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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 燕は舞い、天に昇るも、雷は帝王の膝を屈す

「さて、試合も終わりに向かうのか。ここからは(まばた)きも出来ないくらいの戦闘が起きる予感がします! 両者、ここまでは互いに鍔迫り合いで相手の戦力を削いできた。しかし、先程チーム武帝はポイントゲッターの遠山選手を失いました! ですが、チーム武帝の残った三人は未だに呪防壁を発動していません。かたや、チーム五芒星(ファイブスター)は神宮選手以外はすぐに脱落する可能性を秘めている。ここで誰かが落ちれば一気に流れは傾き、体制は決します!!!」


 観戦会場で富沢のヒートアップした声が広がる。


 メインモニターを見ていた鏡華は俯いてしまった。その視線の先には震える自分の手があった。


 兄はあれだけ嫌な思いをしながらも戦っている。本当は今にでも止めさせたい。兄はこういう荒事はやはり向いていないのだ。何も戦う必要はない。自分にだけ優しい兄であるだけで充分だ。そんな兄がこのまま続ければ死んでしまうのではないかと恐怖を感じた。


 鏡華の震える手に見慣れたやさしい手が添えられる。鏡華は頭を上げ、母の顔を見る。麻美はいつもの優しい笑顔で娘に対して言い聞かせた。


「目を離してはいけません。忠陽さんは戦っているのですよ」


 鏡華は頷き、再びモニターに目を向けようとした時、自分の手の甲がしっとりとしていることに気づく。それは母親の手汗によるものだと気づき、再び母の顔を見ると表情は変わらない。そのとき、鏡華は母の強さを知った。


「おっと、チーム五芒星は二手に分かれた。これはどういうことだ??」


「なるほど。もう一度、賀茂を武にぶつける気だな」


 総将は不敵に笑う。


「なんと! ですが、さきほどと同じく、返り討ちにあってしまう可能性が高いのではないでしょうか!?」


「そんなことは分かってるよ。でも、賀茂は戦うだろうな。あいつは変なところで好戦的だからな」


 八雲は楽しげに言った。


「お前よりも遥かに手綱は効くがな」


 八雲は総将に嫌味を言われ、口を真一文字にする。


「しかし、チーム武帝を分断するのは難しいのではないでしょうか?」


「何言ってんの。うちのゆみちゃんは、ここから本気モードでしょ」


「え?」


 富沢の疑問に答えるが如く、戦場は動いた。


 忠陽たちが二手に分かれると、その正面からとてつもない呪力を真は感じた。その主は神宮由美子。由美子の周りには風が集まっているのが知覚できる。その光景に真の体は疼く。


 由美子は射形に入る。そのときに思っていたのは、相手に対して全力でぶつかることだった。そうでなければ真は簡単にこちらの攻撃を跳ね返してしまう可能性がある。イメージするのは相手を倒すものではない。殺すイメージ。由美子の目はいつもの優しい目から冷徹な目に変わっていた。


「この技、跳ね返せるかしら?」


 矢には風が纏わりつき、それが一気に凝縮する。矢は今か今かと飛び立つの待ちわび、その産声を上げるが、由美子はそれを上手に抑えていた。


「真!!」


「浩平、稔、僕から離れて。あれは僕に向けて放つつもりだ。そうじゃなきゃ、巻き込まれるよ」


 由美子はこの技には特別な思いがあった。幼い頃、未熟ながらもこの技を使った時、暁神無に褒められたことを鮮明に覚えている。自分の頭を撫でながら、いつもとは違う優しい笑み向け、褒めてくれた。


「ゆみ、この技の音色はお前に似て勇ましいな」


 初めて認めてもらえたと喜び、由美子はそれまで嫌いだったお稽古ごとを熱心にするようになっていた。また褒められたい。あのやさしい手で頭を撫でてもらいたい。いつしか、由美子にとっては従兄弟である前に特別な存在になっていた。


