第十一話 学戦対策会議 その二
「さて、これで僕が指揮を執るか執らないかという話は解決したと思うが、残念ながら絹張くんの場合はどうだろう?」
母里は再び舌打ちをする。
「君たちのお眼鏡に適っていないのかな? 僕は彼女でもやれると思っている。僕の側で戦いを見てきたんだ。できないことはない」
忠陽はその言い方に違和感を覚える。
「あたしは神宮の嬢ちゃんを押すよ。やっぱり絹張の嬢ちゃんには無理だ」
祝園は発言する。
「いや、神宮では経験が浅い。ここは絹張だ」
戸次がどっしりと構えて言い放つ。
「何言ってんのさ、このデカブツ。学戦リーグを見ていたのか? あの子は竹中の策略を吹き飛ばした。それは絹張の嬢ちゃんじゃあできないことだよ」
「お前の前提条件が間違っている。これは学戦だ。神宮の考え方をこれから広めるとするれば、我々の勢力に馴染むには時間が掛かる」
「そんなの私達で徹底させれば良いことでしょう? 指揮官に必要なのは力とカリスマ性よ。学戦優勝者を頭に置くというのは、それだけで下の人間にとっては予備バッテリーをもった携帯みたいに心強いのよ!」
「俺は、神宮は反対だ! そいつは済ました顔をしているが、先輩後輩というものを分かっていない! 部隊指揮に悪影響を及ぼす!」
体育委員長は高らかに発言する。
「うっさいわね、このハゲゴリラ!」
「は、は、ハゲゴリラ……!?」
「ちょっと、脅されたくらいで根に持って。お前の○○○はポークビッツか!」
体育委員長は顔を真赤にしていた。
「おい、祝園。それはまともに書けないし、聞けない。もうちょっと綺麗な言葉を使え」
安藤が呆れていた。
「なら、✕✕✕で良いのか!? それとも△△△△か!?」
「それじゃあ変わんねえだろう……」
竹中は大笑いしていた。
「まあ、まあ、祝園くんも少し抑えて。ここは本人聞いてみたらどうかな? 由美子くん、君はどう思っているのかね?」
由美子に視線が集まるも、由美子は竹中に対して敵意を示していた。
「そうですね。会長のお言葉を借りるのなら、私であっても百戦百勝とはいきません」
属校の人間の笑いを誘うも、翼志館の人間は顔を歪める。その中でも体育委員長は声を大声であげた。
「神宮!」
「なんですか?」
冷たいく言い放つ由美子に体育委員長は蹴落とされる。それを見て、祝園は大笑いをする。
「ただ、戸次さんのお話は共感します。私が指揮を執るというのであれば、それだけで各校の皆様方に負担が生じます。それがどの程度の許容範囲かが分かりませんが、絹張先輩であれば、既存のスキームを使って指示するので、皆様方も簡単で、楽でいい。それよりも、私は誰が指揮を執るということではなく、この一戦をどのように戦うかに集中したほうがいいのではないでしょうか。会長の仰るとおり、この一戦によって相手は勢いづきます。それを防ぐほうが今考えるべきことだと思います。その結果で、絹張先輩にするか、私にするかを選んだほうが良いと思います」
忠陽は由美子の言葉が当たり障りのない言葉だと思った。やはり、絹張先輩には配慮しつつ、周りの属校には妥当性を提示して、判断を委ねる。忠陽の中では靄が生まれるものだった。
一方、竹中は満足げな顔をしており、それを見るだけで由美子は吐き気がしていた。
「へー、まともなことを言うじゃない。絹張の嬢ちゃんより見どころがあるね……」
祝園は由美子を楽しげに見ていた。
「では、由美子くんの言う通り、作戦会議をしようじゃないか」
竹中は嬉しそうに安藤を見ると、安藤はため息をつきながら、作戦説明を始めた。
「今回、周藤は魯に全軍指揮を任せる。ということは、ヤツ自身は打って来るだろう。三年の奴らは分かると思うが、単体であいつを止めることができるのは亮か、戸次、神宮ぐらいなものだ。本当なら、亮をぶつけたい所だが、亮には今まで通り、本陣でどっしり構えてもらうほうが全体の士気にもいい」
由美子はその考え方には否定的だった。
「それに加え、甘利と亜門が攻撃部隊を指揮するだろう。だがら、防御をいつもよりも固くする必要がある。防御部隊には戸次、俺、高橋、母里と絹張が担当する。これ以上ない人選だろ?」
母里はそれを聞いて、舌打ちをした。
「相手の対処は問題ないわ。でも、それだけじゃあ、勝てないわよね?」
「分かってるよ。だから、攻撃部隊の一軍を神宮に指揮させる」
周りはザワついた。
