第十話 少年は大志を抱き、その一歩を踏まんとす。
「さて、竹中。お前ならこの状況でどうする?」
周藤は竹中に聞いていた。
「それはどっちの立場でかな?」
「無論、神宮達だ」
「そうだね……」
竹中はメインモニタ―見つめながら考えていた。その考えは長く、すぐには返事が出てこなかった。
「会長。賀茂、宮袋、氷見の三人で武さんを攻めるというのは駄目なんですか?」
絹張が竹中に質問していた。
「いや、悪くないよ。でも、それは真にとって嬉しい限りだ。それでは面白くない。ここは相手が嫌がる方法を取らないと面白くないだろう?」
周藤と絹張はその価値観に顔が引きつった。
「冗談はさておき――」
安藤と絹張は絶対冗談ではないと思ってしまった。
「由美子くんたちの最大の障壁はやはり真なんだ。まだ真の攻略法を見つけていない。その前に真と戦うのは愚策だ。僕なら、真を相手にするより松前くんと近藤くんをまずどうにかするね」
「ですが、その間の足止めを誰かがするんですか? やはり神宮由美子をぶつけるということですか?」
「賀茂しかいないだろうな」
周藤が竹中よりも先に答えていた。
「さすが周藤くん。僕も同じ意見だ」
「さっき賀茂は武さんに返り討ちにあっていましたが……」
「それでもさ。それでも賀茂くんには頑張ってもらうしかない。今の戦力で真を最も相手にできるのは賀茂くんだ。彼はきちんと相手の術を考察している。僕の奇門遁甲、そして真の八卦陣。彼はその対処方法を見つけ出している。あとは単純に真という強さに対しての攻略なんだ」
絹張の中でわざわざ戦闘能力が低い賀茂を武に当てても、簡単にやられるだけだと思っていた。それが絹張を納得がいかないという顔をさせており、竹中や周藤、安藤の笑いを誘う。
「なんで笑っているんですか?」
絹張は不満げに竹中に問う。
「お前が分かりやすい顔をしているからだよ」
安藤から指摘で絹張は顔に手を当てる。
「いいか、絹張。亮や周藤は何度も武と戦ってる。だがな、未だに武の単純な強さに対する攻略ができねえんだ。それだけ武は陣を使わなくても単純に強い。それがぽっと出の一年一人に攻略しろっていうのは土台無理な話だ。亮だって頑張ってもらうしかないって言ってるだろう? だが、そこにはな、期待をしているって意味が含まれているんだよ」
「期待? それこそもっと不満です!」
母里と魯、黄倉そして甘利までもがその返答に笑っていた。
「なんで皆さん、笑うんですか!」
「いや、素直でいい奴だと思ってよ」
黄倉は一層に笑い声を上げる。
「絹張さん。僕から質問ですが、周藤さんや竹中さんからあなたは一回でも呪防壁を発動させることができますか?」
魯からの質問に絹張は眉間に皺を寄せながら口を噤む。
「彼の一番良いところは自分が弱いと知っていながらも自分の手札で相手をどう倒すか考える能力があるところです。これは簡単に思えて、意外に難しいことだ。僕なら明日からでも良い、僕らの学校に転校してもらいたいですね。もっともあなたが許しても、神宮さんは絶対に許しはしないでしょうが」
安藤と黄倉は魯の言葉に同意するように頷く。
「わ、私だって、自分の学校の生徒をむざむざと渡すわけないでしょう!」
絹張は負けじと魯に言い返していたが、それすら周りから笑いを誘っていた。
笑いが収まると竹中が口を開いた。
「絹張くん、由美子くんは君が思っているよりも完璧じゃない。彼女はね、自然と自分の弱みを隠すし、人に甘えようとすることができない。それは彼女が生きてきた道がそうさせたのかもしれない。その彼女が一番信頼しているのは賀茂くんだ。僕らが思っている以上に、彼女は賀茂くんならなんとかしてくれると思っているはずだ」
由美子が立てた作戦は竹中と同じ、浩平と近藤を狙うものだった。これには三人とも文句はなかった。ただ、忠陽だけはその攻撃には参加せず、真の足止めを行うよう指示を出された。
「そうしかないわね」
「ボン、俺に残しておいてもいいんだぜ?」
朝子と大地はそう言って、由美子の指示に反対しなかった。
