第九話 演習 一日目 その六
加織が大地を闘気の掌底で倒した同時くらいに、八雲は忠陽と鞘夏を見つけていた。
「賀茂と真堂を見つけた。派手な音がしたが、そっちはどうなってる」
八雲は腕輪の念話機能を使って、全員に声を掛ける。
「タイチョー、やり過ぎました!」
「やり過ぎたって、宮袋の奴、生きてるか?」
「生きてまーす」
「ならいい」
「いいのかよ!」
奏が八雲につっこむ。
「奏、ゆみがどこにいるか分かるか?」
「北東二時方向、うまく岩を使って隠れてる。樹、いける?」
「訓練弾じゃあ無理」
「頭を出さないと狙えないか……」
八雲は少し考えた。
「奏、二人からマークを外せ」
「はあ? なんでよ!?」
「ゆみはマークが付いている限り、思い切って行動はしない。ここはかわいいゆみちゃんがやりやすいようにしてやろうぜ」
全員のため息が聞こえる。
「キィモッ!」
「タイチョー、気持ち悪いです」
「八雲、気持ち悪い……」
「なんだよ、妹は可愛いもんだろう?」
「このシスコン!」
「なんだよ、奏。なんでそんなに怒ってるんだよ……」
「タイチョー、サイテー……」
「うるせぇな。とにかくマークを外せ!」
「そっちの隠行使うやつは大丈夫なの?」
「問題ない。賀茂は隠行が厄介だけで、戦闘能力は低い」
「はいはい。分かったわ」
「樹、ゆみが撃ってきたら足止めを頼む」
「あいよ。ゆみちゃんを驚かせてあげるよ」
「ゆみを引っ張り出したら、俺はゆみの方へ飛ぶ」
「なんだよ、いいとこ取りかよ……」
「よし。なら、一番点が少ないやつが罰ゲームな」
「はあ? ふざけんな、てめえ!」
「そんで、今回は点を多く取ったやつが罰ゲームを決めるってことで」
「タイチョー、私は肉が食べたい!」
「なら、点数を多く取れよ。そんじゃま、やるとしますか」
八雲は鞘から刀身をゆっくり抜き真横に払うと、忠陽たちがその音に気づく。
八雲はその鞘を捨てて、刀を肩に置く。訓練用のため刃は無いが金属の塊はギラついていた。
忠陽はそのギラつきが刀ではなく、八雲から発せられる呪力がそうさせているのではないかと見えていた。
「賀茂、鍛錬の続きだ」
忠陽と鞘夏は構える。
「できれば、お手柔らかに……」
「そいつはできないそうだんダッ!」
八雲から駆けるとすぐに忠陽の目の前に現れていた。
忠陽は呪力を練ることもできず、やられると思った瞬間に鞘夏が忠陽を押し出し、八雲の打ち込みを警棒で受ける。
鞘夏は重たい打ち込みに押されてしまう。
忠陽は呪符を滑らせ、カラスを十匹以上具現させ、八雲に纏わりつかせる。カラスは八雲の体を啄み、八雲のそのカラスたちを撃ち落としていく。
その間に忠陽と鞘夏は体制を整え、再度相対をする。
「言っただろ? まずは体術だって。練習してたのか?」
「夏休みは家族サービスしてました」
「へっ。そんなことするなら、体を鍛えろよ」
「そんな暇、妹さんがくれませんでしたよっ!」
忠陽が呪符を出すと石礫が飛び出す。八雲はそれを軽々と切り伏せる。
「ゆみのせいにするな、ゆみのせいに!」
「そうですか。お父上ともお会いしました。八雲さんに宜しくって……」
忠陽は呪符を再びばら撒く。さっきよりも多い数の烏が八雲に襲いかかる。八雲はムッとしながらもそのカラスを薙ぎ払おうとしたとき、死角から鞘夏が現れ、八雲をに三度突く。
一度目と二度目は躱されたが、三度目は烏の牽制もあり腹部を突けたが、手応えを感じなかった。鞘夏は忠陽の元へすぐに戻った。
「陽様、申し訳ございません」
「いいよ。あんなので簡単に倒せる相手じゃない」
八雲は烏を倒し終えると忠陽を睨む。
その殺気に忠陽を手が震える。
「賀茂、その嘘は好きじゃないな」
「そうですか。なら、この前、お母様が僕の家の玄関を壊していきました」
忠陽が風の刃を放つ。すぐに八雲は消え、忠陽たちの右側に現れた。
「それは本当っぽいな……」
八雲は構えを解き、考えていた。
「こっちは信じるんですね。嘘っぽいのに……」
「ばぁーか。母さんが若い頃の間になんて呼ばれてたか、知ってるのか?」
「暴風神の再来……」
「ちげーよ。血染めのお寿だ」
もっと直接的な通り名が出てきて、忠陽は引いてしまう。
「だから、扉なんて壊しかねないんだよ!」
八雲は斬りかかろうとしたが、忠陽は再び烏を十羽以上解き放つ。八雲に纏わりつくも、それを回転斬りで一掃し、忠陽の距離を詰め、斬りかかる。
「陽様!」
鞘夏は主の名前を呼ぶも主の姿に異変に気づく。
八雲も斬った瞬間の感触でそれが虚像であることに気づく。
虚像はぐねぐねと動き霧散していく。
虚像が消えたと同時に八雲の背後から一筋の線が描かれる。八雲はその線を避けたが、腕がその線に触れてしまい、服ごと皮一枚斬られる。斬られた場所から血が滲み出してきた。
八雲は一呼吸起き、忠陽を見る。その顔がさっきよりも鋭いギラつきに変わり、八雲が抜身の刃かのように見えた。
忠陽は息を呑む。自分が持つ小刀で倒せるとは思っていない。不意打ちは成功したが、ここは呪術で攻撃をした方が良かったと考える。
それに次は成功するだろうか? 相手は隠行をしても呪力の幽かな揺らぎで見つけてくる。次の嘘を信じるかどうか……。
八雲は刀を肩に置く。
「お前、嘘を覚えたな?」
忠陽は八雲の言葉で胸を締め付けられる。
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展望室、朝子と奏の戦いにヤキモキする藤と対象に伏見は忠陽の戦い方を見て、笑みを浮かべていた。
「好かんな、あの戦い」
良子の言葉に藤は声を荒げた。
「そっちの方ではない。賀茂の方だ。キサマ、奴に何を教えた?」
「何も」
伏見はいつもより不敵な笑みだった。
藤は忠陽を見る。遠くから見ても普段の忠陽と変わりないように見える。
「あの戦い方は貴様らにそっくりだ。虚像を作り出し、相手を惑わす。賀茂は嘘の味を知ってるな?」
「そうみたいやな」
「他人事だな」
「呪術師ならいずれ気づく。それが遅いか速いかだけや。そう忌避する事でもない」
「戦い方とは虚々実々。その戦い方が悪いのではない。私は貴様らの顔が見え、好みではないと言ってるのだ」
「はいはい。なら、修正すればよろし」
「そうさせて貰う」
「あっ!!」
藤が声を上げる。
朝子が奏に負けて、藤の膝が崩れた。
「藤くん、そんな落ち込むことないやろう?」
「氷見さんにとってはそうじゃないのよ!」
「約束は約束や。従ってもらうで」
「守るつもりないくせに……」
「朝子くんは負けた。それが事実や」
「イジワル」
藤は呟く。
伏見は忠陽を見た。
萎縮するかと思っていたが、上手く隠行も使った。奏からのマークがなくなってからだとすると、姫か。なら、今の手も陽動の一つ。
伏見は久しぶりに自分の胸が踊るのが分かった。