「神宮、その一軍に関してはお前に一存させる。好きに戦え。これなら、神宮の思い通りに動けるし、俺達の攻撃を最大化できる」
祝園は納得していた。
「肝心なのはお前の火力だ。お前の火力で攻めて、他の防衛部隊から人員を引き付ける必要がある。人員が少なくなったところを、他の三軍が各拠点を制圧する。流石に本拠地は黄倉辺りが守ってそうだからな。あの金剛石より硬い人間を倒すのは至難のはずだ。だから、本拠地は狙わない」
「ちょっと待ちなさいよ! あたしが入ってないじゃない!」
祝園は大声を挙げる。
「お前は遊撃だ。戦況に応じて、指示する」
祝園は不満そうな顔をしていた。
「何か質問はあるか?」
由美子は手を上げていた。
「私の部隊は私が人選をしてもいいのですか?」
「うん、構わないよ。ただし――」
竹中の返答に由美子は眉をひそめる。
「賀茂くんと真堂くんは駄目だ」
「どうして、ですか?」
由美子は竹中に敵意を持って睨みつける。
「賀茂くんは僕直属の部隊で働いてもらう。真堂くんは絹張くんのサポートだ」
由美子は奥歯を噛み込む。
「竹中、それはいくらなんでもやり過ぎだ」
戸次さえも苦言を言った。
「明確な理由はある。賀茂くんは僕の指示に従い、撹乱をしてもらう。僕と彼が組めば石陣八陣や他の術を使えるからね。防衛や攻撃に回すよりはるかに効率的だ。真堂くんは絹張くんの補佐をしてもらう。ひとつは補佐役としての処理能力だ。これから二週間、絹張くんを怒涛の資料整理に時間を当てるわけにはいかない。二つ目は、当日、彼女は有効な盾ともなる。彼女の防壁は指揮官である絹張くんを守るにも有効だ」
その言葉に翼志館の生徒は頷き、属校の生徒会長たちはそれぞれの反応を見せていた。由美子自身は二人の方針について批判が言えない内容なため、表立って反対するのは纏まりかけているこの状況を壊してしまうと思い、口を閉じていた。
人を集めろってこういうことだったのと、口惜しさを噛み締めながら、由美子は踏みとどまる。
「他には何かあるかね?」
誰もそれに対して口答えをしなかったため、安藤がまた話をし始める。防衛での展開と集結、攻撃部隊の集結地点と予測攻撃地点。その説明を上の空に由美子は聞いており、ただ一人、生徒会長である竹中を睨みつけていた。竹中はその視線に気づいていながらニコニコと笑みを浮かべている。その笑みが由美子の覇気を助長させ、次第に周りその気迫に気づき、由美子に視線を向ける。
「おい、神宮! 聞いているのか!?」
流石に安藤も注意せざるを得なかった。
「聞いていますが、なにか!?」
安藤はため息を付きながら話を続けた。
会議が終わると、竹中は忠陽を呼んだ。忠陽は由美子に申し訳なさそう顔をしながら、竹中の元へと向かう。
忠陽とすれ違うように母里が由美子の肩を叩く。
「まあ、そんな拗ねんな」
「拗ねてません」
母里は苦笑いする。
「お前があの野郎の性格を毛嫌いしてるのは分かるがよ、あれでも生徒会長だ。立ててやれよ」
「ええ、充分に立ててますよ。でも、隠しごとばかりをしている人間を信用できますか?」
「気持ちは分からないでもない。もし、あの野郎がお前や紫苑を貶めた時は手を出すな」
「どうしてですか!?」
「俺が殴り殺してやるからだよ」
母里の歯に噛む笑顔を見て、由美子は不満そうにし、自身の感情の逃げ場をなくしていた。
「真堂のことも気にするな。紫苑はあれで――」
「分かってます! 絹張先輩は真面目ですから!」
母里は苦笑する。
「真面目ね……」
「なにか、あるんですか?」
「いやよ、俺はそれが一番心配なんだ。紫苑はお前みたいに気が強いわけじゃない」
「なんですか、それ? さり気なく悪口言ってません」
「言ってねえよ。まあ、もう少し弱みを見せた方が可愛いがな」
由美子は鼻を鳴らす。
「一言多かったみたいだな」
「ええ、とても」
「人材が欲しいなら、俺に相談しろよ。何人か紹介してやるよ」
「そのときになったら、お声掛けさせて頂きます」
「そういうときは素直なんだな」
「聞かぬは一生の恥というでしょ?」
由美子の返答に母里は笑みを浮かべて、その場を去った。
そうこうしているうちに、忠陽は竹中に連れられて、生徒会室を後にする。
由美子はその姿を苦々しく見ていた。
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