第十話 三羽烏
由美子が試行錯誤している中で、忠陽も眼の前の相手を見て、考えを深めていた。
武真、竹中と同じ天野川流の同門。今使っている陣は奇門遁甲ではない。同時攻撃を行っても、跳ね返したり、傷をおうことさえなかった。奇門遁甲とは違う作用が働いている。つまり、違う陣だということ。今わかっているギミックは正面で火を受けたときに真の右側は土の攻撃に対しては無傷だったが、左側の風の攻撃に対しては避けていた。ということは左側の攻撃が通ると仮定できる。いや……そうじゃない。今までやってきた攻撃は呪術だ。風の呪術が跳ね返されたということはあの陣は呪術の攻撃を対象としている? その確証を得るために同じ攻撃を行ってみるか? いや、もっと情報を引き出すなら、今までやっていない正面から土魔術を起動させて、別の方向から物理的な戦いをしないといけない。そうであれば自分が動くしかない。
忠陽が動こうとした時、朝子に呼び止められる。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
忠陽はムッとした表情になっていた。
「へー。あんたでも、そんな顔をするんだ……」
「邪魔、しないで貰えるかな……」
「なに怒ってるのよ。私はお姫様からあんた達の指揮を任された。私の言う事を聞きなさい」
「そんなじゃあ、勝てないよ」
「なに熱くなってんのよ? あんたらしくもない。あの男だったら、こういうときでも飄々としているはずよ」
忠陽は伏見のことを指していることが分かり、奥歯を噛みしめる。
「ムカつくけど、私はあんたの考えと同じよ」
その言葉に忠陽は呆気に取られていた。
「えっと……」
「だから、あの武っていう人を倒せるのは私達の中でお姫様しかいないってこと。そりゃ、癪よ。でも、お姫様なら何とかするでしょう?」
忠陽は無言で頷く。
「なら、お姫様は最後まで生き残ってもらわないといけない。それは同じ考え。でも、この防御陣地は確実に壊される。その後はどうすればいいのよ? あんたの意見、言いなさいよ」
「僕は一人で足止めをする。だけど、この足止めは神宮さんを生かすためでもあり、あの武さんの倒し方を見つけるためでもある」
「ならよ、手札は多いほうがいいだろう?」
大地が忠陽の肩を叩く。忠陽は大地を見た。
「正直、俺は戦術だの作戦だのっていうのはどうも性に合わない。なら、俺とボンの最強コンビで戦えば少なくもと敵さん三人相手に、姫さんを逃がすだけの時間は稼げる。それに俺は好きに暴れられる!」
朝子はため息を、忠陽は苦笑いをしていた。
「でも、神宮さんは絶対に逃げないよ……」
忠陽がうつむく。
「そこは言い方の問題とタイミングでしょう? 私に考えがある。任せてくれる?」
「本当に大丈夫か?」
大地は頭を掻いていた。
「うっさいわね! そこは信じなさいよ!」
大地は面倒くさそうな顔をしていた。
忠陽は思わず笑いが溢れる。
「な、な、なに笑ってんのよ……」
朝子は忠陽に気持ち悪いと思った。
「だって、氷見さんが信じろだなんていうから」
「はあ? 私が言ったら可笑しいわけ!?」
「たしかにな。お嬢が私を信じろなんて言うことねえな……」
氷見は顔を赤くした。
「うるさい! このバカども!」
「でも、これで腹は括れる。ありがとうな、お嬢!」
「うん。氷見さん、ありがとう」
「べ、別に! あんたたちのためにやってるんじゃないからね!」
「なんだ、そのテンツレ……」
大地は呆れていた。
「なによ、そのテンツレって!?」
「テンプレートツンデレ」
「変な造語作るな!」
朝子は大地を殴っていた。
「で、賀茂、今は何をするのよ!?」
忠陽は真剣な顔になり、自分なりに考えた作戦を二人に伝える。忠陽が考えていたのはまず忠陽が土の呪術で三方から同じ攻撃をする。これは方向によって攻撃が通る通らないがあることを確認するためのものだった。そして、二つ目が同じく風の呪術で三方から攻撃し、同時に物理的な攻撃も加える。これは対象が呪術に対してなのかを確定させるためのものだった。
「なるほど。なら、まずはボンが先行してやるしかないな。物理的な戦いはお嬢だな。近づけばかなり不利なんだろ? 今は一人でも落ちたくはないしな……」
「あんた、意外に分かってるじゃない」
「うっせーな……」
忠陽はまた笑みを浮かべる。
「何笑ってるんだよ……」
大地は忠陽を小突く。
「いや、この三人で戦うのってあの夜以来じゃないかなって……」
大地は鼻で笑う。
「そうだな。もしかして、グラサン先生から問題児三人って思われてるんじゃねえ?」
「はあ? 一緒にされたくないんだけど……」
「三羽烏の間違えじゃないかな?」
嬉々として言う忠陽に朝子と大地はため息をつく。
「まあ、でも……。今は悪くねえな……」
大地は呟いた。
