第十話 懇親会 その二
「賀茂くん、良いかな?」
竹中が呼びかけた。その隣には真も居た。
「はい!」
二人は忠陽の真向かいの席に座った。
「今回の学戦リーグはお疲れ様。僕ら同門二人は君に破られてしまった。真も僕も我が師に会うことが怖いくらいさ」
真は笑みを浮かべて、頷いていた。
「僕はお二人の足元にも及びません。会長には結局負けてしまったし、真さんを倒したのは神宮さんです」
「そんな謙遜することじゃないよ。君は天野川流の陣を破ったんだ。これは事実だ」
竹中の言葉に真は清々しい顔をしていた。
「こうやって落ち着いて……」
竹中は改めて周りを見回すと腕相撲大会をし始めたり、上半身を脱いで筋肉比べをしたりと、落ち着いた状況とは言えない様子だった。
「うん、腰を据えて話すという機会もないから、改めて話して見たくてね」
真は竹中が言い改めたことに笑う。
「こういっては何だが、初めて君とあったのは今年度始めの学戦の件だったかな。その時の印象は普通の学生と言ったところだった。だが、今の君は勇壮活発だ。比べものにならないくらいね」
忠陽は少し考えて、答えた。
「僕が今こうして居られるのは、今いる皆のおかげです。皆が僕を助けてくれた。言葉があっているかどうかは分かりませんが、僕はその恩返しているだけです」
「恩返しか。君らしい」
「僕はここに来るまで呪術が嫌いでした。だけど、今はそんなの関係ないんです。ただ、僕が辛いときに支えてくれた人達がいるから、その人達が幸せになれるように呪術を使う。そう思っています」
「亮君、君の負けだよ」
真にそう言われ、竹中は頭を垂れる。
「そんな、勝ちと負けとか――」
「そうじゃないよ、賀茂くん。亮君はね、頭が良いから色々と邪推するんだよ。でも、君の思いはものすごく明確だった。そんなのに亮君の意地悪は通用しない」
竹中は自嘲するように笑う。
「ああ、俺の負けだ、真」
竹中は両手を上げていた。忠陽と真はその行為を笑った。
「ところで、真。賀茂くんの前だが、二つ聞きたいことがある」
「別にどこでもいいじゃん」
「いや、一つはお前が食らった賀茂くんの術、あれはどういう術なんだ?」
「どういう術って、そうだね……」
忠陽は真剣に考え込む真を見て、竹中の意地悪が通用しないのだと感心した。
「術の名前は炎雷って言います」
忠陽の返答に真は頷く。
「確かに、そう言ってたね。賀茂家特有の術なの?」
「はい。賀茂家の祖は賀茂建角身命といって、これが八咫烏と同一視されている存在がいます」
「私の鳳炎神誕を食い破ったときに呼び出したときの術の名が八咫烏だったな」
周藤が忠陽の隣に座る。
「あれ、周藤くん、どうしてここに?」
「あの騒ぎようは、俺にはどうも合わん」
竹中は同意する。
「話の腰を折って済まない。その祖先と真に与えた炎雷とどんな関係がある?」
「賀茂建角身命には二人の子供がいたんです。玉依日子と玉依日売。このうち玉依日子は賀茂県主の祖なります。玉依日売が丹塗矢に化身した火雷命を床の近くに置いていたところ、可茂別雷命を懐妊し出産することになり、これが賀茂家の祖となります。そのため、僕らは雷神である炎雷命の力を借りて、雷によって起きた炎を使えるようなったと言われています」
「なるほど、そんな由来があった術なのか。道理で痛いだけじゃあ済まされないわけだよ。全身が痺れて、かなり辛かったよ」
「すいません……。その佐伯三佐は喰らってもすぐに動けていたので……」
「確かに言っていたな。だが、佐伯さんと真を比べては体の強度に差が有りすぎる。それに遠矢さんとは痩せ我慢していたなと煽っていたぞ。恐らくは佐伯さんにもお前の術はかなり効いていたはずだ」
周藤は笑みを浮かべる。
「そうだね。あの狼狽っぷりはそうだろうね。周藤くんが狼狽するときと同じものを見た」
