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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第八話 朝曇 身を焦がし 下心を知る 陽射しかな 其の十五

 忠陽は居間に由美子と漆戸を案内し、フミが出したお茶と茶菓子で一息ついていた。


「神宮さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ない」


「いいわよ。それにこちらこそ、お母様が扉を……」


 忠陽は苦笑いした。


「扉の修理はすぐにこちらの方で手配させて頂きますので……」


 漆戸は深く謝礼をしていた。


「それよりも、賀茂君。アイツはここに何しに来たの?」


「僕と鞘夏さんに内弟子の勧誘だよ」


「勧誘!? まさか受けたんじゃないでしょうね?」


 由美子は立ち上がっていた。


「貴方が嫌いですと言っておいたよ」


 由美子は御満悦になった。


「よく言った!私が褒めてあげるわ!」


「お褒めに預かります」


 忠陽は何かを誤魔化すように笑った。


「でも、何でアイツ直々に勧誘に来たのかしら」


「僕は、神無さんらしいよ……。鞘夏さんは……」


「言い訳が上手く行きませんでしたか。申し訳ない」


「漆戸さんのせいじゃないですよ。お互いの嘘ぐらいが分かるって言ってましたから……」


「なるほど。それは確かに……」


居間の入り口から麻美と寿子の声が聞こえてきた。二人は居間に入ると、そこで止まった。


「ゆみ、帰るわよ」


「お母様、もう宜しいのですか?」


「悪い虫は居なくなったし、麻美にも会えたし」


 由美子は、釈然としない様子だった。


「ごめんね、賀茂君。うちの母が……」


「ううん。来て頂いたのになんのおもてなしも出来なくて……」


 寿子は忠陽に近づき、両肩に手をおいた。


「今度、麻美と一緒にうちにいらっしゃい」


「はい。また今度、母と一緒にお礼に伺います」


 神宮家の一面は嵐のように去っていった。


----------------------------------------------------


 夕暮れ、鞘夏が邸宅に帰った時、その壊れた扉を見て、慌てて中に入った。


「忠陽様! 奥様、鏡華様! フミさん!」


 玄関口での惨状を見て、鞘夏は険しい顔をし、玄関口でそう叫ぶ。すると台所の方からフミが出てきた。


「おかえりなさい。扉を見て、びっくりしたでしょう?」


「フミさん! 皆様無事なのですか?」


「ええ大丈夫よ。それよりも奥様から、貴方が帰ってきたら、坊っちゃんの所に行く前に、奥様の所に来るようにと仰せつかっているわ。たぶん、サロンに居ると思うから、行ってきなさい」


「畏まりました……」


 鞘夏は焦る気持ちを押し殺して、サロンへと向かった。


 サロンでは、麻美が夕日に当てられながらも、静かに本を読んでいた。鞘夏は麻美に近づくと、麻美は鞘夏に気づき、無言で隣に座るように指示した。


「あの、奥様。玄関の扉が……」


 麻美は喜んだ顔をしながら答えた。


「あれ、凄いでしょう? 寿子が来たの」


「寿子?」


「由美子さんのお母様よ」


「ゆみさんの……」


「まあ、座りなさい」


 鞘夏は麻美の隣に座った。


「寿子はね、物凄い気が短いの。それでね、よく物を壊したりするのよ。子供の頃、怪獣オヒサゴンって渾名を付けてあげたの」


 麻美は小悪魔のように可愛らしかった。


「どうして、そのような事があったのですか?」


「今日ね、忠陽さんに会いに来たお客様が大変失礼な方でね、フミの意識を奪うものだから、忠陽さんが由美子さんの所に逃げるようにフミに言ったのよ。生憎、由美子さんは居なくて、それで怪獣オヒサゴンが私を助けるためにやって来たんだけど、いつものように家の扉を蹴破ってやってきて、あんな惨状になったのよ」


 鞘夏は黙っていた。


「私もその客に仕返しに、魔除けとして塩を差し上げたのよ」


「塩? 何故ですか?」


「ほら、良からぬものには塩を掛けるじゃない? でも、相手は一応、名のある六道家だから渡してあげたの。彼、喜んでいたわ」


「喜んでいた?」


 鞘夏は頭が混乱した。


「鞘夏さんには難しかったかしら。一種の冗談よ」


 鞘夏は空返事をしていた。


「それよりも、今日一日で、整理できたかしら?」


 鞘夏は家に帰るまでに考えていたことを玄関の扉の惨状で忘れてしまった。


「あの……」


 麻美は鞘夏の手を取る。


「いいのよ。今日、答えを出さなくても……。私はね、貴方が陽たちを大切に思ってくれているのは分かってるわ。でもね、私は貴方も大切な家族なの。ただ、それが、呪いによる繋がりではあってほしくない。それは、お互いを不幸にする……」


