表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/235

第十話 第一回学戦リーグ表彰式

 由美子たちは委員会が用意していたタクシーに乗り、観戦会場である総合体育館に慌ただしく向かった。


 表彰式は由美子たちの診察結果によっては延期をしようとしていたが、医師である四鏡燈の診察結果が問題なしという結果からすぐに由美子たちを呼び寄せ、当日に行うとした。


 チーム五芒星(ファイブスター)とチーム武帝は互いの健闘を称えることもなく、同時間にタクシーに乗り、体育館のロビーに着くと、両チームを温かい拍手で出迎えてくれた。


 掛ける言葉バラバラだったが、卑下する言葉なく、褒め称えており、忠陽と大地と朝子はなんか居づらい思いをしていた。その中で由美子だけは毅然と優雅にそのVロードを歩いていく。


「流石だな。神宮は」


 片腕が包帯で巻かれていた浩平は由美子を褒める。


「なんで、褒めるのさ!」


 遠山は頬を膨らます。


「遠山、あれが王者の風格というやつだ」


 近藤はかすかに笑っていた。


「そうなの? なら、私達も……って真くん!?」


 真は忠陽に近づき、手を差し出していた。忠陽はその手を見て、また真の顔を見た。


「あの時の言葉を撤回するよ。君は凄い人だ。そして、強い」


 忠陽は頬を緩ませて、真と握手を交わす。


「でも、次は君にも負けないよ。また、戦おう!」


「いや、僕はもういいです……」


 その返答に真は笑っていた。


 忠陽たちが本会場に入る前に選手控室に着くと、そこにはチーム臥竜、チーム美周郎の面々が居た。


「由美子くん、優勝おめでとう」


 竹中は真っ先に由美子に握手を求めた。由美子は怪しみ、竹中の手を取り、何かを探していた。


「どうしたんだい、由美子くん?」


「いえ、手に画鋲がつけてないかと思いまして……」


「神宮由美子!」


 絹張は由美子に飛びかかろうとしたが、安藤が静止する。


「みっともねえから止めろ」


「あははは。辛口なところは君らしいね。だけど、これは私の正直な気持ちだ。受け取ってくれるか?」


 由美子は恐る恐る手を差し出すと、竹中は両手で由美子の手を掴み、力強く握手する。


「何もないだろう?」


「お前はいつも策謀を考えているから疑われるのだ。チーム五芒星(ファイブスター)、優勝おめでとう」


 竹中に割って入るように周藤が手を差し出す。


 由美子は周藤に対しても警戒をしながら手を差し出す。その行為に周藤は苛立ったのか、竹中に言う。


「竹中、お前は後輩の指導をもう少しすべきだ」


 周藤は由美子の手を掴み、無理やり握手した。


「おう、氷見。武さんに良いようにヤラれたな」


 母里は朝子の肩を優しく叩く。


「はあ? うっさい!」


 朝子はそっぽを向いたが、悪い気持ちはしなかった。


「てめえら、二人してなんだその手は。バカは薬じゃ治らねえって感じだな」


 大地と浩平の腕を見て、甘利は大笑いしていた。


「うるさい! お前には言われたくない、甘利!」


 浩平が甘利を睨んでいると、黄倉が大地に肩を叩く。


「よう一年帽。まさか、こいつと相打ちだとはよ。今度、俺と勝負をしろ! 一回、てめえとは戦ってみてぇ」


「本当か! なら、今度でも喧嘩しようぜ!」


 忠陽は大地が一方的な解釈をしているように見えて、苦笑いした。


「賀茂くん、おめでとう」


 魯は忠陽に握手を求めていた。忠陽はその手を握った。


「どうだろう。君は来月から東郷高校に来ないかい? その方が氷見さんも喜ぶよ」


 由美子と朝子はその誘いを聞いて、反応する。


「はあ? なんでよ!」

「絶対ダメに決まってるでしょう!」


 由美子の反応にチーム臥竜とチーム美周郎のメンバーは笑っていた。


