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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第七話 誰そ彼、輝くは天と地と、祓い清め給ふは弓の姫 其の十三

 五


 時刻は真夜中を指す。セントラルビルの周りは昼間と違い、別世界のように不気味さを感じる。それは、京の特有の人間と精霊、妖魔が交わる世界ではなく、幽世(かくりよ)の世界に近いものを八雲は感じた。


 八雲はセントラルビルを見上げる。二つに(そび)え立つ建物が中層階から一つとなる。伏見が言うようにこのビルが一種の儀式的な何かの役目を持つのかと考える。真っ先に浮かんだのは忠陽だった。


「あの野郎……」


 八雲は伏見の言葉を思い出し、ビルを睨みつける。聳え立つビルは余裕の表情浮かべ、八雲を手ぐすねしていた。その誘いに乗るように、八雲はビルの結界のヒビの前へ立つ。


 結界のヒビがあったからといって、通常の人間が結界に気づけるものではない。例え、意識をしたとしても見つけることもできず、ましてや呪力のない人間には入ることすらできない。


 八雲は神無が入れたヒビを見た。結界を壊すことはなく、その機能の一部だけを壊している。それは皮膚に痛みの無い薄い傷をつけるかのようだった。それを見て、八雲は苦虫を噛んだ顔をした。


 八雲は呪力を高め、結界のヒビに手を触れると吸い込まれるように手が入った。そのままに体を結界の中へ入れた。


 結界の中は千差万別である。その種類によって外界の干渉に対して強いのか、内からの干渉に強いかが分かれる。その両方を兼ね備えたものもあるが、すべては一長一短。言えることは使用者にとって、都合のいい世界を作り出す。


 八雲の視界は見える暗闇の夜ではなく、青紫色の空だった。辺りはどんよりとしており、不自然な空だった。八雲は入ってきた方向を見る。すると、結界のビビが入り口よりも大きいことに気づく。入り口の方は見えても気付けるかぐらいの傷が小さいものだった。恐らく結界内に入るに連れてそのヒビを広げているのだろう。その手腕に八雲は頭を掻いた。


 それと同時に、この結界は敷いた術者のレベルも理解した。


 八雲は手を広げると空間が開く。開いた空間に手を入れ、中から刀を取り出し、帯刀する。


「術は使えるのか……」


 青紫色の空の下、八雲は歩く。正面を見ると放棄されて、数年以上も経つ建物があった。蔓草(つるくさ)は茫々に生え、建物を覆っている。セントラルビルの数百メートルに隣接しているというのにその外観さえ見る形さえない。


「異空間……だが、この規模を作るには親父でさえ無理だ」


 八雲は建物の中に入ることにした。建物のエントランスは二階まで吹抜けになっており、室内からは病院特有の消毒臭がしていた。夜のせいか、室内の奥は暗く、何も見えない。八雲は呪力で知覚を強化した。それでようやくモノの判別ができるようになった。


 八雲は近くの部屋の扉を開けて入った。窓から指す薄い光によって、室内は照らされていたが、入り口は暗い。奥には机が置いてあり、そこには試験管が何本も並べてあったが、すべてカラで埃かぶっていた。机に隣接する棚を開けるも書類はない。もぬけの殻だ。


「……だよな」


 八雲は部屋を出ると、小さな音を聞いた。聴覚を強化し、更に聞き耳を立てる。どうやら、音を辿ると下り階段に差し掛かった。


 八雲はため息をつく。


「地下はねえだろ……」


 地下へと降りる足音を極力消して降った。地下二階差し掛かると、何かを漁る音が大きくなった。そこで八雲は聴力強化を止めた。地下二階にガサガサとした音が響き渡る。


 八雲は音のする部屋のドアノブを開ける。それから刀に手をかけながら、扉を肩でゆっくりと開ける。開けると部屋は大きな研究室であり、大人でも入れる試験管が十数個あった。そのガラスはすべて割られている。その中での鼻息を鳴らしながら、人間らしき存在が、何かを探していた。


「動くな!」


 声をかけた人物は直ぐに振り返り、周りの机や物体を壊しながら、八雲に襲いかかった。


 咄嗟のことに八雲に鞘から抜く暇もなく、鞘を押し当てて相手の牙を防ぎ、蹴飛ばした。


 それは紛れもない化物だった。口は乱雑に生えた牙、伸びた爪、体毛が濃く、犬か猫のようなだった。


 蹴り飛ばされた化物は、猫のように着地し、再度八雲に襲いかかる。


 八雲は、刀を抜き、化物の爪を斬り払い、肩を斬りつけた。化物の切り口から青い血がドロリと流れ、喚きながら八雲に突進してきた。八雲はその突進を避け、もう一度背中を斬りつける。