「はい……奥様……」


「貴方も陽たちもまだ子供。好きになる相手が他の人でもいいのよ。色んな人と恋愛することで子供から大人に成長する。だから、陽たちでなくてもいい。貴方が好きだと思う人を選び、受け入れなさい」


「私は……」


 鞘夏は麻美の手を強く握っていた。麻美は優しく微笑みかけた。


「私は……」


 鞘夏はそう繰り返すと、忠陽の口づけを思い出す。あの時、涙が出た。でも、あれは……。


「私は、幸せになっても良いのでしょうか?」


「いいのよ。私は貴方にも、幸せになって欲しい」


「……」


 鞘夏の目から涙が溢れ始める。


 麻美はそんな鞘夏を、我が子をあやすように抱きしめた。


「幸せになって、鞘夏。そして、もっと恋をしなさい。相手を傷つけてもいい、傷つけられてもいい。私にワガママだって言っていいのよ。貴方は私の可愛い娘なんだから」


 麻美から小さな雫が溢れ落ちた。


--------------------------------------------


 忠陽は夜になり、夕食を終えても、鞘夏の姿を見なかった。フミからは帰ってきているという報告は受けている。だが、昼間にあったその行動力が嘘のように無くなっていた。


 六道絢の言葉が鞘夏に会うことを躊躇わせているのか?


 自身に問いかけてもその靄は晴れない。


 僕が鞘夏さんを殺す。僕は鞘夏さんに近づかないほうがいいのかもしれない……。


 大切なものを遠ざけよう考えたが、そうすると、これからどうすれば良いのか分からず、結局、部屋の中から出れなくなってしまう。


 ふと、由美子の声が心によぎる。


 知りたいなら、貴方がもう一人の自分とも向き合いなさい。それに鞘夏とも。


 忠陽は何となく、その言葉に押されるように立ち上がった。


 僕は本当に鞘夏さんを殺すかもしれない。でも、今はそんなの関係ない。今は、昨日のことを謝ることだ。


 自分をもう一度奮い立たせる。


 そうして、忠陽は部屋から出て、廊下を歩き、鞘夏の部屋の前と立つ。


 心臓の鼓動が聞こえてくる。だが、その心臓の鼓動も気にせず、忠陽は扉をノックする。


「はい……」


 鞘夏の声だった。それに少し安堵したが、すぐに手足が痺れるよな感覚に襲われた。


「ぼ、僕だけど……」


「はい」


 鞘夏が扉に近づくの感じた。


「鞘夏さん、良いんだ。このままで……。このままで聞いて欲しい……」


 鞘夏からは返答がなかった。


「あの、昨日のことなんだけど……」


 忠陽、自分の中で言えと何度も叫び続ける。


「陽様?」


「あ、あ、あの……ごめんなさい!」


 忠陽は扉の前で頭を下げていた。しばらくして、鞘夏の声が聞こえる。


「……どうして、お謝りになるのですか?」


「そ、そ、その……僕は君に……悪いことをした……と思って……」


 鞘夏は無言だった。


「いや、良いんだ。悪いことをしたのは僕だ。君が怒るのも当たり前だ」


「私――」


 忠陽は鞘夏の言葉を遮ってしまった。


「でも! でも……明日……彼杵に一緒に来てほしいんだ……」


 忠陽は何故このようなことを言ってしまったか、自分でも理解できない。これでは彼女を怒らせるだけだ。それなのに……。もっと良い言い方があったはずだと思いながら息を呑む。


「考えさせて……ください」


「……それは当然だよ。……待ってる。……明日でもいい。……答えを、待ってる」


「はい。陽様」


 忠陽は自室に戻っていった。戻ったあとも自分の言ったことをずっと後悔した。どうして、一緒に来てほしいなんて言ったのかと。忠陽はその夜、寝付いたのは午前三時頃以降であったとうる覚えに記憶していた。