「ほら見ろ、絹張。神宮が絶対に許さないだろう?」


 安藤の言葉に再度笑いが溢れる。


「えー皆様、そろそろ式を始めたいと思います。少し声を抑えてください。また、チームごとに整列をお願い致します」


 委員は学生一同に注意する。その言葉を聞き、忠陽たちは声を抑え、整列し始めた。


「それでは閉会式並びに、表彰式を行なっていきます。選手が入場するときは盛大な拍手をもってお出迎えください。まず第四位。惜しくも表彰台に上がることは出来ませんでしたが、その防御力は参加チームでトップ。最後の戦いにおける勇姿は、後世に残る名勝負となりました。チーム武帝!!!」


 本会場への扉が開くと、入口にはスポットが集中し、真たちを照らす。


「チームメンバー、武真、松前浩平、遠山茉莉花、近藤稔」


 由美子はふと気づき、人混みの中へと走り出す。


「神宮さん、どうしたの?」


「鞘夏!」


 忠陽たちはその意図に気づき、鞘夏の姿を探し始めた。


「続きまして、得点数が同じため、二位は二チームあります。まずはこのチーム! その機動戦は大会屈指のものであり、チームリーダーの策略は今大会で一位だ。相手を惑わせ、相手を翻弄するチーム臥竜!」


 竹中たちは表彰台へと向かっていく。


「チームメンバー、竹中亮、安藤護、絹張紫苑、母里兵助」


 忠陽はロビーにぽんつんと立っていた鞘夏を見つけ出す。


「神宮さん、こっち!」


 由美子は忠陽の声に反応し、忠陽が手を振る方へと向かう。息を切らしながら、由美子は鞘夏の両肩に手を添える。


「どうしたんですか? ゆみさん」


「どうしたじゃないわよ。あなたも出るのよ、表彰式!」


「ですが……」


「何言ってんのよ、あんた。あんたが居なければ決勝リーグにも行けなかったんだけど」


「まあ、その原因を作った張本人がいうのもなんなんだけどさ、あんたは俺達のメンバーだろう?」


「鞘夏さん……」


「続きまして、同じく二位。チームの顔は周藤公朗、だが、俺達はそれだけじゃない。攻撃力と機動力を備えた戦上手! チーム美周郎!」


 周藤が姿を表すと一際黄色い歓声が起こった。


「チームメンバー、周藤公朗、黄倉欣司、甘利高覇、魯虎鷹、亜門明」


 鞘夏が戸惑っていると、忠陽たちを呼ぶ委員会の声がする。


「チーム五芒星(ファイブスター)! すぐに来て下さい!」


 忠陽は鞘夏の手を強引に引っ張り、鞘夏を走らせる。


「僕らは五人でチーム五芒星なんだ」


 その後を続くように由美子たちも走った。


「それでは一位のチームのご紹介です。このチームを見せてくれたのは未来かもしれない。チーム臥竜の策略も、チーム美周郎の攻撃力も、チーム武帝の鉄壁の防御さえも跳ね除けた。一年生のみで構成された超新星! それぞれは今後の未来に輝く星となる! チーム五芒星!!!!」


 忠陽たちは本会場に入る前に息を切らせていた。それぞれ息を整え、本会場に入る前は悠然とはいろうとしたが、いざ本会場に入った瞬間、立ち止まる。


 忠陽たちを称賛する声が響き渡り、スポットライトは今までにないほど眩しかった。


 そのことに驚いていた五人は思わず足を止めて、呆然と辺りを見回すことになる。


「チームメンバー、神宮由美子、賀茂忠陽、氷見朝子、宮袋大地、真堂鞘夏」


 鞘夏は自分の名前が呼ばれたことに驚いた。


「このチームが第一回学戦リーグの優勝チームメンバーです。皆様盛大な拍手をお願い致します!」


 由美子は忠陽たちを見た。


「行きましょう。私達が登るのは一番高いところよ」


 大地も朝子もこのときだけは無垢な笑顔をしていた。


 表彰台までの道のりはこれまでにない幸福感を齎す。それは、周りの声が自分たちの結果に対しての正当な評価であり、自身の努力の結果だからだ。忠陽はいつにもなく、笑みを浮かべ、その道を噛み締めていた。


