第十一話 竹中から呼び出し その二
三
次の日の昼休み、忠陽と鞘夏、由美子は由美子の隠れ家である校舎裏のイチョウの木がある場所に居た。
由美子は忠陽の提案に驚き、お弁当のミニトマトを地面に落とした。
「法西を勧めるですって!?」
「うん。確かに性格は人を食った人だった。だけど、僕なんかより遥かに有能だった」
由美子はお弁当を隣に起き、立ち上がった。
「賀茂くん、何を言っているのか分かっているの?」
「ゆみさん」
鞘夏が由美子の腕を掴む。
「分かっているよ。だけど、あの人を放って置くと危険だ。今は会長がいるから問題ないと思うけど、絹張先輩が生徒会長になったとき、何をするか分からない」
「だから、紹介をして内で監視するってこと?」
由美子は納得がいかない様子だったが、腰を下ろし、卵焼きを食べた。
「もちろん、神宮さんが反対なのは分かるよ。本人も自分が邪道を行く人間だと遠回しに言っていた。自分が松前さんや遠山さんたちとは相容れないって」
由美子は勢いよく、タコさんウインナーに箸を入れる。
「なら、なんでよ!?」
「あの人は神宮さんに必要だって思ったから」
「私に?」
「うん。神宮さんは僕らと違って、この国を背負っていく人間だ。だから、ああいう人間を知っておくにはいいと思うんだ」
「それなら会長で十分よ」
「それは敵としてだよね? 僕が言っているのは味方にいるときの行動だよ」
「どうせ、裏切るに決まってるわ」
忠陽は否定できないため、笑うしかなかった。
「た、たしかに法西さんの性格は正直言って褒められたものじゃない。だけど、僕の嘘を見破ることもできるし、状況把握やそれを逆手に取ることもできる。たぶんだけど、計略なら会長と同じ力を持っているかもしれない。でも、会長と違うところがあるんだ」
「何が違うのよ? 性格が悪いところは一緒でしょ?」
「会長は自らでも戦える。だけど、法西さんは自分の力じゃあ戦えない」
「賀茂くん、知は力なりとも言うわ」
「それはそうだけど、法西さんにはいざ実行するにしてもその力がないんだ。考えても実行するには他の人の力が必要なんだ。ヤドリギみたいなものだよ」
「それを私に寄生させるつもりなの?」
忠陽は言い返せなくなった。
「ゆみさん、陽様はそういう意味で仰ってるのでは――」
「分かってるわよ、鞘夏。でも……」
忠陽は深呼吸する。
「なら、もし、法西さんが神宮さんに寄生しようとしたら、僕は迷わず、法西さんを殺すよ」
その言葉に由美子も鞘夏も驚いた。
「か、か、か、賀茂くん。そんな物騒なこと……」
鞘夏は心配そうな目で忠陽を見つめていた。
「僕が勧めたんだ。僕にはその義務があるはずでしょう?」
由美子は口を真一文字にして、悔しがっていた。
その時、校内放送で忠陽たちを呼ぶ声がした。
「一年、神宮由美子、賀茂忠陽、真堂鞘夏。至急、生徒会室まで来なさい」
その声の主は絹張だった。
忠陽たちは不安をよぎらせつつ、お弁当の蓋を閉じて、生徒会室に向かった。
生徒会室に入ると、いつも通り竹中が真ん中の席に降り、その横には絹張がいて、面倒くさそうに他の席で寝そべっている安藤が居た。
「やあ、由美子くん。お昼休み中に申し訳ないね」
竹中はいつも通りニコニコと笑みを浮かべていた。
「はい、とっても迷惑です!」
「神宮由美子!」
「神宮さん」
「ゆみさん」
「絹張くん」
「絹張……」
一死乱れぬ声が響き合う。
由美子は悪びれることもなく、絹張はその矛を収めようとはしない。
「由美子くん、放課後に急に呼びだされるよりも先に話しておいたほうがいいと思っての配慮だったが、今度からは君のクラスに私が出向くとするよ」
「会長!」
「いえ、それも結構です」
絹張は由美子をまた睨みつける。
「実は、君を呼んだのは、放課後の学戦会議に参加してほしいからだ」
「断る権利はありますか?」
「ないね」
竹中はニコニコと笑みを絶やさなかった。
「それ聞く必要あります?」
「いや、君とこうして話しているのもそう長くはないからね。私もそのうち世間の荒波にさらされる。そのとき、神宮の名は使えるときに使いたいからね」
「亮……」
安藤はため息をつく。
「おっとすまない。これは無粋だったかな?」
「いえ、会長らしくていいのではないでしょうか?」
「由美子くんが褒めてくれたぞ。聞いたかい? 絹張くん」
「会長、あれは貶してるんです!」
竹中がここで怒りもすれば由美子に非があったのを、それをネジ曲がった解釈をしたことが、由美子の心を煮えたぎらせる。
「それでだ。君に学戦会議に参加させる理由は、君に我が翼志館の一軍の将を任せるためだ」
学戦は部隊を大きく攻撃部隊を四軍、防御部隊を四軍、遊撃を一軍ぐらいに分ける。一軍は五小隊二十名であり、その軍の全権を持つ人間を部隊長、将と呼んでいる。
将に選ばれるのは何も武勇だけではない。その知略や、何かに秀でたものが選ばれることもある。
「君が将でないと、また変な噂が立ってしまうからね。絶対参加してほしんだ」
「いいじゃないですか。私と会長の仲が悪いって言わせておけば」
「そうだね。言いたいやつには言わせておけばいい。本当は、僕らは仲が良いのにね」
由美子は怒りを爆発させたいが、それが相手の思う壺だと思い、必死に耐えているようだった。
「由美子くん、君にはもう一つ頼みごとがある」
「何ですか!?」
由美子の怒りもどこ吹く風というように竹中はニコニコと笑みを浮かべていた。