 次の日、忠陽は鏡華に叩き起こされ、起床した。


 鏡華は太陽が輝くのように元気を忠陽にぶつけてくる。こういう時の鏡華は寂しさを紛らわせるためにワザとやっていることも分かるし、構ってほしいことが分かっていた。


「陽兄、今日から彼杵に行くんでしょう? 早く起きなよ!」


「分かったよ、鏡華。でも、昨日は夜が遅かったんだ……」


「何言ってんのよ。だらしない! 由美子さんに怒られるわよ」


「神宮さんはこんな僕を知らないよ。知っているのは鏡華だけだ」


「そうよね。こんなだらしのない陽兄を知っているのは私だけよ。早く起きろ~」


 鏡華は喜びながら忠陽を起こしていた。


 忠陽は洗面所に行き、顔を洗い、また自室に戻り、服を着替えて、朝食に出た。その間ずっと、鏡華は付き添ってくれている。他愛のない兄弟の会話。でも、それが自身にとっても何よりの活力剤になっていた。


 食事室でそんな鏡華を見て、麻美は笑う。


「あら、引っ付き虫が現れたわ」


「引っ付き虫じゃないもん!」


「鏡華はいつになったら、忠陽さん離れをしてくれるのかしら? これでは嫁ぎ先がなくなるわ」


「いいもん。陽兄が養ってくれるから」


「鏡華、流石に僕でもそれは無理だ」


「なんでよー!」


「働かざるもの食うべからずだよ」


「ちゃんと働くもん! 働いた上で養ってもらうもん」


「それなら仕方ない」


 麻美はその二人のやり取りを見て、大いに笑っていた。


 忠陽は朝食を終えると、身支度をしに自室に戻る。鏡華はそれにもついていく。


「本当に彼杵に行くの?」


「そうだよ。先生の頼みだからね」


「あと、一週間じゃん。お母様と一緒に居てくれないの?」


「なんだ、母さんが怖いのか?」


「違うわよ!」


 忠陽は足を止め、鏡華の顔を見る。


「天谷に帰るのが寂しいのか?」


「そうじゃ、ないわよ」


 鏡華は不満げな顔をしていた。


「母さんに甘えるだけ甘えるんだ。天谷じゃ、僕は甘やかさないぞ」


「陽兄の意地悪!」


 膨れる妹を見て、忠陽は笑った。


 忠陽はキャリーバックを持ち、玄関に向かった。


 玄関の続く通路の前で麻美が待っていた。忠陽は自然と近寄り、麻美と抱擁を交わす。


「母さん、行ってきます」


「ええ、いってらっしゃい」


 麻美は忠陽を放すことはなかった。


「貴方がなんとも思うと、貴方がどう決めようと、私は受け入れるわ。でも、これだけは覚えておいて。私たちは貴方を愛している」


「僕もだよ、母さん」


 麻美は忠陽を放すと、笑顔で見せた。


 忠陽が玄関行くと、扉の前でフミと、身支度を済ませている鞘夏が居た。


 その光景が陽の光に当たっていて、幻影を見ているかのようだった。


「鞘夏さん?」


 鞘夏は顔を一度反らし、そしてまた忠陽を見て返事をした。


「はい」


 忠陽は顔が綻ぶ。


「じゃあ……行こうか」


「はい。陽様」


 二人は壊れた扉から外へと出ていった。

タイトルが前回から短歌、俳句のようになっています。

最近長ったらしい作品名が多いですが、説明的で嫌いなもの多々あります。

日本語というのは世界でも習得するのが難しい言語だと言われています。事実、日本語にはひらがな、カタカナ、漢字と最低でもこの三つを理解しなければいけません。また、同じ発音なのに違う意味をあらわしているのが多い。この特殊性が外国の人からすると覚えにくいと言われています。

私は英語のほうが覚えることが多くてわからないですが・・・。

日本語だけしか理解していませんので、かなり偏った考えになりますが、日本語というのは理解できれば、単語だけで情景だけを表現できる。その最たるものが俳句や短歌です。

短歌なんていうのは恋歌が多く、自分の心情を景色に例えたりします。俳句はそれよりも短い言葉で伝えたいものを映像を映し出す。

だから、昨今のタイトルが長ったらしいのは、皆さん、川柳を書いている、もしくは歌っているのです。

私の作品は悪役令嬢だけど、人生がハッピーになるように生き抜くためにこういったことをやりますよと。

編集者もあらすじを書くよりもタイトルでさらっと回収した方が売れやすいからという理由で企画を通しているのか定かではありませんが、題名が長いのは日本人の宿命的なものがあるのかもしれませんね。

私の好みは風流なものがいい。上品で趣があるものがいい。

でも、こういったものには教養という言葉が付いてくる。単に響きのいい、言葉に趣なのものを選んでしまうと言葉の意味をなさず、不味いものができてしまう。

そうすると、皆さんはこういうのでしょう。

「ああ、また俳句を書いてら」

お後がよろしいようで。

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