第八話 朝曇 身を焦がし 下心を知る 陽射しかな 其の二
京の夏は熱い。
京の周りは山に囲まれており、そのくぼんだ盆地に都市が形成されている。そのため、海洋から冷された空気の循環が少ないことから気温を上げているらしい。
名家と呼ばれる者たちは、夏は避暑地の別荘にいる。
賀茂家は人工島「天谷」を建設すると時に、別荘などを売り払い、資金としたため、そんなものはなかった。京の都市内の邸宅も売り払い、今は賀茂家の本邸は嵐山とよばれる地区の近くにあった。
そこは御所とよばれる京の中心地から遠く離れており、御所の近くの駅「京」から沿線を乗り継いで二十分、そして、そこから車で十五分かかるところだった。また、空港から京まで電車では二時間もかかるため、天谷から賀茂の本邸着いた頃には鏡華の顔は疲労で歪んでいた。
近くの駅からタクシーに乗り、本邸に着く。本邸は古びた洋館であり、この地区に新しく住み始めた人間から気味悪がられていた。
忠陽が玄関の扉を開けると、出迎えてくれたのは長年賀茂家に仕えてくれている使用人のフミだった。
「坊っちゃん、お嬢様、お帰りなさいませ」
フミは忠陽の母である麻美とともにこの家にやって来た。賀茂が資産を売り、多くの使用人に暇を出したが、このフミだけは麻美が手放さなかった。フミはもう今年で六十近くになるというのに未だに献身的に仕え、この家の使用人長として数名の使用人の指示を取り仕切っている。
鏡華が今までの疲れを忘れ、フミのふっくらとした体に抱きつく。
「ただいま、フミ! 元気だった?」
「ええ、お嬢様。私は元気でしたよ。お嬢様は坊っちゃんにワガママ言っておりませんでしたか?」
鏡華はフミにふくれっ面を見せる。
「もう。私、そんなに子供じゃないだから」
フミは鏡華の頭を撫で、忠陽を見た。
「フミさん、お迎えありがとうざいます」
「いえ、駅まで向かいに行けず、誠に申し訳ございません」
「いいよ。三人で、旅行気分で楽しかったし。それに、鏡華が駄々捏ね無かったし」
「陽兄、それどういう意味よ!」
「ははは。お嬢様は偉いですね」
フミは鞘夏に視線を向ける。鞘夏はフミに深々と頭を下げた。
「お帰り。荷物を早くお運びなさい」
鞘夏は黙って、忠陽たちの荷物を受け取ろうとする。
「いいよ、鞘夏さん。自分でやるから」
「坊っちゃん、それはなりません。私達の仕事を奪うのですか?」
フミは使用人の役割には厳しい人間だった。忠陽はその言葉で鞘夏に荷物を渡す。
「ささ、奥様に顔を見せてあげてください。喜びます」
「うん。そうするわ」
フミに案内され、忠陽と鏡華は一階のリビングの隣接するサンルームに通される。そこに二人の母親である賀茂麻美が、本を読みながら椅子に座っていた。
忠陽はその座り方を見て、いつもの母親らしい上品な佇まいであることに安堵した。
「奥様、お二人をお連れ致しました」
麻美はフミの声で顔を上げ、二人を見ると優しい笑顔で迎えてくれた。
「ただいま、お母様!」
鏡華が小走りし、座ったままの麻美に抱きつく。麻美は驚きつつも、娘を抱きしめ、頭を撫でた。
「お帰り、鏡華」
鏡華は嬉しそうに頷く。
「ほら、忠陽さんがいるのに端ないわ」
「久しぶりの母様成分を補充しないと」
「まあ、この子ったら。まだ、甘えん坊さんなのね」
鏡華はニコニコしていた。しばらくして、鏡華が離れると手元にあった本を閉じ、テーブルに置き、立ち上がり、忠陽に近づく。
「お帰りさない。忠陽さん……」
「ただいま、母さん」
麻美は忠陽をよく見た。
「少し、変わられたかしら……」
忠陽は首を傾げる。
「変わってないと思うけど……」
「入学式より大人になった気がするわ」
鏡華が忠陽を見る。
「そうかな? いつも通りの陽兄だよ。口うるさい」
忠陽は鏡華を叱る。それを見て、麻美もフミも笑った。
麻美は両手を広げ、忠陽を抱きしめる。その時、忠陽は母の顔が自分の胸にぐらいあることに気づいた。
「やっぱり、少し大きくなったのね。忠陽さん」
「そうみたい……」
麻美は忠陽から離れると、辺りを見回す。何か探しているようだった。
「鞘夏さんは居ないの?」
「鞘夏は今、荷物を片付けさせています」
「そうなの……。フミ、後で呼んでくださる?」
「はい……ですが、奥様……」
フミは顔を渋る。
「良いのよ」
麻美の笑顔にフミは無言で頭を下げた。フミはそのまま部屋から下がり、家族だけにした。
「ほら、鏡華も忠陽さんも座って。学校の話を聞かせて頂戴」
忠陽と鏡華は母親に促されるようにサンルームの椅子に座った。話し始めたのは鏡華だった。それまで抑えきれない気持ちを溢れ出すように麻美に学校のことや友人のことを話し出す。
話し出して十数分した頃、扉を開け、給仕服姿の鞘夏がサンルームに入ってきた。鞘夏はお盆の上に三人分の冷たい麦茶と冷水筒を載せて、持っていた。
「お飲み物をお持ち致しました」
鞘夏は近づき、テーブルに麦茶と冷水筒を置くと、すぐに下がろうとした。
麻美は立ち上がり、鞘夏を呼び止めた。
「鞘夏さん。貴方の話も聞かせて頂戴」
