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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第九話 皇国陸軍第八師団特殊呪術連隊第一中隊 その一

 一


 彼杵は、大和皇国の西にある島だ。


 この島は十数年前までは未開の地であり、鬼や魑魅魍魎の巣窟と言われていた場所だった。


 そのため、この島には人が寄り付かず、入れば祟りが起こると畏れ敬われていた神聖な場所であった。


 そもそもそんな曰く付きの土地であるのに、十数年前、一条財閥がこの未開の地を開発し始めたことに、財界の誰もが一条財閥の終わりと思った。


 彼杵の近海は吃水制限が深く、巨大な貨物船が入ることでき、港湾設備建設としては良い場所ではあった。それに加え、港からはだだっ広い平野となっている。


 この平野は不自然なくらい綺麗であり、木々すら生えていない。森と平野はお互い縄張りを明確にしており、お互いの領域を守っている。山も同じだ。島の構造がカルデラような巨大な凹地であり、平野から山に入る傾斜は急勾配だった。故に平野は干拓地や住宅地へと開発するのに非常に良い条件であった。


 どの為政者も財界人も喉から手が出るほどの場所であるが、この土地に手を出した人間には祟りが起きるというのは一種の呪いに近しいものがあったため手を出すことはできなかった。


 そんな曰く付きの場所に一条財閥はまず海の近くに大きな船渠が六つある造船所と、それに必要な企業を作り始めた。


 造船所が創業し始めると、その対岸にタンカーやコンテナ船などの商船が停泊できる広大な港湾施設を作り、この国バブポート港として整備し始めた。


 開港し始めると、多くのコンテナ船やタンカーなどの資源がこの島に集められ、近くに倉庫街を作り始める。


 貨物に吊られように多くの人がこの土地に流入し始めた。だが、人は何もない土地には根ざさない。だから、一条財閥はそこに住まいと、娯楽施設を作った。そのためには電気、ガス、水などのインフラが必要となる。いつしか建築ラッシュが始まり、一条財閥独自の経済都市を作り上げていったのだ。


 今や、この土地に手を出すと祟りではなく、一条財閥を敵にするということのが表向きの話になった。


 本当は何故この島に手を出さなかったかというと、この国の闇に触れてしまうからだ。


 この島は元々、暁一族と月影一族が住まう場所である。


 この二つの一族はおおよそ人の領域を外れた一族であり、呪術師の名家では口伝で触れてはならない禁忌とした。


 そのため、この島には誰も近寄らず、畏れ敬っていた。


 考古学で著名な月影新一郎が後世に著した本にはこう書いてあった。


 月影は今でも彼杵の山奥でひっそりと暮らしている鬼の一族であり、時に忘れされた過去の遺物。だが、暁はそうではなかった。暁は表舞台には立たないが、この国の歴史と切り離せない存在であった。特に、神宮と(すめらぎ)との関係は次のように言える。


 神宮とは表裏を共にし、暁に触れれば(すめらぎ)の心裏に通ずる。故に、その存在を知る者は暁をこの国の闇と呼ぶ。


---------------------------------------------------


 忠陽たちが飛行機からの荷物を受け取り、到着口から出ると、別の便で先に着いていた伏見達が居た。


 やる気のないガラの悪い金髪パーマは忠陽たちを見て、ケッと呟く。眉間にシワを寄せ、明らかにご機嫌斜めの朝子とその隣で疲労困憊な顔した藤を見て、忠陽はどれだけ伏見から事情を聞かされているのか心配になった。