 そして、忠陽たちが優勝者の台へ登る前に、大地が朝子の手を掴む。朝子は察したのか、由美子の手を掴む。


「え? 何?」


「これだから、お姫様は。手を繋いで皆で一緒に登るのよ」


 それを聞き、由美子は鞘夏の手を掴む。


「おい、ボン!」


 忠陽は大地に指摘され、気付き、鞘夏の手を繋いだ。


 チーム五芒星がチームとして表彰台に登った時、割れんばかりの拍手が鳴り響く。


 忠陽はチームメイトの顔を見ると全員が笑顔であり、幸せそうな顔をしていた。自分が欲しかったものはこれだと思い、何故か涙が溢れ出てきた。


「忠陽様?」


 鞘夏は忠陽が泣いていることに気づき、心配そうな顔していた。


「ううん、鞘夏。僕は嬉しいんだ」


 鞘夏はその思いを素直に受け入れ、きれいな笑顔を忠陽に向けていた。


「おめでとう、陽くん!」


 その会場居る人間の称賛を一身にうけた由美子たちは人々に感謝の意を含め、自然と手を振っていた。


 次第に拍手が収まり、そのタイミングで富沢は口を開く。


「それでは表彰状の授与と、三位以上には記念のメダルをお渡しします」


 呪術研究統括部長である忠陽の父、忠臣他、四名が登壇した。忠臣が立ったのは優勝チームのチーム五芒星だった。


 忠陽はそのことに胸を締め付けられる。


 大地から表彰状とメダルを掛けていき、おめでとうと呼びかけ、握手をする。いつもの硬い表情のまま淡々と行う様は父らしい行動だった。


 朝子、由美子、鞘夏と渡していく中で忠陽の心臓の鼓動は大きくなっていた。そして、忠臣が目の前に立った時、忠陽は息を飲む。


 あの夏以来、ずっと父へのわだかまりが消えてはいない。父は自分の呪いのことを知っていながら、何もしてくれなかった。表面的にはその事を隠し、自分を騙しながら、母とも接している。忠陽の心の奥底では父を憎悪していた。


 忠陽は後ずさると、鞘夏が忠陽の手を掴む。


「陽くん」


 忠陽は鞘夏を見ると、鞘夏は首を振った。


 忠陽は鞘夏が許せと言っているように思えた。忠陽は悔しい気持ちを心に秘め、忠臣の前に立つ。


 忠臣はいつもの無表情で賞状を渡し、忠陽の首にメダルを掛けた。忠臣から最後に握手を求められ、忠陽は吐き気に堪えながら、その手を握る。


「忠陽、よく耐えた」


 忠陽しか聞こえない声で忠臣は言った。


 忠陽はその言葉を思い出す。祖父からの暴力や言葉責めのあと、父がよく掛けてくれた言葉だった。父はいつも祖父の隣でずっと立っているだけだった。忠陽が救いの鳴き声や目を向けても、何もしない。ただ立っているだけだった。だが、祖父が出ていくと忠陽に近寄り、必ず掛ける言葉があった。


「よく耐えた」


 幼いながら父が祖父に逆らえないというのは知っていた。祖父は自分の気に入らないことがあれば、誰が居ようと、祖父が持つ杖で父を叩く。父は逆らわず、その折檻を受けていたことを忠陽は思い出した。母が近寄り、傷の手当をしようとするも、それを静止し、普段通り嫌な顔せず、無表情の父がいた。