 矢に集まった呪力は限界に達しており、鳥の鳴き声のような音を発する。


 由美子はそれを聞いてようやく荒々しく弦を引き離した。弦音は勇ましく鳴り響く、誰もが動きを止め、由美子の方を見ていた。


「飛燕!」


 離れた矢は大きな燕となり、建物ごとを破壊し、真へと向かう。その速さは尋常ではなく真がその技を認識したときには眼の前に居た。


「ッッッ!! 天野川流、奥伝(おうでん)巽為風(せんいふう)!」


 真は風を受け止めるが、この飛燕という技はそれだけないことを悟る。


「天野川流、奥伝。天風姤(てんぷうこう)!」


 それでも鳥から漏れ出る風が、受け止めた真の手を傷つける。真はその技の本流さえも見極めることが出来ず、跳ね返すことは無理だと断念する。


「でも、僕だって負けられない」


 真の目にはギラギラとした闘志が宿る。手を動かし、無理やり風の流れを作り、天へと向ける。巨大な燕は天へと昇り始めた。


 真は足に闘気を即座に溜め、青く輝かせる。自分も天に昇るように地面を蹴り、大きな燕ごと蹴り上げ、青白く輝いた闘気を解き放つ。


「天野川流、皆伝。昇り龍!!!」


 その蹴りが天高く登り上がる竜に見えた。竜の牙は燕を食らうように天高く昇る。


 だが、竜は巨大な燕に反撃を食らったのか、両者は空で爆発する。


 野外会場の人間はその竜と燕が天に上る姿が見え、そして爆発した時、鳩が豆鉄砲を食らったように顔して、動きを止めていた。


「真!」


 浩平は真に近づこうとしたが、近藤に呼び止められる。


「浩平! 後ろだ!」


 浩平は振り向きざまに大地の拳を受けた。


「やっと一発返してやったぜ」


 大地は笑みを浮かべていた。


 浩平は受け身を取りながら、すぐに起き上がり、大地に向かう。


「邪魔をするなぁぁぁ!」


 浩平が拳をぶつけると同時に大地も自らの拳を放っていた。


「クロスカウンターだぁ!」


 富沢の叫びに観戦会場は同調するように声を上げた。


 大地と浩平は互いに拳を喰らいながらも、その場から一歩も引かなかった。


「松島さんのほうが何倍も来るぜ」


「生、言ってんじゃねえ!」


 浩平は拳を引きながら、弓張りの低姿勢になりながら腰を捻る。


「フルメタル……」


「その技は溜めが必要なんだろ? 俺にはな、もう溜めなんてねえんだよ!」


 大地は炎を拳に集中し、輝かせた。その拳を浩平に放とうとする。


「悪いな、大地。もう一度動きを止めるぜ」


 大地の背後から近藤が現れたが、大地は構わず浩平に向かっていた。


 近藤が手を触れようとした瞬間、その手は鞭によって掴まれ、使い手の元へと引き寄せられる。その先には呪力を帯びた警棒を振りかざしており、近藤は痛そうという思いながら、自分の呪防壁が展開するのが見えた。


「バーニング! クラッシャァァァッッッー!!!」


 浩平が拳を放つよりも先に大地の爆炎の拳が浩平の腹部捉えようとしていた。その前に呪防壁が展開する。大地の拳が触れた瞬間に爆発し、呪防壁ごと浩平を数メートル押し出した。


 大地はその動きを見て、浩平のフルメタル・バレットの方が、威力が高いことに不快感を示す。


「畜生! こんだけしか押し出せねえのかよ」


「ダッサ……」


「うっせぇな! お嬢!!」


「二人共喧嘩しない!」


 藤からの注意に大地と朝子は眉間に皺を寄せる。


「すまん、真。一回目だ」


「俺もだ」


 浩平と近藤は真にそう告げるが、真からは返事がなかった。


「状況はチーム五芒星に一気に傾いた。神宮選手が放った技が呼び水となったのか!? 松前選手、近藤選手の呪防壁が発動してしまった! それに加え、賀茂選手と神宮選手が最大の難関である武選手を追い詰めている!」


