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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第九話 演習 一日目 その四

 朝子はこの夏休みの後半、弟の麟太郎のために時間を作っていた。それも夏休みが始まる前から念密に計画をし、二人で夏休みの最後を楽しむ予定であった。


 それを壊したのが、あの薄笑い白髪の男だ。盆休みが明けた頃に突然、家に訪れ、すべてを台無しにした。本当はこの合宿なるものに行くのを反対したかったのだが、養父母の勧めでもあり、断れなかった。


 朝子は五歳の頃、親が離婚し、父親に引き取られた。その父も天谷での仕事がうまく行かず、次第に精神的な病に倒れ、七歳の時に亡くなった。母親は行方不明らしく、親戚らしい人がおらず、彼女は孤独の身となってしまった。その彼女に手を差し伸べたのが隣に住んでいた今の養父母である上田(かんだ)夫妻だった。


 上田夫妻とは朝子が生まれる前から近所付き合いであった。朝子の親が離婚をしたときは何かと心配をしてくれて、朝子の父親が仕事で居ないときは家に招き、ご飯を一緒にご馳走になっていた。養父母になってからも血の繋がらない朝子を自分の娘と同様に育ててくれていた。


 朝子の中ではその恩を返したいと思っていた。しかし、養父母はそれを望まず、自由に生きること望んでいたが、それでも朝子は養父母に迷惑を掛けないように生きていこうという思いがあり、伏見にはそこに付け込まれたと朝子は思っている。


 その夫妻には一人息子、上田麟太郎がいた。麟太郎は小さい頃から朝子を姉のように慕ってくれ、懐いてくれていた。朝子にとっても、弟のような存在であり、何よりも優先する愛すべき人である。


 小さい頃、朝子が同じ地区の悪ガキどもから親の離婚のことで嫌がらせを受けていた時に、果敢に立ち向かったのが麟太郎だった。その頃から麟太郎には特別な感情を抱いていたことも確かだ、朝子の心の中では麟太郎との子供の頃に交わした結婚の約束も今でも覚えている。


 その麟太郎と約束は何より優先すべきことであり、それを台無しにし、養父母に嘘八百を並べて言いくるめてつけ込み、今回の合宿なるものに行かせるようにしむけた伏見に本気の殺意が芽生えた。


 麟太郎はいつでも遊びに行けるからいいと気にしていなかったことが唯一の救いであったが、朝子の中ではいつか伏見殺人計画なるものを実行できるように頭の中で何度も何度も計画を練っていた。それは演習が行われている今でもだ。


 闘気の掌底が大地の呪防壁にぶつかる衝撃でその思考が止まった。


 すぐに現状の確認のため、周りを確認するも敵の存在は確認できない。朝子は岩場に隠れながら、前へと進む。進みながら、周りを確認し、次の岩場に隠れるということを五度続けながら前に進むと、呪防壁が作動したまま気絶している大地を見つける。そこには加織と奏がいることも確認し、岩場に姿を隠した。


 朝子は舌打ちをする。数で有利だったのがこれで同等になってしまい優位性が無くなってしまった。それに今、あの二人が自分に気づき、戦いを挑まれたら負けてしまう。それは絶対に嫌だ。かといって、ここの場を離れるとあの二人に見つかり、負けてしまう。嫌なタイミングで接敵したのは大地のせいだと心の中で呟く。


 朝子はこの演習場に入る前に、藤の取りなしで伏見と話し合いをした。朝子としては一日でも速く帰りたい旨を伝え、それに対して伏見は条件を突きつけた。


 それはこれから行う演習で一人でも誰か倒せたら、天谷に帰って良いというものだった。倒すには不意打ちでもなんでも良い。兎に角誰かを倒せば良いというものであった。伏見の条件が達成出来ない場合は、合宿のときは伏見の指示に従うというもので、お互いが合意した。


 誰か一人を倒せばいい。相手は軍人でこの前の港湾事件のようにまともに戦っても勝てない可能性が高い。なら、考えるのは不意打ちだったが、それも難しい状況になりつつある。