 化物はその痛みに喚き、出口へと出ていった。


 八雲は化物を追いかけた。


 化物は一階まで上り、出口を蹴破って出た。そこで四つん這いなり、八雲を迎撃する構えをみせた。


 八雲も建物から出てきて対峙する。


 さらに化物の姿がくっきりと見えるようになった。その浅ましい姿は妖魔が理性を失い、飢餓感にすべてを支配されたものに見えた。


 妖魔は人間のように食事をするということが少なく、自身の体内に魔素を取り込み生きている。魔素は自然界にあるため、何もしなくても飢餓にならない。飢餓になる最もの要因は妖魔としての寿命、そして異物を食べたことによる変異だ。


 妖魔は自然の存在と言ってもいい。人知れずとも現れ、消えていく。人の手ではどうにもならない天変地異の一つだ。だから、古来より人はそれを畏れ、敬い、崇め、殺す。


 八雲は問答無用に妖魔に斬りかかる。飢餓状態の妖魔は人の言葉すら理解できない。八雲にできるのは殺し、飢餓状態から開放することだ。


 斬撃を二撃与えるも、妖魔の皮一枚斬ったようものだった。八雲深い呼吸をする。眼力は増し、表情からいつもの優しさは消えていく。


 刀を片手で持ち、反りを肩に掛けた。そして、逆の肩を妖魔に向ける構えを取る。


 次の瞬間、八雲は消えた。妖魔は左右を見るも見つけることはできない。八雲が現れたのは妖魔の正面だった。


 まず、八雲は妖魔を蹴り飛ばす。妖魔は両腕で防御するも吹き飛ばされる。その飛ばされる瞬間に八雲は駆けていた。疾走する八雲は妖魔に追いつき、片手で持っていた刀を両手に持ち替え、振り下ろしながら、妖魔を通り抜けた。


 妖魔の片手は飛んだ。飛んだ片腕が地面に着くと同時に妖魔も尻もちをついた。妖魔は落ちた自分の片腕なら流れる青い血をを見て、声にならない咆哮をする。


 咆哮は結界内に木霊した。その咆哮には妖気が籠もっており、振り向いて、さらにもう一撃を加えようとした八雲の足を止めた。


 妖魔はその隙に気づき、片腕を持って、走り去る。


 八雲は逃さないように動いた。動いた瞬間に八雲から破裂音がし、姿を消した。


 妖魔はその音に気づき、斬られた腕を合わせた。すると、傷口の跡もなくなり、腕は一瞬にして接合した。


 妖魔は振り返り、また咆哮をする。妖気を乗せた振動は八雲の足を止めるには充分だった。八雲はまた姿を現し、怯むが再度妖魔を追う。


 八雲は妖魔を追いながら、呪力を練り上げ、小柄を一本作り出し、脚に投擲した。


 それに気づいた妖魔は跳び上がり回避するも、空中に浮いた所を八雲が駆けてきた。その余りにも速い速度に、妖魔もとっさに腕に妖力を集中し、八雲の斬撃を受けるしかなかった。刀と腕は鍔迫り合いのようになり、八雲は力を込め、強引に払い飛ばした。妖魔はこの結界の入り口まで吹き飛ばされる。それを見て、八雲の舌打ちをする。


