラストに目を奪われていた。


 そのまなざしに気づいているのか、気づいていないのか――

 リュシアは視線を前に向けたまま、ふと口を開いた。


「王都にある幼年学校……訓練も座学も、高水準だって聞いたわ。

 でも、実技は楽しみ。だって、ああいうのって――身体で覚えるものだから」


 幼年学校――正式名称は魔国ヴァルゼルグ王立幼年学校。

 貴族平民問わず、8歳から無償で入学できる教育機関である。

 卒業後は軍事内政問わず、一定期間国に仕官する義務はあるが、その後は自由。

 さらに優秀なら高等学校。その先の士官学校や政官学院への道も拓ける。


「へー」


 リオスは、返事をしながらも姉の肌から視線を逸らすことができずにいた。


 その横で、シエラがそっと頷いた。


「わたくしも、いずれは通うことになりますわ。同じ学び舎に……リオス様と、ご一緒に」


 リュシアが肩をすくめ、軽く笑う。


「ふふ、じゃあ私が先輩ってわけね。……面倒見てあげないと」


 そう言いながら、リュシアは湯の中でゆっくりと身体を傾けた。

 

「ああ、それと――寮には入らないのよ。王都にあるうちの別邸から通う予定だから」

「なんか……貴族っぽいな」


 リオスがぽつりと呟いた。その口元は、なぜか少し乾いていた。


 するとシエラが、湯の縁に顎を乗せたまま、くすりと笑った。


「……お忘れかもしれませんけれど、わたくしたち、貴族ですのよ?」


 ちらりとリオスを見やったようにも見えるその横顔に、彼は少し肩をすくめて視線を外す。


 リュシアは、何も言わず、ただ静かに笑っていた。


 湯気の中、三人の距離は変わらぬまま――

 けれど、その空気には、これからの気配が静かに、けれど確かに流れ始めていた。



 夜――屋敷に静寂が満ちる頃。


 ろうそくの揺れる光に照らされながら、フィノアはリオスの寝室に現れた。

 淡い香のする衣の下に、今日の彼女はいつもより幾分華やかさを漂わせている。


「……ご婚約、おめでとうございます。正式に決まったと伺いました」


 フィノアの言葉に、リオスは少しだけ頬を赤らめながら、小さく頷く。


「うん。でも、まだよく分かんない。シエラが照れてたし……なんか、不思議な気分で」


 彼の正直な言葉に、フィノアは微笑んだ。


「それが自然な感情でございます。そして、もう一つ。リリシア様の件も、聞き及んでおります」

「うん……“(たね)を望まれてる”って、父上が言ってた。ぼく、まだ何も出ないのに……」


 その言葉に、フィノアは少しだけ目を細める。


「リオス様の(たね)――

 例え今は未成熟でも、その価値を認められたということでございましょう」


 リオスは真剣な表情になった。

 それが“重い期待”であることを、なんとなく感じ取り始めている。


「では……本日のご予定、始めましょうか」


 こうして、夜の学びも続いてゆくのだった――


あんまりギリギリを攻めるつもりはないので、削りすぎかも?

……まぁいいや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