第十一話 噂の人物
由美子達は典子の家がある金剛寺に訪れ、御堂に向かうと、暇を持て余した大地が居た。大地は由美子たちを見るなり、大きなあくびをする。
「なんだよ? 用って」
「大地くん、ちょっと、教えてもらいたいことがあるんだけど。翼志館の地域で強い人間って知ってるかな?」
「なんだよ、いきなり。電話でもいいじゃねえか」
「もし良かったら、紹介してほしいんだ」
大地は面倒くさそうにしていた。
「強い奴って言ってもな……」
「自分以外に強い奴はいないって言いたいのかしら」
大地は由美子を睨む。
「神宮さん……」
忠陽が由美子を優しく嗜める。
大地は気乗りしない様子だが答えた。
「そんなじゃねえよ。確かに強い奴は何人か知ってるけど、それを聞いてどうするんだよ?」
「スカウトするのよ」
由美子は即答した。
「スカウト?」
大地は聞き返した後、ふいに笑ってしまった。
「なんで笑うのよ!?」
「スカウトって、姫さんには似合わないだろう。第一、俺が知っている奴らはあんたみたいなのとつるまない」
由美子はその指摘が的を射ているから顔を歪ませる。
「それにボンは上手くやれても、姫さんは、絶対にこじれる」
「だ、大地くん……」
忠陽は大地の率直な言いように困っていた。
「どうする? それでも知りたいか?」
由美子はその挑発に頭に血を上らせていた。
「わ、わ、私だってやれるわよ! そんな不良の奴らだって、使いこなしてみせるわ!」
鞘夏が口を開いた。
「ゆみさん。挑発に乗らず、冷静になってください」
由美子は鞘夏を見た。鞘夏の穏やかな目に、由美子はその言葉を聞き入れながらも、口を尖らせる。
「私は別にゆみさんがその人間を使う必要はないと思っています。竹中会長が仰ったのは優秀な人材を集めよであって、ゆみさんにその人達を率いろとは言ってません」
「分かってるわよ……。でも、あの人のことだから、それを私に押し付けることが容易に想像できるのよ」
「その時は、私や忠陽様を使えばよろしいのではないでしょうか? 確かにその人達の中で、仲良くなることは大事です。ですが、万人と仲良くすることは難しい。それはゆみさんがよく分かってるはず。ゆみさんの役目は、ゆみさんが考えていることを私や忠陽様に伝えることだと思います」
由美子は少し考えて、まだ煮えきれない顔をしながら答えた。
「分かったわよ……」
大地は口笛を吹く。
「良いことは言ってるけどよ、お前はどうすんだよ? こう言っちゃなんだが、一番人付き合いが下手なのはお前だろ?」
鞘夏は大地に見た。
「私も努力はします」
大地はその答えに満足したのか、そのことには何も言い返さなかった。
「俺が知っているのは四人、一堂高校の千葉、冷越高校の源田、出瀬高校の二俣、そして、緑興高校の法西。千葉と源田とは何度か喧嘩したことがある。札付きの悪であるが、まあ、俺よりは弱い。二俣と法西は噂だけで直接会ったことはない。この中で一番有名なのは法西だな。それもとびっきりたちが悪い」
由美子は顔しかめる。
「なにか知ってるの?」
忠陽は大地に聞いていた。
「俺も実際に分かんねえが、玉嗣が言うには人を食ったような性格だってさ。岐湊高校の勢力はさ、今の武帝が出てくるまでは世紀末ヒャッハー状態だったんだよ。あそこの学区内は力こそが正義って連中が多かったんだ。法西はその地域の連中とつるんで、状況をさらにかき回していたらしい。嫌なところは法西の野郎は表には出ないんだ。裏でずっと暗躍してて、玉嗣や松島さん、武帝にずっと嫌がらせをしてたんだよ。毎日のように岐湊高校には喧嘩を売りに来る連中が多くてな。玉嗣なんて闇討ちまでされそうになったらしい」
それだけでも忠陽は顔を引き攣っていたのだから、隣にいる由美子の顔は想像に固くない。
「で、でも、今は岐湊高校は安定しているよね。その法西っていう人はどうなったの?」
「玉嗣と武帝が手を組んだんだよ。所詮、相手は烏合の衆。エーメンと、武帝率いる生徒会の連中がすべて蹴散らした。去年、岐湊高校が学戦で負けて、緑興高校が翼志館の勢力に入って以降、大人しくしているらしい。今に思うと、その学戦はお前らの生徒会長と武帝の中で何かあったんじゃないか」
忠陽は大地の予測が正しいだろうと思った。大地から法西の性格を聞くと、安全に管理できるのは同じ性格の竹中しかいなさそうだ。
「神宮さん、どうする?」
「却下」
由美子の答えに大地は笑っていた。
「そうだよね……」
「他の連中はまだ見込みはあるから、賀茂くんが偵察に行って貰える?」
「いいけど、神宮さんが直接見たほうが――」
「賀茂くんが勧めないのなら、私は会長に勧めるつもりはないわ。それに、賀茂くんの隠形に気付けないなら、そんなに優秀な人材とは言えないでしょう?」
「おいおい、姫さん。姿を消したボンを見つけるのって、俺でも無理だぜ……」
「だから、私はあなたを推薦しないの」
大地は舌打ちをする。それを見て、忠陽たちは笑っていた。
「まあ、法西の件は俺も聞いた話だけだからよ、実際に緑興高校にいって、聞いてみたらどうだ? 今は改心してるかもしれねえしよ」
「ねえ、宮袋くん。うちの会長の性格がすぐに変わると思う?」
「いや、思えねえな」
大地はクスリと笑っていた。
「まあいいわ。そんな嫌な相手なら一応調査しておかないと、絹張先輩だと手玉に取られそうね」
「何だそれ。あの真面目ちゃんの心配をしてんのか? らしくねえな」
由美子は不敵な笑みを浮かべていた。
「だって、そうしないと私にも災いが飛び火するじゃない。次期生徒会長は絹張先輩なんだし」
「ああ、そういうこと。ってか、姫さんは生徒会長にならないのか?」
「ええ。私は来年でいいわ。その間は口を閉じて置くつもりよ」
「言ってろ。どうせ、その口は勝手に開いて、喧しく罵声を浴びせるだからよ」
「なによ、それ!」
大地の表現に忠陽と鞘夏は笑っていた。
「鞘夏まで笑ってる! もう! 失礼しちゃうわ!」
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