第十話 チームは誰のもの
朝子は忠陽たちが真たちの足止めをしているとき、由美子の元へと向かい、作戦の提案していた。
「私をあの狙撃手の所まで連れて行きなさい!」
朝子が手を差し伸べると、由美子はその手を見た後、朝子の顔を見る。
「急にどうしたのよ……」
由美子は不安な顔をしていた。
朝子は一旦手を引いた。
「逃げるにしても狙撃があったんじゃあ、逃げ切れない。私があの女を倒してくる」
朝子の答えに由美子は口を真一文字にしていた。
「待ちなさいよ。その間に賀茂くんたちがやられたらどうするの?」
「そんなの、今更よ。そうなる前に、あんたが倒すべきだったんでしょう?」
由美子は顔を背け、悔しそうな顔をしていた。
「私は勝って、大学に行きたいの。だから、この勝負、負けるわけにはいかない。あなたは望めば何でもできるでしょうけど、私には今しかない。あんたの作戦が崩れた以上、私は私が思う作戦を取りたいだけよ」
「だからといって、戦力を分散するのは愚の骨頂よ!」
「じゃあ、今のあんたがあの武っていう男のところに行って、何とかできるわけ?」
由美子はまた口を噤む。
「私はあんたの作戦より、確実に一人でも倒せる方法を言っているはずよ。あの女の近くまで私を連れていけば、あの時みたいに奇襲ができて、二人で確実に倒せる。それにその後は狙撃手の攻撃を気にすることも無い。逆に相手はあんたの狙撃を警戒しなければいけなくなる。それって、賀茂たちへの援護にもならない? 必然的に勝算が高くなる」
由美子は朝子の言っていることが間違っていないと思っていた。だが、差し出した手を取らなかったのはこの状況を自分の手で打開したいという気持ちが強かったからだ。その思いが自然と弓を握る力を強くした。
「ねえ、このチームはあんたのものなの?」
その言葉に由美子は怒りを抑えようとしていた。
「あんたの案じゃあ失敗も成功もない。私達は一人ひとり削られていくだけ。伏見には良い笑いものにされるだけよ」
「分かってるわよ……」
「そんでもって、言われるよ。真っ向からぶつかることができるのは一度しかないのになんで楽しまなかったんだって」
「分かってるわよ! そんなことぐらい!」
由美子は声を荒げていた。
「だったら、あんたのすべきことは何よ? 賀茂はずっとあんたを待ちながら戦い続けている。あの武から情報を引き出そうとしている。宮袋は頭で考えるタイプじゃないってこと分かってるけど、時間稼ぎのために我慢しながらも自分のできることをやってる」
朝子は由美子の悔しそうな顔を見て、フッと笑い、話を続ける。
「あーー分かった。失敗するのが怖いんだ」
朝子は由美子を嘲笑していた。
「そりゃ、お姫様だから失敗もしたくないわよね。完璧超人でありたいし、失敗すれば、あの女からも怒られるし、家族からもお叱りを貰うわよね。これだからお嬢様っていうのは。私達愚民とは違って背負うべきものを持っていらっしゃって、さぞ大変でしょう。でもいいじゃない。負けたら私達のせいにすれば。そうすればあんたは完璧のままで有り続けられる。お貴族様にもそう言えば納得するわよ。こんなチームじゃあ勝ってこな――」
由美子は感情のままに朝子の頬を引っ叩いていた。朝子は怒ることもなく、冷たく由美子を見ていた。
「私は負けるなら今やれることをやりたい。あんたはどうなの?」
由美子からは宮袋が呪防壁を展開しながら吹き飛ばされるのが見えた。すぐに、雷撃が走る音が響き渡り、藤たちの忠陽を呼ぶ叫び声が聞こえた。
その中でも朝子は冷静に由美子に手を差し出した。
後ろからは浩平と近藤が差し迫って来る。由美子にはもう時間は残されていなかった。
「遠山!」
浩平のバカでかい声の通信を遠山は冷淡に聞いていた。
「分かってる……」
遠山は息を整え、スコープに由美子を映し出していた。朝子と由美子が何かを話し合っているのは観察して分かっていた。撃つチャンスはあったが、それでも由美子の呪防壁で止められる可能性がある。だが、今は浩平と近藤の援護付きであれば一発で仕留められる。
浩平が由美子と朝子に襲いかかろうとした時、由美子は朝子の手を取り、消えた。浩平の拳は空を切り、その勢いのまま無様に転んだ。
近藤はその姿を見て、思わず吹き出す。
浩平はすぐに起き上がり、辺りを見回しても誰もいない。
「消えた! どこに居る!?」
浩平たちの後ろにいた真は周りの気配を探っても、見つけられなかった。自分の後方に忠陽の気配を感じるだけで、由美子と朝子の気配は全く感じない。そのとき、可能性の一つとして頭に浮かんだのが、序盤で見せた空間転移だった。ここに居ないのなら転移する先は……。
「遠山! そこから離れろ!」
遠山は真の大声に驚いた。
「真君???」
「遅い!!!」
その声が後ろから聞こえ、遠山はすぐに振り返るとさっきまでスコープで見ていた朝子が居た。
