第九話 演習 二日目 その二
医務室には忠陽と朝子以外にも、大地と鞘夏もいた。一人ひとり採血をされた後、奏とアリスに担当医務である四鏡燈が打ち身や外傷の手当を受けていた。
「それにしても、自分で怪我させた相手を治療するのはオカシイわよね……」
奏は肩を落とす。
「まあまあ、奏さん。私達も訓練だと思えば……」
「お前ら二人みたいに万能な奴はそうそう居ない。姐さんからこき使われるのは仕方ない。私だって壊すのが専門だ」
白いティーシャツと黒のパンツに白衣を着た女医の色香に大地は息を呑む。特に足を組んだ太ももにのむっちり感が鼻の下を伸ばしそうになる。大人の女性という完成された美しさに大地は惚れてしまいそうだった。
「だったら、燈さんも訓練に参加してくださいよ。結構疲れるんですよ」
奏は不満そうな顔をする。
「殺していいのなら、構わないが」
その言葉に全員が凍りついた。
「冗談だ」
それに対しても誰も返答をしない。
「あんた。今日、辰巳さんにヤラれてたけど、どうしたのよ?」
奏は朝子に質問した。
「別に……」
朝子はそっぽを向く。
「それならいいけど。でも、辰巳さんがあんな荒っぽいことするなんて、あんた気に入られてるのね」
「はあ?」
朝子は奏を睨みつける。
「不満?」
「当たり前でしょう。なんで、あんなのに気に入られなきゃいけないのよ」
「それは辰巳さんに聞いて。辰巳さんは興味がない人には無関心な人よ。まあ、ここに連れてきた人たちは辰巳さんのお気に入りなんでしょうけど」
それには鞘夏も眉を潜めていた。
「辰巳というと、あの六道の神童と言われた奴か……。あの男もここへ連れて来い。この前の借りを返してもらっていない。代わりに血を貰う」
「いや、それは直接に本人に言ってくださいよ」
燈の狂気じみた言葉に奏はうんざりしていた。
「そういえば、僕ら、なんで採血をしたんですか?」
忠陽は恐る恐る燈に聞いてみた。
「私の趣味だ」
忠陽たちはドン引きしていた。
「血というのはその人間の情報がほぼ分かるものだ。昔の人間はその血をもとに複製人間を作ろうとする魔術を開発するぐらいだ。私はその人間の情報を解析するのが趣味でね」
「その情報を見て、何がわかるんですか?」
忠陽は恐る恐る聞いてみた。
「今と過去だ。今はお前たちの健康状態や、疾患、魔力量、何の属性が得意か、などが分かる。過去はお前たちの系譜だ。人は交配を繰り返しながら、子孫を残す。血によって出来た遺伝子配列によって妖魔から血を引く人間なのか、それとも呪術師の家系化、突発的な変異種なのかが分かる」
燈は自分が治療をする忠陽の手が強ばるの見て、笑う。
「安心しろ。私は人の過去を他人に教えることはしない主義だ。公然とわかっているのならともかく、人には隠したいことが山程あるものだ」
燈の目は何かを見透かすような目だった。
「なあ、俺の両親はどっちらとも呪術師の家系じゃないんだが、俺はその突発的ななんちゃらになるのか?」
「それはお前の血を見てみないとなんとも言えないな。祖先が呪術師や山伏だったら、覚醒遺伝というものあるからな」
「なんだ、その覚醒遺伝って……」
「祖先が持っていた力がお前に発現するということだ」
大地は分かったのか、分からなかったか、それが分からない顔をしていた。
「呪力に目覚める方法は何も遺伝だけはない。長年の修行で会得するものも居るが、簡単な方法としては呪縛誓約だ」
「それ、あんたが私に言っていた言葉よね?」
朝子は奏に聞いていた。
「ええ、そうよ。って、あんた、自分の呪力の源が何か知らなかったの!?」
「何よ……悪い……?」
燈が笑う。
「呪縛誓約者というものは大半がそういうものだ。呪いによって自らを縛り、その誓を立てる。その縛りが大きければ大きいほど、作用すれば作用するほど誓約者に対して力を還元する。この呪いの最大のメリットは一般人でも簡単にできるということだ」
「一般人にも?」
忠陽は驚いていた。
「ああ。呪いとは一種の宗教的な行為と一緒だ。軽いもので言うなら、狂信者がそういうものだ。自らの心を神に捧げる代わりに、神秘的な何かを得る。だが、一度信仰をなくせば力は失ってしまう」
「なら、おっちゃんもそうなのか? 真言を唱えて色んな力を使えるのは」
「おっちゃん? 真言を唱えているのならそうだろう。マントラは仏の教えだ。その言葉を通じ、悟りを開き、奇跡を生み出す。そのために彼らは血の滲む業に挑んでいる」
「おっちゃんは狂信者だったのか……」
「そうじゃないわよ……」
奏は呆れていた。
「まだ、これは綺麗な方の話だ。呪縛誓約者で、もっとも厄介なのは、その人間を呪詛として変えてしまうことだ。人間社会では恨みや辛みを一人の人間に乗せ、化け物に変えてしまったり、その人間を特定の人間に対しての対抗兵器として作り上げてしまう」
「兵器? おいおい、穏やかじゃないな……」
大地は顔をしかめる。
「そうさ。それが呪術師というものだ。家の名誉を最も重んじ、其のためになら人の心を捨て、利用できるものは利用する。その末路は悲惨なものだ」
朝子は奏の顔が歪むのが見えた。
「もしかして、あのボスもそうなのか?」
「姐さんか? うーん。ちょっと違うな。姐さんは神宮を守る盾だが、縛りは少ない。あの人は親譲りの戦闘能力だからな。それに軍人になる人間は人間としてはネジが外れているが、呪術師の中ではマトモな連中だ」
「じゃあ、どんな呪術師があぶねーんだ?」
奏はため息をつく。
「そこに居るじゃない。呪術師の中でもネジが抜けている人……」
奏は燈を見た。その視線に全員が気づき、燈を見た。
「そうだ、賀茂。お前は二重人格者だと聞く。恐らく呪術によるものだと思うが、それだけではないだろう? 一度、私に解剖させろ。何、私にまかせておけば痛みもなく、そして傷も残さず、元通りにしてやる。一度、二重人格者の脳というのを見てみたかったんだ。構わないよな?」
忠陽はその圧に押される。
「もしかして、洸太が言っていたやぶ医者って……こいつのことか?」
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