 朝子は再び二人を見る。奏と加織は突っ立ったままで動かない。何をしているのかを探ると、急に動き始めた。


「出てきなさい。そこに居るんでしょう?」


 奏が呼びかける。朝子はため息をつきながら二人の前に姿を現した。


「奏ちゃん、二人でやっちゃう?」


「私一人でやるわ。八雲には言われた罰ゲームがあるし」


「そっか、そうだね。じゃあ、私、待ってる」


「加織ちゃんは八雲の所に行くのが命令だったでしょう?」


「あ、そっか! タイチョーからそう言われたや」


 朝子は加織に対して、マヌケなのかと感じた。


「じゃあ、奏ちゃん、先に行くから後を任せたぞい」


「ぞいってなによ、ぞいって」


「その方がカッコいいかなって……」


 奏は考える


「それなら、私は、ここは私に任せて、先に行け。……ふっ、加織、あの敵を倒しても構わんのだろう? ……かな?」


「なにそれ! 超カッコイイ!」


 奏はそれに苦笑いしながら、お礼を言う。


「いやー、お兄ちゃんなら言いそうな言葉だなと思って。私も奏ちゃんに言えるようになりたいな」


「止めといたほうがいいと思わ……」


 加織は笑いながら奏の意見に同意する。


「速く行かないと、八雲が三人倒しちゃうかもよ。アイツだけには罰ゲームの内容を決めさせないで!」


「はーい。タイチョーには負けないぞ!」


 加織は西の方向に走り出す。その速さは自分と似た身体能力強化に朝子は見えた。


「ごめんなさいね。待たせて」


「別に……」


「それなら良かったわ」


 朝子は一対一でも余裕な顔をしている奏を見て、伏見を思い出す。


「あんた、あの男と従兄弟なのよね?」


「あの男? ……辰巳さんのこと?」


「辰巳? あいつ、伏見京介っていうんじゃないの?」


「ああー、辰巳さん、そっちじゃあ伏見京介って名乗ってるんだっけ? ごめんなさい。貴方と言う通り従兄弟よ」


「あの男、本当の名前は何なの?」


「知ってどうするのよ?」


「アイツの弱点を知りたい。その手がかりにする」


 奏は驚いた顔をし、次第に悲しそうな顔になり、同情するような目で朝子を見ていた。


「あなた、辰巳さんに脅されてるの? 大丈夫?」


「脅されてない。でも、あの男を殺したいほど憎い!」


「辰巳さーん、何したのよー……」


「アイツのこと、知っているなら話して」


「本名は六道(ろくどう)辰巳、私の母の兄が辰巳さんのお父さん」


「弱点は?」


「ない」


「ない? その虫が嫌いとか、(へび)が嫌いとかないの?」


 朝子は慌てふためく。


「だがら、ない。というか、辰巳さんがそんなこと見せるわけ無いでしょう? ただでさえ、性格が悪くて敵を作りやすい家系なんだから」


「家系?」


「あなた、六道(ろくどう)のこと知らないの?」


「……知ってるわよ」


「はい、うそー。あなた、嘘を隠すことができないみたいね」


 朝子は黙る。


「でも、辰巳さんは私が知ってる六道の中でも私には優しかったわ。色々と面倒も見てくれたし。確かに相手の弱みを握るし、意地悪だけど、今は昔と少し違うのよね」


「違う? 何が違うのよ?」


「単純に優しくなったって言えば良いのかな? 昔ならあなた達みたい人をミジンコみたいにしか思っていなかったはずよ。たぶん、こんなこともしなかっただろうし」


「こんな事? この合宿のこと?」


「合宿? それだけで済めばいいけど……」


「どういうことよ……」


「それはあなたが身をもって体験すれば良いじゃない。辰巳さんの話はこれで終わり?」


「待って。アイツ、何で右腕がないの?」


「知らないわ。ある日、帰ってきたときには白髪と右腕が無くなっていたわ。あと、左目もね。でも、それからよ。辰巳さんの名前が変わったのは」


「どうして?」


「言ったでしょう? 昔の辰巳さんならあなた達をミジンコとしか思わないって。それぐらい辰巳さんは呪術者として強かったのよ。後で知ったんだけど、黒い髪が一瞬で白くなるというのはそれだけ精気が無くなったということを示しているの。呪力を失った辰巳さんに六道での居場所はなかった。ただそれだけよ」


「冷たいのね。優しくしてくれたんでしょう?」


「ええ。それは今でも感謝してる。それに六道での生き方を教えてくれたのも辰巳さん。でも、私、六道じゃないから。あっちの家のことはあっちの家の問題だし、深く関わると藪蛇(やぶへび)になるわ」


 朝子はその心情を理解できた。


「じゃあ、私からの質問いい?」


「え?」


「え?じゃないわよ。あなたの質問に答えあげたんだから、私の質問にも答えなさいよ。それが情報の対価というものよ」


 朝子は苦い顔をする。


「あなた、天谷市の港湾事件に関わっていたんでしょう?」


 朝子は頷く。


「暁神無って知ってる?」


「誰よ、それ?」


「惚けないでよ。あなたも一緒に居たはずよ。黒い服を来た二刀流の男」


 朝子は記憶の中を探ると、あの闇夜の中で化け物を倒した男を思い出す。


「確かに居たわ。そんな奴」


「居場所、もしくは行き先を知らない?」


「知らない」


「そう、ありがとう」


「それだけでいいの?」


「ええ。どうせ、そうだろうと思ったし」


「あなたとどういう関係なの? ……憎い相手とか……」


 奏は笑っていた。


「何がオカシイのよ」


「違うわよ。あなたが言うように憎いって感情を持ってるかもって思ったからよ。でも、それもオカシイのよ。私はさっき言った男に会ったこともなければ、話したこともない。何でこんなことを聞いてるんだろうなって」


 朝子は言っていることがよく分からなかった。


「ごめんね。困惑させたわね。さて、あなたには聞きたいことを聞いたし。さっさと戦いましょう」


「ええ。私はあなたに勝って、家に戻るつもりだから」


「家に戻る?」


「伏見と演習前に約束したのよ。この演習で一人でも倒せれば、私を今日家に帰すって」


 奏は苦笑いした。


「辰巳さんが条件付けの約束する時は相手に不可能なことが分かってるときだけよ」


「どういう意味……」


「つまり、あなたは私に勝てないってこと」


 朝子は睨む。


「いいわ。色々と話したし、何か脅されてここに来たんでしょう。ハンデをあげる」


「バカにしてるの?」


「だって、私が魔術を使ったら、絶対勝てないもの」


「ほんと、あんたら呪術師は気に食わないわ。人を見下して……」


 朝子は短鞭取り出し、動物のように構えた。それと同時に体に呪力がまとわりつく。


「へー、呪縛誓約者か……」

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