第十一話 法西という人物
次の日の放課後、忠陽は大地に教えてもらった人物を調査するためにそれぞれの高校を回った。
千葉や源田はすぐに見つけられ、隠形で後を追ってみたが、その人物像がタダのチンピラ風情に見えてしまった。到底、由美子には勧められる人物ではなかった。二俣はここ最近学校には見せていないらしく、忠陽が出瀬高校で話を聞き回ったところによると、退学したのでは?という噂が出ているくらいだった。
そして、緑興高校に訪れた忠陽は、まず法西の人物像を緑興高校の生徒たちに聞き回った。
「法西? 誰だ、そいつ?」
「法西くん? なんだかひょろっとした人物よ。いつも本を呼んでいるイメージかな」
「法西先輩ですか? 良い人ですよ。委員会の仕事を手伝ってくれました」
「法西、ああ、確かエーメンの連中と全面抗争をしたっていう噂があるな」
「あの噂、あいつに聞いてみたんだけどよ、根も葉もない噂だってよ。俺も可笑しいと思っていんだよ。あいつ、ひょろっとしてるから戦えるわけねえって」
「……あいつには近づくな」
「法西くんですか、良い人そうに見えるんですけどね……」
忠陽はその人物像を聞いていて、その評価が賛否両論であることに気づく。人の評価というのは悪いときは徹底的に悪いと言い放つが、法西に関してそうでないことが不思議だった。
「あの、ちょっと良いですか?」
忠陽は校門前で、すらっとした体型で、身長が一七〇後半ぐらいありそうな青年に声を掛けた。
その男がふりかえると、顔立ちが整っており、美形と言っても過言ではない。それでもその周りに不思議なオーラを放っていた。
「お前、翼志館の人?」
「え、あっ、はい」
「どうした? この学校に」
「ちょっと、法西さんって方のことを聞きたくて」
「法西? どうして?」
「えっと、うちの絹張先輩がちゃんとしているか聞いて来いって」
男は笑っていた。
「お前も大変だね。そんな小間使いみたいなことをして」
「いえ、僕は来年生徒会に入りたいんです。だから、ここで点数を稼いでおかないとって思って」
「そうか。だったら、協力しよう。法西の何が知りたいの?」
「ありがとうございます。率直に聞くと法西さんってどんな人なんですか?」
「どんな人? そうだな……」
「なんでも良いです」
「嘘が得意な人間かな。彼は人を騙すことが好きみたいだから」
「なんだか、とても嫌な人に聞こえますね」
「実際にそうなんじゃないか。人の噂とは謂わば、他人の評価だ。その評価はその人間の本質を射ていることがある」
「でも、これまで聞いた感じだと賛否両論です。良い人だといれば、悪い人だという人もいる。それが腑に落ちなくて」
「それはいい感性だ。賛否両論というのは人為的な何が起こっている可能性だ。確かに、人の噂は移ろいゆくが操れないわけではない。悪い噂を流すためには人の感情的なものを焚き付ければすぐに出せる。逆に良い噂を流すのは、利害関係を最大化させれば自ずと口から出るものだ」
忠陽はその答えに違和感を覚える。
「あなたなら何を見るのですか?」
「そうだな。俺なら悪い部分だけを見る。人の善行は薄れゆくが、悪行だけは必ず残るな。人物評価をするなら、それでもいい。だが、その人間が有能なのかどうかを見るなら、その人物の行為が何をもたらしたかを見るべきではないだろうか?」
忠陽はこの男の言葉に共感したいと思いつつ、なぜかそうしたくない自分がいた。
「たしかに、法西は去年悪行の限りを尽くしていた。北区の連中をけしかけて、改革をしようとする岐湊高校を集中的に攻撃させた。武帝に対しても手段を選ばず、闇討ちまでさせた。そのお陰でエーメンと武帝は人々から指示を得て、錦の旗を手に入れ、北区は敵と味方がはっきりと別れた。彼らは人々の敵を鎮圧し、今では平和そのものだ。これが法西が描いたものだとすると、お前はどう思う?」
「それは詭弁でしかありません。法西さんが描いたものは人の痛みを伴うものです」
「正解だ。お前の言う通り、詭弁でしかない。ならお前は、法西はどうすればよかったと思う?」
「武さんと一緒に戦えばいいのではないでしょうか?」
「確かに武帝は人を見る目がある。法西を受け入れただろう。だが、その周りはどうかな? 松前浩平、遠山茉莉花が許しただろうか?」
忠陽はその問いに口を閉ざした。
「エーメンはどうだろう? 松島成実は?」
「……たぶん……無理です」
「そう、彼らはあくまでも正道を行く人間だ。法西とは相容れない。居場所がない彼の心の奥底を知る者はいないだろう。法西が本当に望んだものとは何だったのだろうね」
忠陽はもう一度その男の顔を見る。顔立ちが整った男の顔は薄笑いをしていた。その顔を見た忠陽は竹中とは違う嫌らしさを持っていることに気づく。
「彼の人物についてはこれぐらいでいいかな?」
「は、はい」
「今日は楽しかったよ。賀茂忠陽くん」
自分の名前を呼ばれ、呼び止めようとしたが、そうしなかった。それは自分が一杯食わされたという口惜しさからだった。
男は悠然と前を歩いていく。その背中を見て、忠陽は危険な人物だと分かりながらも、おそらく計略の才に関して竹中に匹敵するぐらい有能であると考えた。
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