 真は浩平と近藤の返事ができる状況ではなかった。忠陽は姿を見せているが、呪符をうまく使い、常に二属性の小さな術で複数回同時攻撃してくる。また、忠陽の攻撃で出来た小さな隙を狙うかのように由美子の矢が飛来していた。真はその攻撃を捌きるので手一杯だった。それでも真はこの状況が人生の中で最も楽しい時であるかのように思え、無意識に笑顔になっていた。


 その笑顔を見た同門で幼馴染の竹中は驚いていた。真は常に覇気のない笑みを浮かべており、それは幸か不幸か敵意が感じにくく、攻撃のときの気配が悟られづらいものであった。だが、今の笑顔はこの死闘に対して快感を得た顔であった。今まで跳ね返すことが出来ない技などなかった、自分の術を攻略する者などいなかった退屈な日々を壊し、有り余った力を全開でき、羽を伸ばしているかのようだった。


「賀茂くん、君は凄い人だ。だけど、強くはない。そこをどいてくれ。神宮は僕が倒す」


「それはできません。今は僕と遊んでもらいます」


「なら、通してもらうよ。天野川流、初伝――」


 真は拳を忠陽に振り抜く。


「気弾!」


 真の拳から闘気が放たれ、忠陽に襲いかかる。忠陽は呪符を解き放ち、防御態勢を取る。呪符からは土の壁が現れ、気弾にぶつかり、勢いを削ぐ。勢いを削いだといえども忠陽はその気弾を受け、膝を地面に付けた。


 真は追撃を加えようと、忠陽との間合いを詰めようとするも、真を挟み込むような二つの矢が襲いかかったため、一旦離れ、その矢を一つ、二つと落とす。


「天野川流、極伝!」


 真は拳を地面に向かって、叩きつける。


地崩波(じほうは)ッッッ!」


 地面から闘気が吹き出し、地面を壊しながら、その破片と闘気が混ざったごと物体が忠陽に襲いかかる。忠陽はその場から後退した。それと入れ替わるように由美子が放った雷の矢が地面を抉り、その技を止めた。


「とてつもない攻防戦! 武帝がここまで感情を(あらわ)にした戦いなどあったのか! 私達は、今まさに武帝の本気を見ている!!!」


 総将はその攻防戦を見て、体が疼き始めていることに気づく。それは八雲も同様のようで顔色が変わりつつあった。


 忠陽は立ち上がり、息を多く吸う。呪符を取り出し、詠唱を始めた。


「我が願いに答えよ。その光の羽根で敵を焼き払え!」


 呪符を投げると、熱を帯びた十数枚の羽が勢いよく飛び出し、真へと襲いかかる。真は冷静にその羽根を二、三枚避ける。避けた羽根が着弾したところは勢いよく燃え上がった。


 それを見て、真は残りの光の羽に真っ向から挑んだ。


「天野川流、奥伝。離為火(りいか)!」


 羽は真の手に収まり、大きな炎となった。その炎を真は忠陽に向けて投げ返した。


「なんと! 武選手、賀茂選手の術を返してしまった!」


 忠陽はその炎を辛うじて避けながら、再び詠唱を唱える。


「朽ちたる母の胸より産まれし雷鳴は、(ほむら)となりて、大地に息吹を与えん……」


 忠陽の足元にいきなり雷が落ちた。落ちた雷は炎を生み出す。その炎は忠陽の手に集まり、黄色の火花を散らす。


「これが、僕の最後の術です! 武さんの呪防壁を一回、貰っていきます!」


 真は真剣な顔をして、構えた。


火雷(ほのいかづち)ィィィ!!!」


「天野川流、奥伝。離為火……」


 臨戦態勢の真を見て、総将は忠告する。


「それは炎じゃない」


「えっ?」


 富沢は総将に言葉に反応した。

 

 真はその炎に触れ、悲痛な声を上げた。体全身に電撃が走り、痛みが走る。かつてこんな苦しい痛みは師との稽古のときでもなかった。それが今まさに全身に駆け巡る。やがて光が地面に落ちていく感覚に襲われたが、太い針に刺された痛みだけは全身から消えなかった。