「竹中、キサマ!」
忠陽と真は笑っていた。
「あの技はもう一度喰らいたくはないね。もし、あの状態で黄倉くんや甘利くんが攻めて来られたら、物理的に対処しきれなくなるかも。それぐらい、僕の力は削がれていたよ」
「なるほど、これは参考になる話だな」
「周藤くん。君にはまず、僕らの奇門遁甲の陣と奥伝を攻略しなければいけないよ」
竹中の言葉に周藤の顔が歪む。真は二人のやり取りが面白く、つい笑っていた。
「それでと言えばいいのか……。真、最後の神宮の技に対して何も出来なかったのは何故だ? あれはお前らしくもない。賀茂の術のせいでもあるのか?」
周藤の問いに真は首を横に振った。
「あれは正真正銘、何も出来なかった。亮君が聞きたい二つ目はそれでしょう?」
竹中は頷く。
「天野川流、極伝、梵天。真は氷見くんの呪力を利用して、あの技を最大化させた。自身に来る術や技をすべて弾き返したと僕も思った。だが、そうはならなかった。正直、賀茂くんの術の影響があったとしても、それで技が決まらないほど真が鍛錬を怠っているとは思えない。現に、氷見くんは死にかけていたからな」
忠陽は、自分が意識を失っているうちにそんなことが起きていたのかと思うと、鳥肌が立つ。眼の前にいる笑顔が絶えない優しさの塊という男を畏れた。だが、それと同時に由美子の術が気になっていた。
「神宮さんの技はどんなものだったんですか?」
「そうだね。ありのままを言うと、なにかに打たれた感じだった。理由もわからず吹き飛ばされたんだ」
真は苦笑いしていた。
「周藤君が見た感じはどうだったの?」
真は周藤に聞いていた。
「悔しいが、お前達と一緒だ。何が起きたか分からん。ただ、遠矢さんは撃たせないことを勧めると言っていた。それ以上は解説もしなかったし、閉会式でも神宮の秘術と言っていた。恐らくは技ではなく、術なのだろう」
「真、あの場合、乾為天を使えばどうだ?」
竹中は真に問う。真は難しい顔した。
「うーん。師匠なら対応できるかもしれないけど、今の僕では無理かもしれない。その前に僕らを分断するために使った技も巽為風では対処しきれなかったから、天に近いと思って、天風姤に切り替えたんだけどそれでも掴めなかった。あの場では方向をずらすしかなくて、あの大きな鳥を消すために昇り龍を放ったんだ」
技名が多く、忠陽は混乱していた。
「その巽為風って、たしか僕の風の術を利用していましたよね?」
「そうだね。天野川流、奥伝。巽為風。大抵の風属性の術は跳ね返せるよ。君が破った八卦陣を単属性にして相手の力を利用する技だね」
「お前が放った炎雷に対して、見た目が炎だったから離為火で返そうとした。だが、雷属性で跳ね返すことができなかっただろう? 賀茂、あれは自信があったのか?」
「いえ、そんなことはありません。でも、可能性としては攻撃が通りそうだとは思いました」
周藤の質問に対しての答えに真も竹中も笑っていた。
「周藤くん、賀茂くんの場合はそこまでに持っていくためにいくつも布石を打っている。その年であそこまでやれるのはかなりの策士だと僕は思うよ」
「そうだね、亮君の奇門遁甲の陣のときも、僕の八卦陣のときもそうだけど、あの場で冷静に分析できるのは凄いよ」
周藤はまた苦い顔をしながら、忠陽を見る。忠陽はその視線で縮こまった。
「まあいい。賀茂は今後要注意人物になるとして――」
「いや、あの!」
忠陽は三人の視線で口を閉じ、黙った。その行動が可笑しく、竹中と真は笑った。
「それで神宮の術には今のところ対処がしにくいというわけか……」
「そうだね。でも、あの術を放つと、神宮自体が倒れみたいだから、早々には使ってこないと思ったほうがいいじゃないかな?」
真の言葉に竹中も頷く。
「由美子くんは捨て身の戦いはしないタイプだ。今回は誰かに発破を掛けられたからだと思うがね」