「だったら、変わってくれても良いんだよ、大地くん」
「姫さんからのご指名なんだから仕方ねえだろう?」
忠陽は呆れるようにため息をつくと、通信の中で笑いが起きる。
「さあ、皆。気を抜かず行きましょう。勝っても負けても悔いは残らないようにね!」
藤の呼びかけに忠陽と大地、朝子は頷く。
由美子は忠陽だけに通信を送っていた。
「賀茂くん……」
「どうしたの? 神宮さん……」
由美子は何も言わなかった。
「神宮さん、自分でも分かっているつもりで居るよ。僕は武さんに勝てない」
由美子は表情を曇らせていた。
「でも、神宮さんが勝ってくれるでしょう?」
「ええ、必ず……」
「神宮さん……。僕は呪術が嫌いだった。僕はね、祖父からは出来損ないだと言われていたんだ。それ以来、僕は呪術からずっと逃げてきた。でも、今はそんなこと、どうでもいい。神宮さんや伏見先生、大地くん、僕が何者か分からなくて、苦しいときに、助けてくれた。僕がここまで来れたのは、神宮さんたちの、おかげなんだ」
由美子は黙って聞いていた。
「神宮さん、呪術は好き?」
「え? 急に言われても……」
忠陽はくすりと笑う。
「そうだよね……。神無さんはこう答えたよ。呪術を好きという感情は、必要なのかって」
由美子は嬉しそうに笑っていた。
「兄さんらしいわ……」
「でも、別れ際に僕にこう言ったんだ。呪術は人を殺す道具でしかない。そして、人を不幸にする。だが、人を幸せにすることもできる。お前は何のために呪術を使うって。……そのとき、僕は答えられなかった」
由美子は自分の中でその問いに対しての答えが出るどうか考えた。それよりも速く忠陽は答えた。
「でも、今なら言えるよ。僕は、人を幸せにするために、呪術を使う。だから、好きか嫌いかなんて関係ない」
由美子は忠陽の言葉でさっきまで心の靄がなくなり、心が穏やかになっていた。
「賀茂くん、必ず勝ってきて……」
由美子はそれが無理難題だということは分かっていても言いたかった。
「できるだけ頑張るよ……」
「そこは男らしく、勝って来るって返せばいいじゃない!」
「僕が勝ったら、神宮さんの見せ場が無くなるから」
由美子は忠陽の答えに悔しさがこみ上げる。
「神宮さん、必ず勝ってよ」
「賀茂くん。私を誰だと思っているの?」
忠陽はその答えが自分の背中を押す。それに今、何よりも聞きたかった言葉だ。
「そうだね。神宮さんならできる」
チーム武帝の武の姿が見えると、忠陽は立ち上がる。
大地はすぐにその意図を察し、立ち上がり、頭を掻く。
「あーあ。面倒くさいことになってきたぜ」
「なに、あんたも立ち上がってんのよ?」
朝子は狼狽えていた。
「いやよ、ボンの野郎がやる気満々なんだぜ? これ以上面倒くさいことあるか?」
大地の問いかけに朝子はため息を吐きながら、立ち上がる。
「確かに、ヘタレがやる気出したときって面倒なことしか起きないわよね……」
忠陽は二人の言い分に苦笑いする。
「二人共、ひどくないかな? それ……」
「だってそうだろう? お前がやる気出すときって、無茶するときだろう?」
「ええ、そうよね」
忠陽は言い返せない自分がいることに少しだけ嬉しかった。
「なら、後はお願いするよ、二人共」
「ささっとヤラれてきなさいよ!」
「ボン、今日の高級カルビは俺が全部食うからな」
「あ、僕はハラミでいいよ」
「三人とも、藤先生の奢りで何でも食べられるんだから、眼の前に集中しなさい!」
由美子が楽しそうに注意していた。
「ちょっと、みんな! まだ試合中よ!」
忠陽達は藤に対して返事をする。
「もう! こういうときだけ、仲が良いんだから……」
藤はそう言いつつも、嬉しそうな顔だった。
「さて、ボン。そっちは任せたぜ」
忠陽と大地は互いに拳をぶつける。大地は上機嫌のまま浩平たちの方へと向かった。
「私、嫌いなものは残す派だから、残されても困るんだけど」
「善処するよ」
朝子は笑みを浮かべながら、大地の後を追う。
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