「真!」


「真くん!」


 浩平と遠山の焦る声が聞こえる。自らの足が重たく、思わず片膝をついてしまった。体が自分のものだと思えない感覚に真は陥っていた。すると、眼の前が呪力で作られた防壁に覆われる。


「武選手! 一回目の呪防壁が発動したぁぁぁぁぁ!」


 観戦会場から歓声が湧き上がる。


「この大会で初めて、私達は! 武帝が膝を屈するのを見た! それをやってのけたのは、一年の賀茂忠陽選手だぁぁぁぁ!!!!」


 竹中は自らの手を強く握る。


「ざまあみろ!!!」


 八雲は勢い余って、立ち上がり、ガッツポーズをする。


「八雲!」


 八雲は総将に怒られ、舌打ちをする。


「ええ、ここであの術についてお聞きしたいと思います。佐伯三佐。先程、あれは炎じゃないと仰っていましたが、あれは何なのですか?」


「あれは雷だ。おそらくは賀茂家独自の術だろうな。俺も食らったことがあるが、あれはかなり痛い。それにかなりしびれて、その後も動きづらかった。今の武は動くのもやっとだろうな」


「あれあれ、それってもしかして、痩せ我慢じゃないですかぁ? プークスクス」


「ああ!?」


 総将が八雲の胸ぐらを掴もうとしていた。


「あ、あの、まだ試合中ですので、喧嘩は……。あっ!」


 富沢はメインモニターに映し出された忠陽の異変に気づき、声を上げた。


 忠陽は頭の中が真っ白になっていた。次第に視界が薄れ、そして、誰かが叫んでいる声も聞こえなくなっていた。


「神宮さん……」


 忠陽は力なく膝から崩れる。


「後は、お願い……」


 忠陽はそのまま倒れると、呪力切れと判断し、呪防壁が展開した。


「ああっと! ここで賀茂選手、戦闘不能状態に陥った!」


「前もそうだったが、あの術であいつは呪力切れを起こしている。だが、誇っても良い。この観戦会場の皆がそれを認めているはずだ」


 竹中は思わず、拍手をしていた。それ気づいた周藤はあとに続くように拍手をしていた。次第にそれが伝播し、会場全体に拍手が鳴り響く。


「よくやったぞ、賀茂!」

「すげーな、お前!」


 忠陽を褒める声が数分間鳴り止まなかった。


 真は呪防壁が解けると、荒い呼吸を整え、足を引きずりながら、建物で由美子の射線を消し、逃げていた。


「武くん、大丈夫!?」


 涼井は心配そうにしていた。


「なんとか……」


「体、無事なのよね?」


「全身が痛いです……」


「何なのよ、あの術……。武くんが直撃を食らうなんて、普通の術じゃないわ」


「雷でした。まんまと騙された」


 真はその場で座り込み、呼吸を整える。


「浩平たちは……」


「ようやく神宮さんに近づけたわ。今、二対三で激しく交戦している。武くんはこの内に回復しなさい。心配しないであの二人でやっちゃうわよ」


「涼井先生、お言葉に甘えさせて貰います」


 真は天を見上げる。空は青かった。だが、その青さが妙に自分に慢心があったのかと問わせる。


 最後まで賀茂くんが考えた作戦通りだったのかもしれない。強い炎の技を見せておいて、炎と誤認しやすい違う属性攻撃を行う。この作戦は神宮が放った大きな鳥の技を跳ね返せなかったのを見て、考えたのだろう。あのとき、賀茂くんは僕の力量以上のものは奥伝であっても跳ね返せないと考えた。実際、それは合っている。でも、それで違う属性をぶつけるという発想に変わるのか?


「彼は自分のベストを尽くしたのか……」


 彼は無我夢中だったのではないか。成功すると思っていたかは別だろう。彼は僕の待ちの姿勢を利用しただけかもしれない。いずれにしても、まんまと手球に取られてしまった。この事を師匠が知ったら、げんこつでは済まないだろうな……。


 真はその考えに至ったときにそれ以上考えるのが恐ろしくなり、考えるの止めた。深呼吸をして、体の回復に努めていた。

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