「君には絹張くんの後押しをしてほしいんだ」
「絹張先輩の?」
由美子はその頼みでさっきの怒りが吹き飛んでしまった。
「ああ。今回は生徒会の引き継ぎを兼ねている。だから、今回は僕が指揮を取るのではなく、絹張くんが指揮を取る」
由美子は絹張に目を向けると、絹張は視線を反らし、手を拱いている。
「賀茂くんや真堂くんにも会議の参加をお願いするよ。絹張くんを支えてほしい」
「らしくないですね、会長」
由美子は竹中を疑いの目で見ていた。
「神宮、この件に関しては俺も同じ思いだ。悪いが手伝ってくれないか?」
安藤が体を起こし、真剣な目で由美子を見ていた。
「分かりました。ここは安藤先輩の言葉を信じます!」
竹中は苦笑いしていた。
「由美子くんに信じてもらえないのは残念だが、これも身から出た錆というものか」
「そりゃな」
「当たり前でしょう」
安藤と由美子の同意に忠陽はただ笑うしかない。
「悪いな、神宮。現生徒会としては来年の生徒会長をお前に渡すつもりはない。俺達は絹張を押す。お前の独裁政権っていうのも面白いと思うが、俺達には絹張に情がある。こいつはクソ真面目で、融通が効かないやつだけどよ、俺達が目指した目標をよく知ってる。それを後の一年で叶えさせてくんねえか?」
「わ、私は別に目標とか何もありません。絹張先輩が生徒会長になるのは私にとっても、喜ばしい限りです。ただ!」
「ただ?」
安藤は聞き返した。
「なぜ、今年の生徒会長が竹中先輩だったのかは不思議でなりません! 安藤先輩のほうがよっぽど生徒会長にふさわしいのではないのでしょうか?」
安藤と竹中は笑っていた。
「たしかにそうだ。護を生徒会長にすればよかったかもしれない」
「会長!」
絹張が声を上げる。
「悪いな、神宮。おれはそんなキャラじゃない。だいたい、生徒会長っていえばメガネを掛けて、いやらしい性格をしているやつの方がよっぽどふさわしいだろ」
「安藤先輩!」
「まあ、今年の生徒会はバランスが取れてんだよ」
「そうですね。安藤先輩のおかげでしょうか」
「神宮由美子!」
「絹張……」
安藤に注意され、絹張はそっぽを向く。
「まあ、これで学戦の件はいいかな。ところで、人材の件はどうなっているのかな?」
竹中は期待するような目で由美子を見る。
「有能な人物は一人だけ居ました」
「ほう。その様子だと勧められないみたいだね」
「僕が神宮さんに勧めました」
忠陽が言葉を発した。
「それで、賀茂くん。それは誰だい?」
「緑興高校の法西さんです」
竹中は表情を変えなかったが、絹張と安藤は苦い顔をした。
「なるほど、法西くんか。確かに有能だね」
「はい。僕は計略に関しては会長に匹敵すると思っています」
「賀茂、そんなわけないでしょう」
絹張は矛先を忠陽に向けた。
「確かに会長のようには戦えません。ですが、会長の抜けた穴を埋めるには充分です」
「賀茂!」
「絹張くん、まず聞こうではないか」
絹張は奥歯を噛み締めて、その場から下った。
「君は法西くんと会ったのかい?」
「はい。会長のアドバイスどおり、法西さんの噂を聞いたところ、本人に会えました」
「話してどう思ったんだい。まずそれを知りたい」
「会長と同じくいやらしい人でした」
「おいおい、賀茂、お前まで……」
安藤はため息をつく。
「人を食ったような性格で、素知らぬ顔して僕に接触したんだと思います。あの人は、人の嘘を見破れば、それを利用することもできる。それに自分の人物像までも噂を流して操作することもできる。それって、会長と似ていますよね?」
「なるほど」
「本来なら、勧めることは出来ません。もし会長が居なくなったあとを考えた時、法西という人は非常に危険な存在になります」
「それを分かって、何故勧めるのよ?」
絹張が忠陽に問う。
「これからの神宮さんに必要だと思ったからです」
「おい、賀茂。神宮は生徒会長を目指していないと言っていただろう?」
安藤が忠陽に質問する。
「そんな小さなことじゃありません。神宮さんはこの国を背負っていく人です。だから、ああいう人間の扱い方も知っているべきだと考えました」
由美子は忠陽にそう言われるとむず痒いものがあった。
「国を背負っていく人間か……。こう言ってなんだが、彼は僕よりも躊躇いがない。その行為が悪だとしても彼は行える」
「ですが、会長みたいに自分で戦えるわけではありません。もし、あの人が変なことを起こすのなら、僕が全力で阻止します」
「なるほど、君にそこまでの覚悟があるのなら、それ以上は言わない。君たちの好きにするといい。僕が居るうちは僕の手で周りを説得しよう」
竹中は嬉しそうに忠陽を見ていた。
「ところで、賀茂くん。君は卒業した後は、由美子くんの家に入るつもりなのかい?」
竹中のその問いに、忠陽でさえも言葉を失った。
「なっ、なぁ、何を言っているのよ!? あなたぁぁぁぁぁ!!」
由美子は学校中に響くぐらいの大声を上げていた。
「いや、賀茂くんの男らしい決意は、並大抵のものではないからね。それに学戦リーグの時から聞いてみたかったんだよ」
「会長、それはさすがに……」
「え、ダメなのかい? 絹張くん」
「いや、デリカシーがなさすぎだろう、亮……」
竹中への批判が飛び交う中、鞘夏だけは無言で忠陽のシャツをひとつまみ、つまんで離そうとはしなかった。
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