 一瞬にしてその距離を詰めたとき、出口で妖魔と浪人笠の男が対峙しているの八雲は見た。


 浪人笠はあの変形する棍を持ちながら、妖魔と八雲をゆっくり見る。妖魔は交互に相手を警戒しながら見返し、自分の位置を探っていた。


 八雲は浪人笠を見て、間の悪い奴と思う。そして、妖魔の動きを見て、直ぐに動き出し、妖魔へと駆けた。


 だが、ここで八雲の予想が外れた。浪人笠は棍を目一杯関節をすべて伸ばし、八雲が妖魔を刈り取ることを阻止したのだった。


 八雲は浪人笠の七節棍の攻撃を刀で受け止める。更に、浪人笠はムチのように撓らせ追撃を加える。八雲は刀で斬り払いながら、距離を取る。


 その間に妖魔は結界の入り口から外へ出ていった。浪人笠はそれを黙認したまま、八雲を牽制する。


 八雲は浪人笠を睨む。


「てめえ、どういうことだ? 相手は飢えた妖魔だぞ!」


 浪人笠は喋らない。その態度に神無を思い出し、怒りが増す。


 八雲が動こうとした次の瞬間、浪人笠は筒を取り出し、紐を引いて、投げていた。筒から閃光と耳鳴りが走る。


 八雲の視力と聴力が戻った時には、浪人笠もそこには居なかった。


「あのクソ野郎……」


 八雲は追いかけるように結界の外に出たが、辺りは八雲が入ったときとは違い、妖気に充ちており、探し出すのが困難だった。


 八雲は空に汚い言葉を叫ぶ。刀を収め、冷静なり、神宮の邸宅へと戻った。


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 次の日の放課後、八雲は忠陽と大地の組手をボーと見ていた。二人の組手はその形を得ているが、実はない。今はこれでもいい。そう思っているところに、薄い笑みを浮かべた男が音もなく、後ろに立った。


「なんだよ?」


「えらいご機嫌斜めやな」


「まあな」


「昨日はハズレかいな」


「いいや。笠男とは会ったよ」


「フラレたんかいな」


「ああ、飢餓状態の妖魔にもな」


 伏見の笑みに影が差す。


「この島に妖魔はいるのか?」


 八雲のやる気のない問に伏見は間を開けて答えた。


「分からん、やな」


「なんだよそれ。ここに来て、見かけたことはないのか?」


 八雲は自分の苛立ちを伏見にぶつけていた。


「最近の妖魔は人に化けるのが上手なっとんね。かんたんには尻尾は出さへん」


「そうかよ……」


「神無なら、僕に聞かずとも分かるけどな」


 八雲は舌打ちをする。伏見はヘラヘラと笑っていた。


「僕でも、見分けるにはそれなりの道具が必要や」


 八雲は手を差し出す。


「今はないわ」


「使えねーな」


 八雲は手を下げた。


「そりゃ、お互い様や。一度ならず二度も逃げられるなんて」


「うっせーな。用意するのにどれくらいかかるんだよ?」


「一日やな」


「速くしてくれ。飢餓状態の妖魔は何をしでかすか分からん」


「なあ、一つ聞いてええか?」


「何だよ……」


「本当に妖魔は飢餓状態やったんか?」


 八雲はふと考えた。妖魔が飢餓状態になる原因はマナの枯渇か、人を喰らったときに不純物のマナを取り込み、それが麻薬に似た常習性をもたらす結果だ。この島はマナ自体、純度の高いものであり、枯渇や人を食べなければ生きていけないというわけではない。むしろ、妖魔にとっては住心地が良い場所だろう。それに昨日の妖魔は逃げるだけの理性はあった。


「俺の思い込みなのか……」


「相手は群生体の人工妖魔を作り出すんや。その妖魔が元は人間でも、おかしないやろ?」


 しかし、八雲はその言葉に疑問を思う。


「それは違うような気がする……」


「なんでや?」


 八雲は妖魔と笠男が会ったときのことを思い出す。


「笠男は妖魔を逃した。だが、妖魔は俺達二人を警戒していた。妖魔にとってはあいつも敵のはずだ」


「研究所から逃げ出した妖魔かもしれへんやん」


「わざわざ研究所から逃げた妖魔が戻って、ものを漁ることはしないだろ」


「それもそうやな」


「お前、さっきからわざと言ってないか?」


「認識を共有するためや」


「回りくどいんだよ……」

妖魔というと、昔から色んな作品で出てきます。理性のないものいれば、知能犯だったり。

まぁ、人間はよくもまあ、色んな想像力があるものだと関心をしているところです。

つらつら惟るに、おおよそ人間というものをモデルとして、妖魔ができるのではないだろうか。

鬼島津、鬼義重というように、人の恐ろしさを化け物と例えたのでしょうな。

ということは妖魔は人間だったということ。

そうなれば、アニメのように現実世界でも妖魔を愛でることできるのでは?

と思いながらも、いや、それはないと思う今日このごろ。


TVアニメ「オーバーロード」&「オーバーロードII」オリジナルサウンドトラック

片山修志

「私の愛しいお方」を聞きながら

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