「どうして!?」
立ち上がりながら逃げようとするも、足が動かない。まさかと思い、足元を見ると薄氷が足にまとわりついており、その先を見ると由美子が手を掲げていた。
「神宮由美子!」
「良いんですか? 私に気を取られて」
由美子の言葉通り、朝子は呪力を帯びた警棒で遠山に襲いかかっていた。遠山は無理やり、足元の薄氷を壊し、狙撃銃で警棒を受け止める。狙撃銃の胴体は凹み、もう撃てる代物ではなくなってしまった。それでも、その残骸で警棒を弾き、狙撃銃の柄で朝子を殴ろうとしたとき、横から鉄鞭で殴打される。遠山はその痛みに悶絶しながら転げ倒れた。
朝子は遠山を殴打した後、強烈な吐き気を催し、動きを止め、吐こうとしたが何も出てなかった。
由美子は遠山に近づき、風の魔術を放つ。呪防具は危険と判断し、二回目の呪防壁を発動させ、遠山を拘束した。
「遠山選手、ここでリタイヤだ! 遠矢二尉の仰るとおり、氷見選手を連れて超絶ワープをし、遠山選手の近くに現れ、急襲したぞ! さすがにこれでは遠山選手守りきれず、戦闘不能!」
観戦会場は湧き上がる。
「これで戦力は四対三と一歩リードという形か? それでも先程、賀茂、宮袋、氷見選手の呪防壁が一回ずつ展開されているので一気に逆転される可能性があると言ったところだろうか!」
由美子は視力を強化し、忠陽たちの位置を確認した。
「賀茂くん、宮袋くん、戦線を立て直すわ。まずそこから退いて頂戴。集合地点はベータシックス、氷見さん、賀茂くんたちと合流して」
「おいおい、簡単に言ってくれるぜ……」
大地はため息をつく。
「あなた達ならできるでしょう? それともまた命令違反で矢の雨を喰らいたい?」
大地は顔が引きつり、舌打ちする。
「こら、宮袋くん。舌打ちしない」
「分かってるよ、藤ちゃん先生……」
「どっちにしても、逃げられるようにそこに流星を放つから、早めに逃げないと巻き込まれるわよ」
「おい、ボン。いけるか?」
「いくしかないよね……」
忠陽は痛みに耐えながら隠形を使い、すぐにその場を離れた。大地も慌てながらその場を去る。その動きに気づいた浩平は宮袋を追おうとする。その瞬間、弦の音が鳴り響く。
「浩平!」
真に呼びかけに浩平は宮袋を追うことを止めた。矢は追いかけようとした先に着弾し、家の屋根を破壊していた。
「ちっ! あっちは狙撃し放題になったか……」
「ごめん、浩平くん」
しょうんぼりした遠山の声が通信に入り、浩平は眉間に皺を寄せる。
「遠山のせいじゃないよ。あれは僕らのせいだ。もっと速く仕掛けていれば良かった」
真には優しく遠山に言ったが、遠山からの返事が帰ってこなかった。
「誰が悪いとか考えても仕方ない。そういうときもあるさ。遠山、後は俺達に任せろ」
浩平が遠山に言った。
「うん。お願いするね、真くん、近藤くん」
「おい、遠山。浩平が抜けてるぞ」
「そこは突っ込まなくてもいいじゃないかな、稔」
真は苦笑いしていた。
「あっ、そうか。悪いな、浩平……」
浩平は目をつむりながらその無線を聞き、眉間の筋肉を伸ばしていた。
「浩平、まだ賀茂くんなら追える。下に降りて、建物を防御壁として使って追おう」
弦の音が鳴り響く。真は天高く登る矢を見て、チームエーメン戦で見た矢の雨を思い出す。
「皆! 建物の中に隠れるんだ!」
真の指示を聞き、浩平と近藤はすぐに建物中へと入る。真もすぐさま建物中へと入ると、辺り一面に矢の雨が降り注いだ。
「真、まだ追えるか?」
浩平は真に問う。
「さすがに無理だね……」
真は笑いながら誤魔化すしかなかった。
観戦会場では両者の動きが一旦距離を置いたのを見て、ざわざわと音を立て始めていた。
「ここで両者は一旦距離を取る。仕切り直しと言ったところでしょうか?」
富沢は総将に尋ねていた。
「そうだな。味方が倒れた際の動揺は少なからずもある。そのままチームの気持ちを落ち着かせず攻めても、勢いを相手に持っていかれる場合があるからな。一旦体制を整えた方が良い」
「勢い? そんなものにも気を配らないといけないのですか……」
「戦場で重要なのは勢いを作ること、それに乗ることだ。そうすれば通常の何倍以上の攻勢をとることができる。だが、この勢いは目に見えないものであり、その流れは目まぐるしく変わる。今は八雲妹達に少しだけ傾いているが、チーム武帝の中でもう一人倒れれば一気に傾く。その前に機を外すことも戦う上で重要なことでもあるんだ」
「なるほど、機を外すとはそういうふうに使うのですね」
「まあ、そんなことを気にせず戦えるやつも居るがな」
総将は隣にいる八雲を見ると、八雲はアホ面していた。その意図に気づいた富沢は苦笑していた。
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