第九話 演習 一日目 その十壱
第四演習場は人工的に作られた森林地帯だった。太陽はまだ空にあるが、木は生い茂り、葉が屋根のように光を遮る。木漏れ日が薄暗い中で地面に光を照らし、綺麗だった。
昼の間に良子、伏見、研究員たちの間で話し合いが行われ、環境復元装置を使うことを止め、軍が用意した演習場を使用することに決まった。午前中の演習で、環境に作用する技が使えなくなるデメリットが分かり、実戦的ではないという良子からの苦言と、伏見からの要望もあってのことだった。
全員が、所定の位置に着くと演習開始のブザーが鳴る。
鞘夏は目を閉じる。そして、忠陽の居場所を探った。忠陽は自分の場所から西に五〇メートルほど離れた場所にいる。その方角へ走り出す。
鞘夏の動きは、迷いなく、それが使命であるかのように動く。まずは忠陽との合流。それから指示を貰う。
機械的に動く人形を平助に簡単に見つけ出す事ができた。
「隊長、どうします?」
「賀茂は見つかったか?」
平助は木の枝に張り付き、鞘夏の動向を見ていた。
「いや、その従者っす。たぶん、主人のもとへ向かってます」
ビリーは高い木の上に登り、辺りを見回す。
「どっちの方角だ?」
「隊長からだと東、十時方向。距離は三百位っす」
ビリーは指示された辺りを見ると、鞘夏を見つける。
「前回もすぐに賀茂と合流を図っていたな。となると……」
ビリーは望遠スコープを覗きながら、東の方にずらすが姿を確認できなかった。
「ダメだ。森林で見えない。まずは真堂を狙う。誘導を頼む」
「あいよ。東、距離二五◯。相手はそのまま東に向かって、動いている」
ビリーの望遠スコープでは鞘夏は見えていない。平助の言葉を頼りに的を絞っている。
「軌道修正、ちょい九時より。二十秒後に開けた場所に出るぜ」
「オーライ。俺の愛を受け取りな!」
ビリーは木々が立ち並ぶ薄いところを狙い、引き金を引く。ライフルから出た弾は距離二百メートルぐらい離れた場所へと向かう。
そこにたまたま狩り場に迷い込んだ鞘夏の足辺りに被弾する所を呪防壁が展開し、防いだ。
呪防壁に訓練弾が当たり、鞘夏は体制を崩す。
「足にヒット。体制を崩し、立ち止まる。ヘッドショット、ファイア」
平助の引き続きの誘導により、ビリーは二発目の引き金を引く。
鞘夏は体制を整え、動こうとした瞬間に二発目の弾丸で呪防壁が発動し、拘束された。
ビリーはその姿を確認するとゆっくりと狙撃銃を下げ、言い放つ。
「俺の愛、受け取ってくれたかい?」
「隊長、寒いっす……」
念話でも感情が分かるように平助は呟いた。
「何言ってんだよ。お熱いのがお好きだろう?」
「いや、意味分かんないっす」
弦音が聞こえる。その音に反応して、ビリーは木から飛び降りた。
矢はビリーが居た木を通り過ぎ、後方十メートルの木に当たり爆散した。
「隊長! 無事っすか?」
「大丈夫、大丈夫。熱烈な歓迎だね。だけど、俺、ヤラれるのも好きだけど、基本は自分から撃ち抜くほうが好きなんだよね~」
「あっ、そうすっか」
「おい、平助。あっさりしてねえか?」
「面倒くさいで……」
甲高い弦音が空に高く鳴り響く。
ビリーはその音を聞いて直感的に危険を感じ、その区域から逃げ出す。
すると、そこに無数の矢が降り注いだ。ビリーは全力で走り、由美子が放つ矢の雨から全力で逃げ出す。
なんとか逃げ切ったビリーは息を整える。
「おいおい、何だ、あの矢の雨は? 俺を殺す気か?」
「いや、生きてるじゃないですか」
「なに言ってんだ。死ぬだろう、あれ……」
「さすがは八雲隊長の妹っすね。二発目の牽制も流石っす。それに攻撃が終わったら動いています。あの子、あの歳であれだけ動けるのは凄いっすよ」
「なに言ってんだ。それだけ努力しているってことだよ」
「八雲隊長はいつもテキトーじゃないですか」
「八雲は戦闘馬鹿なだけだ。それより、賀茂を見つけて誘い出せ。隠形を使われたら、この天才スナイパービリーでも当てられんぞ」
「面倒くさー」
「平助……。最近、街で可愛い女の子を引っ掛けたんだが……」
「マジっすか! どんな女っすか?」
「そうだな。ボンキュッボンだ」
「ボンキュッボン!? E、F、Gのどれっすか?」
「あれは……Gだな」
「G! ジーッスか!? 隊長、俺、隊長の手足となって頑張ります!」
平助は念話を切り、すぐに忠陽を探し始める。
「Gだったら、お前に教えてやらねえよ……」
ビリーは目を光らせながら移動し始めた。