三人は顔を見合わせて頷き、動き始めた。
忠陽たちが話し合っている間に真たちは、もう罠の殆どを突破し、間近に迫っていた。その速さに大地は舌打ちをしながら言う。
「おいおい、あの武帝、何でもありなんじゃねえか? 傷一つねえじゃん」
「賀茂、チャンスはあっても一回かもしれないわ」
「大丈夫、必要だったら僕の方でやるよ。氷見さん、援護をお願い」
「分かった」
忠陽は隠形もせず、呪符を取り出す。その動きには迷いがなく、まっすぐと真に向かっていく。
「正面だと!?」
浩平はその大胆さに驚いていた。
「賀茂くん、僕はそういうのは嫌いじゃない。でも、君は一人でできないよね?」
真の言葉を聞いた浩平と近藤が頷き、真より前に出て、忠陽に対して走り出す。
「お前が前に出たということはもう罠はないんじゃないのか?」
浩平は忠陽に対して、突進を掛けようとしたとき、炎がそれを遮った。浩平はその炎に思わず舌打ちをする。そのカバーに近藤が入り、賀茂に格闘戦を挑もうとするも、その前に鞭が飛び出し、行く手を阻む。
「おい、こいつら。急に連携が上手くなってないか?」
近藤が面倒くさそうに言う。
「悪いな、稔。俺等三人、結構一緒に戦ってんだよ!」
大地は近藤に追撃とばかりに炎で薙ぎ払う。近藤は堪らず、その場から引いてしまった。
「真!」
「浩平、大丈夫。僕に任せて」
忠陽は呪符を三枚、真に飛ばし、まず正面の呪符に呪力を飛ばす。すると、正面から土の槍が現れ、真に襲いかかる。
「その攻撃は利用させて貰うよ」
真はその土の槍を自分の左側の呪符へと向けた。真の左側に放った呪符が発動する前に忠陽の土の槍に壊された。真に右側の呪符はその間に発動し、土の槍が放たれるも、真は焦ることなく、その土の槍を砕いた。
忠陽はその間に呪符をもう一枚、放り投げていた。それは真の左側であり、わざわざ先に呪符を壊したほうだった。
「その左側、攻撃が通るですよね?」
「その通りだよ!」
真は左側から放たれた土の槍に対して、闘気を一瞬でため、掌底から放った。
「天野川流、中伝。空撃!」
土の槍は砕けるも、真の頬を掠め、皮膚を切り裂いた。流れる血を見て、忠陽なんとなくイメージがついた。
「真! まだ終わってない!」
真は慌てることなく、氷見の方を向き、鞭の攻撃を闘気で強化した拳ではたき落とす。鞭の穂先は複数回、真に帰ってくるがそれを尽く、撃ち落としていた。朝子はその様子を冷静に見て、引き際と感じ、あっさりと後退した。
忠陽も大地も朝子が引くと、近藤と浩平に攻撃をしつつ引いていく。お互い、五メートルぐらいの距離をとり、再び相対した。
その場所からは由美子が二十メートルぐらい先に見え、防御陣地としては最終ラインを超えたと浩平は思った。
「遠山、こっちはいつでも乱戦に持ち込める。そっちはどうだ?」
浩平は遠山に呼びかける。
「ごめん、呪防壁が一回発動しちゃった……」
「なに!?」
真は忠陽たちがいるのにも関わらず苦笑いをした。
「しょうがないよ。こっちも八卦陣の効果をバレたみたいだし」
「真くん、ごめん……」
「おい、遠山。俺に謝ってもいいんだぜ?」
「近藤くん、ごめん……」
「遠山、そう落ち込むな。ここからはお前の狙撃が頼りなんだ」
「そんなこと言われなくても分かってるよ、浩平くん」
その扱いの違いに浩平はため息をつく。
「ボン、大体分かったのか?」
「うん。今の陣は呪術に対してのみ作用するみたい。武さんに氷見さんの鞭が何回も当たっていたのがその証拠」
「よく分かんねえが今なら肉弾戦でいけるってことか?」
「たぶん、次は奇門遁甲の陣に変えてくるよ。今度は僕らで同時攻撃すればいけるけど、氷見さんの鞭をあんなに撃ち落とすなんて……」
「確かに、あれは陣ってやつがなくてもヤバいな。蔵人さんとは違うけど、それぐらいの腕は有るぜ」
「それで、賀茂。どうするの?」
「さっき話し合ったとおり、僕らで足止めする」
大地は肩を回し始めた。
「おい、お嬢。倒す敵がなくなっても泣くなよ」
「誰が……。賀茂、通信入るようにしときなさい。あと、藤ちゃんに謝る」
忠陽は苦笑いした。
「藤ちゃん怒らせると怖いの知ってるでしょう?」
忠陽が笑顔で誤魔化しているのを見た朝子は眉間に力を入れつつ、その場から去った。
「さて、ボン。作戦とかあるのか?」
「まずは、武さんからは逃げる」
大地は力が抜ける。
「初っ端、逃げんのかよ……」
「ううん。武さんとは戦わないって言ったほうがいいね。そこは僕がサポートする。大地くんは松前さんと近藤さんをお願いするよ」
「あいよ。さあ、暴れようぜ!」
大地は忠陽に拳を突きつける。忠陽は嬉しそうに突き返した。
「うん。僕らで暴れるんだ!」
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