「いえ、奥様。私は……」
「フミから言付かっていることはいいわ。私は、貴方の話も聞きたいの」
麻美は鞘夏の背に周り、椅子へと押した。鞘夏は戸惑いながらも椅子に座る。鏡華はすこし膨れていたが、麻美の「まぁ、おフグさんになったみたい」と笑いながら、鏡華の頬を指先で触れる。それから四人で天谷での学校生活や私生活を話していた。
二時間ぐらい話した後、様子を見に来たフミから鞘夏のことのお小言を貰う形で、話を終えることとなった。
「鞘夏さん、ちょっと……」
忠陽と鏡華がサンルームが出る中、麻美は鞘夏を呼び止めた。
忠陽たちがサンルームから出て、二人にきりになったとき、麻美は鞘夏に近づき、忠陽たちと同じように抱きしめた。
「奥様……」
「いいのよ」
鞘夏はその優しさに触れ、麻美に甘えるように抱き返す。
「おかえり、鞘夏」
麻美は鞘夏の頭を撫でていた。
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夜になり、食事室での盛大な夕食に鏡華は喜んでいた。食べ物は和食でも、鏡華が好きなフミの筑前煮があり、それを美味しく食べていた。
三人、家族団欒の時間を過ごし、忠陽は自室に戻ろうとしたとき、麻美に呼び止められた。
「忠陽さん、お父様から聞いています。今度、一条が開催する宴会に参加されるのでしょう?」
「うん、そうだだけど……」
「貴方も社交界に出るのね……」
いつも笑顔の麻美の影が差す。
「どうかしたの? 母さん……」
「いえ、私は忠陽さんが社交界に出ることを反対していたのです」
「反対……」
社交界は公家や名家、財界の人間にとって重要な場所だ。それに出ることを母が反対していたことに忠陽は驚いた。それに母は父に対してあまり意見を言う人間ではなかった。
「私は、あの場所があまり好みではありません。あそこはあるのは損得勘定のみです。忠陽さんにそういった場所で生きてほしくはないのです」
「ありがとう。でも、僕らは名家の一つとして言われているんだ。出ないわけにはいかないよ。それに父さんは天谷で忙しそうだし、代わりに出れるなら出たほうがいい」
「ごめんさなさいね。忠陽さんにだけ辛い思いをさせて……。私の友人に一条の宴会に出る方がいるか聞いてみるわ。忠陽さんの助けになってくれるように頼んでみる」
「母さん、ありがとう」
麻美は手元にあったベルを鳴らす。そうすると、フミが入ってきた。
「なんでしょうか。奥様」
「鞘夏さんを呼んできて頂戴」
「はい。畏まりました」
すぐにフミとともに鞘夏が食事室に入ってきた。
「いかがなされましたか、奥様」
「今度、忠陽さんが一条の宴会に出席なさるの。その宴会に貴方も一緒に行ってほしいの」
「奥様!」
フミが麻美を止めるも、麻美は首を振る。
「鞘夏さんは、忠臣さんとよく社交界に出ていたわ。社交界でのマナーはよく知っている。忠陽さんの助けをしてほしいの」
「奥様……」
フミは渋々従った。
「よろしいかしら? 鞘夏さん」
「……はい。承知致しました」
鞘夏は深々と頭を下げた。
「忠陽さん、事前に私からも貴方に教えられることは教えるわ。でも、私も二十年前のことだからしきたりが古いかもしれない。そこは鞘夏さんにも聞いて頂戴。鞘夏さん、宜しくお願い致します」
「はい、かしこまりました」
麻美はなにかに気づいた。
「そうね、服も用意しないといけないわ。それも二人分」
「奥様、もしかして……」
フミは苦い顔をする。
「あら、フミ。察しが良いわね。私が二人の衣装を作るわ。だって、私の特技は裁縫よ」
「そのようなことは、私共が……」
「フミ。私の楽しみを奪わないで頂戴」
「かしこまりました」
「忠陽さんの燕尾服は、忠臣さんのものをサイズ変更すればいいわね。鞘夏さんのは……」
麻美は楽しそうに鞘夏を見る。
「奥様、それこそお下がりをお願い致します」
「ダメよ。鞘夏さんのは私が作るの」
麻美は駄々をこねるようにフミに言った。
「分かりました。鞘夏、採寸をするから部屋に戻ってなさい」
「承知致しました」
鞘夏は食事室から出ていった。忠陽も麻美とフミの言い合いに成ってきたので、黙って部屋を後にした。
「奥様……鞘夏は使用人です。あまりに甘やかさないでください」
「鞘夏さんには幸せでいてほしいのよ」
「ですが……」
フミは苦い顔する。
「あの子は私と忠臣さんの娘同然だから……」
麻美はさっきの笑顔から悲しそうな顔をに変わる。それを見たフミは膝を付き、麻美の手を取り、握りしめた。
暑い夏、皆さんはどんなメロディーを聞くのでしょうか?
夏と言ったら、TUBE!という方は今どのぐらい居るのかな?
私は夏と言ったら……キツイ思い出でしかないですね。
今年の夏は、エアコンを一日つけながら、過ごしていましたね。
シンジラレナーイ!!!
自然の脅威には人間とはかくも弱いものだということが分かります。
そんな厳しい夏に一曲を
機動武闘伝Gガンダム GUNDAM FIGHT-ROUND4
田中公平
「我が心 明鏡止水 - されどこの掌は烈火の如く」