三人の視線に忠陽は苦笑いし、助けを求めるために、由美子の方を向くと、由美子は疑いの目で忠陽の方を見ており、すぐにぷいっと別の方向を向く。その姿を見ていた朝子が由美子に言った。
「ねえ、あんた、もう少し素直になったら?」
「何よ、それ!?」
「別に。色々あるでしょうけど、自分の思いは大切にしないと」
「どうしたのよ、二人共。急に喧嘩して」
遠山はデザートのバニラアイスを頬張りながら聞いた。
「わ、私はあそこの四人が変なこと企んでないかと心配で!」
遠山は由美子が指差すテーブルを見て、忠陽たちの姿を確認すると、うわーっと声に出していた。
「賀茂くんはどうかわからないけど、亮君と周藤くんがいるだけで、神宮が言っているとおりだわー」
「な、な、なんですか! 会長は別にそんなことを考えてません!」
絹張は遠山に食ってかかる。
「あのさ、いつもそうだけど、なんで亮君をそんなに信じられるわけ? 亮君は生来の意地悪なんだよ、い、じ、わ、る!」
「か、か、か、会長はいつも人のことを思って行動しています。現に、あなた達五芒星が勝っても会長は素直に褒めていました」
「そりゃあさ、そこまでネジ曲がってたら、性悪でしょう? 亮君もいい感じにはネジ曲がってるけど、付き合うには大変だよ、あれ」
「そういうあなたこそ、あの優男をどうして信じられるんですか? いつもヘラヘラと笑っていて、気味が悪いですよ。全員誰でも友達みたいな人の方が信用できません!」
「真くんは優しだけじゃなくて、その中に心の強さも感じられるじゃない! どう見たって、選ぶなら真くんでしょう?」
二人は睨み合っていて、拉致があかないと思ったのか、すぐに由美子に視線を送る。
「どっち?」
二人共声を合わえて由美子に聞いていた。
「え……っと……」
「どっちも不可でしょう?」
朝子が代わりに答えていた。
「なんでよ!? 真くん、優しいのよ!」
「会長は理知的で、思いやりがあるのよ!」
朝子はつまんなそうに答えていた。
「私はもう心に決めた人がいるから、どうでもいいだけどさ。お姫様にとっては優しさとか、理知的とかじゃあないんじゃない?」
由美子は朝子に言われ、口が真一文字になる。
「じゃあ、誰なのよ?」
二人に迫られ、由美子は仕方なく答えた。
「……に、兄さん……」
その答えに朝子はクソデカため息をつくと、由美子は頬を膨らませた。
「兄さんって、遠矢さんのこと?」
絹張は身を乗り出して聞いた。
「えっ!? あ、う、うん」
「まあ、遠矢二尉ならしかたないわよね……」
朝子がまたクソデカため息をつく。
「なに、女子トークでもしているの?」
樹が急に顔を覗かせたため、由美子は小さな悲鳴を上げる。
「ゆみちゃん、なにさぁー。そんなにあたしのことを待ってたの?」
「待ってない!」
「待ってました!」
由美子と逆なことを遠山は言っていた。
「なんだ、つまんないの! あ、そうそう、姉御がお呼びだよ。ゆみちゃんと、えっと遠山ちゃんだっけ? あんたにも」
由美子は肩を震わせた。
「ねえ、氷見さん。あなたも行かない?」
「行くわけないでしょう!」
「何、怯えてるのよ、神宮由美子?」
絹張は由美子の怯えように疑問を持つ。
「そうよ、葛城二佐からお声掛けよ」
「そ、それは、二人とも涼子さんのことを知らないから言えるのよ」
樹は笑う。
「まあ、ゆみちゃんは姉御のキツイシゴキを知ってるからね。今日も説教されるんじゃないかとビクビクしてるんだろう?」
由美子は助けを求めるように鞘夏に手を差し伸べたが、葉とアリス、典子に囲まれ、楽しく遊びをしていた鞘夏は気づきようもなかった。
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