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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十一話 竹中からの呼び出し その一

 二


 学戦が行われる一週間半前のこと、忠陽と由美子は生徒会室に呼ばれていた。それも生徒会長である竹中(りょう)から直々の呼び出しである。そのことに一年生内部では直接的な果たし合いと、あらぬ噂が飛び交ったが、次の日には、呼ばれた理由が学戦の件であると変わった。


 生徒会室に入るとメガネの奥底で何を考えているか分からない腹黒短髪メガネと、やる気はなく椅子に寝そべっている副会長、不機嫌度マックスで目が釣り上がっている書記がいた。


「優秀な人材を探してきてくれ給え」


「は?」


 由美子は冷たく聞き返す。


「いや、今後のために優秀な人材が欲しいんだよ。他校に出向いて、広く集めてほしいのだ」


「は?」


 あっけらかんと言う竹中に由美子はまた冷たく聞き返す。


「神宮由美子!!」


 書紀である絹張(きぬはり)紫苑(しおん)は怒りがこみ上げ、大声を上げる。


「絹張くん」


「絹張」


 会長、副会長から窘められ、絹張は矛を収めた。


「どうかな?」


「それって、拒否権ってあるのですか?」


「ないね」


 竹中はニコニコと笑っていた。


「会長、なんで僕たちなんですか?」


 忠陽の質問を待っていたとばかりに竹中は答えた。


「君たちは今や我が校の看板だ。その有名人がスカウトに来たのなら、断ることはできまい」


 なぜそう断言できるのか。忠陽たちは不思議でしようがなかった。


「これは有能な一年生への恒例行事だと思ってくれ。私や(まもる)、絹張くんもやってきたことだ。そのお蔭で今の翼志館がある」


「で、具体的にはどの高校とかあるんですか?」


 由美子が前向きに話し始めたことに忠陽は驚いた。


「ない」


 その返答に由美子の表情が崩れそうになるのを、忠陽は(こら)えてと心の中で応援していた。


「僕からのアドバイスは(うわさ)を頼りにするといいかもしれない」


(うわさ)?」


 忠陽は聞き返した。


「古来より、有能な人物は良くも悪くも噂があるものだ」


「会長みたいに腹黒いとか、ですか?」


「そのとおりだ、由美子くん!」


 由美子は眉間に皺を寄せ、忠陽と安藤は苦笑い、絹張は由美子を睨んでいた。


「それで実際に会い、自らの勘を信じて、僕に推薦してくれ。君たちが選んだ人間なら僕は迷わず使う。なんといっても、学戦リーグの優勝者たちの推薦だ。断るわけがない」


 忠陽には、ニコニコと言い放つ竹中の言葉が由美子への挑発と皮肉を込めているのではないかと思えた。


「そうですか! なら、私はできるだけネジ曲がってない人間をご紹介します!」


 由美子は語気を強めて、言い放ち、生徒会室から出て行った。


 あまりの速さから、絹張は叱責のタイミングを失い、忠陽は唖然としていた。


 忠陽が我に返り、竹中を見ると、竹中はいつもよりも楽しそうに微笑んでいた。


「あの……」


「どうしたんだい? 賀茂くん」


「あまり神宮さんを挑発しないでください」


「それは友人としてのお願いかな?」


 忠陽は首を傾げ、答えた。


「い、いえ……」


「ふむ。理由を聞いてもいいかな?」


「はい。この後、会長への愚痴や罵詈雑言を聞かなければいけないので……」


 それを聞いて、竹中は大笑いしていた。


--------------------------------------------------------------------------------


 忠陽たちは放課後、由美子の提案で東地区にある喫茶店【ゐゑ】に訪れていた。


 ここは学戦リーグの作戦会議で東郷高校の森田(よう)に教えてもらった場所である。そこで由美子は竹中のせいで溜まった鬱憤を忠陽にぶつけていた。


「ねえ、聞いてるの!? 賀茂くん!!」


「え、あ、うん」


 忠陽も最初は頷いていたが、三十分も経てば段々とその返事が小さくなっていった。


「ゆみさん……」


 鞘夏が困った顔をしていた。


「どうしたの? 鞘夏」


 由美子は普段の顔に戻り、鞘夏に尋ねる。


「陽様に八つ当たりは――」


「八つ当たりじゃない! あの男、言うに事欠いて、学戦リーグの優勝者たちの推薦だ。断るわけがない、っていうのよ! 明らかな挑発でしょう!? 賀茂くんにも言い返せばよかったのよ!」