 痛くないはずがない。自分の親に殴られるのだ。それが苦痛なわけない。それなのにどうして無表情のままで居られるのだろうか。


 忠陽の中で「よく耐えた」という言葉が反芻する。


 そうか、父さんはいつも自分に嘘を付いて生きていたのか。


 忠陽思わず声を上げる。


「父さん!」


 拍手の中に紛れた声に忠臣は足を止めた。たが、振り返ることはなく、言葉を返した。


「賀茂忠陽、優勝おめでとう」


 忠臣はそのまま自分の席へと戻っていた。


 その姿を見て、鞘夏は忠陽の手を握る。忠陽は鞘夏を見ることなく、言った。


「そうだね、鞘夏。父さんは……」


 その二人の会話に気づいた由美子は、それを隠すかのように周りに手を振っていた。


 称賛の声が鳴り止むと、富沢が口を開く。


「続きまして、本大会、委員長より、呪術優秀賞の説明と授与をしていただきます」


 委員長が立ち上がり、富沢のマイクを借りた。


「え~、今大会の趣旨は主に学生個人の力量を見る大会であります。その趣旨なのですが、日程の関係上、チーム戦となってしまったことは非常に心苦しいものであり、トーナメントで惜しくも敗れた人間が多々おりました。我々はこの二週間に及ぶ大会期間の中で参加者の呪術を見させて頂き、非常に優秀なもの、また呪術体系に乗せるべきものを称賛するべきだと考え、この賞を創設致しました。この賞は該当者がいるときのみ表彰されるものとしますが、優勝チームであるチーム五芒星の皆様方と同じように栄えある賞だと思って頂き、今後の呪術研究の担う存在として認識していただきたいのです。そこで、優勝チームと同じく、一条財閥にはご協力を賜り、資金援助等をして頂くことが決定致しました」


 会場がざわざわとし始めた。


「その第一回学戦リーグの呪術優秀賞の該当者が一名おります」


 委員長は勿体ぶった顔をしながら、口を開く。


「チーム臥竜、竹中亮選手!」


 その名前が上げられた瞬間、翼志館高校の人間は立ち上がり、声を上げる。当の本人は化かされているのかという今まで見たこともない驚いた顔をしていた。


「えー当委員会でもそうですが、呪術研究統括部、並びに数名の教員からの推薦を頂き、彼の使用した天野川流兵法を源流とした呪術、奇門遁甲の陣を概念呪術体系の一つとして、神祇庁へ検討することを要請致します」


 絹張は喜び、涙が流しながら竹中の手を取る。


「会長! やりましたね!」


「あ、あ、うん」


「何だよ、喜べよ、亮!」


 安藤が竹中の横腹をつつく。


「実感が沸かないんだ」


「皆様の中で何故という疑問を持つ方もおられましょうが、最後までお聞きしてください。まず、神宮選手が最後に放った術。あれは秘術と呼ばれるものであり、神宮家特有の術であるため、本賞に該当致しません。同じく、武選手の決勝における技は呪術ではなく、天野川流兵法の技であります。また、周藤選手が使った炎術の数々はその体系として要請するには非常に厳しいものでした。今回、当委員が着目したのは天野川流の思想を源流とした中で、彼独自に、陣と、人々の奥底に眠っている意識に作用する概念呪術を併用していることであります。これは今までになかった術であり、その発想と努力は賞賛すべきものだと考えます。反対の声では呪術として誰もが使えるわけではないかという意見もございましたが、私はその意を介しませんでした。現在は研究され、一般化されてきておりますが、そもそもすべての人々が呪術を使えるわけではありません。その中で、長い歴史の中で生み出される新たな呪術の数は少ないのです。そのことを考えれば、新たな呪術を生み出した彼の功績は押して図るべしです」


 その言葉に会場中が拍手を送る。


「よって、我々は竹中亮選手を第一回学戦リーグ、呪術優秀賞を授与致します」


 委員長は富沢にマイクを渡し、竹中の元へと歩き出した。


 竹中は安藤に押され、不格好に前に出る。委員長が竹中の目の前に立ち、表彰書を丁寧に渡すと、竹中は改まって、その表彰書を受け取った。受け取った瞬間に盛大な拍手が起こった。


 竹中はそこで初めて、いつもとは違う本当の笑顔を会場にいる人間に見せていた。

高評価、ブックマーク、感想もよろしくね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