「よう、三人とも元気やったか?」


「アンタの顔を見た瞬間に元気じゃなくなったわ」


 由美子は早速伏見に噛み付いた。


「そりゃ良かったわ。皆、集まったことやし、ささっと行くで」


「グラサン先生、どこ行くんだよ? カワイイ姉ちゃんが一杯いる場所に連れっててくれるんじゃなかったのかよ? 藤先生以外、カワイイやつ居ねぇじゃん」


「なに言うとんねん。今から行くところがその場所や」


「本当か!?」


「伏見先生!」


 藤は伏見に詰め寄る。


「バッカじゃないの……」


 由美子は現金な大地を見て呆れていた。


「なんだよ、てめえ! 喧嘩売ってんのか?」


 大地は由美子に詰め寄る。


「はいはい、お目鯛奴。そんな下品な所に行くわけ無いでしょう」


「てめえ……」


 大地は由美子にがんを飛ばすが、由美子は涼しい顔をしている。


「まあまあ、大地くん。抑えて抑えて」


 忠陽が二人の間に入る。


「うっせぇ、ボン! 邪魔すんじゃねぇ! こいつは端から気に食わないだよ。このぺったんこ!」


 由美子はいつも冷静な顔が崩れ動揺していた。


「ぺ、ぺ、ぺったんこですって……」


「俺が好きなのはな、藤先生みたにな、胸が大っきい方が好きなんだよ。てめえなんて、お呼びでねえんだ!」


 大地は鼻で笑った。そこで、由美子の頭の血管が切れるような音が忠陽には聞こえた。


「そ、そう。どうやらここで死にたいようね……」


 由美子は魔力が増大する。


「神宮さんも抑えて! 先生、なんとかしてください」


「なんや、喧嘩か? 仲ええな」


 伏見はヘラヘラと笑っている。


「ちょっと、伏見先生。二人の喧嘩を止めないと!」


 藤は由美子を大地から引き離そうとする。


「放しなさい。あの猿人にはお仕置きが必要よ。知能は猿以下なんだから! 体で覚えさせないと」


「神宮さん、落ち着きなさい。ここは公共の場よ」


「大地くん、これ以上騒ぎしたらまずいよ」


「ボン、あの跳ねっ返りはな、叩かないと分からないんだよ。放させ!」


 騒動を聞きつけた民衆は忠陽たちを取り囲むように集まってきた。


「はあー、せっかくの夏休みの最後、麟くんとゆっくりする予定だったのに……」


 朝子は大きなため息をはく。


「てめえ、まだそんなことを言ってんのか!」


 大地は由美子ではなく、朝子に敵意を向けた。


「はあ!? あんた、私がどれだけ、どれだけ、麟くんとの予定を楽しみしてたか……。それを何? 脅迫まがいな手口でこんな所に来て見れれば、いけ好かないお姫様と、頭の悪い猿と、根暗二重人格がいるじゃない。最悪よ、私の夏を返しなさいよ! このスケベ猿!」


「ふざけんな! 俺だってな、楽しい旅行に連れてってやると言われてみれば、麟くん、麟くんって気持ち悪りぃ女と、残念お姫様がいるじゃねえか! 俺も被害者なんだよ!」


「ああもう、氷見さん! その話はさっき終わったでしょう! 蒸し返さないでよ!」


 藤は朝子の所へ駆けつけ、大地から引き離そうとする。


 そんな姿を由美子は鼻で笑う。


「無様ね。この男から話ならこうなることは事前に予想できたはずよ。本当、バカばっか!」


「なんだと!」


「なにを!」


 大地と朝子は声を揃えて、由美子を睨み、押さえつける忠陽と藤に反発し、由美子に近づこうとする。


 逆に近づこうとする由美子を慌てて鞘夏が止めに入る。


 それをよそに伏見は近づいてきた軍服の男と話していた。


「お迎え、ありがとうございます。乗り込むのはあそこに居る騒ぎを起こしているアホだけです」


 男は苦笑いをしていた。


 互いの罵り合いは一向に収まることはなく、ヒートアップしていた。


「いつまで楽しんどんね。さっさと車に乗るで。君らは恥を晒してもええかもしれへんけど、僕が一番恥ずかしいわ。乗らんなら、置いていくでえ」


 伏見以外の全員が声を揃えて言う。


「誰のせいだ!」

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