「信頼していると思えば――」


 忠陽が言いかけると、由美子はその口を塞ぐように言い放つ。


「甘い! 甘いわ!! あの男のことだから、きっと何か変なことを考えたに違いない!」


「そうか――」


 由美子は忠陽をにらみつける。


「――だね……」


 忠陽は言葉を飲み、言葉を変えた。


「賀茂くんはどっちの味方なの?」


「ゆみさん……」


 その殺し文句に忠陽はいつもの表情で答えた。


「僕は神宮さんの味方だよ」


 由美子は口を尖らせていた。


「今日の由美子ちゃんはやけに荒れてるね〜」


【ゐゑ】のマスターである立尾はニコニコしながら、追加のチーズケーキを出した。


「ありがとうございます。立尾さん」


「どうも」


 由美子はチーズケーキを一口食べるとご満悦な表情になった。


「ウ~ン、美味しい」


「ありがとう、由美子ちゃん。この前も美味しく食べてくれるから、うちの妻も喜んじゃってさ」


「本当に美味しいんです。お持ち帰りに一つ貰えますか?」


 立尾はキッチンを見ると、奥様が手で丸を作る。


「まだあるから大丈夫だよ」


「ありがとうございます」


「そう言えば、あの面白いお兄さんは、今日は来ないのかい?」


 由美子はフォークを止めた。


「あ、兄はこの前たまたまこの島に来ていただけで、いつもは彼杵にいるんです」


「彼杵? 一条財閥の仕事をしてるのか……。優秀な人そうだから当然か」


「いえ……」


 立尾は言いにくそうにしている由美子を見て、疑問符が頭の上に浮かぶ。


「神宮さんのお兄さんは軍人なんです」


 忠陽が変わりに言うと、由美子は忠陽を見て、恥ずかしそうに頷く。


「そっかそっか、軍人さんか。すごいね」


「不肖の兄ですが……」


「そんなことないよ。妹をあんなに大切しているお兄さんなんてあまり見ないよ。なんか、由美子ちゃんの話を全部聞いてくれるところとかは、賀茂くんと似ているかもね」


「た、立尾さん……!」


 由美子は思わず席を立った。


「あれ? なんか変なこと言ったみたいだね……。ごめんね、由美子ちゃん」


 由美子は顔を真っ赤にしながら、席に座った。


「賀茂くんは兄弟とかいるの?」


「はい。妹が」


「だからか〜。もう、由美子ちゃんの話を聞くのが上手。俺なんて、妻に私の話、聞いてんのって言われるんだよ……」


 立尾は忠陽に近づき、耳元で囁く。


「あとで、俺にもコツを教えてよ」


 忠陽は由美子から放たれるチクチクと刺さる視線を受けながら、苦笑いして、立尾のお願いを誤魔化した。


 立尾は答えが分かり、笑みを浮かべながら忠陽の肩をつつく。


「さすがだね」


「あっ! 立尾さん。知っていたらいいんですけど、この辺で有名な高校生とか知ってますか?」


 由美子の突拍子もない問に立尾は驚く。


「有名!? 有名ね……」


 立尾は考えるもすぐに答えた。


「君たちかな……」


「私達?」


 由美子は腑に落ちなかった。


「うん。知ってるよ、君たち学戦リーグってので、優勝したんだって? 葉からも後で聞いたけど、テレビで大々的に取り上げてたからさ。ここらだと、みんな、君たちの事を知ってるよ」


 忠陽は妹の鏡華が録画して、それを何度も見せてくるから知っていた。もちろん、鞘夏もである。


「学戦リーグのサイトを見ると、ダイジェストで見れるからね。君たちが戦ってる姿はカッコ良かったぁ〜」


 忠陽たちは照れ笑いをしていた。


「でも、どうしたの? 急にそんなことを聞いて」


 忠陽は生徒会に呼び出されて、言われたことを掻い摘んで説明した。


「それは由美子ちゃんも荒れるわけだ」


 立尾は苦笑いしていた。


「でも、その生徒会長の言うとおり、噂を追うことは正解じゃないかな。その地域で有名な人間は良い意味でも、悪い意味でも噂になるからね」


「でも、それを見つけるのにも、どこから手を出したらいいか……」


 忠陽はため息をつく。


 立尾は忠陽たちの状況が楽しそうに見えるのか、笑っていた。だが、その笑みは竹中と違い、自分もやってみたいという気持ちが出ていた。


「まあ、そこは足を使うしかないよ。意外と中央街に行って、不良たちから情報を集められるじゃないかな? ほら、由美子ちゃんたちが強いことは、学生たちの中で知ってるだろうし、下手なことはしないよ。逆にそれで手を出すなら、返りうちにしてやれば、その親玉が仲間になってくれたりして」


 立尾のアドバイスに三人は苦笑いする。


「そういえば、たしか君たちのチームに宮袋って有名な不良の子いたよね? その子に聞いてみるっていうのはどうかな?」


 その提案には、由美子も忠陽も互いに顔を見合わせて、頷いた。


 忠陽たちは学戦リーグで同じチームメンバーだった宮袋大地に連絡を取り、その幼馴染の家である高畑典子の家に行くことになった。


 店を後にしたとき、忠陽は不思議そうに由美子に尋ねる。


「神宮さんは、どうして立尾さんには由美子ちゃんって言うのを許してるの?」


 由美子はその問いに対して改めて考えていた。


「どうしてかしら……。たぶん、呼ばれて嫌じゃないと思っているのかも……」


「そっか。立尾さんからはいいお兄さんのオーラがあるしね」


「それ、どういう意味? 私がそのお兄さんオーラがあったら、誰でも許すと思っているの?」


「そ、そんなことはないよ……」


 由美子は鼻息を鳴らし、そっぽをむく。


「まあ、別に、賀茂くんに下の名前でちゃん付け呼ばれても悪い気はしないけど。そのときは、私は陽くん、とでも呼ぼうかしら」


 由美子がそう言うと、鞘夏が由美子に迫る。


「駄目です」


 由美子は鞘夏の気迫に押された。


「ど、どうしたの? 鞘夏?」


「忠陽様のことを、陽くんと、呼んではいけません」


「え、あっ」


 鞘夏が由美子に詰め寄るもの珍しいが、その圧力は尋常でないものだった。


 由美子は鞘夏に押されつつ、小刻みに何度も頷いた。


「なら、忠陽くんって……呼ぼうかしら……」


 由美子は鞘夏の顔を伺いつつ、恐る恐る言うと、鞘夏は由美子からゆっくりと離れていった。その顔はいつもよりも不機嫌であり、怒っているようでもあったため、由美子は忠陽に助けを求めるも、忠陽は顔を反らして関わろうとしなかった。それを見て、由美子は眉間にシワを寄せる。

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